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『凡人の俺、一万円札に転生して最強の幼馴染の財布を目指す』  作者: 凪塩 未来


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第4話:多重債務の夜

第3話では、高校生のピュアな恋の始まりに寄り添い、お金が持つ温かな一面を体験した駆。

しかし、この世界のすべてが優しさに満ちているわけではありません。今回は第4話! 再び現実のシリアスな闇へと足を踏み入れます。ギャンブルと借金に憑りつかれた男の手に渡った駆が目撃するものとは――?

それでは、第4話「多重債務の夜」の本編をどうぞ!

カフェの甘い空気を離れ、先輩の財布から釣り銭として手放された駆は、巡り巡って、再び澱んだ空気の漂う場所へとたどり着いていた。


――ジャラジャラ、ガチャガチャ。

耳をつんざくような電子音と、タバコの煙が充満する空間。パチンコ店だ。

ネオンの光が激しく明滅する店内で、駆を握りしめているのは、三十代半ばの男だった。無精髭が生え、血走った目を血眼にしてスロットの画面を見つめている。男の手は脂汗で濡れており、その震えは尋常ではなかった。


――またか、と駆は思う。


財布の中には、先ほどまでの温もりは微塵もない。あるのは、焦燥感と、行き場のない絶望の臭いだけだった。

男の財布のポケットには、消費者金融のカードと、何枚もの督促状が無造作に突っ込まれている。すでに限度額の限界を超え、親戚や友人からも金を借り尽くした男の最後の一撃が、この一万円札――駆だった。


「頼む……! ここで当たってくれなきゃ、俺は……!」


男の掠れた叫び声とともに、駆はサンド(硬貨や紙幣を投入する機械)へと無情に飲み込まれていった。

機械の内部で、駆の身体がローラーに巻き込まれ、冷たいスキャナーの光を浴びる。紙幣としてのデータが読み取られ、画面の数字が一瞬だけ跳ね上がった。

しかし、それも束の間。数分後には派手なハズレの電子音が鳴り響き、男の全財産は綺麗に消え去った。


「くそっ……! くそっ……!!」


男は頭を抱え、台に突っ伏した。

閉店間際の冷え切った店内。男は這うようにして店を飛び出し、夜の冷たいアスファルトを歩く。向かったのは、薄暗い裏路地にひっそりと佇む、看板のないプレハブ小屋だった。

そこは、法外な金利で金を貸し付ける「闇金」の事務所だった。


ギギ、と錆びたドアが開き、屈強な男たちが待ち構える部屋に通される。

「……で、金は用意できたんだろうな?」

太い金ネックレスを揺らしながら、黒いスーツの男が冷ややかに見下ろす。

「もう、もう少しだけ待ってください……! 次こそは絶対に……!」

「待てるかボケ。テメェが飛ばしたせこい利息のせこい分、こっちはどれだけ手間がかかってと思ってんだよ」


ガタッ、と椅子が引かれる音が響き、暴力が落とされる寸前の空気が部屋を支配した。

男はその場で土下座し、涙を流しながら命乞いをする。

「お願いします! 命だけは……子供の顔が、まだ……!」

「家族の顔を出せば許されると思うなよ」


その緊迫したやり取りの最中、男が震えるポケットから最後に残った小銭や、財布の端っこに残っていたわずかな現金をかき集め、机の上に投げ出した。

その中に、一瞬だけ紛れ込んでいたのが、駆の本体――一万円札の一部だった。


机の上に転がり落ちた駆から見上げる男の顔は、人間としての尊厳がすっかり剥ぎ取られ、ただの「怯える獲物」に成り下がっていた。

お金という存在が、人間の欲望を肥大化させ、最終的にその人間を地面に這いつくばらせる。前回の甘酸っぱい青春とはあまりにもかけ離れた、これが世界のもう一つの顔だった。


闇金の男は、投げ出された少額の現金を冷ややかに一瞥し、ため息をつく。

「やれやれ、これじゃ今月の利息の足しにもなりゃしねぇな。……おい、こいつを連れていけ。まだ使い道がある」


冷酷な宣告とともに、駆は再び無造作につままれ、闇金の男の分厚い財布の奥底へと放り込まれた。

暗闇の中、他の汚れた札たちと一緒に押しつぶされながら、駆は考える。

人間は、なぜここまでしてお金に縛られるのか。なぜ、紙切れ一枚のために魂を売ってしまうのか。


生きていた頃、自分もまた「金がない」と嘆き、泥臭くバイトを掛け持ちしていた。あの頃の自分と、このパチンコ狂いの男の間に、いったいどれほどの違いがあったのだろうか。

紙幣という冷たい物質の視点から見れば、どちらも同じ「欲望の燃料」に過ぎないのではないか。


胸の奥に鉛のような重さが沈んでいく。

だが、裏社会の黒い泥水に浸かれば浸かるほど、駆のなかで一つの決意のようなものが固まっていた。

――この旅の果てに、俺は必ず、あの無糖峰のところへ辿り着く。

すべてを手に入れ、涼しい顔をしているあいつの財布に飛び込んだとき、俺は人間と金の本質について、何を見るのだろうか。


闇金の財布がガシリと閉まり、車が夜の街を走り出す音だけが、静かに響いていた。

第4話「多重債務の夜」をお読みいただき、ありがとうございました!


ピュアな恋の余韻を吹き飛ばすような、現代社会のシリアスで重たい闇を描いてみました。パチンコと借金に狂う男の姿を通して、お金が持つ恐ろしい側面が少しでも伝われば幸いです。

次から第5話、舞台はさらにディープな「ヤクザの組事務所」へと移ります。札束の束に紛れ込んだ駆が目撃する光景とは……?


「続きが気になる!」「シリアスな展開も引き込まれる」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや応援評価をよろしくお願いします!


それでは、第5話でお会いしましょう!

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