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『凡人の俺、一万円札に転生して最強の幼馴染の財布を目指す』  作者: 凪塩 未来


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第5話:ヤクザの組事務所にて

第4話では、多重債務に苦しむ男の絶望と、闇金が巣食う冷たい現実を描きました。お金という魔力に狂わされた人間の姿は、元・高校生の駆にとってあまりにも生々しいものでした。

今回は第5話! 舞台はさらに深く、暴力と恐怖が支配する「ヤクザの組事務所」へと移ります。札束の帯封に縛られた駆が目撃する、裏社会の裏側とは――?

それでは、第5話「ヤクザの組事務所にて」の本編をどうぞ!

闇金の男の財布に詰め込まれた駆は、ガタガタと揺れる車の後部座席で長い時間を過ごした。

車が停まり、重い鉄の扉が開閉する音が聞こえる。男に無造作につままれ、放り出された先は、郊外にある古びた事務所の応接室だった。


――異様な空気が、肌を刺すようだった。

もちろん皮膚などないはずなのに、そこに満ちている威圧感だけで、駆の魂は冷や汗をかくような錯覚に陥った。


部屋の中央にある黒光りするローテーブル。その周りには、鋭い目つきをした男たちが黒いスーツ姿でずらりと控えている。壁には組の代紋が掲げられ、灰皿には吸い殻が山のように積まれていた。


「……で、持って来たのはこれだけか」


部屋の奥、ひときわ威厳を放つ革張りのソファにふんぞりかえっているのは、この組の若頭らしき男だった。顔の半分に古い傷痕があり、薄い唇が冷酷に歪んでいる。

先ほどの闇金の男が、腰を低くして平身低頭する。

「はっ、申し訳ありません。今月のシノギが予定より遅れておりまして……これでどうかご勘弁を」

「ふん。口ばかり達者だな。これじゃ上の者に顔向けできねぇんだよ」


若頭が指をパチンと鳴らすと、部下が持ってきたのは、帯封がまかれた見事な「札束の束」だった。

新札特有のパリッとした感触。千万円単位の金が、無造作にテーブルの上に積み上げられていく。

その札束の塊の中に、闇金の男が慌ててかき集めた端金の小銭や、薄汚れた数枚の紙幣――その中に、駆の姿(一万円札)もあった。


ガサリ、と音を立てて、駆は巨大な札束の山の最下層、一番重みがかかる場所に押し込まれた。


――なんだ、これ……。

周囲を取り囲むのは、同じ福沢諭吉の顔をした無数の紙幣たちだった。だが、先ほどまでの個々の人間が生活のために使っていたお金とは、匂いがまったく違っていた。

ここにあるのは「血と暴力の匂い」だった。裏稼ぎ、密輸、恐喝、そして人間の尊厳を踏みにじってかき集めた巨額のキャッシュ。それらが帯封という名の鎖で縛られ、無機質なブロックとなって積み上げられている。


「この金は、明日には例のルートに回せ。表向きはただの建材取引の決済だ」

「かしこまりました」

「それと……あの件はどうなった。カタをつけないと、うちのシマの顔が立たねぇぞ」

「はい、すでにチンピラどもを向かわせております。今夜中には……」


淡々と交わされる、犯罪の計画。

人の命や人生を、まるでおはじきのように動かす会話が、札束のすぐ横で平然と行われている。

お金というものは、ただの交換手段ではない。時にそれは「暴力の免許証」となり、犯罪を正当化し、世の中の裏側を回すための最強の武器へと変貌する。


駆は、自分がその巨大な悪の循環の「ほんの一片」に過ぎないことを思い知らされていた。

勉強を頑張り、バイトを掛け持ちし、テストの順位に一喜一憂していた生前の自分の世界が、いかに狭く、そしていかに平和な箱庭だったのかが痛いほどよく分かる。

この世界の裏側には、法律も道徳も通用しない、剥き出しの弱肉強食の世界が広がっていた。そこを支配しているのは、綺麗事ではなく、この「札束」の重みそのものなのだ。


――俺は、こんな場所で腐り果てていくのか?

無糖峰の顔を思い出す。

あいつはいつも、綺麗な教室の真ん中で、正しい努力の果てにある栄光を手に入れていた。裏社会の泥臭さや、暴力の匂いなど一生かかっても嗅ぐことのない、まばゆい光の世界の住人だ。


そんな無糖のところへ、いつか自分はこの黒い札束の一員として辿り着いてしまうのだろうか。もしそうなったとき、自分はあいつに何を見せつけられるというのか。


重い帯封に締め付けられ、身動きすら取れない暗闇の中で、駆の魂は激しく震えていた。

恐怖ではない。そこにあるのは、圧倒的な「現実」に対する反発心だった。

ただ流されるだけの紙切れになってたまるか。たとえ今は自由のない薄っぺらい紙であっても、俺はいつか、あの眩しい場所に辿り着いてみせる。


夜の帳が下りた組事務所で、重く冷たい静寂だけが、無数の札束を見守っていた。

第5話「ヤクザの組事務所にて」をお読みいただき、ありがとうございました!


一気にダークでシリアスな裏社会の空気感をお届けしました。札束の束に押し込められた駆が感じる圧倒的な無力感と、それでも折れない意志の芽生えを描いてみましたが、いかがでしたでしょうか。

次回、第6話「消えていく紙切れ」では、この巨大な金の流れがさらに別の場所へと動き出します。裏社会から政治や企業の闇へと繋がる、お金の持つ「本当の恐ろしさ」とは――?


「続きが気になる!」「どんどんスケールが大きくなっていくのが面白い」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや応援評価をよろしくお願いします!


それでは、第6話でお会いしましょう!

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