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龍道  作者: 栄光の平橋
時牧編
31/40

31話 時牧

「そっかぁ、負けちゃったのか」

龍一が息をつく。

「まぁ、決勝まで行けたし、目的は達成できたしね」

龍一は色々というが、総一郎は黙りこくっている。

「凄いでしょ?最後の技」

「…」

「…なんか言ってよ」

龍一が右腕を顔の腕に乗せる。

「そうだな。良くやった」

総一郎が立ち上がり、控室を出ていった。

総一郎は、控室のそばで待っていた四人を連れて、ホテルへと向かった。

誰にも、聞こえないよう。


「こういう歓迎もあるのか。時牧ってのは」

響十がリング上で言う。

前には、王宣と星、そしてもう一人、男が立っている。

黒髪のオールバック、スーツをビシッと決め、漆黒の目で響十を見ている。

「なぁ、時牧礼樹。どうして俺だけなんだ?ほかにも金殺出場者はいるだろ?」

黒髪の男、時牧礼樹。

時牧運営者である。

「優勝者には、個人的に話したくてね」

礼樹が近づき、響十に迫る。

「勝って、どういう気持ちだい?」

「嬉しいな。純粋に」

「そうかそうか。それでいい。長ったらしく語るよりも、もっと戦いというのは単調でいい。一言でまとめれるほど」

礼樹が一歩、下がった。

「それで、金殺には上がるのかい?」

「そりゃな。時牧にいても、あいつらとはやりあえないし」

響十が言うと、礼樹が頷く。

「これから、あと四名の所へ行く。全員には、金殺の事について、詳しく語るよ。じゃあね、響十君」

礼樹が言って、王宣たちとともに、リングを下りていった。

廊下を、三人で歩いている。

「組長、私も動きましょうか」

王宣が聞く。

「いや、私が直々に行く」

礼樹が答え、王宣が黙る。

(すごい筋肉だ…これでもうすぐ四十か…)

礼樹の体を観察しながら、王宣は考えていた。

スーツが張り裂けそうな程、礼樹の身体には筋肉が積まれている。

礼樹が立ち止まり、扉をノックした。

「あぁ。入れ」

扉の奥から声がし、礼樹が扉を開けた。

「やぁ、禪院霧斗君。金殺には、でるんだよね?」

「…あぁ、まぁな」

霧斗が、礼樹を鋭い目で見る。

「じゃあ、試合場に行ってもらおうか」

礼樹が笑いながら言う。

その顔には、褒めようという感情は見えない。

「金殺のルールは、何回も聞いてるんだがな」

礼樹が後ろを向く。

「待っててね」

礼樹が控室を出ていった。

そして、廊下を歩いていき、次の扉をノックする。

「あいよ~」

凛太が扉を開けた。

「…誰」

「やぁ、轟凛太君。私は、時牧礼樹」

「あんたが。へぇ」

凛太が物珍しそうに笑う。

「金殺の事について、説明をしたいのです。試合場へ向かってください」

「…あぁ」

凛太が言い、礼樹の横を通って、控室を出ていった。

「次」

礼樹が言い、次の扉をノックする。


龍一が、ため息をついている。

横になり、

右腕を目の上に乗せている。

その時、ノック音が聞こえた。

「…はい」

龍一は起き上がり、扉の方を向いた。

「どうも」

礼樹が扉を開ける。

「時牧礼樹、と申します」

礼樹が頭を下げる。

龍一の目が見開いた。

「あぁ…」

龍一が声を漏らす。

「試合場に移動していただきたく、参りました」

龍一が立ち上がる。

「わかった。行くよ」

龍一が歩き出す。


試合場には、五人の闘士と、三人の男が立っている。

鋼山響十、轟凛太、古八木智、禪院霧斗、そして霞原龍一。

星 劉、楼 王宣、時牧礼樹。

「まぁ、説明を始めましょう」

礼樹が笑う。

「金殺、というのは正式名称ではありません。正式名称はなく、藤木組運営裏格闘技団体、が最も近いでしょう。金殺と呼ぶのが、普通になりますが。それでは、金殺の説明の参りましょう」

礼樹が咳ばらいをし、説明を始めた。

「まず、金殺では時牧とは違い、勝利時にお金が発生します。安心してほしいのが、敗北時に失うことはないという事です。入会には、運営者藤木辰正に誘われるか、この金殺出場権利争奪トーナメントを準決勝まで勝ち抜く必要があります。そして、準決勝まで勝ち抜いた皆様には、この券が発行されます。」

礼樹が星に手を伸ばし、星が紙を渡す。

五枚の紙、横長く、青みがかっている。

「これらが、金殺出場権利券です」

礼樹がそれぞれの闘士に、券を渡していく。

「因みに、この券に個人の証明はついておらず、金殺に行くことで、個人証明が取れます」

「という事は、奪われたら最初からと」

響十が券を見ながら言う。

「その通りです。過去に、優勝したものが奪われたこともありますが、不問となっています」

礼樹が人差し指を立てる。

「それでは、ルールを。一、殺しは可、武器は無し。一、勝利時の金は、固定されることはない。一、金殺にもトーナメントがあり、そのトーナメントに定まった出場権利はなく、そのトーナメントで優勝したものには、藤木組長から優勝賞品がもらえます」

「賞品…」

龍一が呟く。

「因みに、二つ目の事。金は固定されない事ですが、観客の数によります」

「観客の数?」

凛太が聞くと、礼樹が微笑む。

「えぇ、観客たちは金殺の場合、観戦料が発生します。その観戦料の内、五割が金殺の運営料に行き、五割が勝利者へ行きます」

「なるほど。観客に好かれ、かつ勝利することが重要なのか」

智が納得したように言う。

礼樹が頷いた。

「これにて、金殺のルール説明は終わりです。それでは、その券の裏に書いてある住所に行ってください。その券の有効期限は、一ヶ月。それでは、終わります」

礼樹が頭を下げ、後ろを向く。

王宣と星を連れ、試合場を出ていった。

「…なぁんか、もっと豪勢に祝ってくれるもんだと」

凛太が肩透かしを食らったように言う。

「こんなもんさ。裏格闘技の前座なんかな」

霧斗が、券をポケットにしまいながら言った。

「あんた喋れるのか」

凛太が驚いたように言う。

「舐めてんのか」

霧斗が言う。

「金殺には、友人がいる。聞いたところによると、観客たちに覚えやすいように本名はあまり使わないようだ」

「?じゃあどうすんの」

「本名と共に、二つ名も決めるんだと。決めとけよ、てめぇら」

「藤木って、漫画とか好きなのか?」

凛太が不思議そうに言う。

「知るか」

「お前は決めてるのか?」

智が霧斗に聞く。

「わざわざ凝る必要もない。霧とかでいいだろ」

「じゃあ俺、轟だな」

「変わんねぇじゃん」

龍一が言う。

「あっ、総一郎のおっさんなら、いいの決めてくれんじゃない?」

凛太が言う。

「迷惑かけんな」

龍一がため息交じりに言うと、霧斗が廊下へ歩いて行った。

「絡むつもりはない。じゃあな」

霧斗が出ていった。

「結構喋ってたけどな」

凛太が、違う廊下へ出ていった。


「無理だよ」

総一郎が言う。

「いいじゃないすか。決めてくださいよ」

凛太が肘で突っつきながら言う。

「知るかよ、自分(てめぇ)で決めろ」

総一郎がため息をついた。

聖一がそれを見て、凛太とは逆から肘で突っつく。

「龍一の必殺技は、決めれてるじゃないすか」

「あれは…ノリだよ」

「じゃあ決めてくれよ」

凛太が言うと、総一郎がため息をついた。

「じゃあお前、音鳴な」

「わ~い」

凛太が喜んでいる。

「龍…いや、それはだめか」

龍一を見ながら、総一郎が考える。

「…そうか。なら、一がいいんじゃないか?」

「ナンバーワン?」

凛太が馬鹿みたいに言う。

「まぁ、そうだろ」

総一郎が濁しながら言った。

(金殺には、他の龍がいるのだろうか…)

総一郎が煙草を噛んだ。


暗い部屋に、一人立っている。

黒い髪、前髪は眉まで、襟足は首まで伸びている。

筋肉質で、黒いタンクトップを着ている。

「失礼します」

暗い部屋に、一人の男が入ってくる。

「組長、五から電話です」

入ってきた男が言い、組長と呼ばれた男が振り返る。

「あぁ、今行く」

藤木辰正、龍を作り出した男。


数日後。

「ほら、行くよ」

髙美が手を引く。

ウルフが連れられて行く。

「しっかし、ウルフがなぁ」

登 明凡が言う。

髙美がウルフと遊んでいるのを、四人の男が見ていた。

「王宣、これから一緒に育ててくんだろ?」

明凡が王宣の顔を覗く。

「見てしまった以上な」

王宣がうつむいた。

「兄さん、時牧の最大戦力が金殺に行くことで、何か変わりますかね?」

東蓮が、夢坂に言う。

「いや、金殺に何か起こらない限り、時牧は変わらないだろう。たぶんな」

夢坂が空を見上げた。

「何も、起こらなければいいが」


桐野運用本社前。

車に、総一郎が乗っている。

サングラスをかけ、運転席に座っている。

総一郎はエンジンを掛けながら、車の窓を開けた。

「龍一!大丈夫か?」

龍一が、会社から出てきた。

隣に聖一もいる。

「今行く!」

龍一が走って、車に向かう。

「待って…」

聖一が疲れた顔で、龍一を追いかける。

龍一の運動に、付き合わされていたのだろう。

「よっと」

二人とも、車の後部座席に乗った。

「じゃ、凛太んとこ行くか」

総一郎がアクセルを踏み、車が出ていった。


「音鳴出陣!」

凛太が叫んだ。

目の前には、高いビルが建っている。

「ここがか」

総一郎が歩いていく。

四人は、ビルに入っていった。

ビルの内装は、普通の感じだった。

総一郎が歩いていく。

「券には、地下に行けばいいと書いてあるが、どう行けばいいんだ」

総一郎が、辺りを見渡している。

「おやおや、総一郎様。どうかなさいましたか」

曲がり角から、声が聞こえてくる。

曲がり角から声主が姿を見せた。

星である。

「星さん。地下への行き方がわからないんですが」

星は首を縦に振ると、総一郎たちに背を向けた。

「ついてきてください」


「ここが…」

緊急非常階段、避難口とは別の方へ続いている階段の先。

そこには、大きな地下室が広がっている。

きらびやかに装飾され、スーツを着た者たちであふれかえっている。

「まず、あちらに行ってもらいます。そこからはそこの人が説明してくれるでしょう。では」

星は深くお辞儀し、階段を登っていった。

「…どうも」

総一郎が、星の指した先へきて、カウンターへ声をかける。

カウンターには一人の男が立っている。

「どうも。私、説明者の春山栄太郎(ハルヤマエイタロウ)と申します」

黒い髪のした男が、お辞儀をしていった。

「金殺の出場権利券は、お持ちでしょうか」

「あぁ」

総一郎はそう言って、券を取り出した。

栄太郎へ渡し、栄太郎は券をじっくり見ている。

「はい。どなたが、霞原龍一様でしょうか」

栄太郎が言うと、龍一が一歩、前へ進み出た。

「顔写真を取らせていただきます。隠したいというのなら、どうぞご勝手に」

龍一は動かず、ただ写真を撮られた。

「それでは、この紙にサインを」

栄太郎が、紙を差し出す。

龍一がそれを書いているのを横目に、栄太郎は総一郎たちの方へ向き直る。

「あっ、俺も」

凛太が券を出すと、栄太郎は丁寧に受け取って、龍一と同じように対応した後、再び総一郎たちの方を向いた。

「あなた方は、観客という事でよろしいですか」

「それで問題ない」

総一郎が言うと、聖一も頷いた。

「観戦には、毎度料金が発生いたしますが」

「金ならいくらでも用意できる」

総一郎の言葉に、栄太郎が頷く。

「それでは、お二人とも、呼び名を決めていただきたいのですが」

凛太は待ってましたと言わんばかりの顔で言った。

「音鳴!」

「一」

二人が言うと栄太郎はまたお辞儀をし、カウンターの奥へ下がっていった。

「本当に音鳴にすんのか」

総一郎が言う。

「そりゃな!」

凛太が笑った。

すると、奥から栄太郎が出てくる。

「登録が完了いたしました。試合に関しましては、全てお伝えいたしますので、全員のスマホに、つなげていただきたく」

「あいよ」

総一郎がスマホを出す。

数十秒後、総一郎のスマホのメールに、藤木組経営格闘技団体というのが追加された。


数か月が経った。

あれから、出場メールはない。

龍一はスマホを眺めながら、今後の試合を確認していた。

面白そうなのがあれば、見に行きたい。

金殺の選手は、観戦無料という措置がある。

金殺に出場する大半は、勝つためへの観戦料も持たないものである。

そういう者たちへの、救済措置。

龍一がメールを、流し見で見ている。

デストロイVS金剛力士。

刀拳VS天空神。

ブレイカーVS鋼。

「ん?」

龍一は、最も近い試合の名前を見た。

鋼。

選手の文字は青くなっており、それを押すと顔写真が見える。

龍一は、親指でブレイカーの文字を押した。

金髪で刈り上げ、顔に何個かの傷がついている。

龍一は一度戻り、鋼の文字を押した。

その顔には、見覚えがある。

白髪、黒い服が首あたりに少し映っていた。

鋼山響十、通称鋼。

龍一は、日程を確認する。

四日後。

自分を打ち負かした男の、初試合がある。


31話 時牧 終

31話後書き。

遂に時牧編最終回。

次からは金殺編が始まります。

そして金殺では、通称が出てきました。

二つ名は大好きです。

漫画が大好きなのは私です。

最終話も継続で、作中二人目の女性、都宮香子です。

身長180センチ 体重89キロ。

来週から金殺編です。

では。

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