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九尾の狐、 監禁しました  作者: 八神響
第5章 干戈倥偬編

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第176話 依頼

「ほら、純は美女というか美少女だし……」

「薄い励ましかたですね」

「それに、とりあえず抱いておくみたいな慰め方もクズ男臭が凄いね」

「うるさい、うちでは昔から泣いた純はこうやって落ち着かせてきたんだ。それとずっと聞きたかったんだが、なんで鬼川はいつまでも上の空なんだ。洞窟の奥で呪いでもかけたのか?」


 女性陣からの蔑む視線と、男性陣からの白けた視線から逃げるように大黒は話題を変える。


「私はなにもしていないよ。ただ古銭の価値を概算して教えてあげたらこうなったんだ」

「なるほど……? ちなみにどれくらいだったんだ?」

「本当に大体だけど、最低でも百億はあると思うよ」

「…………!!」


 百億。現実味がなさすぎて、もはやピンとこない金額。


 個人が持ち得る資産としては破格、少なくとも大黒が知っている人間でそこまでの富を築いている者はいない。


「百……」

「億……」

「私としてはもう少し多いかと思っていましたが、それくらいですか」


 その場にいる人間は多かれ少なかれ金額に動揺していたが、ハクだけは変わらず冷静なままだった。


「あんなに状態のいい皇朝十二銭は私も初めて見たからね。正確な価値は分からないんだ。だから百億はあくまで私から見た最低金額だよ」

「実際はもっと高いと?」

「確実にね。もっとも、一気に持っていったとして全部換金してくれる店はないと思うけど」


 周りを置いて、ハクと葉桐だけで話を進めていく。

 しかし、ここからが本題。二人だけでは進められない話になる。

 ハク達が七福神にどの程度の報酬を渡すことにするのか。それを決めなければならなかった。


「では……どうしますか?」

「ど、どうって?」


 ハクはフワフワしたままだった大黒を小突いて現実に引き戻す。


「この人達を雇う金額ですよ。いくら出しますか?」

「俺が決めていいのか? ハクの金なのに」

「私はこの時代の陰陽師を雇う相場を知らないので。どうぞ遠慮をせず、どれだけ使ってもらってもいいですよ」

「…………」


 いくら使ってもいいと言われても、さすがに大黒も逡巡する。

 これからの人生で扱うことのないような大金を、自分の一存で動かすことにプレッシャーを感じてしまっていた。


 自分で稼いだ金だったらまだ良かったが、他人の金を気軽に右から左へ動かす精神を、大黒は持っていなかった。


 だが、いつまでも悩んではいられない。どうせやらなければならないことは決まってる。

 そうやって大黒は腹を決め、七福神のリーダーである鵜野に金額を提示した。


「百億、あんたらがこっちの依頼を達成してくれたら百億払う」


 大黒は自分達が払える最大の金額を報酬にすることに決めた。

 下手に出し渋って七福神に裏切る余地を与えるより、こちらの方がいいという判断だった。

 そしてその判断は正解だったと、すぐに理解させられた。


「了解した! 今すぐに契約だ! 誰の気も変わらない内に!」

「鵜野さん! もっと頭を下げて! 大黒様の気を損ねないように!」


 鵜野と草場は地面に片膝をついて、大黒に頭を垂れる。

 騎士が主君に忠誠を誓うかのようなその姿勢は、何の裏表もなく、二人の『お金が欲しい』という気持ちが痛いほど伝わってきた。


「依頼を受けてもらえるのはありがたいけど、内容とか聞かないでいいのか……?」

「おう! どんな依頼だろうと関係ない。報酬百億の依頼を蹴ってしまったら、俺達が残りのメンバーに袋叩きにされちまう」

「当然ですね。暗殺だろうとクーデターだろうと、百億の前では些末なことです」

「よくこの倫理観で社会に馴染めてるな……」

「馴染めてはいないけどね」


 大黒の感想に葉桐が肩をすくめて答える。


「だけどそんなに批難されるような倫理観でもないだろう? 数万円目当てに人を殺す人間だっている。百億ともなればなおさらだ。多数派とは言わないが、百億貰えるなら殺人を厭わないって人はそこそこいると思うよ」

「……まあ、金は大切だもんな」


 金銭トラブルは殺人事件の動機の中でもメジャーなもの。金のために人は人を殺す。

 小学生でも知っている当たり前のことだ。


 そう考え、大黒は静かに頷いた。

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