第1王子/波乱のお茶会①
「フフッ…それではそろそろ参りましょうか」
「…そうだね」
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3人でお茶会に参加するべく城内を移動していると、前方から4人ほど歩いてくる影があった。
前を男女2人が歩き、その後ろを騎士と侍女らしき2人がついてきている。しかし前にいる男性って…
「ラクア、また会いましたね」
「久しぶり、ラクア。元気にしていたかい?」
2人が口々にラクアに挨拶する。
「はい、姉上も兄上もご健勝そうで何よりです」
やはりか。
プラチナブロンドの髪にラクアと同じ紺色の瞳を持ち、第2王子であるラクアが"兄上"と言うのはただ1人、第1王子のラインハルト・リアムールである。彼は私が乙女ゲーム「Amour Tale」で唯一そのルートをプレイした攻略対象者である。彼は誰にでも優しく思いやりのある性格で、ラクアとはほぼ正反対だ。王位継承権第1位で現在17歳、そして魔法学園の3年生である。魔力120、属性土、傾向強光であり魔法適性や剣術は魔術学院の生徒に比べるとあまり良いとは言えない。まあ魔術学院の面々が色々とおかしいだけなのだが。一方それ以外のほぼ全てにおいて非常に優秀であり、次期国王として大いに期待されている。
王城へ来たからもしやとは思ったが、まさか本当に会うことになるとは。
そしてもう1人、第1王子ラインハルトの隣にいる女性は、第1王女でラインハルトの双子の姉、ミラ・リアムールだ。ラインハルト同様プラチナブロンドの髪と紺色の瞳を持っている。彼女も非常に優秀であり、女性ながら次期国王の候補に挙がったほどだが、本人はあまり王位に興味は無く弟と争うのも面倒だということで自ら辞退した。ちなみに私が今着ているドレスは彼女のお下がりである。
「そちらのご令嬢は?」
おっと、挨拶するのを忘れていた。
「申し遅れました、私カナ・ベルナールと申します。本日はお茶会に必要なドレスをミラ殿下より拝借させて頂くために参りました。私は魔術学院の生徒で、ラクア殿下の同期生にあたります。」
ドレスを軽く持ち上げそれっぽくお辞儀しながら挨拶する。
「ああ、あなたがベルナールさんか。ラクアから話は聞いているよ。」
何を聞いたのでしょう?と聞きたくなったがこらえた。
「ぜひラクアと仲良くしてやってね。態度はちょっとアレだけど、決して悪い子じゃないんだ」
「…兄上…アレとは…」
「私からもお願いしますわ、ラクアったらお友達が全然いないんだもの。」
「………」
「はいっ…フッ…もちろんです」
笑いを堪えながら答える。
ラクアは恥ずかしくて落ち着かないのかソワソワしている。あの俺様キャラのラクアですら2人の天然ぶりを前にタジタジだ。
「あ、そう言えばそのドレス私のですよね?どうですか、気に入りましたか?」
「はい、とても素敵なドレスだと思います」
「それは良かったわ」
「これはどのタイミングでお返しすればよろしいでしょうか?」
「あら、返さなくて大丈夫ですよ。そのまま差し上げます」
「いえ、このような貴重なものを頂くのは…」
「安いものだし、私はもう着ないから大丈夫ですよ。それに1着くらい余所行きのドレスがあった方が便利でしょう?」
王族の"安い"はなんの当てにもならないのだが。まあでもこれ以上断ると逆に失礼だ。
「…それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」
「殿下、そろそろお時間が…」
ラインハルトの後ろの騎士が彼に声をかける。
「ああ、そうだね。それでは失礼するよ」
「またねラクア、ベルナールさん」
「はい」
「それでは私達も参りましょうか」
これまで黙っていたランドルトが声をかける。
「そうだね」
「ああ」
――――――――――
王城から侯爵家の屋敷へとラクア達は馬、私は馬車で移動した。王子は馬に乗っているのに私だけ馬車なのはどうなのだろうと思ったが、さすがにドレスで馬に乗る訳にもいかないので素直に乗せてもらうことにした。
屋敷の前へ到着し、私達は馬や馬車を降りて門の前へ来た。門には2人の警備兵と、恰幅の良い見た目50歳くらいの男が立っている。すると、3人のうち恰幅の良い男がこちらに近寄ってきた。
「これはこれはラクア・リアムール殿下にカナ・ベルナール殿、本日は御足労頂き感謝致します。」
「いえ、こちらこそお呼び頂きありがとうございます、ソルード侯爵殿。」
侯爵ということは、彼がこの屋敷の主であり依頼人だろう。とりあえずラクア達に合わせてお辞儀をしておく。
にしてもソルードってどこかで聞いたことあるような…
「さあ、門の前で立ちっぱなしもなんですのでお茶会の会場へどうぞ。」
そのまま侯爵に着いていくと、やがて屋敷の庭に来た。そこには沢山のテーブルが並び、その上に大量のケーキやスコーン、チョコレートなどが並んでいた。
既にいくらか来賓客と思しき人達が会場で待機していた。
しかし見てみると椅子がなく、客は立ったままだ。どういう感じでやるんだろうか。
「今回のお茶会は立食パーティーですので、好きなお菓子を自分で取っていって、そのままお食べ下さい。」
「承知致しました」
なるほど、だから椅子がないのか。まだ開始まで少し時間があるのでとりあえず食べるのは待つとしよう。
――――――
「え、なんであんたらがここに!?」
声の方を向くと、見覚えのある人物がこちらに近寄ってきた。ほんとにただ見覚えがある程度なのだが、どこで見たのだろうか。
「おや、ロン・ソルード様ですね。お邪魔しております。」
ランドルトが反応する。
ロン・ソルードって、確か魔術大会でE組の代表だった火属性の人か。通りで見覚えがあるわけだ。団体戦でも個人戦でも4位だったが1度も直接戦わなかったので印象が薄くなかなか思い出せなかった。
それと確かさっきラクアが侯爵のことを"ソルード侯爵"と言っていたので、ロン・ソルードは彼の息子なのだろう。
「お邪魔ってことは、親父…侯爵に招待されたんですか?」
「ああ。」
「侯爵令嬢が私とラクア殿下に会いたいとの事でしたので、お茶会にお呼びして頂いたんです」
「ああ、そういえばシャーロットがそんなこと言ってたな…まあなんにせよ、ゆっくりしてってよ。シャーロットもそろそろ来ると思うから」
「はい、ありがとうございます」
令嬢の名前はシャーロットと言うらしい。
「あ、それとB組のランドルトとA組のベルナールさん、だっけ?確かに身分的にはあれかもしれないけど敬語使う必要ないからな、同じ学年なんだし」
「…うん、じゃあそうさせてもらうよ」
「私は敬語を使う方が慣れているので、今のままで。」
「そうか?あんまり堅苦しいの好きじゃないんだけどな…まあいっか」
「お前も俺に敬語を使う必要は無い。自由にしろ。」
「お、まじ?じゃあそうさせてもらうよ、王子様!」
「…ふん。」
「お、そろそろ始まるな、じゃあ俺はちょっとやる事あるからこの辺で。楽しんでな!」
そういうとロンはどこかへ去っていった。高位貴族の息子ながら、気前のいい好青年だ。魔術大会の団体戦のときに当て馬扱いしてしまったのを少々申し訳無く感じた。そもそもあの化け物達がいる中で団体でも個人でも4位を勝ち取っている時点で中々の実力者だしな。
そうこうしているとソルード侯爵が全体に向け話し始めた。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。皆さんにお会いできたことを…」
どうやらお茶会の始めの挨拶らしい。お茶会に参加する機会など滅多にない、というか当然初めてなのでちょっと楽しみだ。
――――――――――― 続く




