魔術大会5日目︰個人戦準決勝③/決勝
「勝者、A組カナ・ベルナール選手!!」
ウォォォーーー!!!!
私の勝利だ。
「………俺の負けだな…」
王子が倒れたまま呟くように言う。
「約束通り、生徒会役員への勧誘は取り消そう」
「……」
…途中から約束のことをすっかり忘れていた。
「信じられないとでも言いたそうだな。俺はちゃんと約束は守る。」
「あ、いえ……ありがとうございます、殿下」
「…それ、気に入らんな」
「それ、とは?」
「"殿下"と呼ぶな。俺には"ラクア"という名前がちゃんとある」
「ですが…」
"殿下"は王様以外の王族(王子とか王女とか)への敬称なので基本こう呼ぶのがマナーである。厳密なことを言えば"ラクア様"というのも不敬にあたる。まあこの国、そして魔術学院はその辺適当な節はあるが…
「口ごたえするな」
「…承知致しました、ラクアさ」
「"様"も付けるな。あと敬語もやめろ、これは命令だ」
………………
…まあ、試合で負かしてる時点で不敬も何も無いか。
「…わかったよ、ラクア」
そう言って私は起き上がろうとしているラクアに手を差し出す。ラクアは素直にその手をとり起き上がる。
「生徒会役員にはならないけど、もし何かあれば手伝い位はしま…するよ。」
「…ああ。」
「それでは、決勝は今から1時間後に行います!」
――――――――――
試合が終わり、私は保健室に来て先生に診てもらっていた。
「あらボロボロじゃない!…しかもこの後決勝もあるんでしょう?」
「はい、1時間後に。」
「1時間後!?そんなんじゃ治るものも治らないわよ!辞退した方がいいんじゃない??」
「いや、それはもっともなんですが、一応まだ動けますし決勝の相手も必要以上に攻撃してくるような人じゃ無いので、出るだけ出てみます。」
「…そう?それなら仕方ないわね。治癒魔法と薬で極力治してあげる。でも怪我が悪化しない程度にしか治せないし、体力は回復できないわよ、それでもいい?」
「はい、ありがとうございます」
こうして先生の治療を受ける。すると…
ガラガラッ!!
「カナ!!」
「…?ってジーク、なんでここに?」
「もーまた無茶して!心配したんだからね!」
ジークが頬を膨らまして不満そうにする。
「ハハ、ごめんごめん」
「怪我治すの僕も手伝います!」
「あらほんと?助かるわ」
ジークが治癒の風を私に当てる。
「いいの?敵に塩を送ることになるけど。」
「敵とか味方以前にカナはカナでしょ!」
「……そっか、ありがとう」
…ジークにはいつも助けられてばかりだ。私も何かしてあげられればいいのだが。
――――――――――――
「非常にお待たせ致しました!いよいよ魔術大会1年生個人戦、決勝の始まりです!!」
ワァァァァーーー!!!!
「決勝はなんとA組同士の対決!危なげなくどんどん勝ち進んできたA組ジーク・ロバン選手 vs !!準決勝でラクア・リアムール選手と激戦を繰り広げたA組カナ・ベルナール選手です!!」
保健室の先生とジークのおかげで怪我はほぼ完治した。とはいえ体力はだいぶ消耗したままだし、〘操血〙もクールタイムが十分でないので使えたとしても2分程度だが、最善を尽くすしかない。
「カナ!ほんとに無理はしないでね!」
「ありがとう、ジーク」
正直もう勝ち負けへのこだわりはそんなに無い。決勝が両方A組な時点でどちらが勝ってもクラスの総合成績には影響がないし、団体戦1位・個人戦2位なら個人的な成績としても上出来だ。ただ、だからといってまだ足掻きようはある中で諦めるのも違うな、といったところだ。
「それでは決勝、始め!!」
「固体化・アクアジャベリン」
〘水惑刀〙
槍と〘水惑刀〙を出し様子を見る。しかしジークが動きだす素振りはない。
「どうしたのジーク?」
「いや…その…」
ジークはモジモジしながら曖昧な返事を返す。恐らくジークの性格から言って、疲弊した私と戦うのはやはり気が引けるのだろう。
「…そういうところはジークのいいところだけど、戦意のある相手に対して手を抜くのは失礼になりかねないよ」
「え…」
「ほんとにキツかったらちゃんと降参するから、今は戦って欲しいな」
「………うん、わかった!」
そういうとジークが剣を構える。面構えが変わった。
私はジークへ向けアクアジャベリンを放ち、私自身も〘水惑刀〙で攻撃する。
ガッ!ガッ!キィィィン!
若干私が押しているが、決定打に欠ける。
「ウインドキャノン!」
「っ……!!」
「ロバン選手、風魔法でベルナール選手を吹き飛ばした!」
ダメージは少ないが、衝撃が強く私は吹っ飛ばされる。このままでは場外だ。
バシャン!!
「ベルナール選手、落下先に半円のプールを作り場外になるのを回避した!」
そのまま自分が入っているプールごと操作し移動させて場内に戻る。
「ハァッ…ハァッ……」
ここまでの流れで既に息が上がる。予想以上に体力が減っているらしい。このままではすぐ体力が尽きて終わる。それなら一か八か、〘操血〙を使って短期決戦に持ち込むしかない。
〘操け…
ザザッ!!ザッ!!!
っ!!これ…は……まさか…!
――――ザッ!ジー!!ザザザザザッッ!!!――――
騎士団長「私に…ジーク…いう…6才の…子が……の…すが、裏………人間……われ…、…ヶ月前に……なりまし…」ザザッ
ジー
カナ「そんな…」ザザッ
――ザッ!ジーー!ザザッ!!――
…前よりも詳細な内容だ。騎士団長はジークについて話していたようだ。それに"カナ"の…
「おお……ベルナ……選手、頭を抱えた…ま動…ない!………深刻な…メージがある…か!?」
……ひとまず内容は覚えた。今は試合に集中しよう。
ただ今の出来事のせいか、意識が混濁し、判断能力が著しく落ちている。視界がかすみ、周りの音もろくに聞こえない。そしてその代わりに、ある1つの強迫観念に駆られる。それは
"ジーク・ロバンを優勝させるな"
何故こう思うのかは全く分からない。だがひたすらこの言葉だけが頭の中を駆け巡っている。普段は根拠のないことはあまり気にとめない私だが、今はこの言葉にでもすがっていないといよいよ気絶しそうだ。
〘操血〙
ダッ!!
「ベルナール選手、準決勝同様動きが変わった!ロバン選手に斬り掛かる!!」
ガッ!カッ!カキンッ!!
思うように力が入らない。意識が薄まりアイスジャベリンを使う余裕もない。
「カナ!お願……からも…降…して!!」
ジークが何か言っている。多分、降参してとかそんなことだろう。
キィィィン!!
刀が弾かれて、よろけてしまう。
「ア…クアラ…ンス」
ドォォォン!!
追撃を避けるために魔法で攻撃する。
………しかし、そこにジークの姿は無い。いったいどこ…
ドンッ!
いつの間に後ろに…
ドサッ……
そのまま私は意識を手放した。
「ロバン選手が背後から剣の柄でベルナール選手に一撃加え、ベルナール選手ダウン!よって勝者、そして1年生個人戦優勝者はA組ジーク・ロバン選手だ!!」
ワァァァァーーー!!!
「…優勝者はジーク・ロバン、か。確か騎士団長の息子かなんかだったかねぇ?こいつも獲物にちょうど良さそうでさあ。さて、ボスに報告するとしやしょうか」
―――――――――――――― 続く




