12.お詫び(訓練)
「お詫びとエリオットに、何の関係が……?」
ルミナが思わず呟く。ティワズは、ルミナに視線をちらと向けてから、アデライドの正面に立ち、頭を下げた。
「まずは、俺の不注意に巻き込んでしまい、申し訳なかった」
「わたくしに怪我はありません。カリダ伯爵令息も、最大限避けようとしてくださっていました。お互い忘れましょう」
取り付く島もない、毅然とした態度だ。アデライドの返事にティワズは小さく頷き、再度口を開いた。
「では、護衛候補として聖女候補に提案する」
「はい?」
結構本気で驚いてるな、とルミナはアデライドを横目で見た。驚きの声を肯定と受け取ったのか、ティワズは淡々と提案を続ける。
「有事の際、聖女候補が自衛をする手段が必要だ」
「つまり……」
「俺とカーティスで護身術を教えれば、今後の役に立つ」
「追加で、その従者に稽古をつける」
ティワズの言葉に、カーティスが当然のように付け加えた。確かに自衛の手段は必要かもしれないが、あまりにも話の展開が早い。
ゲームで訓練イベントがあったとしても、もっと好感度が上がってから発生するものではないだろうか。
ルミナが視線を向けると、アデライドは力強く頷き、凛と背筋を伸ばして二人に向き合った。
「アシュヴァード伯爵令息の手までお借りするのは、釣り合いが取れませんわ」
「私がティワズと離れていたのも原因だ」
この方向性はダメだ。ルミナとアデライドは目配せをしあい、ルミナはカーティスに、アデライドはティワズに向き合い説得をすることにした。
ルミナは発言をお許しください、と頭を下げる。カーティスは伯爵家、ルミナは男爵家なので、本来はこんな真似をしてはいけない。
が、学園という環境下であることと、カーティスの性格故だろう。小さく頷かれたことを確認して、ルミナは口を開いた。
「エリオットは、騎士科に編入したばかりでして」
いくら優秀でも、まともな訓練は受けたことがないのだ。騎士科の実力者二人から指導を受けられる基礎が出来上がっているとは思えない。
「試験官の剣を弾いたと聞いたが」
「そうなの!?」
「お嬢様を守るために、鍛えておりましたので」
他にも、型とか、受け身とか、色々練習することはあるのではないか。ルミナが訴えると、カーティスは真剣な顔で頷き、淡々と告げた。
「だからこそ、訓練は必要だろう」
騎士科独自の基礎練から手合わせまで、実力に応じて相手をしよう。言い切られては、断る理由は既になく。
「……エリオット」
「すみません、お嬢様。お二人から指導を受ける機会があるなら、私は……」
当のエリオットも希望したため、ルミナは説得するはずが逆に説得されてしまった。
ルミナはすみません、と強く目を瞑ってから、アデライドの様子を確認すると。
「相手に時間を提供するのが、王都では重要なのだろう?」
「そうですけれど……」
「俺が教えるのでは不安だろうか?」
「そのようなことは……」
同じく、陥落していた。ルミナとアデライドが視線を交わし合うと同時に、カーティスとティワズも互いに頷き合った。
「決まりだな」
「教員棟裏の訓練場を借りてある」
「て、掌で転がされている……」
行けばすぐに訓練ができる状態にしてあるらしい。用意周到だ。
ルミナは両肩をさすった。三年生って怖い。この二人が特別なのかもしれないが、身体・技術面だけでなく、精神面でも敵わない気がしたのだ。
「お嬢様、お手を」
エリオットの手を取り、歩き出す。教員棟までの道を覚える良い機会だ。
「フォルベレー公爵令嬢、事故防止のため、手を貸していただいても?」
「か、構いませんわ」
カーティスが先導に回ったのが、敢えてなのか、偶然なのか。ルミナは背後の声を聞いて、苦笑してのであった。
そんな、優しい雰囲気の三年生達だったが。
「内容は、スパルタ……」
「もう、足が、動きませんわ……」
ルミナは、その場で地面に座り込む。アデライドも壁際まで移動し、手で体を支えていた。
運動着に着替えて訓練場に到着するなり、二人は訓練前の確認__身体能力テストを受けていた。
現在は、最終種目の長距離走を終えたところである。こんなところで学園感を感じなくても、とルミナはエリオットに差し出された水を有難く受け取った。
「基礎体力からだな」
「ご令嬢の中では動けている」
満足げな顔で頷き合っている三年生コンビは、気力と根性でやりきったルミナ達を評価してくれたようだ。
普通のご令嬢なら、まず体力テストの途中でやめるくらい厳しかった。息を整えながら、ルミナは空を見上げる。青くてきれい。
「そちらの……」
ティワズの視線がエリオットに向く。同じ体力テストを受けたはずが、ルミナと、ついでにアデライドの世話を焼くくらい元気が余っている。
「エリオット、とお呼びください」
「エリオットは、ひとまず模擬試合でいいだろうか?」
「よろしくお願いします」
綺麗に一礼をしたエリオットに、いつのまにか訓練場の端まで移動していたカーティスが訓練用の剣を投げる。
片手で器用に受け取ったエリオットが剣を構えると、同じく剣を受け取ったティワズが対面へ移動した。
「いつでも掛かってくるといい」
ティワズが軽く剣を振りながらいうと、エリオットは小さく息を吐き、顔を上げる。
「では、参ります!!」
そこからは、ルミナの語彙力では上手く表現できなかった。
素早い動きでティワズに向かったエリオットが斬撃を繰り出すも、最小限の動きでいなされ、カウンターが繰り出される。
大きく距離を取るエリオット。追撃はなく、構え直して再び攻撃。それを数回、繰り返す。
「カリダ伯爵令息は、動けないんですの……?」
心配そうに呟いたアデライドに、ルミナが言葉を返そうとしたところで。二人の視界に影が掛かった。
「いや、エリオットの実力を見ている。後は、反撃主体の戦術なだけだ」
「あ、アシュヴァード伯爵令息……」
「カーティスで良い」
代わりに、我々も名前で呼ばせてもらう。名前が長いと指示が遅れる、という言葉に同意すると、静かな頷きが返された。
「アデライド嬢の言う通り、ティワズの移動範囲は制限されている。だが、短期決戦とするなら、私より強い」
「それは……」
「見ればわかる」
エリオットは、ヒット&アウェイ戦法を繰り返し、機会を窺っているようだ。しかし、ティワズが一度、視線をルミナの後ろ、カーティスに向ける。
「決着をつけるようだ」
カーティスが頷くと、ティワズは剣を軽く振った。そして、剣を振った隙にと斬り込んできたエリオットに対して。
左の義足で剣を蹴り上げ、体勢を崩したエリオットの首元に刃を当てた。
「…………終わりだな」
「参りました」
剣もなく、急所を晒した状態のエリオットが両手を上げる。誰の目から見ても、分かり易い決着だった。
「見ての通り、ティワズは搦手が得意だ。今回は武器は剣のみ、と指定していない。実力確認と、意識改革が目的だろう」
「なるほど……」
「が、長期戦や移動しながらの訓練に向かないのは事実。それは私が担当する」
実戦では、何が起こるか分からない。予想外の攻撃が致命傷にならないよう、思い込みを消すことが大事なのだろう。
頷くルミナに対して、アデライドは、違う感想を抱いたらしい。
「カリダ伯爵令息の魔法は金属系ですわよね? なら、義足を変形させたり、金属で体を覆って外殻のように動かせば戦い方に幅がでませんこと?」
「確かに、脚を覆って動かせそうですね」
バトル物では、そこそこ見かける設定だ。ルミナは、無間地獄の推しを思い出して頷く。
が、ティワズとカーティスには、思いもよらない発想だったようだ。
「アデライド嬢、詳しく」
「部屋を準備しよう」
「紙とペンを取ってくる」
二人に両側に立たれ、完全に確保されてしまったアデライドを見て、ルミナは心の中で祈った。
残念ながら、ルミナはバトル物に詳しくない。三年生二人も察しているのか、ルミナには見向きもせず、アデライドに詰め寄っている。
「せめて、アデル様が頑張る間、私も頑張るので……!!」
彼女が戻ってくるまで、基礎練をする決意を抱いて。ルミナは訓練場を走り始めた。




