第178話 九天
「今のところ、あんたらと半妖勢力の繋がりは確認できていないが、裏で協力関係にあるんじゃないかって疑ってるやつもいる。だからどんな材料があろうと、協会的には二人を始末する方向にいくと思うぞ」
「しかも鵜野さんが言ったように、今の協会には陰陽師の精鋭が集ってますからね。そんな中、交渉に行ったら飛んで火に入る夏の虫ってやつですよ」
「…………」
鵜野と草場の両方から諫言を受け、大黒はしばし考える。
押すか、引くか……ではない。
引くつもりがあるのなら、最初からハクの埋蔵金を使って海外逃亡するように動いていた。
今の大黒を動かしているのは、大黒秋人と陰陽師協会への怒りがほとんどで、それらに対し引く選択肢はあり得ない。
そのためやることは変わらないが、大黒が頭を悩ませているのはハクの娘に関することだった。
陰陽師と半妖の戦争なんて、大黒にとっては興味のないことなのだが、ハクの娘もそこにいるとなると話は変わってくる。
『九尾の狐の娘である』という発言の真偽は分からない。しかし、ハクの表情から察するに、娘本人の可能性は十二分にある。
だとしたら、自分達もどうにかして戦争に絡まなければいけない。
そこまで考え、すぐに方法は思い浮かばないとなった大黒は、ひとまず確実に決まっている今後の方針だけ説明することにした。
「話を聞いた上で、やっぱ交渉には行こうと思う。無理を通したい時は、ごちゃついてる時にどさくさに紛れてなんとかするのが一番っていうのが持論だ」
「無茶を通される側の迷惑は一切考えていませんね……」
ハクは額に手を当ててため息をつく。
「それに半妖のことが落ち着いたら、その精鋭がまとめて俺達を潰しにくるかもしれない。そう考えたらもう、やるなら今だろ」
「依頼主がやると言うなら、当然俺達は付き合おう。二人もそれでいいな?」
「もちろん。成功確率は1%くらいな気はしますが、百億貰えるならその程度のことはしないとですしね」
「やらない理由がないね。敵が1ヵ所に集まっているということは、そこだけ乗り越えればいいということだ。タイムパフォーマンスを考えれば最高と言える」
「……快諾してくれると、こっちとしても仕事が振りやすいから助かるよ」
大黒は口ではお礼を言いながら内心『死地に向かうって話してるのに快諾するとか、こいつら頭おかしいだろ』と考えていた。
「具体的にやることは決まってるのか?」
「ん? ああ、まずは九天の誰かと会いたいんだけど……」
九天。
九天玄女に肖って名付けられた、陰陽師協会トップの九人を指す言葉。
陰陽師協会には符術、呪術、占星術、結界術、体術、教育の六部門あり、それぞれの部門長六人。
それに加え、統霊会の長、陰陽師協会の副会長と会長。
合わせて九人、それが陰陽師協会を統率している。
「この中で九天に知り合いがいる人とかいる?」
大黒は周りを見渡して問いかける。
その質問に手を上げたのは鵜野、刀岐、純の三人のみだった。
「一応俺もいるから四人か。で、さらに聞くけど対話に応じてくれそうな知り合いがいる人は?」
「俺が知ってるのは体術部門の奴だけだが、あれは無理だな。異様に面倒臭がりだから積極的に敵対もされないだろうが、話も聞いてくれるはずがない」
「私の知り合いも無理……というより対話しない方がいいですね。呪術部門の人なので、言葉で優位に立つのが難しいかと」
鵜野と純は首を振り、対話が厳しい旨を示す。
「あっしは四人知ってる方がいますが、その中でも符術部門の方と副会長は話を聞いてくれると思いやす。どちらも理性的な方なので、戦争前に無駄に戦って戦力を減らすのは避けたいはず。こちらが対話する意思を見せたら、きっと応じてくれますよ」
「なるほど……、俺が知ってる結界部門の奴も多分聞いてはくれると思う。だから目指すはその三人と会うことだ」
大黒は陰陽師協会本部がある東京の方向を指差す。




