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彼と私の百円戦争  作者: みそにこみ
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第十二話 綺麗な人

 退屈な午前の授業を終えると、静まり返っていた教室に騒がしさが戻ってきた。

 

 友達の元に向かう生徒、購買へ行こうと廊下に流れ込む人の波にのまれながら、

私も財布と紙袋をもって廊下へ向かって歩みを進める。


 押しつぶされそうな紙袋を淡い気持ちと共にぎゅっと抱きしめると、

背後から楓、と聞き覚えのある声がした。


 「あ、祥子ちゃん。ごめんね、私また自販機、」


 言いかけた私を遮るように、彼女は私の弁当の包みを差し出した。


 「気にしないで。それより、はい。一緒に食べてきたら?」


 急いで帰ってくるより良いでしょ、と照れ臭そうに微笑む彼女。

お弁当を受け取りながら怪訝そうに口を開いた私に、彼女はピースサインを掲げた。


 「私だって楓以外の友達くらい居るわよ、楓みたいに人見知りじゃないからね」


 へへ、と得意げに笑う彼女になにそれ、と笑いかけると、

まるで彼が待っているとでも言いたげな目をして、祥子ちゃんは手を振った。


 「ありがとね……行ってきます」


 両手いっぱいの荷物をもう一度大切に抱きかかえると、

私は大きく息を吸い込んでから、人並みの中へと踏み出した。


 涼しい教室から見るより、実際の廊下は蒸し暑くて。

息が詰まりそうになりながら人波を掻き分けると、不意に私の肩へ誰かがぶつかる。


 「あ……ごめんなさい」


 ポツリと私がそう呟くと、その人影は不機嫌そうな目をしながら去っていく。


 さっきまでの浮ついた気分はどこへやら。

なんだか心に雲がかかったようでムッとしていると、するりと私の腕から財布がすり抜けた。


 泣きっ面に蜂、とまではいわないけれど。

廊下にパタリと落ちた財布を、人ごみに紛れて見失いそうになる。


 大きなため息をつきながらそれに手を伸ばすと、視線の先の財布に触れる、白い手が見えた。


 「はい、どーぞ。あなたのでしょ?」


 声がした方へ視線を上げた瞬間。私の鼓動が一瞬、止まった気がした。


 パチリとした大きな瞳。可愛らしいピンク色の唇に、緩く巻かれたツインテール。

その華奢な体格にふさわしいほっそりとした腕の先には、

キズ一つない白い手に、綺麗に塗られたピンク色のマニキュアが光っている。


 ______綺麗な人……。


 一瞬で視線をさらわれる、その可愛らしさ。

同性なのについついときめいてしまう彼女には、どこか見覚えがあって。


 まじまじと見つめる私に気が付いたのか、彼女は恥ずかしそうに視線を逸らした。


 「あ、あの……ありがとうございます!」


 少し顔が上気するのを感じながらそう言うと、彼女は天使のような笑みを浮かべる。


 「全然大丈夫。それより、いつも慶斗をありがとね」


 一瞬思考が止まりそうになるが、ピコンと、頭に電子音が鳴り響いた。

 

 どこか見覚えのあると思った彼女。

確か、この前慶斗君のクラスに行ったときに見た気がする。


 慶斗君の友達か、と一人でに納得する私に、彼女は明るい笑顔で微笑んだ。


 「あ、今日も慶斗に会いに行くの?」


 「え? あ、は、はい!」


 緊張なのか、声が裏返る私に彼女は笑いを零しながら頬に手をやる。


 「それなら、今日は慶斗は保健室に居るわよ。さっきの授業で体調が悪くなったって」


 行ってあげたら?と可愛らしく首をかしげる彼女に大丈夫です、と頭を振ると、

そっか、と呟いて彼女は小さく手を振った。


 慶斗君のことが心配だけども、そういうのは他の人に任せるべきかな、なんて。

不意に頭をよぎったその考えに少し後悔しつつも、私も手を振り返す。


 渡せなかったカップケーキを少し残念そうに抱えなおすと、

私はとぼとぼと来た道を引き返し始めた。


 ……その後ろ姿を見て彼女が微笑んだなんてこと、私が知っている訳もなく。

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