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【書籍発売中!&新章公開!】マグナム・ブラッドバス ―― Girls & Revolvers ――  作者: 石和¥
新章01 ―― Simon's Legacy ――

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◆【Shana's Side】Reckless Turbulence

「なあ、みんなでミキリアルに戻らないか?」


 あたしたちは避難民の大人たちのところに行って、声を掛ける。

 島の東側海岸線近くにある、もともと彼らが住んでいた村。そこに戻るという提案を長老のヌマグさんにしたときは乗り気だったけど、話の途中で邪魔が入って宙ぶらりんになってた。


「戻る? どうやって」


「移動手段はどうにかする。襲ってくる奴らも、向こうにいるっていう海賊も退治する。家や畑については詳しくないけど、住めるようになるまで手助けするよ。それに……聖なる樹(イルミンシュル)も、たぶん運べると思う」


「それは……ありがたいだが、その……」


「「なんで」」


 大人たちの声が重なる。なんでそこまでしてくれるのか、ということだろう。

 なんでかなんて、自分でもわからん。ここまでに何度も考えたし、理由なんていくつも、いくらでも思いついたけれども。どれも少しだけ合ってて、少しずつ違ってる気がする。だから……


「意味も理由も、特にないかな」


 ジュニパーがサラリと、あたしの気持ちを代弁してくれた。

 当然ながら避難民の大人たちは腑に落ちない顔をしている。そらそうだ。あたし自身がわかってないんだもの。


「ぼくもシェーナも、ミュニオもね。助けたいと思ったら、助けるって決めたんだ。これまでずっと、そうやってきたし、これからもたぶん、そうしていくんだと思う。それが正しいとか間違ってるとか、良いことだとか悪いことだとか、そんなのはどうでもいいんだ」


 ポカーンとした感じの避難民たちに微笑んで、ジュニパーはいった。


「ぼくらは、ワガママだから」


◇ ◇


「あらシェーナ。そっちは雨なの?」


 あたしが“市場(マーケット)”に接続すると、エステルは地下室のデスクでなにやらパソコンに向かってるところだった。彼女が模様替えをしたらしく、前に見たときより明らかにキレイで居心地良さそうな空間になってる。


「ああ、ずっとな。悪い、床を濡らしちゃった」


 あたしはずぶ濡れで、キレイになったコンクリートの床にポタポタと水滴が落ちる。熱帯雨林のハイアドラ島に上陸して以来、“大雨・小雨・雨上がり”のループのなかで過ごしてきたので意識できてなかった。濡れてるとか汚れてるではなく、自分がどれだけ人間社会から離れて暮らしているかを。


「なんにも問題ないわ、ハワイ (こっち)だと一瞬で乾くから」


 彼女は髪を拭くようにと、バスタオルを渡してくれた。フワフワなタオル地の感触が、めちゃくちゃ久しぶりで感動する。これぞ文明社会だな。

 それが顔に出ちゃってたんだろう、追加で大小のタオルを持たせてくれた。


「他に入り用なものでも?」


「うん。ゴムボートって手に入るかな。乗るのは子供が十二人、大人があたしたち入れて十人」


「使う場所は、海? 河川?」


「狭くて流れの早い川だ。そこを下りたい。川幅が五、六メートル、水深は見た感じ一、二メートルくらいだと思う」


「用途は激流下り(ラフティング)ね。それならウエストマリンで仕入れた空気注入式ゴムボート(インフレータブル)が使えると思う」


 ウエストマリンというのは、ハワイにある海遊び用品の大型専門店らしい。釣具やゴムボートを置いているというから日本の釣具店をイメージしたけど、たぶん全然スケールが違うんだろうな。


「これなんだけど」


 ……うん、ぜんぜん違った。すぐに出してくれたゴムボートからして、やたらデカい。ひとが乗るあたりの船体が金属で、フワッとイメージしてた“ゴムボート”じゃない。


「定員が七人だから、あと2艘は要るね。プラス、人数分の救命胴衣(ライフベスト)も。船外機(アウトボード)は付ける? 敵地で音を出したくないとかなら(パドル)を多めに確保するけど」


 エステルは、あたしたちの環境が長閑なレジャーユースとは違うって理解してる。すぐに追加を出してもらって、必要なものは無事に調達できた。全長約4メートル(13フィート)のボートが3艘と、救命胴衣を二十二。追加のパドルを十本。船外機は迷ったけど、念のため先頭のボートにだけ付けることにした。

 川下りのときにはハグれないように、ボートは連結して使おうと思っている。


「シェーナがいるのは、高低差があって、降水量がすごい土地なのよね? その川、まず間違いなく途中に滝があると思うんだけど。少なくともボートが越えられない段差はあるはず」


「……なるほどな。わかった、事前に一回ルートを確認してみるよ」


 サイモン爺さんも自分の知識や経験からアドバイスをしてくれたけど、エステルのアドバイスは思考と情報収集と分析によるものという気がした。あんまり上手くいえないが、両者は似ているようで、けっこう違う。どっちが良いとか悪いではなく、曽祖父と曽孫それぞれの個性だ。


「支払いは金貨でいいか?」


 あたしが尋ねると、エステルは少し悩むような顔になった。


「それなんだけど……シェーナは銀貨と銅貨も持ってる?」


「うん、かなり大量にな。でもサイモン爺さん、銀は安いし銅貨は換金できないとかいってたぞ?」


「そうね。その対応は間違いじゃない。銀はともかく銅は、手間の割に実益がほぼないから。でも、いまメドベージェフ家(わたしたち)が市場に(きん)を流すと、アメリカ政府に消されちゃいそうなのよね」


 アメリカンジョークみたいなトーンでいわれたけど、彼女の目は笑ってない。どうやら異世界産の金で市場を荒らしまくったサイモン爺さんの尻拭いをさせられてる状況のようだ。大部分は前のクライアントである“魔王”との取引によるものだと聞いたが、あたしが流した金貨も少しは含まれているので責任の一端はある。


「おっけー、そんじゃ手持ちの銀と銅を出すよ」


 収納を探って、いくつか木樽を出した。どこで手に入れたかは覚えてないが、小さいスツールくらいのサイズのものだ。中身や汚れがないのを確認して、そこに銀貨を流し込む。別の樽には銅貨を流し入れた。かなり大量に持て余していたので、正直これは助かる。

 とりあえず銀貨を4樽に、銅貨を7樽分、引き渡す。容量も数も大雑把すぎて、いくらになるのか想像もできん。


「まだまだあるから足りなかったら遠慮なくいってな。他にも“魔珠”っていう、魔力のこもった石もある。そっちで換金できるのかは知らんけど……」


「ありがとう。でも、それはそれで(マズ)いの」


「え?」


「過去に“魔王”との取引で持ち込まれた異世界素材は、あちこちで問題を引き起こしていてね」


 なんらかの事故か健康被害でも引き起こしたのかと思ったら、ちょっと違ってた。


「西側の研究機関に買い取られた後のことは、断片的な情報でしかわからないのだけど。これまで存在しなかった元素が発見されたとか、新種の希土類元素(レアアース)を含む未知の希少金属(レアメタル)が混じっていたとか、曽祖父のところに様々な話が聞こえてきていたらしいわ」


 他にも“原理が解明できない薬効を持った植物”だとか、“現代医療では不可能な回復効果を見せる魔道具(呪具)”もあったというから、それは問題にもなるだろう。

 なんにせよ、その研究成果は秘匿されたままらしい。


「なるほどね。また妙な素材を流すと消されちゃうか」


「消されはしないまでも、監禁と事情聴取(・・・・)くらいはされると思う」


 そこでハッと気づいてエステルを見ると、苦笑しながらデスク横の花瓶を指す。そこには、あたしが渡した聖なる樹(イルミンシュル)の小枝が活けてあった。


「うん。とってもありがたいけど、これをお墓に供えるのは少し待った方がいいかもね」

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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 いろんな副産物もあったのね〜
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