魔術大会5日目︰個人戦準決勝②
「準決勝第2試合目!テクニカルな戦法で敵を惑わし確実に勝利を納めてきたA組カナ・ベルナール選手 vs!!巨大魔法陣に魔法掌握!正しく王族に相応しい戦いを見せたB組ラクア・リアムール選手です!!」
ワァァァーーー!!!
「約束は覚えているか、カナ・ベルナール」
王子が話しかけてきた。
「はい、もちろんです」
「女だからと手を抜くつもりは無いぞ。降参するなら今のうちだ。」
「こちらこそ、王子だからと手を抜くつもりはございません。降参するつもりもありませんよ。」
「…ふん。せいぜい足掻くんだな」
「それでは準決勝第2試合、始め!!」
「ウォーターショット」
とりあえず様子見で攻撃を仕掛けてみる。
「«デトニール»」
ピタッ…
予想通り攻撃は止められる。が、まあただの挨拶がわりなので問題無い。
ダッ!!
「リアムール選手、またしても速攻をかけた!ベルナール選手はどうする!?」
これも概ね予想通り。水惑刀の存在を知った上でも、団体戦の私の動きを見れば"接近戦は苦手"と判断するはずだ。いかんせん武器が面白いだけで、本人の技量はたかが知れているのだから。
そういうわけで、速攻をかけられるのが分かっていて、特に囮になる必要が無ければそこに突っ立っている道理は無い。
バシッ!!
「おおっと!リアムール選手の剣がベルナール選手の体をすり抜けた!これは"幻影"だ!」
〘水惑刀〙・«飛水撃»
「チッ…」
ガ、ガ、ガキィィン!
「ベルナール選手が背後からの水刃を繰り出した!しかしリアムール選手、これを冷静にガードする!」
これに反応できるとは。かなり魔力を凝縮させているので«デトニール»は使えなかったらしいが、不意打ちしたのに剣で弾かれてしまった。なるほど、伊達に王子をやっている訳では無いらしい。私は再び"幻影"で隠れる。
さて、どうしたものか。今はとりあえず走り回って時々飛水撃を繰り出しているが、全て弾かれる。この調子では埒が明かないし私の体力が持たない。
「アクアランス」
「ここでリアムール選手動いた!大量の水の槍がベルナール選手を攻撃する!」
例の巨大魔法陣から水の槍が放出される。数にして60本、ランドルトの全力の1.5倍である。威力ももっとありそうだ。
「固体化・アクアウォール」
すかさず壁でガードする。
ガガガガッッ!!
なんとかガードできているが、完全に無差別に攻撃しているにしては随分私の元にくる槍の数が多い。外れている槍も確認用に軽く飛ばしているだけに思える。«飛水撃»を浴びせていたときから思っていたが、どうも王子は私の位置を特定しているらしい。
ガガガッ!…シーン…
槍の雨が止んだので、私はアクアウォールとついでに"幻影"を解除する。
「もうかくれんぼは終わりか?」
「元素視や魔力視を使われたらおちおちかくれんぼもできませんよ」
「ようやく気がついたか」
そう、王子は元素視と魔力視が使えるのだ。でないと"幻影"を使っていた私の位置をここまで正確に捉えていた説明がつかない。
「それで?もう諦めるか?」
「それも悪くないかもしれませんが、やっぱりもう少し足掻かせていただきます」
「…ふん、それくらいでないと面白くない。」
そういうと王子は再び巨大な魔法陣を繰り出す。
「リアムール選手、今度は"大洪水"を繰り出す!」
こうして向き合うと想像以上の迫力だ。これを防御するのは少々無理がある。それなら…
「«デトニール»」
「……!」
「なんと!ベルナール選手も魔法掌握ができたのか!?"大洪水"が見事にベルナール選手を避けて流れていく!」
「貴様……!」
見よう見まねでやった割には上出来じゃないか?よくよく考えれば、固定するのが精一杯とはいえ分子レベルで操れるのだから、魔力さえ足りれば軽く軌道を変えるくらいは造作もないのだ。
「固体化・アクアジャベリン」
「ベルナール選手の頭上に水の槍が出現した!」
私のアクアジャベリンはアクアランスに比べ小さく威力も低いが小回りが効くし、1度放ったらそれで終わりではなく存在し続ける。つまり本物の槍を空中で自由に動かしているような状態になる。
「………」
王子が無言のまま両手でしっかりと剣を構える。固体化した槍は〘水惑刀〙と同レベルの魔力濃度だ、«デトニール»は使えない。そのため下手に策を練るより接近戦に備えようといったところだろう。
私は槍を王子に向けて放つ。王子は剣で迎え撃つ。
ガッ!カッ!キィン!!
槍が王子の剣に弾かれてはまた攻撃するを繰り返す。さながら剣士と透明な槍術士の戦いである。
これで多少はダメージを与えたかったのだが、槍単体では王子に歯が立たない。なので私自身も〘水惑刀〙を持ち王子へと斬り掛かる。
ガッ!カキンッ!カッ!!
槍を操作する分集中力が分散し多少私の動きが鈍いとはいえ実質2対1の状態であるにも関わらず、王子に上手く捌かれてしまう。この間確実に体力が削られていく。剣術に限って言っても、アランと同等かそれに準ずる強さかもしれない。
「アクアランス」
「リアムール選手、先程とは違い小さな大量の魔法陣から水の槍を放出!」
巨大魔法陣の1箇所から出したときと違い、あらゆる方向から水の槍が飛んでくる。
「固体化・アクアウォール、«デトニール»」
まっすぐ飛んでくる槍を水の壁で、隙間を縫って飛んでくる槍を魔法掌握である程度退ける。
ドン!ドガッ!!ゴォォ!!
「っ………!!」
が、私の魔法掌握における操作能力が低いことを見越してか、変則的に飛ばしてくるため退けきれず何発もヒットする。魔法抵抗と属性耐性を加味してもかなりのダメージだ。なんという魔法の操作能力と魔力濃度の高さなのか。
バキッッッ!!
「カハッ!!」
よろけた私にすかさず王子が剣で腹の脇から思いっきり斬りあげる。"固体化"した水でガードしたので致命傷は避けたが、吐血はするし息も絶え絶えだ。なんともデジャヴを感じる状況である。
しかしベークマンのときはジークとアランがいたから良かったが、今は私1人。自分でどうにかするしかない。
正直最初は第2王子のことを "権力があるだけの悪ガキ" くらいにしか思っていなかった。だが戦ってみてどうだ、判断能力の高さだけでなく、想定外の状況にも動じない冷静さ、決して自分の能力を過信しない慎重さをも持ち合わせている。それらは基本的なことに思えるが中々持つことができないものだ。それに魔法操作能力や剣術の技量の高さも、才能だけでは説明がつかない。並大抵な努力ではここまで辿り着けないだろう。
元は生徒会役員になることを避けたくて勝負しようと約束をした訳だが、正直もうそんなことはどうでも良くなり始めている。ただ純粋にこいつと全力で戦いたいのだ。なんだか"拳で語り合う" という言葉の意味が少しわかった気がする。
「まだ立つか。だがそろそろ終わりにするぞ。」
ダッ!
王子が私に斬り掛かる。
〘操血〙
〘水惑刀〙・«鈍刃»
バァァァン!!!
「クッ…!」
「リアムール選手、ベルナール選手の攻撃で吹っ飛ばされた!これも何かの新技か!?」
〘操血〙は〘水惑刀〙と並び、私が魔術大会のために考えたもう1つの"奥の手"だ。
血液は、その約半分が水でできている。この文言だけでも察するかもしれないが、〘操血〙は血液を水魔法で操作し血液循環を速めたり、血液を介して体全体も操作して身体能力を飛躍的に上昇させるというものだ。
そもそも人間の体の60~70%は水でできているので、血液に限らず全体を操作してしまえば良いのではと思うかもしれないが、部位によって水の割合が違いすぎてさすがに操作しきれず、今の実力で練習しても習得するころには体のあらゆる箇所が破裂しているだろうと思ってやめておいた。
また、魔法抵抗が血液操作の邪魔をするのではという考えもあるが、実は原理はよく分からないが魔法抵抗は意図的に小さくすることができる。よって〘操血〙の効果をしっかりと受けることができる。その間防御が手薄になるのが弱点だが。
それとこの〘操血〙には時間制限がある。強力だが長時間の使用は体に負担が大きい上、操作にムラができる可能性があり危険なのだ。今の私では1度にせいぜい5分が限界である。次5分間フルで使うなら少なくとも3時間はクールタイムが欲しい。
ちなみに〘水惑刀〙の技である«鈍刃»は、«鋭刃»とは対照的に刃先の幅をあえて極端に太くし、攻撃する対象全体へ衝撃を与えられる技だ。
«鋭刃・飛水撃»
カッ!キィン!ザクッ!!
「カハッ!」
「リアムール選手に水刃が1つ直撃!」
ダッ!!
「ベルナール選手がリアムール選手目掛けて突進する!!先程とは別人のような動きだ!」
ガガッ!カッ!カキン!ガガガッ!!
「ベルナール選手とリアムール選手の剣戟が繰り広げられる!」
私は絶えず王子に攻撃を加え続ける。時間には限りがあるし、またさっきのアクアランスの集中砲火を食らわさせたら今度こそタダでは済まないので、隙を与えず一気に攻める。
ガッ!バキッ!!
「ガハッ!」
王子の動きが明らかに鈍ってきた。飛水撃によるダメージと、長時間の打ち合いによる体力の消耗が原因だろう。私はどんどん王子にダメージを与えていく。
そして――――
「…勝負…あったようだな…」
バタッ………
「……勝者、A組カナ・ベルナール選手!!」
ウォォォーーー!!!!
私の勝利だ。
――――――――――――続く




