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『凡人の俺、一万円札に転生して最強の幼馴染の財布を目指す』  作者: 凪塩 未来


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第12話:追いつけない背中、紙の上の再会

第11話では、エリートたちの洗練された空間の中で、ついに因縁の幼馴染・無糖峰の現在の噂を耳にした駆。天才の影を感じ、闘志を燃やす彼の旅はいよいよ核心へと迫ります。

今回は第12話! 運命の歯車が噛み合い、紙の上での奇跡的な再会が訪れる瞬間を描きます。果たして駆は、無糖峰の元へ辿り着けるのか……?

それでは、第12話「追いつけない背中、紙の上の再会」の本編をどうぞ!

エリート学生たちの議論の場から、ビジネスの決済や細かな釣り銭のやり取りを経て、駆(一万円札)の移動スピードは日増しに加速していった。

まるで不可の見えない大きな手綱に引き寄せられるかのように、お金の流通網という名の巨大な川の流れに乗り、駆はとある都市の中心部へと運ばれていく。


――そして、その日は突然やってきた。


都会の一角にある、ガラス張りの洗練された高層ビル。その最上階にある、若き起業家やトップ学生たちが集うプレミアムな経済フォーラムの会場だった。

受付のレジスターに収められていた駆は、誰かの手によって引き抜かれ、ついにその場所へと連れ出された。


ざわめく会場の中央。

ひときわ人垣ができている一角に、その人物はいた。


――無糖峰。


見間違えるはずがない。

少し大人びてはいたが、あの整った涼しげな顔立ち、どんな状況でも揺るぎない冷静さを湛えた瞳、そして周囲を圧倒するような知性のオーラ。高校時代から変わらない、いや、さらに洗練された完璧な美しさが、そこにあった。


無糖は、数千万円規模のファンドの契約書に、サラサラと慣れた手つきでサインをしている。その傍らには、特注の最高級コードバンで作られた、重厚な革財布が無造作に置かれていた。


――あいつの、財布……。


心臓がないはずの駆の胸が、激しく高鳴った。

契約の儀式が終わり、無糖の側近らしき人物が、支払いと釣り銭の処理のために駆を摘み上げる。

そして――。


スーッと、視界が反転した。

無糖峰のその手が、直接、駆の身体(一万円札)に触れたのだ。


――冷たくて、スマートな指先。

感情の起伏を感じさせない、あまりにも効率的で正確な触れ方だった。

無糖は、受け取ったお釣りの一万円札――駆を、微かに確認することもなく、そのまま自分の財布の奥底へと滑り込ませた。


ガサリ、と革の財布が閉じる。

周囲の光が遮断され、一瞬にして完全な暗闇が訪れた。


……入った。

俺は今、無糖峰の財布の中にいる。


信じられないような、しかし紛れもない現実がそこにあった。

生きていた頃、どんなに勉強を頑張っても、夜な夜な三件のアルバイトを掛け持ちして身を削っても、テストの順位表でも、スポーツの記録でも、そして恋も金も、すべてにおいて届かなかったあの男の、一番近くの場所。

あいつが稼ぎ、あいつが動かし、あいつの欲望と理性を支える「お金」そのものとして、今、駆はここに収まっている。


財布の中は、これまでのどの財布とも違っていた。

タバコの匂いも、パチンコ店の喧騒も、泥水や血の気配もない。そこにあるのは、最高級の革の香り保全剤と、徹底的に管理された新札たちの整然とした気配だけだった。

あまりにも無機質で、あまりにも整った、無糖の頭脳そのもののような空間だった。


暗闇の中で、駆は他の札たちに囲まれながら、じっと息を潜めた。


お前は今、この財布の中で何を感じている?

天才として持て囃され、誰もが羨む未来を優雅に歩いているお前は、この薄っぺらい紙切れの裏側に、どれほどの人間ドラマが詰まっているか知っているか?


多重債務で崩れ落ちた男の涙も、ヤクザの組事務所に渦巻く暴力も、政治家の料亭の黒い密談も、雨の路地裏の泥水も、夕暮れ海の老夫婦の温もりも、夢を追う少年の傷だらけの手も、寄付金箱の底の善意も――。

この世のすべての地獄と天国を、俺はこの身体のすべてで体験してきた。


お前がどれほど優秀で、どれほど涼しい顔で経済を動かしていようとも、人間が流した血と涙の重みを、お前は本当に知っているのか?


福沢諭吉の厳格な肖像画の裏で、元・高校生の駆の魂が、静かに、しかし猛烈に燃え上がっていた。

追いつけないと思っていた背中。

ずっと見上げていただけの「一番星」の足元に、いま、ただの紙切れとなった駆は辿り着いた。


この財布が開かれるとき、そして無糖峰がこの一万円札を使うとき、何が起きるのか。

負け続けた少年が、いちばん遠い場所から仕掛ける最後の勝負の時は、もうすぐそこまで来ていた。

第12話「追いつけない背中、紙の上の再会」をお読みいただき、ありがとうございました!


ついに無糖峰の財布へと入り込むことに成功した駆。かつての圧倒的な壁だった幼馴染と、今や「お金と持ち主」という皮肉な関係で再会を果たした緊迫の展開をお届けしました。

次回、第13話「無糖峰の選択」では、無糖がその莫大な金を使って何を行おうとしているのか、彼の本当の目的が明らかになっていきます。果たして、天才の思考の行き着く先とは……?


「続きが気になる!」「いよいよクライマックスに向けて盛り上がってきた!」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや応援評価をよろしくお願いします!


それでは、第13話でお会いしましょう!

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