◇【Esther's Side】グース&ガンダー
かなり間が空いてしまいましたが、順次更新しようかと思っています
「どんだけ望もうと、現場要員の願いが叶うことなんてねえよ」
「かもしれませんね」
テオおじちゃんの言葉に、グレイは真顔のまま応える。
「いま移民・関税執行局はメドベージェフに構ってる場合じゃねえと思ってたんだがな。アメリカ市民から見たお前らは、“覆面被った秘密警察”だろ」
「執行・排除活動部門の対応に議論があることは否定しませんが、あなた方とは別の問題です。合衆国の経済を揺るがしかねない危険性を、放置できるわけがない。……でしょう?」
EROというのは、ICEのなかでも不法入国者や不法滞在者への逮捕・拘束・収容・国外退去を行う部署で、ニューズ映像で見る警察特殊部隊のような連中がこれだ。グレイは同じICEではあるが国土安全保障調査局という捜査部門の所属だという。
「放置することで危険性を排除するという手もある。……でしょう?」
私が口調を真似ていうと、彼女は無言のまま動きを止めた。とぼけることも否定することもなく固まるあたり、どうにも人間らしくないという印象を強くする。
「当たりか」
テオおじちゃんが低い声でいった。
こいつらは共産主義者が別荘襲撃に動くことを知りつつ傍観していたのだ。私たちが無事なのだから、返り討ちにして死体を消したことも察しはついているだろう。シェーナの存在を知らない以上、どうやったのかまでは知りようもないとしてもだ。
「なあ、グレイ。悪いことはいわねえから、出直した方がいいんじゃねえか? ここで出方を間違えればエージェント個人の責任では終わらんぞ」
「まさか合衆国を相手に一般人が抗えるとでも……」
「この国が本気で足並み揃えて向かってくれば、俺たち程度は一瞬で捻り潰されて終わりだ。しかし、そうはならんだろ。俺のような無学な移民からするとな。お前らがひとつの国には思えん」
また無言。実際そうだ。アメリカ政府は一枚岩ではない。党利党略が違い、州によっての事情も違うのだから当然だ。その上、政治家や官僚にもそれぞれの意見や利害や利権がある。
他国出身者から見ると、よく言って“連邦制”くらいの一体感でしかない。
「メドベージェフ家を社会を脅かす者に仕立てれば、意思統一を図ることはできるでしょうね。あなたがたが過去に処理してきた、第三世界の首長たちのように」
グレイは私の言葉を否定はしない。
彼らが恐れるのは、メドベージェフが生み出す出所不明な金と、それによる金市場の暴落だ。私自身も知り始めたばかりの“ガチョウ側の事情”を彼らがどこまで把握しているのかは不明だが、私を拘束もしくは処理する決定に合理性を持たせるとしたら経済テロの容疑者としてだろう。
連邦法執行機関としては法的根拠が薄い気もするが、そこは信憑性を突いたところで意味はない。アメリカは自己利益のためなら、やりたいようにやる。
ただし、無理筋だとしても体裁は求めるのだ。
「なんにせよ、公僕が独断で動く根拠にはならない。すでに我々は、正門をノックした。あなたと再会することがあるとしたら、交渉が決裂した後にだけ。お引き取りを」
グレイは無表情のまま、わずかに顔を歪める。悔しさなのか怒りなのかは不明ながら、それが出会ってから見た最も人間的な反応のように思えた。
「徒労に終わる努力にならなければいいですね」
「ガチョウにそれをいう?」
私が笑うと、彼女は仮面のような笑みを浮かべたまま立ち去った。
テーブルの上には、空になったコンボセットのトレイ。あの会話のなかでグレイがいつ食べたのかは、まったく記憶にないのだが。
『マグナム・ブラッドバス──Girls & Revolvers──』
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読んでくださった皆さんのおかげで、ここまで来れました。前作ションボリした結果で終わったときはホント……いや、それはともかく。
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