建国祭①
エドガス様の屋敷に行った翌日、私は呪力視に関する資料と帝国の女性が書いたという論文もといエッセイを自分の寝室で読み漁ったり、宿題を片付けたりしていた。
ちなみに昨日分かったことに関して、重要なこと以外は王城宛に伝書バトを飛ばし(各地区ごとに共同で使える伝書バトと伝書フクロウがいる)ラクアに報告しておいた。ただ万が一にも重要な情報が抜き取られては困るので(特に共和国のこととか)、もっと核心に近い部分は次に会ったときにまとめて直接話すことにした。
それはそれで一旦置いておいて、貰った資料の内容はどれも興味深いものだった。
呪力視に関する資料は、呪力視と魔力視の違いから実践的な習得方法まで幅広く記載されている。これを読んだだけで習得は厳しそうだが、次エドガス様を訪ねるまでに内容の理解はしておきたい。
もう1つのエッセイの方は、確かにひたすらに自分の考えを書いただけで、論文にあるような根拠の提示や実験結果などが何も無かった。だが読み物としては実に面白い。
ざっくり言うと、彼女の主張は"どうして属性や四大元素は火、水、土、風という分け方がされているのか?" "どうして人は1人1属性の魔法しか使えないのか?" "1人の人間が、複数の属性の魔法や全く別の魔法を使うことはできないのか?" というものだ。
これは前世における元素への捉え方や私の考えにかなり一致する。
四大元素の考えが当たり前と思い疑わないこの世界の人間達の中では、かなり画期的で同時に異端とも言える発想だ。一瞬私と同じ異世界転生者かもと思ったが、もしそうならもう少し確信を持った書き方をするだろう。
私は著者であるシェルシェーレ・シュバルツという人物に会ってみたいと思った。とはいえ帝国に行く機会は今のところなさそうなので、実行するとしてもまた今度だ。
「カナ〜!ジーク君から電話よ〜!」
すると下の階からママの声が聞こえてきた。ちなみに電話モドキの正式名称はマジックフォンなのだが、その略称は異世界語の翻訳がバグっているのか何故か"電話"になる。電気じゃなくて魔法で動いているのに電話なのはよく分からないが、私としてはその方が親しみのある呼び方でわかりやすいからこれでよしとしよう。
「はーい!」
私は急いで下に降り、ママから受話器を受け取る。
「もしもしジーク?」
『あ、カナ?ごめんね、いきなり電話して』
「全然大丈夫だよ。でも急に電話なんてどうしたの?…あ、今度ジークの家に行くのに問題でもあった?」
『あ、いやそういう訳じゃなくて、明日街まで遊びに行こうかと思ってるんだけど一緒にどうかな〜と思って』
「あー」
遊びに行くのは楽しそうだが、エドガス様から借りた論文がまだ結構残っているのでそれを読みたいようにも思う。
「私はやりたいことあるからい」
パシッ!
断ろうとしたところで、隣で話を聞いていたママに受話器を取られてしまった。
「またお電話変わりましてカナの母です〜…はい…はい…なるほど、それならカナは大丈夫ですよ!…ええ、伝えておきます、それじゃあ!」
ガチャ
「え、私行くつもりなかったんだけど…」
「もう、家にいたってまたこもって本読んでるだけでしょ??勉強ばっかりしてないで少しはお友達と遊んできなさい!」
「はい…」
まさか勉強のしすぎで怒られることになろうとは。しかしまあ約束してしまったものは仕方ない。せっかくの冬休みだし、たまには遊びに行くとしよう。
――――――――
翌日の午後、私達は神の啓示を受けた教会の前で待ち合わせをしていた。
てっきりマリーやアランも誘っているものだと思っていたが、どうも今日は私とジークの2人だけらしい。
ちなみに私の家もジークの家も特別近くはないが一応歩いて行ける距離感にある。教会はちょうどその中間地点にあるので待ち合わせにはちょうどいいのだ。
約束の時間より10分くらい早くついたので、もう少し待つとしよう。
―――
約束の時間を5分程過ぎた辺りで、私服姿のジークが到着した。貴族だからもっと豪勢な服でも着てくるかと思ったが、良さそうな生地が使われていること以外は平民のそれと大差ない格好だ。ちなみに私も平民らしいスカートである。もしかしたら私がこういう服しか持っていないのを見越して合わせてくれたのかもしれない。
「ごめん、ちょっと遅れちゃった!待ったよね?」
「いや、私も来てからそんなに経ってないよ」
「なら良かった!」
「ところで、今日は行きたい場所とかは決まってるの?」
「あ、えっと今日って建国記念日でしょ?だからそのお祭り見に行こうかと思って!」
なるほど建国記念日か、そういえば12月25日にそんなものがあったな。確か乙女ゲーム「Amour Tale」 ではクリスマスの時期のイベントで"建国祭でデート!"みたいなのがあったはずだ。
なんでクリスマスじゃないのかって?それは簡単な話で、この世界にはキリスト教もイエス・キリストの話も存在しないから、イエス・キリストの降誕祭であるクリスマスも存在しないという訳だ。
「そういえばそうだった。いいね、行こうか」
「うん!」
比較的人が少なかった教会の前から大通りへ移動すると、打って変わって大勢の人が行き交っていた。そして建物には装飾が施され、どのお店も賑わっている。この辺は日本のクリスマスシーズンそっくりだ。
そのまま大広場に出ると、大道芸やら楽器の演奏やらが催されていた。
「あ、あそこの演奏見に行こ!」
「うん」
沢山ある人だかりのうちの1つに近づくと、その中心では2人組がなにやら演奏をしていた。2人はそれぞれアコースティックギターとサックスのようなものを使い、ジャズっぽい曲を弾いている。中世ヨーロッパにジャズは無かったと思うが、まあここは中世ヨーロッパ"風"の異世界なので矛盾はない。
「凄い、かっこいいね」
ジークが演奏の邪魔にならないように小声で話しかけてくる。
「そうだね。ジークは音楽好きなの?」
「うん、でもこういう場でしか聞けないのが残念だなあ…」
「確かに、そうだよね」
そういえば、この世界にはミュージックプレーヤーやCDはもちろん、レコードすら存在しない。マジックフォンがあるのだから技術的には作れそうなものだが……ちょっと今度調べてみるか。
―――――― 続く




