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魔法研究部

魔術大会から2日間の休みをはさみ、またいつもの学院生活が始まった。


閉会式の翌日私は実家に帰り、ママに大会の結果を話したらとても喜んでくれた。最初はママも大会に来てもらおうかとも思ったのだが、娘がボコボコにされてるシーンを見させるのはまずいかと思ったのでやめておいたのだ。実際ボコボコとまではいかないにしろママが見ても喜ばないような場面はちょくちょくあったのでこうしておいて正解だった。


あと例の不審な中年男に関しては、あれ以降特に進展はない。中々の数の警備隊を動員して捜索に当たったらしいが、それらしい姿は見つからなかった。まあ、私と接触した時点で先生にチクられるのは予想できるだろうし、あの後すぐに逃げれば奴が捕まることはないだろう。休み明け改めて先生にその件について尋ねると、今後も警備を強化してくれるとの事だったのでとりあえずそれで良しとしよう。ただ奴が使っていた力については調べなくてはならないが。


そして今日、授業も終わり私はある部屋へと入ろうとしているところだ。


コンコンッ


「失礼します」

「はーい!あ、カナ・ベルナールさんですね、いらっしゃい!」


そういって迎え入れてくれたのは、2年生のサラ・リサーシュ先輩だ。彼女は薄い紫色の髪を三つ編みにしてピンク色の瞳でメガネをしている。身長は160cm程だろうか。どうやら誰に対しても敬語を使っているらしい。


「それじゃあ改めまして、ようこそ魔法研究部へ!」


そう、ここは魔法研究部の部室である。そしてサラ先輩は魔法研究部の部長だ。ラクアとの戦いに勝利したので、晴れて私は部活動ができる。部活見学はラクアとの初対面の後に色々行ったし、大会後色んな部活の先輩がうちに入らないかと誘ってきたが、結局ここに落ち着いた。前世で所属していた理科部に1番近いのはここだし、何より魔術大会の準備をするときに、前世の科学の知識を流用するだけでなくこの世界の魔法そのものについても色々知りたいと思うようになったのだ。


「ささ、こちらへどうぞ!」

「はい」


先輩に促され部室の中へ入っていくと、中央には水道付きの実験机、周りの棚には大量の実験器具や鉱石、魔法薬の類が並んでいた。置いてあるものこそ違うがなんとも懐かしさを感じる。


「ベルナールさんが入ってくれて嬉しいです!」

「ほんとですね!魔術大会での活躍見たよ、凄かったね」

「ありがとうございます」


2人目に発言したのは私と同じ1年で、入学後すぐこの部活に入り既に馴染んでいるノア・カーターさんだ。彼女は濃い緑髪に黒い瞳で身長150cmちょっとの小柄な少女である。


「私のことは気軽にサラって呼んでくださいね!」

「あ、私のことも下の名前で!」

「わかりました。私のこともカナで大丈夫です」


それにしてもこの部活、この学院の男女比の割には思ったより女子が多い(と言っても女子は2割程度だが)。運動部は男女混合で余程自信が無いとついていくのは難しいし、その結果文化系の部活に流れてくるのだろう。


ところで、2人を見るとやけにソワソワしている。何か気になることでもあるのだろうか。


「さて、じゃあさっそく…」

「大会で使った魔法について教えて!!」


なるほど、そういう事か。まあ既にA組の皆にはざっくり説明してあるし、隠すようなことでもないだろう。


「そうですね、じゃあまずは魔力付与の話から…」


私はクラスメイトに話したよりももう少し踏み込んだ所まで話をした。


――――――――――


一通り説明を終えると、2人は何やら考え込んだ後、まずサラ先輩が口を開いた。


「魔力の付与は聞いたことがあるし、その論文も軽く読んだことがあります。でも確か"できない"って結論になっていた気がしたのですが…」

「はい、結論としては確かにそう書いてありましたし、その事実は今も変わりません。」

「………?じゃあどうやって…?」

「その論文の結論は、厳密に言えば"魔力付与は一般的な技術として(・・・・・・・・・)確立することはできない"というものでした。ですが、魔力付与が成功した被験者自体はいくらかいたんですよ。それで書いてあることを参考にしてやってみら、たまたま私とアラン…赤髪の生徒は上手くいったという訳です。」

「ほ〜なるほど!あれ、でもなんでその論文書いた人は"成功した人もいた!"って書かなかったんだろ?そう書いた方が凄そうに見えない?」


今度はノアさんが聞いてくる。


「その論文を書いた研究者は王国の軍事技術の開発を目的として研究している人だから、再現性が低いまま沢山いる騎士にやらせて2,3人ができたところでその利用価値はあまり無いと判断したんだと思う。それに、魔力付与自体はその論文が書かれる何十年も前から研究で観測されてるから、"成功した"っていう書き方をすると先行研究のパクリになりかねないからね。」


前世でもこの世界でも、科学もしくは魔法の研究における "再現性" と "先行研究" の有無は非常に重要であり、無視する訳にはいかない要素だ。


まず"再現性が高い"というのは、ざっくり言えば "手順をしっかり踏めば自分でも他人でも何度も同じことができる" ということと同じである。


例えば、ニュートンの万有引力の話で"リンゴが木から落ちた" というフレーズをよく聞くが(実際言ったかは不明)、実際に物を手から離し、落としてみるだけで誰でも木から落ちるリンゴと同じ現象を再現できる。そのためこれは再現性が高いといえる。


一方で、再現性が低かった研究として例に挙げられるのは "S○AP細胞" だ。あれも、本人は"ST○P細胞はあります" と言っていたが、確か本人も他の研究者も改めてSTA○細胞を作ることはできなかったはずだ。もし○TAP細胞が本当にあったとして、いざ手術に使うときに"もしかしたらたまたま偶然作れるかもしれない"というのでは使い物にならないのだ。


とはいえ論文に書かれているもので再現性の低いものなんていくらでもあるし、人ごとに再現性のばらつきがあってもアランや私が魔力付与を使ったように個人ベースで使えることはあるので、再現性が低いからといって必ずしも全否定される訳では無い。


次に "先行研究の有無" だ。むしろこっちの方が気をつけないとまずい。先行研究とは、読んで字のごとく既に世間に公表されている研究結果のことだ。自分が研究を始める際は、これがあるかどうか徹底的に調べなくてはならない。なぜなら、もし自分の研究と同じような先行研究が見つかったら、自分の研究成果は実質パクりとなり全て無駄になりかねないからである。


実際、前世の理科部の先輩がやった研究が全国レベルで表彰されたことがあったのだが、後から同じような研究が発覚するとその賞は剥奪されてしまった。だが剥奪されただけで済んだのはまだいい方で、例えば企業間でこんなことが起こると訴訟(そしょう)される可能性すらある。


"科学者" や "研究者" というと俗世から離れてやりたい実験(こと)を好き勝手やっているイメージがあるかも知れないが、実際は案外世知辛(せちがら)いのである。


こういうことを踏まえると、私が魔術大会で披露した魔法の数々はお世辞にも"科学的" "研究的"とは言えない。ただ元々あるものを自分が使えるように還元しているだけなので、おばあちゃんの知恵袋とかそっちの方が近いかもしれない。特許なんてもってのほかである。


ダラダラ説明してしまったが、まあそういうことだ。


「なるほど、確かにそう言われるとそうかもしれません。凄いですねカナさんは、まるでずっと前から研究してたみたいです!」

「ハハ…」


まあ大学ではまだ研究室には入っていなかったので高校の部活で研究の真似事をしていた以外はやっていなかったのだが、当たらずとも遠からずな発言に少しギクッとする。


「それじゃあ、次は"幻影"と水の剣について教えて!」

「うん。えっと……」


―――――――――


正直"幻影"と〘水惑刀〙の話は言って伝わるか心配だったのだが、かなりの部分を理解して貰えた。さすが魔法研究部といったところか。


「色々聞かせてくれてありがとうございます!すみません、質問攻めにしちゃって」

「いえ、私も色々話せて楽しかったです。ところで、私は今後何をすればいいでしょう?」

「ああそうだった、お話聞くのに夢中で説明するのをすっかり忘れてました!とはいってもこの部活、基本は個人で実験したり研究したりしているので、もしやりたいことが決まっていれば自由にどんどんやってもらって大丈夫ですよ。そうでなければ、まずは簡単な実験を色々やって慣れてもらう感じでしょうか」

「なるほど…」


一応現時点でいくらかやりたいことは考えてある。1つ目は魔力付与の簡略化、2つ目は魔石や畜陣石、ミスリルやオリハルコンといった前世になかった材料の性質の確認、3つ目は前世の科学を使った新たな技術の開発、そして4つ目はあの中年男が使っていた力の正体の解明である。


「…やりたいことはあるんですが、とりあえず実験器具の使い方とか色々確認したいので簡単なものからやりたいです」

「わかりました、じゃあ準備しますね!」


――――――――――――


その後、色々な魔法薬や実験器具を使わせてもらった。前世と違うことも多く今は慣れないが、学院生活はまだまだ時間がある。徐々に覚えていくとしよう。



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