第175話 舌戦
「おいおい、そこまで腐すことないだろ。あくまで強奪しようとするかもってくらいだ。確定じゃない」
「ほぼ確定でしょ。奴らに自制心なんてないんですから」
「――私もそう思うね。あの五人に何かを期待するなんて愚かな人間のすることだ」
鵜野と草葉の会話に、洞窟から出てきた女性の声が混じる。
その後ろには虚ろな目で口を開けたまま歩く鬼川の姿があった。
「ところで、二人はもう自己紹介は済ませたのかな?」
「おう、軽くな」
「なら、私も軽く。古銭が気になって自己紹介が遅れてしまい申し訳ない。私は葉桐清佳。美術品、骨董品の類いが好きな世界一の美女だよ」
自信のある笑みを浮かべ、葉桐はウィンクする。
可愛げのある仕草に一瞬大黒は見惚れてしまうが、すぐに頭を振って我を取り戻す。
「よろしくお願いします。それより……」
「世界一の美女とは大きく出たな。お前の見た目が整っているのは間違いないが、私を差し置いて世界一だと?」
「いや……そこではなくて……」
「落ち着いてください。そんなところに突っかかっている場合ですか。そもそも、実績もない人達が世界一と自称するなんて恥ずかしいだけですよ」
「ええ……」
純を止めるかと思ったのに、ハクは火に油を注ぎ始めた。
大黒は想定外の事態に困惑して、二の句が継げなくなる。
「ふむ。その耳や尻尾、君がかの高名な九尾の狐だね。美を愛するものとして、会えて光栄だ。……だけど正直がっかりもしている。何があったのか知らないが、今の君はただの可愛らしい子供だ。傾国と呼ばれた面影くらいは見えるが、到底私には及ばない」
「まず傾国の美女なんて称号自体が不名誉でしかないな。美貌のせいで周囲が暴走して国が滅んだ? 本当に美しいものなら、その美しさで周りも完全にコントロールしてしまえばいいものを」
「ふふふ、手に余る程の美しさを持っていない人は言うことが気楽でいいですね。こんな姿にさせられたのは業腹ですが、美しさを抑えられている点だけは私にとってもありがたいんです。本来の姿だと私の美しさに当てられてまともに話せない、どころか跪いてしまう人まで出てきてしまいますから」
「言葉だけは大きいね。体と違って」
「ああ、この程度でも大きい言葉だと感じてしまうんですね。感覚が違ってすいません」
ふふふふふ、と笑顔を貼り付けながら和やかに話す三人。
当然、三人とも目は笑っていないし、他の人間は全力で三人を見ないようにしていた。
例外として、鬼川だけは未だ呆け続けていたが。
しかしいつまでも放っておくわけにはいかず、三人中二人と関係の深い大黒が仲裁に入る。
「三人とも一般的に見てどえらい美人なんだから一旦はそれでいいだろ。人によって感性も違うから一番とか決めるの難しいし」
「「「…………」」」
大黒は三人から圧のある視線を向けられるが、負けずに話し続ける。
「それよりだな……」
「今、話に入ってくるってことは、それなりの覚悟があるんだね?」
「は? 覚悟って?」
「君から見て、私達の誰が一番の美女だと思うか問われる覚悟だよ」
嫋やかな笑みを浮かべる葉桐からの問い。
普通なら気圧される場面なのだが、大黒にとっての一番は既に決まっており、言葉に詰まることなく答えを出した。
「誰にどう言われようと俺は九尾の狐、ハクを一番の美女だと思ってるよ。なんせ将来の結婚相手なんだから」
「え、あれ? 君達ってそういう関係なのかい?」
「ああ、そこら辺の話は協会に出回ってないのか?」
「事実無根なので気にしないでください。ただの妄言ですよ」
「?」
食い違う大黒とハクの証言に葉桐は疑問符を浮かべる。
だが葉桐がその疑問を解消する前に、話題をさらっていった人物がいた。
「うぅ……ぐすっ」
「!? どうした、純! な、なんで急にそんな!!」
「理由は明らかでしょう。貴方が自分を一番だと言ってくれなかったことにショックを受けているのですよ」
「あ、ああー…………」
いつの間にか静かになっていた純が涙を流していたことに狼狽えた大黒が、ハクの言葉に納得して頷く。
そして何を言うより先に、大黒は純を抱きしめ胸元で頭を撫でる。




