↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『凡人の俺、一万円札に転生して最強の幼馴染の財布を目指す』  作者: 凪塩 未来


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/30

第6話:消えていく紙切れ

第5話では、ヤクザの組事務所という暴力と恐怖が支配する裏社会の最奥へと足を踏み入れた駆。札束の帯封に縛られながらも、彼はこの世界の残酷な現実と向き合っていました。

今回は第6話! 巨額の金が動き、賄賂や黒い取引へと姿を変えていく中で、お金が持つ本当の「冷酷さ」に迫ります。

それでは、第6話「消えていく紙切れ」の本編をどうぞ!

ヤクザの組事務所の冷たい空気の中で、束ねられていた帯封がバリバリと音を立てて引き裂かれた。


――ガサリ。


駆の身体(一万円札)を含む巨額のキャッシュは、再び無造作につままれ、今度は革製の高級アタッシュケースへと放り込まれた。

先ほどの闇金の男の財布や、コンビニのレジの時とは全く違う重厚な気配がする。ケースの内側には高級なスエードが貼られ、隙間なく詰め込まれた一万円札の束が、まるで兵士のように整然と並んでいた。


「おい、運ぶぞ。落とすなよ」

黒塗りの高級セダンの後部座席。冷房の効いた車内で、無表情な男がアタッシュケースをガチャンとロックした。

車は静かに組事務所を後らし、夜の高速道路を滑るように走り出す。


外の景色など、ケースの隙間からはほとんど見えない。だが、振動と時間の経過、そして運転手たちの会話から、目的地がどこであるのかを駆は察知した。

向かっているのは、都内の閑静な住宅街に建つ、料亭の個室だった。


――また「裏の金」か。


駆は心の中で冷ややかに呟く。

先ほどの組事務所にあった金が「直接的な暴力」の対価だとすれば、今から運ばれる金は、もっと洗練された、もっとタチの悪い「システム化された悪意」のための燃料だった。

政治家、高級官僚、大手企業の幹部。表向きは社会の模範として拍手喝采を浴びる人間たちが、裏の個室でひそやかに手を結ぶ。そのための「潤滑油」として、自分のような一万円札が使われるのだ。


車が停まり、アタッシュケースが持ち上げられる。

和室特有の、い草の香りが鼻腔をくすぐった(ような気がした)。障子越しに、静かで穏やかな話し声が聞こえてくる。


「――先生、今回の法案の件、よろしく頼みますよ」

「ふむ。党内でも調整は難航していますが……君たちの期待に応えられるよう、前向きに善処しましょう」


白髪交じりの老いた男――政治家と、大手企業の会長が、杯を交わしながら薄笑いを浮かべている。

その下で、アタッシュケースの蓋がゆっくりと開けられた。

眩い室内の照明の光が、ケースの中に並ぶ一万円札の束を照らし出す。その最上部に位置していた駆は、目の前に座る政治家の、傲慢で欲に満ちた顔を間近で見据えた。


綺麗なスーツを纏い、高潔な言葉を口にしながら、その裏でいとも簡単に国民の生活や未来を売り渡す。

多重債務で首が回らなくなった男が泥水をすすり、暴力に怯える人間がいる一方で、権力者たちは高級料亭の個室で、こんなにも涼しい顔をして紙切れの束をやり取りしている。


――なんだ、この世界は。


駆の胸の奥で、ドロドロとした黒い感情が煮え繰り返るような感覚があった。

生きていた頃、勉強を頑張れば報われると信じていた。正しく努力し、学年二位の座にしがみつき、いつか自分の力で人生を変えられると信じていた。


だが、この世界の本当の仕組みを動かしているのは、個人の努力や誠実さなどではない。この、無機質で、何の意志も持たない「一万円札の山」なのだ。


政治家の側近らしき男が、手際よくアタッシュケースを閉じ、持参した別の地味な紙袋へと札束を移し替える。

その瞬間、駆は束から外され、数枚の紙幣とともに、政治家のコートのポケットへと押し込まれた。


外に出た政治家は、待ち受けていた報道陣や支援者たちに向けて、満面の笑みを振りまく。

「皆様、日本の未来のために、私は全力を尽くします!」

フラッシュの嵐の中、ポケットの中で揺られながら、駆は冷ややかに嘲笑した。

そのポケットのすぐ隣には、今夜交わされた密約の証拠など影も形もない。あるのは、ただ重たく、冷たい紙切れの束だけだ。


人間は、お金に魂を売り、お金に支配され、そしてお金のために滅びていく。

自分は今、その人間の業の最深部を、最も特等席で見せつけられている。


――だがな。


ポケットの暗闇の中で、駆はぎゅっと身を縮こまらせた。

ここで絶望して、ただの「汚れた紙切れ」のまま消費されてたまるか。

人間の醜さも、世界の理不尽さも、すべてこの身に刻み込んでやる。そしていつの日か――あの無糖峰という、すべての頂点に立つ男の財布に辿り着いたとき、俺はこの目で見たすべての現実を突きつけてやるのだ。


夜風が冷たく吹き抜ける中、札束の旅は、さらに深く、暗い夜の底へと続いていく。

第6話「消えていく紙切れ」をお読みいただき、ありがとうございました!


暴力の裏社会から、今度は政治と権力の黒い闇へと舞台を移しました。綺麗事の裏で動く巨額の金の流れを目の当たりにし、駆のなかで復讐心とも呼べる強い意志が芽生え始めています。

次回、第7話「濡れた一万円札」では、雨の夜のひったくり事件に巻き込まれ、泥まみれになる駆の姿を描きます。人間の泥臭い執念と、お金を巡る更なるドラマにご期待ください!


「続きが気になる!」「どんどん人間ドラマが深くなっていくのが良い」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや応援評価をよろしくお願いします!


それでは、第7話でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。