第179話 下山
「まだ俺達と手を組んでるとバレてない七福神に協会本部に行ってもらって、その三人の中の誰かと俺達を引き合わせてもらう……みたいな流れで」
「そこまではうまく行ったとして、交渉が決裂した場合どうするんですかい?」
「……どうしようかなぁ。どうなったとしても、今回の騒動の元凶は殺すとして……、半妖の集団にもどうにかコンタクトは取って……それらさえクリアすれば隠遁生活でも始めるかな」
大黒の答えに刀岐は不思議そうに首をかしげた。
「元凶を殺したいのはわかりやすが、半妖にも会いに行くんですか?」
「ハクの娘がいるかもって聞いたらそりゃ、な。純粋に会ってみたいし、ハクも絶対に会いたいって顔に書いてる。あっちがどう思うかは置いといて、会うだけ会わないと」
「なるほど、納得しました」
「…………」
腑に落ちた様子の刀岐とは反対に、ハクは自分の顔をペタペタと触りながら面白くなさそうにしている。
「ちなみに交渉失敗した時、俺達への依頼はどうなるんだ?」
「その時は邪魔物の排除っていう依頼だけ頼むよ。俺達が元凶を殺して半妖の集団に会うまでの間な。それだけ達成してくれたら依頼金も全額払う」
「ありがたい、なら気楽にやれるな」
「まあ……手を抜かなければ心持ちはなんでもいいけど」
交渉以前に七福神が協会へと出向いたとき、大黒達と手を組んでいると露見したら協会全部が敵になるはず。
そのことを分かっていなさそうな鵜野に対して、大黒は曖昧に頷く。
あえて忠告しないのは大黒の人間性故だったが。
「あ、それと本部に行く前にやってもらいたいことがある」
「おう、何をすればいい?」
「俺達はこれから東京のどこかの山に身を隠す。ちゃんとした場所は準備が出来てから教えるけど、そしたら満身創痍な俺達がそこに隠れてるって情報を陰陽師に流してほしい」
「いいのか? そんなことしたら……」
「当然、襲撃されるだろうな。でもその危険を冒してでも誘き寄せたい奴がいる」
大黒の脳裏に浮かぶのは一人の男。
大黒秋人、大黒が殺しておきたい今回の騒動の元凶。
大黒が予想する秋人の目的は、九尾の狐の討伐に一役買うことで自身の名を上げること。
本人の戦闘能力は大したことがないため前線に出てくるとは考えづらいが、お膳立てさえすれば助っ人なりを伴って討伐に動くかもしれない。
いや、ほぼ確実に動くだろうと大黒は考えている。
大黒秋人は名誉欲に囚われた哀れな男。その行動はある種、考え無しの人間よりも読みやすい。
「1日あればあまり大きくない山なら俺の領域に出来る。各所に結界を設置して、特定の人間だけを俺達の所にたどり着けるようにって感じにな」
「便利だな」
「けど、その誤魔化しが効くのも精々1ヶ月。だからその間に全てのカタをつける。あんたらもそのつもりで依頼に望んでくれ」
「了解だ。まあなんとかなるだろ」
そこで鵜野は草場の肩に手を回し、親指をグッと立てる。
「何せ俺には心強い仲間達がついてるからな」
「俺達にそんな仲間意識とかないでしょ。心強さより、報酬欲しさに仲間割れする心配の方が勝ちますよ」
「……大丈夫なんだよな?」
「大丈夫だ、草場は心配性なところがあるからな。他の奴らの我が強いのは確かだが、俺が手綱を握っておけばきちんと働くさ。あいつらも根はいい奴らだからな」
「鵜野さんは人を信じすぎなんですよ。そんなだから連帯保証人にされて借金背負ったりするんです」
「大丈夫なんだよな!?」
「大丈夫だ! なにも心配は要らない!」
不安にかられて大声になる大黒に負けじと、鵜野も大声を返して胸を張る。
「とにかく! 俺達のやるべきことは分かった。これから他の奴らにも連絡して速攻動くから、そっちもすぐに準備してくれ」
「忙しないな。ゆっくりされるよりかはいいけど」
「早く金を貰いたいからな。それじゃあ武運を祈る」
最後に鵜野と大黒が連絡先を交換して、七福神の面々は大黒達と別れる。
そして大黒達も、誰にも手を出されないようにハクの埋蔵金を大黒の結界で囲み、山を下りていった。




