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5.初見難易度・ハードコアモード

 もう一人の聖女候補、アデライドたちは庭で行われている茶会に参加しているらしい。


 案内に従い、光を反射する白い大理石の廊下を進んでいると、後ろから小走りに近付いてくる足音。


「お嬢様!!」


 振り返ると、プラチナブランドを僅かに乱したエリオットがいた。


「どうしたの?」


 王宮入り口で別れたはずだが、ルミナを探しに来たのだろうか。尋ねると、エリオットは姿勢を正して答えた。


「旦那様が私のことを陛下にお伝えしたところ、茶会に同席して良いと……」

「そうなのね。心強いわ」


 ルミナは、社交経験が皆無に等しい。誕生日などで身近な相手を招待することはあれど、面子は固定されていて、幼い頃からの顔見知りばかり。


 不特定多数との社交は殆どしていないのだ。だから、エリオットという絶対的な味方がいることは心強く、ルミナの視線が少しだけ上向いた。


「ですが、従者の私が参加しても良いのでしょうか」

「男爵令嬢の私が参加するくらいだもの。比較的、気軽な集まりなのかもしれないわ」


 足取り軽く、案内された庭へと向かう。後は角を一つ曲がるだけだ。


 第一印象は大切だから、笑顔で挨拶しなくちゃ。意気込んで曲がったルミナの目の前に立っていたのは、金髪碧眼の煌びやかな青年。


「ようこそ、ヘルト男爵令嬢と従者のエリオットだね。父上から話は聞いているよ」


 人当たりの良い笑みと、国王を『父上』と呼んだ事実。来る途中の廊下で見た、王家一族の肖像画が、ルミナの頭を一瞬で駆け巡る。


 この人は。気が付いたルミナは、崩れ落ちる勢いで足を曲げ頭を下げる姿勢をとった。


「だ、第二王子殿下に、ご挨拶申し上げます」


 声を震わせながらも、ルミナは何とか、定型文を言い切った。爽やかにルミナを迎え入れたのは、第二王子アスパル・シュライン。彼が茶会の主催なのだろう。


 全然気軽な集まりじゃない、とルミナは叫びたくなるが、口に出せる訳もない。頭を下げ続けるルミナに、第二王子は優しく立つように告げた。


「あまり堅苦しくならないで。今日は僕の私的な茶会なんだ」

「そのような場に招いていただき、嬉しく思います」


 ルミナが立ち上がると、第二王子の視線を受けたエリオットも静かに立ち上がる。会話には混ざらないものの、エリオットへの気遣いもある第二王子に、ルミナはホッと息を吐いた。


「とはいえ、緊張するよね。父上から言われた通り、簡単な紹介が済んだら退席してもらっても大丈夫だから、そんなに気負わないで」

「ありがとうございます……」


 ルミナは小さく頷いた。内心は赤べこ並みに首を激しく動かしていたが、表には出ていないはずだ。それ程、お茶会参加への心理的ハードルは上がっていた。


 第二王子の私的なお茶会に呼ばれるとなると、高位貴族ばかりだろう。見苦しくないよう所作に気を遣い、話題にも気を遣うなんて無理である。


 第二王子も建前上は迎え入れてくれたが、私的な茶会を邪魔されるのは嫌だろう。用事が終わったら即退席させて貰おう、とルミナは心に誓った。


「まずは……、ああ、いた。アデライド嬢!!」


 第二王子が声を上げると、令嬢の集まりの中から、一人の女性が顔を出す。


 光を反射するストレートの銀髪に、知的な瑠璃色の瞳。ピンと空から吊るされているように伸びた背筋を維持したまま歩いてくるアデライドの姿に、ルミナは慌てて口元を押さえた。


「……殿下、お呼びですか?」


 ルミナは叫び出しそうな気持ちを、両手を握りしめることでやり過ごす。

 アデライドの姿に、ルミナは、とても見覚えがあった。何度も絵姿を見ていたからだ。


 アデライドの外見は、あのスケッチブックに『夢乃』が描いた、ライバル役の令嬢、そのままの姿だ。


「君に紹介したい人がいてね」

「殿下自ら?」

「彼女がもう一人の聖女候補、ヘルト男爵令嬢だ」


 第二王子に言われ、ルミナは、ハッとして正式な礼をとる。相手は公爵令嬢。失礼があってはいけない。


「ヘルト男爵家が娘、ルミナです。よろしくお願いいたします」

「アデライドです。よろしくお願いたしますわ」

「彼女の紹介は必要かな?」

「存じております、大丈夫です」


 答えながらも、ルミナは視線をアデライドから外せない。色々と考えなくてはいけないのに、驚きと、夢乃の理想を体現した姿への歓喜で頭がいっぱいなのだ。


「ふふ、流石はアデライド嬢だね。母上もいつも君のような娘が欲しいと言っているよ」

「もう、殿下。揶揄わないでくださいませ」

「本当なのに」


 第二王子とアデライドが何かを話しているが、内容は全くルミナの頭に入ってこない。


 アデライドの姿を目に焼き付けている内に、頭が冷えてきたお陰で、自分が置かれた過酷な現状に気付き、それどころではなくなったからだ。


「ああ、ごめんね。つい話し込んでしまって」

「お気遣いなく……」


 主人公であるルミナだけでなく、ライバルであるアデライドがいたことにより。

 この世界が、未完成の乙女ゲームであることが、ルミナの中で確信に変わった。

6話以降は、毎週金曜日20時更新予定です。

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