表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
221/226

第45話 前に続く道 3/6

 道を登りきった二人は、丘の上の小さな広場に立った。


「タクヤ、ここからのながめ、知ってた?」


「下からは気になっていたけど、来るのは初めて。まあ、記憶が確かなら」


「壊された王宮が、よく見えるわ」


「ああ。早く直るといいな」


「タクヤ」


「ん?」


「だいて。私を、だいて」


「ど、どうした、急に」


「わかってるでしよ。好きなのよ、あなたが」


 泣く子も黙るほどの美女であるミルシードが、すでに目にこぼれ落ちる寸前の涙をたたえていた。


「ミル……」


「あなたはいつもユリのことばかり。でも、もうあの人はいない」


「……」


「そして、私は、王宮から出られない」


「え?」


「知ってるでしょ。私は王子の婚約者なのよ」


「それ、マジで?」


「私は、タクヤと結ばれる。君ではなく、彼と。まだ、決定したわけじゃない。でも、わかるのよ。たぶん、そうなるってことくらい」


「君は、否定しないんだね?」


「否定してどうなるの? それに私は、もともと、彼のことは嫌いじゃない。でも、好きでもなかった。いいの、それは。そうなるにしても、ならないにしても。ただ、はっきりしているのは、君とは、結ばれることはない」


「そうなのかな? ミルが本当に望むなら、出ちゃってもいいじゃん。王宮から飛び出して、普通の生活、してみろよ。うちには、猫がいるんだ。飼い猫ではなく、うちに居着いたノラネコだけど。スーパーで、魚を買ってきてやるんだ。うまい魚だと『にゃお、うみゃ、うみゃ』って鳴きながら食って、で、即睡するんだ」


「即睡?」


「そう。またを開いて、爆睡。自由全開」


「抱かれたまま寝ちゃうのね」


「そう」


「猫か。私も猫になりたいな」


「黄色いスーパーカー、乗れないぜ」


「そんなの捨てていい」


「贅沢だな」


「私、多くは望まない。それは心に決めているんだ。ただ、一度だけなの」


「ん?」


「せめて一度だけ、好きになった人に、抱かれて、キスしたい。一度だけ。ほんと、一度だけ。だめかな。贅沢すぎるかな?」


 ミルは、もう涙が止められなくなって、顔がぐちゃぐちゃになっていた。

 タクヤは、優しく言った。


「もういいよ、そんなに言わせて、ごめん。僕だって、大切に思っている。一生忘れられない旅の、大切な仲間なんだから」


 タクヤは、ミルを両腕で、抱きしめた。

 そして、軽く唇をかさねた。

 あくまで軽く、でも、長く。

 唇の先だけ、ふれ合う。

 それ以上はせず。

 しかし、そこまでは、本当に。

 唇の皮膚の先だけ、感触を探り合う。



 やがて二人は離れて、ミルは空を見上げて言った。


「全部捨てて、君といっしょになったら、どうなるのかな。興味はあるけど、これ以上は、ムリね。感謝しているわ。ありがとう。今日のこと、死ぬまで絶対に忘れない」


「大げさすぎないか?」


「あなたは忘れるつもり?」


「そんなことないけど」


「あなた、ユリともキスしたわよね」


「見てた?」


「後ろからだけだけど」


「でも、あれは、本人から否定されたよ。かくしたいことがあるから、ごまかすためだった、って」


「かくしたいこと、か。とんでもないやつだったな。そこが、なんか、最高に、ユリらしかった。大好きだった」


「みんなで旅できて最高だった」


「そうだけど、そんなまとめ方じゃ、私は納得しないわよ」


「ん?」


「君ねぇ、こんなに泣いてる女に、かける言葉はないの?」


「また、無茶を言うつもりか?」


 ミルは、なにかをたくらむかのように、横目でタクヤをにらんだ。

 しかしそれは、ミルなりのジョーク。すぐに満面の笑みを浮かべて、タクヤの手をとり、最後の思いを込めるように、強くにぎった。


「女の無茶はいつものこと。大丈夫。ありがとう。送るわ」


 二人は、道を下り、車に乗った。


 黄色いオープンカーは、未練を吹き払うような爆音で加速し、ブレーキ音を響かせ、うねった道を下まで疾走した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ