第174話 蛮族
「やあ、君とは久しぶりだね」
「……やっぱり陰陽師だったんですね。普通のお客さんではないと思いましたけど」
刀岐が連絡してから数分と経たない内に、七福神のメンバーが大黒達の前にやって来た。
そして、その内の一人は大黒のバイト先『万里古美術』で出会った見目麗しい女性であった。
「そうだよ。あのお店に行ったのも本当は君が目当てだった。あそこの商品と店長が素晴らしいと思ったのは本心だけどね」
「そりゃ良かった。じゃあまた売り上げに貢献していってください」
「足繫く通わせてもらうよ。さて、世間話はこのくらいにして、財宝を見せてもらえるかな。私なら美術品や骨董品の価値が分かるからね」
「この洞窟の奥ですよ、案内するんで付いてきて……」
「待ってください」
大黒が葉桐を連れて洞窟の奥に行こうとしたのを、純が止める。
そんな場合ではないのは分かってるのだが、純としては兄と知り合いらしいこの美女が、二人きりで洞窟に入るのは看過出来なかった。
「悪いが綾女、兄さんの代わりに行ってきてくれ」
「いえ、まあいいっすけど。どっちが行ってもいいんじゃ……?」
純の判断を疑問に思いながらも、鬼川は葉桐と一緒に洞窟の奥に消えていく。
鬼川だけではなく、純と付き合いの長い怜や大黒も純の真意を測りかねたが、ハクだけが意図を把握し小さくため息をついた。
「はぁ、行動を制限しすぎても煩わしく思われるだけですよ?」
「うるさい、黙れ。兄妹の可愛らしいスキンシップにさえ、目くじらを立ててきたお前に言われたくない」
「あ、あれはそういうのじゃないです!」
姦しい二人を見て『打ち解けてきたようで何より』と、明後日の方向に勘違いをして大黒は相好を崩す。
しかしすぐに表情を引き締めて、初めて見る男たちの方に顔を向けた。
「あんたらが七福神なんだよな?」
「おう、俺がリーダーの鵜野義則だ。よろしくな」
「俺は草場銀です。どうぞよろしく」
「あ、ああ、よろしく」
以前、刀岐から聞いた説明の印象が先行して、もっと癖の強い集団だと思っていたのに、意外とフレンドリーな反応を返され大黒は逆に面食らってしまった。
「来たのはあんたらだけか? 俺をボコりに来てくれた連中が一人も見当たらないんだが。というか七福神って全員で何人のグループなんだ?」
「メンバーは全部で八人。つまり大黒の所にいった奴らと俺達を合わせたのが全員だ」
「へー……で、なんであいつらは来てないんだ? 別に来なくてもいいんだけど、もしいるなら俺をリンチしてくれたお礼を言いたいなー……って」
「うぅむ、なんと言えばいいかな」
壮年の男、鵜野は困った顔で唸り続ける。
鵜野の様子を見て大黒は、自分と諍いを起こさせないために所在を隠しているのかと思い、さっきの発言は半ば冗談だと訂正しようとした。
しかし、その前に横から草場が声を掛けてきた。
「鵜野さん、なに言い淀んでるんですか。あいつらを呼んでない理由なんてさらっと言っちゃえばいいでしょ」
「だがなぁ、あいつらにも名誉ってもんが」
「あるわけないでしょ。あんな奴らに名誉もくそも。あー……大黒さん? あいつらがここにいない理由は単にトラブルを起こしたくないからってだけですよ」
草場はうんざりとしながら吐き捨てる。
草場の言葉は端的であったが、端的過ぎて訳が分からず大黒は続けて質問する。
「あんたらは金さえ積めば、本当に何でもやってくれる集団なんだろ? こっちが協会以上に金を出せるってなったら、トラブルなんて起こりそうもないけどな」
「俺達のことある程度は知ってくれてるんですね。話が早くて助かります。だけどまだ認識が甘いですね」
草場はちっちっち、と言いながら指を振る。
今時こんなべたな動きをする奴がいたのかと思いはしたが、それを口に出さず大黒は静かに話を聞く姿勢に入る。
「ここにいない五人は金にがめつい上に後先考えない馬鹿ばかりです。そんな大金が目の前にあったら、あんたらに襲い掛かって金を奪おうとするに決まってます。だからあいつらは無理矢理置いてきました」
「そんな蛮族みたいな連中だったっけ……、何時代の人間だよ」
「平安時代にも少なかったですよ、そのレベルの蛮族は」
純との言い合いを終えたハクも、大黒と一緒に顔をしかめる。




