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『凡人の俺、一万円札に転生して最強の幼馴染の財布を目指す』  作者: 凪塩 未来


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第11話「エリートの財布」

第10話では、寄付金箱の底に身を置き、お金という存在が持つ「善意や救い」の側面を体感した駆。

今回は第11話! 舞台は一気に洗練されたエリートたちの空間へと移ります。様々な人間の手を渡ってきた駆が、ついに因縁のあの名前を聞くことに――?

それでは、第11話「エリートの財布」の本編をどうぞ!

ボランティア団体のスタッフによって寄付金箱から回収された駆は、銀行での換金や仕分け作業を経て、再び社会の流通網へと放り込まれていた。


――気づけば、空気の匂いが全く違っていた。


これまでの、コンビニの油と焦げ臭さ、パチンコ店の喧騒、裏社会の鉄と血の臭い、そして泥臭い青春の汗の匂いではない。

そこにあったのは、磨き上げられた大理石と、高級な革、そして微かに香る高価な香水の匂いだった。

場所は、都内の超一流大学のキャンパスにほど近い、閑静な高級住宅街のカフェ、あるいは洗練されたセミナーハウスの一室らしかった。


――ガサリ。


財布が開閉する音が響く。その財布自体が、特注品のブランドものらしく、手に吸い付くような滑らかな革の質感をしていた。

中には、新札の千円札や五千円札が折り目一つなく整然と収められている。その中央に、ドカンと鎮座するように収まったのが、一万円札である駆だった。


財布の持ち主の指先が、駆の端を上品につまみ上げる。

見上げると、そこには見目麗しい若い学生たちの姿があった。スーツをビシッと着こなし、タブレット端末を片手に、世界経済の動向や新しいビジネスモデルについて流暢な英語を交えて議論している。


「来期のインベストメント・ファンドの運用益だが、無糖の予測通りに動かして正解だったな」

「ああ。あいつの分析力は、すでにプロのディーラーすら凌駕している。本当に同じ大学一年生とは思えないよ」


――ん……?

その名前を耳にした瞬間、駆の魂が激しく揺さぶられた。

今の、なんて言った?

無糖――?


耳をそばだてると、エリート学生たちの会話がさらに鮮明に頭に飛び込んできた。

「無糖峰か。あいつ、今度は海外のベンチャー企業と大規模な提携プロジェクトを立ち上げるらしいぜ。なんでも、個人の才覚だけで数千万の資金を動かしているとか」

「化け物だな。高校時代から天才だとは聞いていたが、大学に入ってからますますエンジンがかかってる。俺たち凡人がどう足掻いても勝てる相手じゃないよ」


――無糖峰。


間違いない。あの、テストでもスポーツでも、そしてあらゆる勝負で駆を絶望の淵に追い込み続けた、あの忌々しくも眩しい幼馴染の名前だった。

生きていた頃、駆はあいつの背中をいつも二番手の位置から睨みつけていた。どれだけバイトを掛け持ちして身を削ろうとも、あいつは涼しい顔で数光年先を歩いていた。


まさか、死んで一万円札になったこの世界でも、あいつの名前を聞くことになるとは。

しかも、あいつはすでに学生の枠を超え、実社会の経済や巨大な金を動かす側の人間になっていた。


――やっぱり、お前はそっち側の人間なんだな。


駆の胸の奥で、複雑な感情が渦巻く。

かつての泥臭い劣等感や悔しさは、様々な人間の地獄と温もりを見てきた経験によって、少しずつ形を変えていた。

多重債務で崩れ落ちる男も、政治家の裏金も、夢を追う少年のギターも、老夫婦の穏やかな海も――すべての人間模様が渦巻くこの残酷で美しい世界の中で、無糖峰という男は、そのすべてを俯瞰するような位置に立っている。


あの完璧な天才は、今、どんな財布を持ち、どんなお金を動かしているのだろうか。

そして、もしもいつの日か、自分がその無糖峰の手元に流れ着いたとき――。

あいつは、この一万円札に込められた無数の人々の「業」と「温もり」の気配に気づくだろうか。


エリート学生の指に挟まれた駆は、眩しいほどのキャンパスの光の中を見据えながら、静かに息を潜めた。

旅の終着点は、確実に近づいている。

すべての勝負で負け続けた少年が、いちばん遠い場所から「勝つ」ための物語は、いよいよ最高潮へと向かおうとしていた。

第11話「エリートの財布」をお読みいただき、ありがとうございました!


ついに物語の中で「無糖峰」の名前と現在の状況が明かされました。学生にして巨大な経済を動かす天才の影を感じつつ、駆のなかの闘志が再び熱く燃え上がる展開をお届けしましたが、いかがでしたでしょうか。

次回、第12話「追いつけない背中、紙の上の再会」では、いよいよ運命の歯車が回り始めます。果たして駆は、無糖峰の元へ辿り着くことができるのか……?


「続きが気になる!」「いよいよ無糖との再会が近づいてきてワクワクする」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや応援評価をよろしくお願いします!


それでは、第12話でお会いしましょう!

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