11.愉快なメンバーを確認するぜ
淑女科は、編入生が珍しくないらしい。ルミナは簡単な挨拶だけして、普通に授業が行われた。
階段事件直後のアデライドは、完全に心ここにあらずと言った状態だったが、授業中に落ち着いたらしい。終了の鐘が鳴ると同時に、ルミナの隣に移動して来た。
「……先程は、見苦しい所を見せましたわね」
咳払いしながらの言葉に、ルミナは微笑みだけを返す。それよりも、と鞄からスケッチブックを取り出し、机に置いた。
「解散前に、情報共有をお願いします」
アデライドが小さく頷く。この世界について、転生しているサークルメンバーについて、世界の命運を握っているだろう攻略対象達について。考えることは山ほどある。
「転生しているのは、サークル長の『不気味生姜味』さんと、わたくし『無間地獄』」
「後は私、『ディアカキン』ですね」
「イラスト組としては、『†黒薔薇姫†』だけいない感じですわね」
ルミナは白紙のページに、簡単な似顔絵を描いていく。転生後の見た目と名前、その下にサークル時代の役割と名前を書いて、確認済みの人物を丸で囲った。
「後は、シナリオが『えくすとら・ぷろーじょん』さんと『ショタヒザスキー』さん」
「残りは……、ゲーム本筋には関わり薄いですから、一旦置いておきましょう」
他のメンバーは、名前だけ箇条書きで並べておく。転生しているのなら、早めに出会いたいのがシナリオ担当の二人だ。
まず、全員が転生しているとは限らないが、既に三人も転生しているのなら、全員と再会できると思いたい。そのためにも、魔王を倒し、平和を手に入れることが必須である。
魔王討伐の為に重要なのが、聖女候補と、その護衛。乙女ゲームとして考えれば、護衛候補が攻略対象を兼ねているのだろう。
「私以外の十人に攻略対象を頼んだので、全部で十人いるはずで……」
「エリオットさんは確定ですけれど、誰が作ったキャラかは特定できませんわね」
「ですね」
ルミナは新しいページにエリオットの似顔絵を描く。二年生、騎士科、とゲームであれば公式プロフィールに乗りそうな情報を並べてから、最後に『???』と書いておく。
「次に、先程の……」
「アシュヴァード伯爵家のカーティス様は、えくすとらさんのキャラですわね」
ルミナはカーティスの似顔絵を追加する。最後に『えくすとら』と作者の名前を書いて、小さく笑った。カーティスは紺色の長髪、全体的に氷タイプっぽい見た目で、彼女の歴代好きなキャラを煮詰めたような外見だったから。
「ビジュアルの相談に乗りましたし、何より声がドンピシャですもの」
「あ〜〜、好きなキャラの声が三人に収束するんでしたね」
えくすとらは、何故か好きなキャラの声優が特定の三人に固定されるのだが、カーティスの声は、そのうちの一人を彷彿とさせるものだった。多分、上擦った声が物凄く特徴的だろう。
「それで……、カリダ伯爵家のティワズ様も攻略対象ですわ」
「無間地獄さんのキャラですよね」
「……そう、ですわね」
アデライドが頷いたことを確認してから、ルミナはティワズの似顔絵を描く。ティワズとカーティスは幼馴染で、学年は一つ上の三年生で騎士科だという。
情報を書き留めながら、ルミナは首を傾げる。すらすらと情報が出てくるわりに、階段での会話は距離が感じられるものだった。
「伯爵家なら高位貴族ですよね? 今まで交流なかったんですか?」
伯爵家以上の高位貴族は、数は少ない。王子王女と同年代の子供は若干多いと言えど、それでも数は限られる。
そんな中、公爵令嬢であるアデライドと関りが薄いとなると、余程の交流嫌いか、お家的な事情があるのかと思ったのだが。
「避けてましたの」
「え」
「正気を保てる自信がないので、避けてましたの」
「なるほど……」
男女の違いもあり、アデライドが一方的に避け続けていたという。でも気になるから情報だけは集めていたため、所属を把握していたらしい。
「ただ、避け続けたせいで、設定通り脚を……」
不意にアデライドが言葉を止める。
「アデル様……?」
ルミナは、アデライドの歪められた口元を見て、眉を下げた。
ティワズの片脚は義足だった。エリオットの境遇もだが、作者が考えた設定が、攻略対象に全て反映されるとするなら。
ティワズの負傷は、アデライドに、無間地獄に原因があるともいえる。
「あの……」
言いかけて、ルミナは、口を閉ざした。
何を言えるというのだろう。転生するなんて予想ができなかった、とでも言うのか。発案者は自分だから、とでも言うのか。
何を言っても、アデライドの罪悪感が消えることは無いし、創作するものとして、責任を負うべきことなのかもしれない。
言えない言葉の代わりに、ぐるぐると意味のない曲線を手元で描いていると、教室の入り口から黄色い歓声が上がる。
「お嬢様、お迎えに上がりました」
耳朶を打つ馴染んだ声に、ルミナは一度思考を止めて、顔を上げた。
「エリオット、早かったのね」
「はい、案内していただけましたので」
「そう、な、の……!?」
エリオットの後ろに見えた影に、ルミナは言葉を詰まらせる。
「えっ、あ……」
「どうなさいましたの?」
驚きから咳き込んでしまい、続きを聞き取れなかったアデライドが、自分で入り口を見ようと振り返る。
ピシリ、と石のように固まったアデライドの代わりに、咳が落ち着いたルミナはエリオットの後ろに控える、ティワズとカーティスに尋ねた。
「な、なぜお二人が……?」
その問いに、二人は無言で視線を合わせて。
「お詫びの提案に来た」
と、エリオットの肩を軽く叩いて言った。




