魔術大会6日目︰午後
祝賀会が終わり、魔術大会6日目も午後に差し掛かっていた。
「カナ、この後どうする?休んどく?」
「どうしようかな…でも確か明日ってほぼほぼ閉会式だけだよね?」
「そうだな、3位決定戦があるけど俺らには関係ねえし、屋台は今日までだしな」
「だよね、それならちょっと屋台見て回りたいかな。特に欲しいものがある訳でもないんだけど」
「お、いいね!僕も一緒に行っていい?」
「もちろん」
「やった!アランとマリーも行かない?」
「私は部活の集まりに行かなくちゃ行けないからやめておくわ」
「俺も、新しく買った剣を部活の道場で試してぇから今日はいいや。もう行きたい店には行ったしな」
ちなみにアランは剣術部に所属している。入部当初、有望株が入ったと噂になった。
部活といえば、私も第2王子に勝って生徒会役員をやる必要が無くなったので部活に入ることが出来る。…まあこの辺の話は大会期間が終わってからでいいか。
「それは残念。じゃあ私たちだけで回ってこようか、ジーク」
「うん!」
――――――――――――――
先程から屋台の通りをプラプラ歩いているが、これといって寄りたい店は見つからない。一方ジークは道中買ったフランクフルトのようなものを歩きながら食べている。
そもそも私は前世のころから物欲がない。瞬間的に欲しいと思うことはそれなりにあったが、そのうち使わなくなるなとか、親になんて言われるだろうなどと考えているうちに買う気が失せるのだ。
とはいえこういうのは見ているだけでも楽しいものだ。それに、買った食べ物を頬張りながらニコニコして楽しそうにしているジークを見ると、来て良かったなんて思う。
――――――
もう少し歩くと、不思議な雰囲気の店が目に入った。どうやら魔道具の店のようだ。私はその店をじっと見る。
「カナ、そこのお店行きたい?」
「え?あ、いや…」
「…行こ!」
「あ、ちょっと!」
ジークに手を引かれ、店の前まで連れてこられた。
「あら、いらっしゃい」
「わあ、色々あるね!」
「…うん…」
店頭には、紫色に光る水晶、羽の生えた便箋、魔力の込められた宝石がついた指輪など、様々な商品がズラっと並んでいる。ついつい見るのに夢中になって返事が適当になってしまう。
「なにか欲しいものか気になるものはあるかい?」
「えっと…」
店主のお婆さんが声をかけてくる。どれも興味深いが、いざそう言われると困ってしまう。
「お婆さんのおすすめは何かある??」
返答しないでいる私を見かねてか、逆にジークが質問する。
「そうだね…これなんてどうだい?」
そう言って彼女が見せてきたのは1つの無色透明なひし形の石がついたチェーンのブレスレットだ。
「これは?」
「魔法陣を溜めておけるブレスレットさね。そうすることで相手の属性に関わらず自分の魔法を他人に使わせることができる。もちろんその逆もね。お嬢さん、試しにやってみるかい?」
「いいんですか?」
「ええ、でもこれは実践用のやつじゃなくてあくまで遊び用だから、魔力の込めすぎには気をつけるんだよ」
「わかりました」
やり方を教わり、私は実際にやってみる。
まず私の魔法陣を透明な石が中心に来るように展開すると、水属性の青い魔法陣が勝手に小さくなって石の中に入り、石全体が青く光り出した。
「溜められたみたいね。そしたら今度、坊やがそのブレスレットでお嬢さんの魔法を使ってみなさい」
「うんわかった!でもできるかな?」
そういうとジークは青く光っている石に魔力を込める。
シャーーー
「あ、シャワーでた!面白い!!」
石からシャワーのように水が出てくる。これは私が想定していた通りの魔法だ。
「面白いですね。元々石自体に何らかの魔法が使われてるわけでは無さそうでしたけど、石固有の効果なんですか?」
「ん?なんでそれを知って…ああ、魔力視を使ったのかい。そうさ、これは"畜陣石"って言って、今やったように魔法陣を閉じ込めておく性質がある。まあ魔法以外でもできるんだが…」
「魔法以外と言うと…」
「おっと、余計なこと喋っちまったねえ。ちなみに畜陣石の他にも、空気中の魔素が結晶化した"魔石"とか、魔力を蓄えておける"畜魔石"とか色々あるよ」
…あからさまに話を逸らされた気がするが、まあいいか。魔石と畜魔石は本で読んだし授業でも扱ったので知っている。そして魔石の方は普段の生活でも多様に使われている。
この世界、見た目は中世ヨーロッパの世界観そのままだが、文明のレベルで言うと魔法がある分だいぶ進んでいる。
例えばこの世界のシャワーは各家庭にあるが、中世ヨーロッパは確か家にお風呂などなく公衆浴場(銭湯のようなもの)で済ますのが一般的だったはずだ。
それ以外にも照明、上下水道、ガスコンロのようなもの、電話のような連絡手段などのあると嬉しいインフラは、一定以上の資産を持っている家には平民でも一通り揃っている。これらを可能にしているのが魔石だ。これが前世の電気の代わりにエネルギー源となっている。
「さてお嬢さん、どうする?買っていくかい?」
値段は銀貨1枚。遊び用なだけあって普通のブレスレットとしてもむしろ安い位の値段だった。ちなみにお金の価値はおおよそ銅貨1枚で十円、銀貨1枚で千円、金貨1枚で1万円、大金貨1枚で10万円くらいのイメージだ。
「せっかくなので、買っていきます。」
「毎度あり。もしもっと実用的なのとか別の商品が欲しくなったら、普段は城下町で店構えてるからおいで」
「はい、ありがとうございます」
「お婆さんじゃあね!」
私は店の看板にある"リジー魔道具店"という文字を確認してからジークと共にその店を後にした。
――――――――
再び2人で屋台の通りを練り歩く。周りを見渡してはたまに先程買ったブレスレットに目線を移す。
「良かったね!」
「え?あ、うん」
その様子をジークに見られていた。少し恥ずかしい。しかしジークはまた随分と嬉しそうである。
「あ、そういえば」
「ん?なに?」
「ジークのお父様にお会いしたいんだけど」
"何か"が起こる前の今の段階で騎士団長が何か知っているかは分からないが、あのゲーム画面に関する唯一の手がかりになので1度会っておきたい。
「…へ?…あ、うん大丈夫だと思うよ!…ちなみになんで会いたいの?」
随分と歯切れが悪い返事だが、何か言ってはいけないことでも言ってしまっただろうか。
「ああいや、騎士団の仕事に興味があって、ちょっとでもお話聞けたらいいなと」
目的をそのまま言う訳にもいかないので、あらかじめ考えておいた理由を伝える。
「え、あ、そういう事ね!」
「厳しいなら無理にとは言わないけど…」
「ううん、そんなことないよ!でもお父さん忙しいから今すぐにとはいかないかも…」
「ああ、それは大丈夫。もし出来たら年内でお願いしたいけど」
私が考えた嘘の理由だと、事件や事故については聞きやすいが、その代わり緊急性を持たせることが出来ない。"今すぐ職場体験に行かないと大変なことになるんです!"とか言ったら不自然さ満載だ。厳密にはもう今の時期に"何か"があってもおかしくは無いのだが、そもそも私の杞憂に終わる可能性もあるのに極端に急かすことは出来ない。
「あ、それくらいなら大丈夫だと思う!お父さんに聞いておくね!」
「ありがとう、助かる」
これでとりあえず騎士団長とコンタクトは取れそうだ。あと出来そうなことは特にない。
――――――
しかし、改めて周囲を見渡すととても沢山の人がここに集まっている。私は何となくここの人たちの魔力がどんなものかと魔力視で見てみる。魔力視を使うと人の魔力量が大まかにだがわかるのだ。
するといろんな色の魔力が可視化される。カラフルで綺麗だなどと考えていると、1人明らかに異質な人を見つけた。恐らく魔術学院の関係者ではなさそうな、ボサボサの黒髪で黒いローブを羽織った中年男なのだが、魔力が一切見えないのだ。
この世界の人間は全員必ず魔力を持っている。魔法が使えない人も稀にいるが、そういう人でも魔法を使えるほどの魔力が無いというだけで、少なからず魔力は持っているのだ。
しかし、件の男は魔力が微塵も見えない、0の状態なのだ。いったいどういう…
と考えているうちにその男が行ってしまいそうだった。
「ごめんジーク、ちょっとここで待ってて」
「え、どこ行くの!!」
魔力が無いのはもしや…と気になってその男を追いかける。
しばらく着いていくと、人気のない校舎裏についた。ここまで見失わずに来たつもりだが、あの男の姿はない。一体どこへ…
「後をつけるのはあんまりいいこととは言えねぇな、嬢ちゃん?」
「っ…!!」
突然後ろから声がした。瞬時に声の方へ向き直る。するとボサボサ頭に、無精髭を生やしたあの男が立っていた。いつの間に背後にまわったのだろうか。
魔力視は使ったままだったが魔力の痕跡はないし、この男は魔力が無いはずだ。魔法で潜伏していたわけではない。気の抜けるような話し方をしているが、話の端々に殺気の様なものを感じる。極度に緊張する。こいつ、只者では無い。
「美人に睨みつけられるのは悪かねぇが、ちょいと酷すぎやしねぇか?」
「………」
半ば反射的に、男の頭上に魔法陣を展開する。
「へへっ、とことんあっしは嫌われてるねぇ。だが、やめておいた方がいい。」
パチンッ!
男が指を鳴らすと、魔法陣が消えた。……どうなっている?訳が分からない。
「しかしまあ、詰めが甘いとはいえあっしを見失わず付いてくるたあ大したもんでさあ。将来有望だねぇ。やっぱあんたを外しておいて正解だった」
外す…?何から?
「おっと、話すぎやしたね。じゃああっしはこの辺で失礼しやすぜ」
そういうと男は私の目の前から音もなく消えた。
―――――――――― 続く




