37話 開戦
二ヶ月が経ち、龍一は鍛錬を重ねていた。
合同の特訓こそしない者の、智、凛太、紺は同様に鍛えていた。
「フッ」
龍一が息を吐き、ジムでサンドバッグを殴りつける。
その後ろに、人影がある。
「龍一。明日予定はないよな?」
龍一が素早く後ろを振りむく。
そこに立っていたのは、全身を黒色で包む男、万場黒土。
「黒土…」
龍一が目を見開く。
明日、何かがある。
その何かは、龍一の頭の中にすぐ浮かんできた。
「遂に、四組による抗争が開かれる。来る、でいいんだよな?」
黒土の言葉に、龍一は深くうなずいた。
「よし。明日かどうか、確証はないが、集合場所は伝えておこう。龍たちに会えるぞ」
龍一が息をのむ。
「七人と…?」
「あぁ、各自行動だから、会えない奴はいるかもだが」
黒土がジムを出ようとする。
「殺されねぇようにな。龍一」
黒土がジムを出ていった。
「…よし」
龍一が、再びサンドバッグに向き直る。
会議室。
東京の会議室で、四組は言葉を交わしていた。
だが、今日に関しては、半分が一向に来ない。
「野呂の奴…」
今屋が唸った。
「確定でいいのでしょうか。これは」
時牧組組長、時牧礼樹が辰正に言った。
「いいだろう、これは」
辰正が頷きながら言う。
「…針が増えたか?」
辰正が聞くと、礼樹は首を横に振った。
「針は別に、仲間は増えましたが」
礼樹が、自分の横一列に座る者へ、目を向ける。
金髪の男、毛が跳ね上がっている。
薄山金時。
落ち着いた白髪。
鉄野雅。
少し色が濃い銀髪で、巨大な体格。
風間銀郎。
茶髪で色黒、銀郎に近い体格。
銅器咲矢。
筋肉質の、赤髪。
赤獅子春男。
青みがかった髪を、オールバックで整えている。
青松裕也。
そして、六人の男女。
中国人の者たちだ。
「…さて」
辰正が呟く。
「もうすぐ…」
辰正が扉の方を向く。
その瞬間、扉に風穴が開いた。
銃が打ち込まれたのだ。
部屋の中の者には、誰にも当たらなかった。
だが、そもそも当てる気はなかっただろう。
この銃は、開戦の合図。
扉が蹴られた。
大勢の男たちが、銃を持って部屋に入ってくる。
「組長方、窓から降りてください」
薄山金時が言う。
「了解」
辰正と礼樹が、窓を開けて逃げた。
「さぁてと」
銀郎が、指と首を鳴らし、息を吐く。
「来やがれ、ボケども」
「今の音…」
龍一が後ろを向いた。
集合場所に、龍は来なかった。
龍一が、音の方向へ走り出す。
龍一がつく頃、すでに乱戦が始まっていた。
「ぐわっ」
近くの男が打ち抜かれ、血が噴き出す。
「HEYHEY,ガキが何の用かな~?」
サングラスをかけ、蛇柄の服。
茶髪気味のオールバック。
黒薔薇組、棘、賀露俊樹
「バーン!」
俊樹が言いながら、拳銃を打つ。
龍一はその前に、体をそらしていた。
そのまま、龍一に向かって銃を打ちまくる。
龍一は走りながら弾丸を避けていた。
俊樹が、銃弾を入れ替える。
その隙を狙い、龍一が飛び出した。
俊樹がガードするより早く、胴を蹴りぬく。
「ッ…」
俊樹が倒れ、急いで龍一に銃を向ける。
その瞬間、龍一の拳が俊樹の頭を打ち付けた。
俊樹の動きが止まった。
その戦いと、同時期にいくつもの戦いが繰り広げられている。
「お前、なんだっけ?馬?」
黒土が頭をかきながら前の男に言う。
「徐かなること林の如く…」
前にいる男は、馬道公屋。
「はぁ」
黒土が不思議そうに言うと、公屋が駆け出した。
左拳を突き出す。
黒土はそれを躱し、左足で公屋の右足を蹴る。
態勢を崩すための攻撃だった。
だが、公屋は全く動かない。
「動かざること山の如し!」
左足で、黒土の体を蹴り飛ばす。
「疾きこと風の如く、侵掠すること火の如し!」
黒土が速い連撃を放つ。
手刀や貫手、多種多様な連撃。
だが、黒土には当たらない。
黒土はすべて、ぎりぎりで避けている。
黒土は、右ローを放った。
それを飛んで避ける。
着地して、息を吐く。
「動くこと雷霆の如し」
呟き、再び走り出した。
公屋が左ストレートを放つ。
それを躱して、右ジャブを放った。
拳は公屋の下顎あたりをかすめた。
その瞬間、公屋の体が落ちる。
一連の中で、様々な戦いが行われる。
蛇の者たちの戦いは。
入来大名は。
大名が身をかわし、敵たちをなぎ倒していく。
「シャッ!」
大名に向けて、拳を放ってくる。
大名が飛び退き、顔を上げる。
「来ぉい!シャァ!」
雄たけびを上げながら、男が歩いてくる。
棘、鹿山桐雄。
「ぉオラ!」
桐雄が振りかぶり、大名に向けて再び拳を振るった。
大名は左手でそれを流し、右拳を桐雄の腹へ放った。
「かはっ!」
大名の右手が、桐雄の頬に触れる。
地面へ叩きつけた。
「ふぅ」
錦愛未は。
「あらあら、お久しぶりですね」
愛未が笑っている。
「えぇ、お久しぶり!」
棒を振り上げ、愛未の目の前をすれすれで通っていた。
棒を振ったのは、都宮香子。
鋭い音が鳴り、地面に跡が突く。
鞭を振り回している。
「フッ」
鞭を振り、下から香子を狙う。
香子が棒を脇に挟んで、棒を回転させる。
鞭が棒を打った。
「さっ、加速していくわよ」
香子の棒が加速する。
それと同時に、鞭も加速した。
鞭が棒を、棒が鞭を叩き落す。
攻防が続く中、香子が棒を離した。
愛未の目が棒を追い、攻撃が止まる。
香子が棒を蹴り上げ、先端が加速し、愛未の額を叩いた。
愛未の体が、後方に揺らぐ。
棒がそのまま回転し、香子の手に先端が戻ってきた。
棒を一度引き、愛未の腹に向かって突き出す。
「ぐっ…」
愛未の体制が崩れ、香子が棒を回す。
「じゃ、さような…」
香子が横に飛びのく。
その瞬間、そこに何かが落ちてくる。
赤い棒。
先端が鉄球のように見える。
髙美の扱う棒は、特訓の時に見せた物とは大きく違う。
「あらあら、見たことのない顔ね」
「えぇ、そうですか」
二人が同時に棒を突き出す。
数センチの差で、髙美の鉄球が先に当たった。
鉄球は香子の腹を突き、胃に衝撃を与える。
「フッ…」
香子が息を吐く。
髙美が脇に棒を挟んで回転させ、香子の頭を後ろから打った。
香子の体が倒れ、髙美が深く息をついた。
金良今屋は、長い四肢を生かし戦っていた。
たとえ相手が銃を持っていようと、構える前に近づき、撃たれる前に倒す。
そんなことをしていた時、腕が伸びてきた。
腕は今屋の首を絞めた。
柔道着を着た、丸刈りの男。
棘、山舘坂太郎。
今屋が笑った。
今屋の長い腕が、坂太郎の顔を鷲掴みにした。
「なっ…」
坂太郎が呻く。
今屋が腕に力を込め、坂太郎を離していく。
坂太郎は半ば今屋につかまるように、首に腕を回している。
「だっ!」
今屋が坂太郎の締めから脱し、手を離した。
そして、左拳のアッパーを、坂太郎の腹へ放つ。
「ごふっ」
坂太郎が唾を吐く。
坂太郎が落ちる前に、再びアッパーを放つ。
拳は坂太郎の顎を打ち、体を半回転させた。
ドサッと、音を立てて落ちる。
「ふんっ」
今屋が鼻息を吐いた。
大田杏は、ある男と戦っていた。
棘、本郷士郎。
士郎の体は、杏と同等に大きい。
杏が振りかぶり、士郎の顔面を打つ。
打たれた士郎は少しぐらついたものの、すぐに立て直した。
今度は士郎が振りかぶり、杏を殴った。
二人が殴り合い続けている。
士郎が振りかぶった時、杏が踏み出した。
士郎の体を、掌で押す。
体制が崩れる。
その瞬間、杏が拳を振り上げた。
士郎の顎を、勢いよくかちあげた。
体が揺らぐ。
だが、踏みとどまった。
士郎が頭を振り下ろし、杏の顔面を額で打った。
杏の鼻から、血が噴き出る。
士郎が追撃をしてきた。
両の拳が、杏の体を滅多打ちにする。
次第に、杏の防御が弱まってきた。
士郎が殴りつかれたのか、動きを止める。
その瞬間、杏が動く。
杏の両手が、士郎の目の前で叩かれる。
猫だましが、士郎の意識を止めた。
「っ」
士郎の顔面に、杏の拳が降った。
士郎が仰向けに倒れる。
杏が息を吐く。
龍一の所には、人影が見えない。
周りに、敵がいない。
龍一が辺りを見渡すと、二つの影を見つけた。
赤髪の三つ編みを前に垂らしている。
金山優斗。
そしてもう一人。
「あれ…」
龍一が一度見た顔。
色黒で金髪。
クォース・ムッシマである。
「確か…」
クォースが襲い掛かってきた。
クォースの左ジャブを放ってくる。
龍一が、左腕で防いだ。
「あんた…」
龍一が呟く。
「すまないな。俺の命に代えて、死んでくれ」
クォースが大きく言うと、龍一が事情を悟ったように頷いた。
そのクォースの声は、優斗に聞こえるように出した声のように聞こえる。
クォースがジャブを打ち続ける。
だが、単調。
龍一は悟っていた。
クォースが命を狙われていることに。
龍一はすべての攻撃をぎりぎりで避けていた。
そして、クォースの足を払う。
クォースが受け身を取りながら、仰向けに倒れた。
龍一は素早く、優斗に向かって行った。
優斗がポケットから手を抜き、疾く拳を繰り出す。
龍一の顔面を軽く叩き、優斗が龍一の膝を蹴る。
龍一が体制を崩すと同時に、優斗が拳を振り上げ、龍一の顔面を打ちあげた。
優斗が軽いジャブを放ち、龍一がどんどん下がっていく。
優斗がジャブを放った瞬間、龍一が体を屈める。
すると、クォースの右ストレートが優斗の顔面を打ち抜いた。
「なっ…」
予想外の者からの攻撃だったのか、優斗が唖然としている。
龍一が体を屈めたまま、優斗の足を払う。
優斗が地面に倒れると、龍一が飛び退き、クォースの隣に立つ。
クォースと龍一が、優斗が立ち上がるのを見つめている。
優斗が、ゆっくり立ち上がった。
「はぁ…」
優斗がため息をつくと、龍一たちに向かって走ってきた。
優斗のジャブを、龍一が受ける。
クォースが優斗に向かって、ストレートを放った。
優斗はその拳を、右腕で受けた。
クォースの連撃を、優斗は右腕ですべて受けている。
左の方の腕は、龍一を狙い続けている。
龍一はそれを受けているため、攻撃に移れない。
優斗の動きは、まるで二つに分かれているようだった。
だが、龍一は考える。
自分は防御からすぐに攻撃に移れない。
それは、逆も同じのはず。
龍一が、優斗の攻撃をわざと食らった。
優斗がクォースの方を向こうとする。
左腕が、クォースへ攻撃しようとする。
その瞬間、隙ができた。
龍一が一瞬、優斗の左腕を抑えた。
クォースのジャブが、優斗の顔面を捉える。
優斗が防御の姿勢を取ろうとするが、追いつかない。
クォースの連撃が、優斗を追い詰めていく。
ジャブ、カーフ、アッパー。
優斗は、反撃も防御もできていない。
クォースの右ストレートが、優斗の顔面を打つ。
そして、左カーフが、優斗の顎をかすめた。
優斗の意識が飛んだ。
時牧組、薄山金時は。
「あぁ…?」
金時が見つめる先に、一人の男が立っている。
サングラスをかけた男、矢車飛鳥。
飛鳥がサングラスを外し、胸ポケットへしまった。
金時が突っかける。
右腕を振るい、飛鳥に拳が迫る。
飛鳥は軽々と躱し、飛鳥の右拳が金時の脇腹に刺さった。
飛鳥が飛び退き、金時と距離を取る。
「ふぅ」
金時はあまり効いてない様子だ。
大きく息を吐き、飛鳥に突っかけてきた。
飛鳥は軽く、金時の拳を躱し続ける。
そのたびに、軽く、しかし正確に内臓を狙った攻撃が当たる。
金時に、どんどんダメージが蓄積されていく。
だが、金時の拳のスピードは緩まない。
「よっと」
飛鳥が右足で、金時の膝を蹴った。
金時の体が崩れる。
起き上がろうとするが、内臓のダメージのせいか、力みが薄い。
飛鳥が息をつき、その場を去る。
その瞬間、飛鳥が後ろを向いた。
「おっさん。何してんだ」
黒山紺が、そこに立っている。
「俺は、野呂組に何か思いを持っているわけではない。逃げるなら、今になるだろう」
飛鳥が歯を噛み締めながら、声を振り絞った。
「誰が…逃げるってぇ?」
飛鳥が飛び出す。
左拳が紺に迫る。
紺の右腕が、それを止めた。
「ぬんっ!」
紺の喉奥から、重い声が聞こえてくる。
重低音が、飛鳥の腹からなった。
紺の左拳が、深くめり込んでいる。
さっと、腕を引いた。
飛鳥がうずくまっている。
「…がっ!」
力を振り絞り、飛鳥が紺に襲い掛かった。
再び、左拳が腹を突く。
次に、右拳が顔面を打った。
飛鳥が倒れた。
37話 開戦 終
37話後書き。
遂に始まりました、四組抗争。
誰が勝って、誰が負けるのか。
まだ出てないキャラもいっぱいいるし、出てきて、まだ活躍が控えているキャラもいます。
乱戦はずっと書いてみたかったんですが、意外と難しいです。
因みに棘は四人しかいません。
さて今回は、そんな棘の四人。
賀露俊樹 身長175センチ 体重65キロ。
鹿山桐雄 身長182センチ 体重77キロ。
山舘坂太郎 身長195センチ 体重134キロ。
本郷士郎 身長192センチ 体重100キロ。
これからおそらく出番はありません。
外伝とかを書くならあるかもしれません。
では。




