31話 時牧
「そっかぁ、負けちゃったのか」
龍一が息をつく。
「まぁ、決勝まで行けたし、目的は達成できたしね」
龍一は色々というが、総一郎は黙りこくっている。
「凄いでしょ?最後の技」
「…」
「…なんか言ってよ」
龍一が右腕を顔の腕に乗せる。
「そうだな。良くやった」
総一郎が立ち上がり、控室を出ていった。
総一郎は、控室のそばで待っていた四人を連れて、ホテルへと向かった。
誰にも、聞こえないよう。
「こういう歓迎もあるのか。時牧ってのは」
響十がリング上で言う。
前には、王宣と星、そしてもう一人、男が立っている。
黒髪のオールバック、スーツをビシッと決め、漆黒の目で響十を見ている。
「なぁ、時牧礼樹。どうして俺だけなんだ?ほかにも金殺出場者はいるだろ?」
黒髪の男、時牧礼樹。
時牧運営者である。
「優勝者には、個人的に話したくてね」
礼樹が近づき、響十に迫る。
「勝って、どういう気持ちだい?」
「嬉しいな。純粋に」
「そうかそうか。それでいい。長ったらしく語るよりも、もっと戦いというのは単調でいい。一言でまとめれるほど」
礼樹が一歩、下がった。
「それで、金殺には上がるのかい?」
「そりゃな。時牧にいても、あいつらとはやりあえないし」
響十が言うと、礼樹が頷く。
「これから、あと四名の所へ行く。全員には、金殺の事について、詳しく語るよ。じゃあね、響十君」
礼樹が言って、王宣たちとともに、リングを下りていった。
廊下を、三人で歩いている。
「組長、私も動きましょうか」
王宣が聞く。
「いや、私が直々に行く」
礼樹が答え、王宣が黙る。
(すごい筋肉だ…これでもうすぐ四十か…)
礼樹の体を観察しながら、王宣は考えていた。
スーツが張り裂けそうな程、礼樹の身体には筋肉が積まれている。
礼樹が立ち止まり、扉をノックした。
「あぁ。入れ」
扉の奥から声がし、礼樹が扉を開けた。
「やぁ、禪院霧斗君。金殺には、でるんだよね?」
「…あぁ、まぁな」
霧斗が、礼樹を鋭い目で見る。
「じゃあ、試合場に行ってもらおうか」
礼樹が笑いながら言う。
その顔には、褒めようという感情は見えない。
「金殺のルールは、何回も聞いてるんだがな」
礼樹が後ろを向く。
「待っててね」
礼樹が控室を出ていった。
そして、廊下を歩いていき、次の扉をノックする。
「あいよ~」
凛太が扉を開けた。
「…誰」
「やぁ、轟凛太君。私は、時牧礼樹」
「あんたが。へぇ」
凛太が物珍しそうに笑う。
「金殺の事について、説明をしたいのです。試合場へ向かってください」
「…あぁ」
凛太が言い、礼樹の横を通って、控室を出ていった。
「次」
礼樹が言い、次の扉をノックする。
龍一が、ため息をついている。
横になり、
右腕を目の上に乗せている。
その時、ノック音が聞こえた。
「…はい」
龍一は起き上がり、扉の方を向いた。
「どうも」
礼樹が扉を開ける。
「時牧礼樹、と申します」
礼樹が頭を下げる。
龍一の目が見開いた。
「あぁ…」
龍一が声を漏らす。
「試合場に移動していただきたく、参りました」
龍一が立ち上がる。
「わかった。行くよ」
龍一が歩き出す。
試合場には、五人の闘士と、三人の男が立っている。
鋼山響十、轟凛太、古八木智、禪院霧斗、そして霞原龍一。
星 劉、楼 王宣、時牧礼樹。
「まぁ、説明を始めましょう」
礼樹が笑う。
「金殺、というのは正式名称ではありません。正式名称はなく、藤木組運営裏格闘技団体、が最も近いでしょう。金殺と呼ぶのが、普通になりますが。それでは、金殺の説明の参りましょう」
礼樹が咳ばらいをし、説明を始めた。
「まず、金殺では時牧とは違い、勝利時にお金が発生します。安心してほしいのが、敗北時に失うことはないという事です。入会には、運営者藤木辰正に誘われるか、この金殺出場権利争奪トーナメントを準決勝まで勝ち抜く必要があります。そして、準決勝まで勝ち抜いた皆様には、この券が発行されます。」
礼樹が星に手を伸ばし、星が紙を渡す。
五枚の紙、横長く、青みがかっている。
「これらが、金殺出場権利券です」
礼樹がそれぞれの闘士に、券を渡していく。
「因みに、この券に個人の証明はついておらず、金殺に行くことで、個人証明が取れます」
「という事は、奪われたら最初からと」
響十が券を見ながら言う。
「その通りです。過去に、優勝したものが奪われたこともありますが、不問となっています」
礼樹が人差し指を立てる。
「それでは、ルールを。一、殺しは可、武器は無し。一、勝利時の金は、固定されることはない。一、金殺にもトーナメントがあり、そのトーナメントに定まった出場権利はなく、そのトーナメントで優勝したものには、藤木組長から優勝賞品がもらえます」
「賞品…」
龍一が呟く。
「因みに、二つ目の事。金は固定されない事ですが、観客の数によります」
「観客の数?」
凛太が聞くと、礼樹が微笑む。
「えぇ、観客たちは金殺の場合、観戦料が発生します。その観戦料の内、五割が金殺の運営料に行き、五割が勝利者へ行きます」
「なるほど。観客に好かれ、かつ勝利することが重要なのか」
智が納得したように言う。
礼樹が頷いた。
「これにて、金殺のルール説明は終わりです。それでは、その券の裏に書いてある住所に行ってください。その券の有効期限は、一ヶ月。それでは、終わります」
礼樹が頭を下げ、後ろを向く。
王宣と星を連れ、試合場を出ていった。
「…なぁんか、もっと豪勢に祝ってくれるもんだと」
凛太が肩透かしを食らったように言う。
「こんなもんさ。裏格闘技の前座なんかな」
霧斗が、券をポケットにしまいながら言った。
「あんた喋れるのか」
凛太が驚いたように言う。
「舐めてんのか」
霧斗が言う。
「金殺には、友人がいる。聞いたところによると、観客たちに覚えやすいように本名はあまり使わないようだ」
「?じゃあどうすんの」
「本名と共に、二つ名も決めるんだと。決めとけよ、てめぇら」
「藤木って、漫画とか好きなのか?」
凛太が不思議そうに言う。
「知るか」
「お前は決めてるのか?」
智が霧斗に聞く。
「わざわざ凝る必要もない。霧とかでいいだろ」
「じゃあ俺、轟だな」
「変わんねぇじゃん」
龍一が言う。
「あっ、総一郎のおっさんなら、いいの決めてくれんじゃない?」
凛太が言う。
「迷惑かけんな」
龍一がため息交じりに言うと、霧斗が廊下へ歩いて行った。
「絡むつもりはない。じゃあな」
霧斗が出ていった。
「結構喋ってたけどな」
凛太が、違う廊下へ出ていった。
「無理だよ」
総一郎が言う。
「いいじゃないすか。決めてくださいよ」
凛太が肘で突っつきながら言う。
「知るかよ、自分で決めろ」
総一郎がため息をついた。
聖一がそれを見て、凛太とは逆から肘で突っつく。
「龍一の必殺技は、決めれてるじゃないすか」
「あれは…ノリだよ」
「じゃあ決めてくれよ」
凛太が言うと、総一郎がため息をついた。
「じゃあお前、音鳴な」
「わ~い」
凛太が喜んでいる。
「龍…いや、それはだめか」
龍一を見ながら、総一郎が考える。
「…そうか。なら、一がいいんじゃないか?」
「ナンバーワン?」
凛太が馬鹿みたいに言う。
「まぁ、そうだろ」
総一郎が濁しながら言った。
(金殺には、他の龍がいるのだろうか…)
総一郎が煙草を噛んだ。
暗い部屋に、一人立っている。
黒い髪、前髪は眉まで、襟足は首まで伸びている。
筋肉質で、黒いタンクトップを着ている。
「失礼します」
暗い部屋に、一人の男が入ってくる。
「組長、五から電話です」
入ってきた男が言い、組長と呼ばれた男が振り返る。
「あぁ、今行く」
藤木辰正、龍を作り出した男。
数日後。
「ほら、行くよ」
髙美が手を引く。
ウルフが連れられて行く。
「しっかし、ウルフがなぁ」
登 明凡が言う。
髙美がウルフと遊んでいるのを、四人の男が見ていた。
「王宣、これから一緒に育ててくんだろ?」
明凡が王宣の顔を覗く。
「見てしまった以上な」
王宣がうつむいた。
「兄さん、時牧の最大戦力が金殺に行くことで、何か変わりますかね?」
東蓮が、夢坂に言う。
「いや、金殺に何か起こらない限り、時牧は変わらないだろう。たぶんな」
夢坂が空を見上げた。
「何も、起こらなければいいが」
桐野運用本社前。
車に、総一郎が乗っている。
サングラスをかけ、運転席に座っている。
総一郎はエンジンを掛けながら、車の窓を開けた。
「龍一!大丈夫か?」
龍一が、会社から出てきた。
隣に聖一もいる。
「今行く!」
龍一が走って、車に向かう。
「待って…」
聖一が疲れた顔で、龍一を追いかける。
龍一の運動に、付き合わされていたのだろう。
「よっと」
二人とも、車の後部座席に乗った。
「じゃ、凛太んとこ行くか」
総一郎がアクセルを踏み、車が出ていった。
「音鳴出陣!」
凛太が叫んだ。
目の前には、高いビルが建っている。
「ここがか」
総一郎が歩いていく。
四人は、ビルに入っていった。
ビルの内装は、普通の感じだった。
総一郎が歩いていく。
「券には、地下に行けばいいと書いてあるが、どう行けばいいんだ」
総一郎が、辺りを見渡している。
「おやおや、総一郎様。どうかなさいましたか」
曲がり角から、声が聞こえてくる。
曲がり角から声主が姿を見せた。
星である。
「星さん。地下への行き方がわからないんですが」
星は首を縦に振ると、総一郎たちに背を向けた。
「ついてきてください」
「ここが…」
緊急非常階段、避難口とは別の方へ続いている階段の先。
そこには、大きな地下室が広がっている。
きらびやかに装飾され、スーツを着た者たちであふれかえっている。
「まず、あちらに行ってもらいます。そこからはそこの人が説明してくれるでしょう。では」
星は深くお辞儀し、階段を登っていった。
「…どうも」
総一郎が、星の指した先へきて、カウンターへ声をかける。
カウンターには一人の男が立っている。
「どうも。私、説明者の春山栄太郎と申します」
黒い髪のした男が、お辞儀をしていった。
「金殺の出場権利券は、お持ちでしょうか」
「あぁ」
総一郎はそう言って、券を取り出した。
栄太郎へ渡し、栄太郎は券をじっくり見ている。
「はい。どなたが、霞原龍一様でしょうか」
栄太郎が言うと、龍一が一歩、前へ進み出た。
「顔写真を取らせていただきます。隠したいというのなら、どうぞご勝手に」
龍一は動かず、ただ写真を撮られた。
「それでは、この紙にサインを」
栄太郎が、紙を差し出す。
龍一がそれを書いているのを横目に、栄太郎は総一郎たちの方へ向き直る。
「あっ、俺も」
凛太が券を出すと、栄太郎は丁寧に受け取って、龍一と同じように対応した後、再び総一郎たちの方を向いた。
「あなた方は、観客という事でよろしいですか」
「それで問題ない」
総一郎が言うと、聖一も頷いた。
「観戦には、毎度料金が発生いたしますが」
「金ならいくらでも用意できる」
総一郎の言葉に、栄太郎が頷く。
「それでは、お二人とも、呼び名を決めていただきたいのですが」
凛太は待ってましたと言わんばかりの顔で言った。
「音鳴!」
「一」
二人が言うと栄太郎はまたお辞儀をし、カウンターの奥へ下がっていった。
「本当に音鳴にすんのか」
総一郎が言う。
「そりゃな!」
凛太が笑った。
すると、奥から栄太郎が出てくる。
「登録が完了いたしました。試合に関しましては、全てお伝えいたしますので、全員のスマホに、つなげていただきたく」
「あいよ」
総一郎がスマホを出す。
数十秒後、総一郎のスマホのメールに、藤木組経営格闘技団体というのが追加された。
数か月が経った。
あれから、出場メールはない。
龍一はスマホを眺めながら、今後の試合を確認していた。
面白そうなのがあれば、見に行きたい。
金殺の選手は、観戦無料という措置がある。
金殺に出場する大半は、勝つためへの観戦料も持たないものである。
そういう者たちへの、救済措置。
龍一がメールを、流し見で見ている。
デストロイVS金剛力士。
刀拳VS天空神。
ブレイカーVS鋼。
「ん?」
龍一は、最も近い試合の名前を見た。
鋼。
選手の文字は青くなっており、それを押すと顔写真が見える。
龍一は、親指でブレイカーの文字を押した。
金髪で刈り上げ、顔に何個かの傷がついている。
龍一は一度戻り、鋼の文字を押した。
その顔には、見覚えがある。
白髪、黒い服が首あたりに少し映っていた。
鋼山響十、通称鋼。
龍一は、日程を確認する。
四日後。
自分を打ち負かした男の、初試合がある。
31話 時牧 終
31話後書き。
遂に時牧編最終回。
次からは金殺編が始まります。
そして金殺では、通称が出てきました。
二つ名は大好きです。
漫画が大好きなのは私です。
最終話も継続で、作中二人目の女性、都宮香子です。
身長180センチ 体重89キロ。
来週から金殺編です。
では。




