◆【Shana's Side】Creepy Crawler
森から飛び出してきたのは、ワニのような生き物だった。
「で、貪食泥蜥蜴……ッ⁉」
迫りくるそれを目にした冒険者連中が、絶望したような声を上げる。“150センチ弱くらいあるトカゲ”って、ジュニパーがいってたのがこれか。サイズは大小入り混じっているが、十数匹の群れだ。冒険者たちは悲鳴を上げながら武器を振るっているが、彼らに対処できる大きさでも数でもなさそう。
「シェーナ、つかまって!」
飛び退ったジュニパーが走りながら距離を取る。振り返ったあたしが自動式散弾銃で鹿用大粒散弾を放つが、胴体は皮膚が厚いのか暴れ回るだけで動きは止まらない。
「ちょ、なんだこいつ……ッ⁉︎」
物見塔からの銃声が響き、ミュニオの狙撃で巨大トカゲは撃ち倒されてゆく。357マグナムでならタマが貫通するのか、と思ったが被弾箇所は頭――というより目だ。倒すには目玉越しに脳を撃ち抜くしかないのか。デヴァウア・リザードとやらの動きは速い上に、頭を振るような動作で突進してくる。そんなもんの目玉を射抜く腕は、あたしにはない。
「シェーナ、ジュニパー! 城砦内に戻って!」
「待ッ!」
「そんなッ⁉︎」
城砦遺跡に駆け込もうとするあたしたちを見て、冒険者たちが非難と怨嗟のこもった悲鳴を上げる。
いや、お前ら死ぬ覚悟で来たんちゃうんか。と思いつつ目の前で人間が喰い殺されるのも夢見が悪いな。安全圏からで良ければ、撤退支援くらいはしてやろうか。
「シェーナ、北西方向にごく弱い魔力の反応がある。たぶん隠蔽魔法。あのトカゲを嗾けてる魔物使役者じゃないかな」
ああ、もう! 次から次へと面倒臭い奴らを送ってきやがるな……!
「ミュニオの位置からは狙えなさそう?」
「木立の陰に隠れてる。こっちの武器を把握してるみたい」
物見塔のミュニオに、身振りで敵の位置を伝える。把握はしていたらしく、すぐに“敵ひとり、盾持ちひとり”というような応答が返ってきた。あたしたちが向かうことを知らせると、心配そうな顔で躊躇した後、小さく頷いた。
「ジュニパー、見つからないように回り込めるか?」
「任せて。テイマーはぼくが仕留めるから、シェーナは盾持ちをお願い」
「わかった」
おそらく持っているのは、前に見た木製盾だ。魔導防防壁を付与したそれは、散弾も単発なら止められる可能性があるからだろう。たしかに自動式散弾銃なら、連射で押し切れる。
「行くよ!」
水棲馬姿のまま城砦遺跡の外壁に沿って南側に全力疾走した後、遮蔽を縫うようにして大きく西側へと回り込む。数秒で密林を抜け、大きく飛び上がったジュニパーは空中で人型に変わる。
あたしをお姫様抱っこしながら着地した時には、短銃身散弾銃を構えていた。
「ひッ⁉︎」
いきなり目の前に現れたあたしたちを見て、フード姿の女が息を呑んで固まった。木盾を構えた護衛の男が立ち塞がろうとするが、あたしの散弾を受けて仰け反る。青白い光を飛び散らせながら、魔導防壁が散弾を弾く。そのまま二発目三発目を叩き込むと光は消え、盾は砕けて千切れ飛び男も血飛沫を上げながら崩れ落ちた。
倒れる男の身体に隠れながら攻撃魔法でも放とうとしたのか、魔術短杖を向けてきた女の顔が歪んで吹き飛ぶ。
ウィンチェスターのレバーを操作しながら、ジュニパーが油断なく身構える。周囲に他の敵は見当たらない。
「シェーナ、大丈夫?」
「ああ、問題ない」
脅威排除の確認を兼ねて、死体と装備を収納。茂みを抜けると城砦遺跡の物見塔でミュニオが手を振るのが見えた。
「トカゲは……」
「ミュニオが、あらかた仕留めてくれたみたいだね」
トカゲの死骸が転がっているなかに冒険者が倒れているものの、見たところ喰われたり殺されたりしてはいないようだ。必死に武器を振るって体力と気力が尽きたってところか。本来こちらが助けてやる義理もなかったんだし、哀れだとは思うけど同情する気にはならない。それはジュニパーも同じみたいだけど。
「……ここまでする?」
「たしかにな」
魔導師と護衛の装備を見る限り、トカゲに襲わせたのは北部のミエニー族ではなく、南部の……ミニエーズの連中だ。城砦遺跡の避難民を排除できれば、そしてイルミンシュルを手に入れられれば、冒険者や魔導師たちが死んでも関係ないのか。同じ町で暮らす人間を平気で囮にする神経もわからんが、それ以前の問題として無駄死にさせるのが理解できない。
ただでさえ魔物に襲われる環境で、さらに南部と北部の対立があって、ふつうに考えれば味方なり手駒なりはいくらあっても足りないんじゃねえのかよ。
同族以外への差別意識があるにしても、それは実利や実害を超えるものなのか?
「おい」
城砦遺跡の前まで戻ったあたしたちは、半死半生といった体の冒険者たちに声を掛ける。
「ミニエーズで、いちばん偉いのは誰だ」
負け犬どもは無言のまま顔を見合せ、目線を泳がせる。まあ名前を聞いたところで知らんから、どうでもいいっちゃどうでもいい。と思ったところで女が、ボソッと答えた。
「……キル、ハエル」
「なんて?」
「キルハエル。ミニエーズの長で、ハイアドラ南部のミエニー族を統べる族長。そして、未来予知の巫女だ」
先読み、ね。ここまでの愚策と惨敗を見る限り、なんも読めてないようにしか思えん。そして南部ミニエーズは女が族長なのか。これもまた、どうでもいい。
「だったら、戻ってそのキルハエルに伝えろ」
ずぶ濡れの泥だらけでまともに動けない冒険者連中を、銃を突きつけて追い払う。
「こんなことを、いつまで続けるつもりか知らんけどな。いい加減にしとかねえと、町ごと攻め滅ぼすぞ」




