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龍道  作者: 栄光の平橋
金殺編
32/52

32話 金殺

「ブレイカー!壊してやれ!」

怒声のような歓声のような、そんな声が響き渡っている。

龍一は息を呑んだ。

時牧の頃とは、全く違う。

観客が殺伐としている。

恐らく、金殺は富豪のストレス発散場となっているのだろう。

龍一が、リングに目を向ける。

MMAのように、金網が設置されていた。

一人の男が、リングに上がる。

金髪の刈り上げで、幾つかの傷。

写真で見た顔、ブレイカーだ。

日本人のような顔立ちをしている。

両の拳を打ち付け合い、気合を入れている。

そしてもう一人、見慣れた男が上がってくる。

白髪、目立った顔立ちではない。

しかし、見慣れすぎた顔。

鋼こと、鋼山響十。

「誰だてめぇ!」

「お呼びじゃねんだよ!」

最前列の者たちが、今度はわかるほどの怒声を上げている。

響十は怯む様子もなく、ステップを踏んでいる。

「二人とも、中央へ」

審判らしき男が、二人を呼ぶ。

二人は、ゆっくりリングの中央へ足を運ぶ。

『来た!あの男が来た!』

いきなり、試合場のスピーカーから大声が聞こえてきた。

『戦績四勝!あの巨大樹を!あの豪傑を倒し!金殺最強ランキング(非公式)に名乗りを上げた男が!ついに五勝目を上げるのか!?』

さっきまでので歓声は、スピーカーからの音でかき消されている。

『本名、兎頭或人(トトウアルト)!ブレイカーの出陣だー!』

歓声が上がる。

ブレイカーのコールが、いつの間にか始まっていた。

『対する相手、金殺初試合!ピカピカのルーキーが選ばれた!金殺に、慈悲の心は無いのか!?』

ブレイカーのコールが、ぴったり止んだ。

『本名、鋼山響十!鋼が堂々の初陣!』

すると、鋼へのブーイングが始まる。

「…」

響十は、気にしていない様子だ。

審判が、二人をリング端に追いやった。

「では、始めぇ!」

声が響き渡る。

「じゃあ!」

ブレイカーは声を唸らせ、全力で駆け出した。

響十はいつもの構えで待ち構える。

走っている。

明らかに、ブレイカーは走ったままだった。

その走った状態から、右足で地面を蹴り、不意を突くような前蹴りが飛び出した。

ドンッ。

重い音が、耳に流れ込んでくる。

その次の瞬間、ガシャンと、金網の音が流れてきた。

響十は金網に打ち付けられていた。

観客たちは、笑い声を上げている。

ブレイカーは右足を戻し、左足より左に、後方へ向けて足を置いた。

跳ねるように、左足が飛び出し、響十へ踵が跳んで行った。

もう一度、金網の音がなる。

その音は、先ほどよりも大きな音だった。

なにせ、直接当たったのだから。

響十は体勢をかがめていた。

頭上には、ブレイカーの左足がある。

それを、頭で打ち上げる。

ブレイカーの体勢が崩れた。

その瞬間、立ち上がった響十の左ハイが、ブレイカーの側頭部を叩く。

「かっ…」

声が漏れ出し、ブレイカーの体が崩れた。

試合場は、静かになっていた。

「…勝負あり!」

審判はブレイカーの状態を確認した後、声を上げる。

『な、なんと!あのブレイカーが一撃で退されてしまった!』

実況は驚きながらも、仕事を続けている。

それにつられ、観客たちも声を上げた。

「鋼ー!」

「おれぁ信じてたぞー!」

先ほどとは打って変わって、響十の事を褒め始めた。

鋼コールが、響いている。

響十はそれにも気にせず、試合場を出た。

そして、観客席の間の階段を、登っていく。

その辺りの観客たちは、響十に触ろうとしていた。

歩いていき、ある人の前で止まる。

「よぉ、龍一」

「どうも」


「辰正…」

響十が呟く。

「はい。そいつが、おれの目標です」

龍一は言いながら、上を見上げた。

「…そうか」

響十が龍一に背を向け、歩いて行く。

「頑張れよ」

振り返って、手を振った。

「…はい」


暗い部屋に、男が座っている。

黒い髪が、部屋の影に隠れかけている。

「それで、藤木組長。俺達は何の用で呼ばれたのかな?」

髪と眉、瞳まで金色に染まっている。

二つ目の竜、夜頭竜二。

「…竜二。生き急ぐな」

黒い髪が、肩甲骨のあたりまで伸びている。

前髪は、真ん中で別れている。

三つ目の竜、登竜門三郎《トウリュウモンサブロウ》。

「硬いね〜三ちゃん」

茶色の髪が、短くなびいている。

まだ小さい体で、足を組んでいる。

八つ目の龍、八嶋龍輝(ヤジマリュウキ)。

「知ってるだろうが、一を継いだ者がいる」

三人の前に座る、一人の男。

黒髪の男。

黒いタンクトップから、隆々とした筋肉が覗く。

藤木組組長、金殺最強の男、そして竜を作った男、藤木辰正。

「その龍一が、金殺に入った」

「ん〜。そりゃ、行けるだろうね」

竜二が軽く言った。

「ただ、本当の龍一ぐらいかと言われると…まったくかな?」

竜二の言葉に、三郎が反応する。

「その程度か。龍輝にも及ばないのか?」

「ちょっとちょっと!僕が弱かったのは子供の頃だし、数字は歳順だよ?僕が一番弱いとは限んないじゃん!」

龍輝が騒ぐが、辰正が掌を向け、静かになった。

「故に、トーナメントは予定通り行う」

辰正の言葉に、全員頷いた。

「でもなぁ、五と六はいいとして、四と七は集まるの?」

「あいつらは、強いやつと戦えると言えば、死のうとやってくる。釣ればいい」

辰正の言葉に竜二は笑った。

「その強いのってのは…」

龍輝が言うと、辰正は頷いた。

「俺だ。勝てば俺と戦えるといえば、竜は誰でも集まる」

「確かにねぇ…」

竜二が涙を拭いて、笑いを抑えながら言う。

「それにしても、三郎と龍輝か〜。いい名前をもらったね」

竜二は二人を見て言った。

「他の皆は、どんな名前なんだろな〜」

龍輝が椅子を掴みながら、楽しそうに目を輝かせた。

「それに、誰が一番強くなってるか、だよね!」

龍輝の言葉に、竜二と三郎が頷く。

「どうしよ〜イッちゃんが一番弱かったら〜」

「イッちゃん…?」

三郎が困惑した表情で、龍輝に聞き返した。

「うん!一だからイッちゃん!」

「凄いね!天才!」

龍輝のことを、竜二が褒めている。

「…それで、他にも言うことがあるんでしょう?」

三郎が辰正に向き直る。

それで、二人も辰正の方を向いた。

「…あぁ。これは極秘事項だ。相手は知らないが、バレたところでみたいなものだ」

「…何?」

竜二は覚悟して聞いた。

「俺の傘下、霊野和正率いる黒薔薇組が、抗争にて敗北を喫し、勝利した相手の傘下に入った」

「黒薔薇組が…?!彼奴ら、相当な実力は持っていたはずです。傘下の中でも、三番目に強いと言われているのに…?」

三郎が取り乱したように言うが、辰正はまるで的を射た者をみるような顔だった。

「その通り、黒薔薇組より強い組は、二つある」

「なっ…」

「野呂善助率いる、野呂組との抗争。それに敗れたのだ」

竜二が不思議そうな顔をする。

「傘下同士で戦ったところで、意味あるの?藤木組っていう最高のバッグがあるのに?」

「何故だと思う?」

辰正が言うと、龍輝が声を上げた。

「裏切り!」

「そう。どうやら黒薔薇組を傘下に引き入れ、俺たちを狙ってるらしい」

「何で?」

竜二が聞くと、辰正は立ち上がった。

そして歩いていき、別の椅子にかけてある紙を取った。

「これが、藤木組単体で所有する領地だ」

そう言って、紙を開く。

そこには、関東地方の地図が乗っている。

「東京、栃木、群馬。それらをすべて俺が所有している」

「できるのそんな事」

「俺が県を裏で取るのには、数年もあれば十分だ」

辰正が地図を椅子に掛ける。

「それを狙っているようだ。あいつはそういうのに敏感だからな。仲間のまま終わるとは思ってなかったが、今だったか」

辰正が、拳を握り締めた。


太陽が、沈みかけている。

午後の五時、夕暮れだ。

龍一は、窓を眺めながら、水を飲んでいる。

桐野運用本部、特設ジム。

一面の窓、縦は五メートル、横は五十メートルほどに伸びている。

夕日が反射し、水が橙色に光っている。

トレーニングを終え、休憩中の龍一は、ボーっと景色を眺めていた。

その時、部屋の端で、音がした。

随分と明るい機械音、スマホの通知だ。

龍一は息をつき、スマホを取りに行く。

スマホを手に取って、眺めると、一通のメールが来ていた。

そのメールを、押して開く。

八月二十七日、午後八時、試合予定。

そう書いてある。

龍一への、試合通知であった。

龍一はそのメールに書いてある通りに動く。

メールには、問題がなければ返信を、と書いてあった。

龍一はメールを送り、スマホを再び置き、トレーニングを再開した。


午後八時、金殺試合場。

龍一は、控室に居た。

部屋には、総一郎と聖一。

龍一が呼吸を整え、控室を出ていく。

そして、リングへ向かった。

様々な声が飛び交い、部屋を反響する。

龍一がリングに上がった。

試合場の中には、審判ともう一人。

黒い三つ編みが、肩甲骨まで伸びている。

引き締まった筋肉が、大きく姿を見せる。

微笑みながら、ステップを踏んでいる。

少しだけ汗をかいているところを見ると、すでにアップを済ませたのだろうか。

「中央へ!」

審判が、二人を呼び寄せた。

両者が近づく。

『若い!若いぞ!十七の若獅子が唸りを上げる!』

キンキンと耳の奥で声が響く。

『本名、霞原龍一!一が出てきた!』

「イチぃ!?」

「ふざけた名前してるぜ!」

怒声が飛び交う。

龍一は手首を確認しながら、リング端へ歩いていく。

対戦相手も、リング端へ。

『対する相手は、未だ一勝のみ!表からの殴り込み!総合格闘家のヘビー級が、黒グローブをつけ入場だ!』

対戦相手にも、歓声はあまりわかなかった。

『本名、千宮司凪沙(セングウジナギサ)!サソリが勝利を掲げる!』

対戦相手、千宮司凪沙、通称サソリ。

サソリは、未だ微笑んでいる。

「では、始めぇ!」

審判の声で、試合が始まった。

サソリは、ゆるく拳を握り、両腕を立てている。

ステップを踏みながら、ゆっくり近づいてくる。

龍一は、真逆の動きを見せる。

深く踏み込み、両腕を立てて、静止している。

相手からの攻撃を、待っているのだ。

それに応えるように、少しスピードアップして、サソリは近づいてくる。

そして、龍一の少し前で、その場のステップに切り替えた。

龍一は、動かず見ている。

サソリも、位置は変えずに見ている。

数秒後、サソリが動いた。

左に傾きながら、右のカーフ。

龍一は右拳を、左前腕で受けた。

そして、右手を固め、正拳突きを放つ。

拳はサソリの腹へ、深く食い込んだ。

サソリが顔を歪め、一歩飛び下がる。

龍一は逃がすまいと、地面を蹴って、飛ぶようにサソリへ近寄った。

しかし、それが罠。

龍一の視界から、サソリの姿が消えた。

龍一が下へ目を向ける。

視界にはサソリの両腕が、龍一の両太ももをがっしりと掴んでいる姿が映った。

次の瞬間、下を向いていた龍一の視界は、一気に上へ登っていった。

ガンッと、床に背を打ち付ける。

頭はぎりぎり、両手でカバーしていた。

サソリは両腕を離し、すぐに龍一の上へ飛び乗ってくる。

マウントポジション。

龍一の頭から床へ、冷や汗が滑り落ちる。

サソリの重量は、龍一よりはるかに重い。

どうあがいても、振り落としたりはできない。

サソリが右拳を振り上げ、拳を固めた。

龍一が急いで、両腕で顔面をカバーする。

鉄槌が、下される。

少し浮いていた龍一の後頭部が、強く叩きつけられた。

龍一は歯を食いしばり、脳の揺れを抑えている。

その上に、再び鉄槌が下された。

今度は、左の拳だった。

サソリは両の拳で、龍一を滅多打ちにしている。

龍一は耐えながらも、徐々にダメージを追っていった。

龍一は受けながら考える。

(どうする!あがいても落とせない!反撃は狙えない。腹に乗っかってるから起き上がる事もできない!なら!)

龍一は右足で、地面を蹴った。

右膝が、サソリの背中を打つ。

サソリの体制が前に崩れた。

その瞬間、自分の体を少しだけ起き上がらせた。

サソリの顔面に、龍一の額がめり込む。

サソリが後ろへ崩れ、龍一は逃げ出した。

龍一は金殺へ入る際、殺される可能性を考え、全局面へ技を生み出していた。

その技のうち一つ、マウントを取られたとき専用の技、前頭後膝(ゼントウコウシツ)。

仰向けのサソリの鼻から、血があふれ出している。

しかし、サソリはすぐに立ち上がった。

鼻の血を拭い、再びステップを踏む。

龍一も、ステップを踏み始めた。

二人とも、呼吸を整えている。

サソリは鼻血のせいで、少し息苦しそうにしている。

サソリがもう一度、鼻を拭った。

すると、大きく息を吸い、口を閉じた。

そして、そのまま飛び出し、龍一へ近寄る。

龍一も、サソリが飛び出したのを見た瞬間、飛び出していた。

二人の間合いが、触れ合った。

その瞬間、サソリの体制が変わる。

まるで立ち技とは思えない体制へ。

左足をしっかり床に踏み込みながら、右足が高く弧を描きながら降りあがる。

サソリの胴は、左へ低く傾き、三つ編みが床に垂れていた。

龍一はその体制を、まるで回天落としのように見た。

右足が、龍一の頭へ落ちる。


32話 金殺 終

32話後書き。

どうも。

金殺編が遂にスタートです。

ここからは時牧編と違い、安定した戦闘みたいな感じではなくなっていくと思います。

いつか武器も出て来るかもですね。

そして、時牧編との違いをもう一つ上げると、ここからはある程度構想が固まっているので、藤木組らへんに、しっかり触れていけると思います。

すでに、二つの龍が出てきましたからね。

さて、今回は、今回登場のお二人です。

兎頭或人、身長187センチ、体重114キロ。

千宮司凪沙、身長175センチ、体重105キロ。

これから、新登場のキャラはなるべくその回に出していきます。

では。

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