第9話 プリオ炎上事件 (前編)
「王都の方で反乱が起きたそうよ」
母からの手紙に目を落としたまま、私は周りに聞こえるように言った。
執務室にはいつものメンバーが揃っている。
ビダーヤ、シャマル、スレイマンに、在番から帰ってきた騎士団長モリアーナの四重臣。後は私とライルに護衛のステラだ。
「御母上様からのお手紙ですか?」
「そうそう。王都にいるからあっちの情勢を教えてくれるのよ」
「王都で人質中なんでしたっけ?アタシは会ったことないっすね」
「私が跡を継ぐのとほぼ同時で王都へ行ったからね」
それまではモリアーナの母が人質に行っていたが、亡くなったので私の母が行くことになった。
まぁ人質といっても、こっちより文化レベルが3つも4つも上の王都で優雅な生活を送っているらしい。
私が反乱でも起こさない限りは平穏無事に暮らしていける。寂しい気持ちはあるが、こればかりは仕方ない。
「反乱の主体は自治都市と村ですって」
「いつ起こったんすか?」
「6月初めよ」
「6月!?」
シャマルが声を上げて驚く。
今は8月だから2ヶ月も前の話になる。
なんで今頃この手紙が届いたのかというと、この手紙はお母様が旅人に渡して届けさせたものだからだ。
「王都からカルミア領までは徒歩なら1ヶ月のはずでは?」
「呑気に旅行をしながらやって来たみたい」
お母様はこちらに直接関係のある話だときちんとした使者を立てるが、楽観的な内容なら旅人に託してしまう。ということはこの反乱はさほど王都では重要視されていないということだろう。
ちなみに手紙を届けてくれた者には相応に礼をする必要があるから、食事を振る舞い宿賃を渡した。
「あ、そういえば前にプリオで『鎮圧された反乱がどうこう』って話を聞いてたかもしれません……」
「え、聞いてたのなら教えてよ」
「す、すみません……」
ビダーヤがしょんぼりしてしまった。
でもそういう話は聞いたら伝えてほしい。取り返しのつかないものじゃないから今回はよかったけど。
「しかし王国も大変ねー」
「他人事みたいに言ってるけど、うちだっていつ起こるかわかんないよ?」
「カルミアって反乱とか起きるんですかね?」
「三十年前の内戦を最後に、領内では大きな戦争も反乱もないはずだ」
「どうでもいい理由での殺し合いは多発するけどね」
このカルミア領では人が大勢死ぬなら戦争よりも流行り病での方が現実的だ。町や村がそこまで大きな不満を抱えているという話は聞かない。
……私が知らないだけだったら困るけど。
――夜――
夜の九時。
護衛のステラと少しお喋りをして、さぁそろそろ寝ようかと思って蝋燭を消した時、西の空が沈みゆく夕日で紅く染まっているのが見えた。
ん?いや、おかしい。
今もう夜の九時だ。日なんてとっくに沈んだはず。なんだあれは?なにか燃えてる?
「大変です!」
ステラがノックもなしに寝室へ飛び込んでくる。
「プリオの町で市街戦が起こって、町の一部が炎上してるそうです!!」
「へぇぇぇ!???」
市街戦ってなに?誰と誰が?
もしかして反乱が起こった?なんで?
「とにかく着替えてください。重臣と騎士には招集をかけます!」
「なになになになになになに……」
思ってもみない事態に呆然としてしまう。
もう今日寝れないじゃん……。
夜の町に招集を意味する城の鐘が何度も鳴り響いていた。




