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龍道  作者: 栄光の平橋
金殺編
34/40

34話 新たな敵

「ジャクソン?」

総一郎が不思議そうに言う。

「うん。次の対戦相手は、ジャクソン」

「ダンサーかよ」

総一郎が口をつけずに言った。

「うん」

「え、まじ?」

「元ダンサーみたい」

龍一がスマホを取り出しながら、総一郎に見せた。

「ほら、マイク・ホランド。フランス出身のダンサー」

スマホには、比較的細めの身体をした、黒人の男が映っている。

黒いタキシードを着、黒い帽子を右手で抑えている。

「ダンサー…ということは、時牧から上がってきたのか?」

「でしょうね。格闘家じゃないなら、時牧ルートじゃないとだめだから」

総一郎が鼻でため息をつく。

「相当強いってことか…」


『一勝でこの観客数!スーパールーキーがリングに上がった!』

スピーカーから音がし、耳をつんざく。

しかし、スピーカー以外にも、つんざくものがある。

大量の観客の声が、部屋中に響き渡っている。

龍一は軽く耳を塞ぎながら、ため息をついてリングに上がる。

『本名、霞原龍一!一が二勝目を挙げるのか!?』

龍一の真正面、男が立っている。

黒いズボンに、黒いタンクトップをつけていた。

『あの有名ダンサーが、神技を見せてくれる!』

男が、息を吐いた。

『本名、マイク・ホランド!ジャクソンが伝説を継ぐ!』

ジャクソンが、龍一を睨む。

「では、始めぇ!」

審判が声を上げ、試合が始まった。

それと同時に、ジャクソンが駆け出す。

右ハイを放ち、龍一に先制をかけた。

龍一は左腕で、ハイキックを受ける。

ジャクソンが右足を引っ込め、右ジャブを放つ。

龍一が顔面にくらい、少し仰け反った。

それを機にして、ジャクソンが連撃を放つ。

龍一は躱したり受けたり、うまく連撃をしのいでいる。

だが、龍一は疑問に思ったことがある。

元ダンサーという事を生かしているようには見えず、正当なキックボクシングで戦っていることに。

なぜ、生かさないのか。

ダンサーという特性を、生かせていないだけなのか。

それとも、今は生かしていないだけなのか。

ジャクソン、四勝無敗。

今まで金殺で見てきた、誰よりも高い戦績を持つ。

何をしてきても、可能性がある。

それを見極める。

龍一は、ジャクソンの攻撃に集中し始めた。

しかし、いくら見ようとも、わかるのはボクシングスタイルという事だけ。

何か、仕掛けてくる気配はなかった。

それに、意識の重鎮を完全に観察へ送ることはできない。

気を抜けば、一瞬で落とし込まれそうだった。

もし、ダンサーという事を生かさないのであれば、キックボクシングで四勝を挙げたことになる。

その場合、気を抜けばすぐに勝機にされる。

なら観察をやめるか。

それもできない。

龍一は今、中途半端に戦っていた。

それが原因なのかどうか。

突如飛んできた左ハイに反応しきれず、側頭部に打ち込まれてしまった。

龍一の体が傾く。

その瞬間、ジャクソンの戦い方が変わった。

体を左に回転させ、左拳を遠心力で補強しながら、龍一の頭へと放つ。

龍一の側頭部に、再び強い衝撃がある。

今度は逆側からだ。

龍一の脳は今、揺れに揺れている。

龍一が倒れ、床に突っ伏している。

頭痛が走り、吐き気もする。

龍一が腕を立てて、立ち上がろうとするも、力が入らず落ちてしまう。

ジャクソンはステップを踏んで、龍一を待っている。

追撃せず、見ている。

そういう戦い方なのか。

それで、四勝も挙げてきたのか。

龍一が歯を食いしばり、腕全体に力を込め、立ち上がった。

ふらつきながら、ジャクソンを見る。

ジャクソンが突っかけてきた。

右ミドル。

龍一は左腕を立てて、ミドルを受けた。

しかし、踏ん張ることができず、態勢を崩してしまう。

ジャクソンが飛び、左方向に回転した。

左踵が、龍一の顔を狙う。

左腕でガードするが、衝撃で倒れてしまう。

龍一は急いで立ち上がった。

その時、ジャクソンを見た。

ジャクソンはステップを踏むだけで、やはり追撃してこない。

龍一は勘づいた。

もちろん、倒れた相手を追撃しない紳士的な男かもしれない。

だが、一番考えられる可能性は、立ち技であることが重要だからかもしれない。

わざわざ倒れた相手へ近づき、掴まれて寝技にでも持ち込まれたら、不利になってしまう。

なら、待ってでも立ち技へ引き込む。

龍一にとって、回復をできることはいいことだった。

龍一は立ち上がらず、回復してから、突進等で寝技へ持ち込むのが優先だろう。

「シュッ」

龍一が立ち上がった。

勢いよく。

龍一は、そのまま寝ておくことに不快感を抱いていた。

ジャクソンが右ローを放ち、龍一の頭を狙う。

龍一は両手を使って踏みとどまり、寸前で右足を避けた。

ジャクソンの右足は今、浮いている。

右太ももへ、拳を打ち込む。

ジャクソンが少し態勢を崩し、後ろに下がった。

あまり、ダメージを受けたようには見えない。

しかし、ジャクソンが膝をついた。

ジャクソンは困惑しているようだ。

神管打ち。

ジャクソンの右太ももは、麻痺していた。

ジャクソンが龍一を見上げる。

ステップを踏んで、ジャクソンを待っている。

ジャクソンが立ち上がった。

少し、右足がしびれている。

右フックで、龍一を狙う。

龍一は溶けるように下へよけ、右掌底をジャクソンの顎へ放った。

今度は、ジャクソンの脳が揺れる。

が、踏みとどまった。

後ろへ重心が傾きながらも、何とか踏みとどまっている。

そこへ、龍一の左ハイが飛んでくる。

ハイキックは側頭部を直撃し、再び脳を揺らす。

ジャクソンが倒れる。

脳が揺れ、てこずりながらも、ジャクソンは立ち上がろうとしていた。

その時、龍一がジャクソンとは真逆に走っていた。

ジャクソンが立ち上がった時、その距離は優に三メートル。

龍一が飛び上がった。

体を捻り、右足を振り下ろす。

回天落としを放った。

それを見た瞬間、ジャクソンが右足を振り上げた。

回天落としへ、右ハイがぶつかった。

龍一が、床に落ちる。

ジャクソンの右足は、少しだけ内側に曲がっていた。

龍一の右足は無事である。

ただ勢いを止められ、直撃を免れただけ。

龍一が立ち上がり、ジャクソンへ右ストレートを放つ。

ジャクソンはそれを右に躱し、左拳で龍一の脇腹を突いた。

あまり効いた様子はなく、龍一は左ジャブを放つ。

左に躱し、右拳で脇腹を打つ。

龍一は再び、右ストレートを放った。

先ほどと同じ結果になった。

ジャクソンは今度は、じわじわと攻撃を与えていくようだ。

右足が使えなくなったであろう今、それが一番いい。

龍一は納得し、放つ技をフックに切り替えた。

ジャクソンが避ける。

しかし、反撃はしてこない。

ストレートやジャブと違い、フックの避け方は後ろに下がるだけ。

反撃は狙いにくい。

寝技を嫌うジャクソンなら、無理に反撃するのも避けるだろう。

そのまま、フックで追い詰めていく。

ジャクソンの背が、金網に当たった。

その瞬間、龍一は右中段蹴りを放つ。

狙いは、ジャクソンの胸と腹の間。

胴のど真ん中。

狙いは正確。

龍一の槍が、ジャクソンを貫いた。

ジャクソンが唾を吐き、床に突っ伏した。

ジャクソンが少し震えたまま、右手を少しだけ上げる。

すると、審判が声を上げた。

「勝負あり!」

どうやら、降参の合図のようだ。

歓声が轟き、龍一へ向けて声が飛び交う。

龍一は反応することなく、リングを出ていった。

階段を上がり、廊下を歩く。

「さすがですね。龍一様」

廊下で、声を掛けられる。

龍一には、それが誰だかがわかる。

佐々木無郎。

その両隣に、総一郎と聖一が立っている。

「どうやら、やばいことになりそうだ」

総一郎が口を開いた。

「やばいこと?」

龍一が聞き返す。

「佐々木の話によると、野呂組は、藤木組を裏切ろうとしている。だな?」

「はい」

龍一が困惑した顔をする。

「え?何で?」

「私にもそこまでは。ですが恐らく、野呂組長は、権力を欲する方ですので、それが影響してかもしれません」

佐々木が首を振りながら言った。

「そんでもって、近々起こるかもだそうだ」

「え…じゃあもしかしたら、藤木辰正俺と会う前に死ぬんじゃ」

「…かもな」

総一郎が煙草を咥えていった。

「いや、それはないな」

総一郎が目を見開く。

声の主は、廊下から歩いてきていた。

「…誰だ」

総一郎は警戒して、佐々木の腕を引っ張った。

「あぁ、野呂組のものではない。どちらかと言えば逆だ」

声の主が手を振り、総一郎の警戒を否定した。

「俺は藤木組、藤木辰正直属兵。通称蛇の一人、万場黒土(マンバクロト)

龍一の顔がこわばった。

万場黒土。

その名の如く、全身を黒色で包んでいる。

白っ気のある肌も、顔ぐらいしかでていない。

道端に居そうな格好だが、雰囲気は異質である。

「あぁ、なぜ藤木組長が死なないといったかだけど、負けるわけないってのが一つと、あと龍一、あんただ」

「は?」

龍一は声を漏らした。

「あんたに組長の護衛をしてもらいたい。大丈夫、死なない程度に戦えばいい」

「いやいや、やるわけないだろそんなの!」

龍一が困惑したまま、声を荒げた。

「もし、あんたが藤木組長を襲ったのなら、俺たちは全力で護衛する。しかし、護衛に参加すれば、正当に倒すチャンスを設けよう」

「正当に…?」

龍一が聞くと、黒土はうなずいた。

「まあ、チャンスに過ぎないが。どうする」

龍一は総一郎を見た。

総一郎が数秒考え、頷く。

「わかった。そのチャンス、掴ませてもらう」

龍一が言うと、黒土はホッとしたような顔をする。

「よかった。トーナメントが開催しないところだった」

黒土の言葉に、龍一は反応した。

「トーナメント?」

「あぁ。この戦いで組長を守った龍だけが参戦できるトーナメント。龍は八人だからな。全員揃わないと」

黒土がそういうが、龍一は言葉を止めた。

「待て。じゃあ、他の七人の龍たちも来るのか?」

「あぁ、来るな」

黒土が頷くと、龍一が頭を抱えた。

「龍のトーナメント、なぁ…」

総一郎も困惑しているようだ。

「…分かった」

龍一はそう言うと、黒土に手の甲を向けた。

黒土は首だけでお辞儀した後、その場を去った。

「訳わかんなくなってきた…」

「だが、藤木辰正への最短ルートができたな」

総一郎は、黒土の去った後を見ている。

「蛇…か」


「戻りました」

黒土が扉を開けた。

部屋には、辰正が座っている。

「どうだった」

「誘えましたよ。戦力は失わないに越したことはないし」

「そうだな」

辰正が頷いた。

「座れよ。黒土」

黒土の隣、座っている男が、椅子をトンと叩いた。

「ありがとよ大名」

入来大名(イリクタイナ)

黒い髪をして、絵の具を混ぜたようなシャツを着ている。

「あら、こっちには来てくれないの?」

黒いセーターを着て、長い黒髪。

背には、鞭を携えている。

錦愛未(ニシキアミ)

「それで、いつ襲ってくるんだ」

金色の丸めた髪、身長は二メートル半ほどに見える。

長い四肢を組み、二席分使って座っている。

金良今屋(キンライマヤ)

「だから、そのもったいない座り方辞めろよ。二席も使うな」

「お前もじゃねえか」

「俺は体型上仕方がないんだよ」

プロレスラーのように、巨大な筋肉をまとっている。

反発しそうな背筋は、黒いドレッドヘアに半分ほど隠れている。

大田杏(オオダアンズ)

「龍の奴らは、いま日本にどれくらい?」

黒土が口を開いた。

「ここにいるやつらが全員だな」

言ったのは、登竜門三郎。

三郎の左には、夜頭竜二が座っている。

そして、右。

黒いオールバック、赤と橙の眼。

黒い無地の服を着ている。

四龍夏秋(シリュウナツア)

四つ目の龍。

その右には、夏秋によく似た姿のものが座っている。

青い目をしている。

冬山竜伍(トウザンリュウゴ)

五つ目の竜。

その右には、八嶋龍輝が座っていた。

「夏秋と竜伍は、兄弟なんだっけ?似てるね」

「腹違いだけどね」

竜伍が笑う。

「それで、いつなんだよ」

今屋が、辰正へいらだった様子で言う。

「おそらく、二ヶ月後。総会議の時に、襲ってくるだろう」

「俺は総会議に出席したことないからわからんけど、全員出るんだよな?直属兵は」

黒土が愛未に聞く。

「えぇ、全ての組のね」

「時牧の奴は遅れがちだから、それより野呂の野郎が遅れてきたら、確定だろうな」

今屋が言うと、龍輝が笑った。

「野呂の野郎…」

龍輝が下を向いて笑っていると、黒土が唸った。

「なんでわざわざ全員いるところで襲うんだ?」

今屋と愛未が、黒土の言葉で考え始めた。

「藤木組全勢力、時牧組全勢力を倒したほうが、褒めたたえられるから。みたいなものだろう」

辰正が言った。

「なるほどね」

大名が微笑んだ。

「黒土、頑張ろうな」

「あぁ」

大名と黒土が、拳を合わせた。

「それで、今回は何で集まったんだ?」

杏が口を開く。

「…俺は、トーナメント優勝者と戦う」

辰正が言うと、黒土が頷いた。

「それで敗れたら、俺はすべてを捨てる」


34話 新たな敵 終

34話後書き。

どうも。

今回は蛇の登場がありましたね。

ダンサーはうまく使おうと思ったんですが、難しかったです。

槍のみんなは将棋の駒が元ネタですけど、蛇はもちろん蛇です。

将棋は分かると思いますが、蛇は難しいですよね。

万場黒土がブラックマンバ、入来大名がナイリクタイパン、錦愛未がアミメニシキヘビ、金良今屋がキングコブラ、大田杏がオオアナコンダです。

ブラックマンバは調べた時の画像が怖いのでおすすめしません。

蛇大丈夫でも怖いです。

さて今回は、あのジャクソンです。

マイク・ジャクソン…。

身長177センチ 体重65キロ。

ダンサーってこれくらいでしょうか。

では。

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