いざ王城へ
「おはよう、カナ!」
「おはようジーク、今日も寒いね」
「ほんとだね〜」
初めて部活動をしてから1週間、今日から12月である。私は前よりジークと話す機会が増えた気がする。
「この前貰ったアランさんのクッキー、とっても美味しかったわ!」
「ほんとか?良かった!…よければまた何か作ってこようか?」
「ええ、お願い!」
…というより、アランとマリーがこのように2人で話していることが増えたので、そっとしておいた結果残った私とジークも自然と話すようになったのだ。アランの恋路はまだゴールは遠そうだが、なかなか順調なのではないだろうか。
「あ、そうだ!お父さんのことだけど、12月の終わり、冬休み中には会えそうだって!」
「ほんと?助かるよ、ありがとう」
「ううん!お父さんに魔術大会でのカナのこと色々話したんだけど、そしたらお父さんもぜひ会ってみたいって言ってたからちょうど良かったよ!」
「ハハ、あんまり期待されると困っちゃうけどな」
「大丈夫大丈夫、お父さん優しいから!」
まあジークのような子の親ならいかにも優しそうな気がする。ゲームで登場した騎士団長…はどうだっただろうか。例のゲーム画面以外でも出てきていた気がするが、どうにも思い出せない。
なんにせよ、これで騎士団長とのコンタクトの機会を得た。何かしら成果があるといいが。
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「おい、止まれ」
今日の授業も終わり、部活に行こうと部活棟への廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。前にもこんなことがあった気がする。
「あ」
「あ、とはなんだ。しかも若干嫌そうな顔で。相変わらず変わったやつだな」
第2王子ラクア・リアムールだ。
「ごめんつい。ところで私に何か用事が?」
「…ふん、まあいい。とりあえずついてこい。」
そういうとラクアは来た道を戻るようにスタスタ歩き始めた。今のところなんの説明もないのだが、向かっている方角には生徒会室があるので、生徒会関連だろうか。部活はあるが、毎回行かなくてはいけない訳では無いので問題無い。素直について行くとしよう。
しかしこいつは説明する前についてこさせないと気が済まないのだろうか。報連相は大事にして欲しいものだ。
「ここだ」
予想通り、生徒会室の前に着いた。
コンコンッ
「入るぞ」
「失礼します」
「お待ちしておりました、ラクア様、ベルナール様。」
そう言って迎えてくれたのはランドルトだ。ちなみにランドルトもラクア同様生徒会役員である。彼に会ったのはラクアの婚約者になってくれと言われて以来だ。それ以来何となく避けていたのだが、王子についてきた時点で分かりきっていたことだ、仕方ない。
生徒会室はラクアの休憩室より豪華である。本革のソファーやら金の装飾がついた椅子とテーブルやら全体的にキラキラしている。貴族感ましましだ。
にしても、室内にはランドルトしかおらず、生徒会室の中は随分閑散としている。
「ところで他の役員の方は?」
「それが、魔術大会の後始末やら意見書の内容の対処やらで非常に立て込んでおりまして…」
「大変そうです…だね。それで私はなんでよばれたの?」
「茶会に出席しろ」
「茶会?」
「ああ。」
「なんで茶会?」
「魔術学院に出資して下さっている侯爵家のご令嬢が魔術大会を観戦なさっていたようで、その際に見たラクア様やベルナール様にお会いしたいと仰っているそうです。そのためその侯爵家主催のお茶会に参加頂きたいのです。生徒会の仕事と言うよりは私用に近い形になりますが…」
「なるほど…」
「厳しいでしょうか?」
「…いや行くよ、お茶会。侯爵家でしかも出資してもらってるなら無下にはできないんでしょ?」
ちなみに侯爵は公・侯・伯・子・男の5段階ある貴族の階級の中で2番目に高い位で、貴族の中でも偉い方だ。なぜ私とラクアなのかはよく分からないが、いずれにせよ機嫌を損ねると王族との関係悪化や出資取りやめの原因になりかねないので丁重に扱う必要がある。
「話が早くて助かります。」
「あ、でもお茶会とか行ったことないから礼儀とか分からないし服も着られそうなのが無いんだけど…」
「それなら問題ない。お前が平民で貴族の礼儀に疎いことは話してある。まあお前の俺やエルマーへの態度を見る限り極端に礼儀を欠くようなことは無いだろうがな。それと服に関しては姉上が使い終わったものを使えばいい。それで良かったよな、エルマー」
「はい」
「それは良かった」
ラクアの姉上…ってことは王女か。王女のお下がりなんてそうそう着られるものじゃないな。
それにしても色々と用意周到すぎる。断ってもどの道行くはめになっていた気がする。
「それではお茶会は週末ですので、当日の朝王城へとお越しください。そこで着替えてからラクア様と共にお茶会へ向かう形になります。」
「うん、わかった」
――――――――――――
平日をいつも通り過ごし今日は週末、お茶会の日だ。私は今ちょうど王城の門の前に着いたところだ。しかしそれにしても大きな城である。大陸で帝国に次ぐ大国なだけはある。
門の前でどうすればいいか分からず右往左往していると、ランドルトが王城から出てきた。
「ベルナール様、ようこそおいでくださいました。それでは中へどうぞ。」
ランドルトに軽く王城の説明を受けながらついて行き城内を進んでいくと、ある部屋の前で立ち止まった。
「ベルナール様にはここで着替えて頂きます。着替えの際は部屋に侍女がおりますのでそちらに頼っていただければ大丈夫です。1時間後にお迎えに上がります。」
「わかった、ありがとう」
ランドルトが立ち去り、部屋に入ると侍女と思われる女性2人が迎えてくれた。
「ベルナール様、お待ちしておりました!」
「はい、えっと…よろしくお願いします」
私が入室するやいなや、侍女の人達がバタバタと動き始めた。どうやら私が着るドレスは決まっているらしい。しかし、それにしても平民相手に2人がかりとは大袈裟過ぎないか?
「あの…ベルナール様、少し質問いいですか?」
2人の内ちょっとミーハーそうな侍女が着付けを手伝いながら言う。
「はい、なんでしょう?」
「ラクア殿下とはどういったご関係なんですか?」
「どう、というと?」
「えーと…その…もしかして婚約者とかで」
「違います」
またか。どうも皆私をラクアの婚約者にさせたがる。
「え、でもわざわざ王城に連れてきたからてっきりそうなのかと…」
「それは単純に私がお茶会に合うドレスを持っていなかったから貸してもらうためですよ」
「でもそれなら私たちがドレスを持ってベルナール様の寮に行けばよくありません?1度私服に着替えてからまたドレスに着替えると二度手間ですし。そもそも魔術学院とお城って結構近いですし。」
そう言われればそう思わなくもない。確かこうすることを決めたのはランドルトだったか。もしかして私を王城に来させることでラクアとの婚約をほのめかし噂を広げ、そのまま囲い込むつもりとか…
…考えすぎだな、疲れているんだろうか。魔術大会での疲労はもう取れているはずなんだが。
「まあ、色々事情があるんでしょう。私とラクア殿下の関係性は生徒会役員に勧誘されたのと魔術大会で戦ったくらいですよ」
「あ、そうだ魔術大会!そのときのお話聞かせてもらってもいいですか?」
「ああ、いいですよ。じゃあ…」
話がいい感じに逸れた。このまま上手いこと婚約者の話から遠ざけよう。
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無事ドレスの着付けに化粧、髪型のセットまで終わり、今はひと段落しているところだ。ドレスは紫色のキラキラした生地が使われており、裾は軽く広がっているが全体的にはスリムなデザインだ。
「にしてもベルナール様、コルセット付けるときとか髪結ぶときとかよく叫ばず平気でしたね!普通の方なら阿鼻叫喚ですよ」
コルセットはともかく、髪やたら引っ張られるなと思ったが、痛いのわかっててやってたのか。
「ああ、まあこういうのには慣れてますから」
「………?」
コンコンッ
「はい、どうぞ」
「失礼します」
ランドルトと、ついでにラクアが来た。
「おや、これは素晴らしいですね」
「…ふん、馬子にも衣装というやつだな。」
「それはどうも」
馬子だろうが豚の子だろうが、お茶会のときにそれなりに見えれば無問題だ。
ちなみにラクアも正装で、英国王室の王子が着ているような"the 王子"といった感じの格好をしていて、黒い服の上から胸元に王家のバラの紋章のある黒いマントをまとい、腰には剣を携えている。
にしてもお茶会に剣が必要なのか?それなら…
「…言っておくが、お前は剣を持つ必要はないぞ。これはあくまで装飾だし、侯爵令嬢の要望で持っているだけだ。それにそもそもお前、戦うときだって剣はろくに使わないだろう」
「あ…うん」
「フフッ…」
フフッ?
「…それではそろそろ参りましょうか」
「…そうだね」
―――――――――――― 続く




