第8話 喧嘩を仲裁しよう (後編)
私たちは慌てて騎士団の詰め所へ向かった。
騎士団の詰め所は城の主郭にあり、武器やら防具やらの管理も騎士団がやっている。
で、その詰め所では騎士がフル武装してカチ込みの準備をしていた。
「ちょちょちょちょっと!ちょっと待って待って待って!!なにしてるの貴方たち!?」
「なにって、冒険者ギルドへの殴り込みの準備ですが?」
あっけらかんとした顔でアーマーに身を包んだ隊長が答える。出兵する時ですら見たことない厳つい格好だった。
「領内で私戦は禁止されてるでしょ!」
「はぁ?」
「はぁ?じゃないが!?」
当たり前だけど、騎士が私情で武力を行使することは禁止されている。
「明確な違法行為よ!領主命令です!ただちに武装を解いて仕事に戻りなさい!」
「しかしこっちもラファルの仇討ちをしないと納得いかないですよ」
「ラファルは別に死んでないから仇討ちじゃないでしょ!」
他の騎士たちもやる気満々といった感じで装備を揃えている。
「普段から冒険者たちには迷惑かけられっぱなしなんですから。これ以上は舐められるわけにはいきません」
底辺層の冒険者はよく問題を起こす。酒場、娼館、商店、職人街とあちこちで揉める。町の治安維持を担う騎士団とは折り合いが悪い。この前も民家の犬を弓で射かけて見廻りの騎士と大揉めした。
「だとしてもダメ!私がギルドと話しつけてくるから、全員甲冑を脱ぎない!」
非番の騎士が女連れで食事してる時に起こした喧嘩よ?なんで騎士団がフル武装して冒険者ギルドを襲撃するなんて話になるのかさっぱりわからない。本当になぜ。
「騎士団としてはどうしてほしい?謝罪?賠償?」
ヒートアップした私と隊長の間にライルとスレイマンが割って入ってくる。
「こっちの面目が立つならなんでも構いませんよ。弱腰なのは勘弁してください。冒険者に舐められるのだけは我慢なりません」
「しかし、今回は先に手を出したのはラファルだぞ。あまり強気には出れん」
挑発したのは冒険者。先に手を出したのは騎士のラファルで冒険者をボコボコにしてる。それを見た他の冒険者がラファルを複数人でボコボコにした。
……喧嘩両成敗のルール的にはどう考えてもラファルが悪い。ただ正当防衛とはいえ、冒険者側もやり過ぎた部分はあったかもしれない。
「あのー……ラファルはあんまり大事にしたくないみたいっすよ?一応は反省してるみたいで……」
シャマルはおずおずと手を挙げながら遠慮がちに発言する。
騎士たちは『そうなの?』『どうする?』といった感じで顔を見合わせた後、視線を隊長へ向けた。
「冒険者を連れてきてここにいる全員の面前で謝罪させる。そしてラファルにも謝罪させる。これではダメか?」
「……わかりました。それで構いません」
隊長はしぶしぶといった感じで納得した。
★
冒険者ギルドは町の隅にある。
川に近い端っこのエリアに酒場や宿があり、さらに奥へ行くと娼館がある。冒険者ギルドはその娼館の少し手前あたりに存在していた。
ギルドへ入るとピリピリとした空気の仲、武装した冒険者たちが待ち構えていた。
「これは領主様!」
ギルドの支部長がこちらへ駆け寄ってくる。
「これはなに……?反乱でも起こす気?」
「いえ、万が一に備えておりました……」
「万が一?」
「先ほどの喧嘩のせいで騎士団が攻めてくるんじゃないかとみんな噂しておりまして……」
「いやいや、騎士団がそのような事をするはずがないでしょ!」
嘘です。カチ込みかけようとしてました。
騎士団が。フル武装で。
「そうですか。安心しました」
支部長はほっとした表情を浮かべる。
「それで今回いらしたのは喧嘩の一件でしょうか?」
「ええ。当事者と話をしたいのだけど」
「承知しました」
支部長は近くにいた冒険者に頼んで、当事者を連れて来させる。
「ども、冒険者のヤギーヌです」
ふてぶてしい態度の男子が連れて来られる。思ってたよりも若くて驚いた。十五歳くらいか?顔はだいぶ腫れていて痛々しい。
「あの、すんませんした!」
勢いよく頭を下げてくる。
「こんな大事になると思ってなくて!なんとか穏便に済ましてもらえませんか!」
腫れた顔は少し涙目で、今にも決壊しそうだった。
なんか可哀想になってきた。先に手を出したラファルが悪いのに。まぁでも絡んでったのはこの子が先か。うーん。
ライルがヤギーヌの肩に手を置いて笑いかけている。
「双方が謝る、と言う形で上手いこと収めるから心配しなくていいよ」
「こんなもの子供の喧嘩だ。大人や領主が出てきたのがおかしい」
確かに。なんか領主が動いてあれこれやってるけど、子供の喧嘩の仲裁よねこれ。
若者がイキって喧嘩して、大人が出てきて大事になりそうになって、当事者は穏便に終わってほしくてビビってる。
その後、騎士団の詰め所でお互いの謝罪が行われた。
冒険者ヤギーヌは土下座までして派手に謝ってきたので、さすがの騎士団側も大人しく引っ込んでくれた。
シャマルはラファルを連れてあちこちに謝りに行っていた。酒場で壊したモノの弁償はなぜかシャマルがポケットマネーからするらしい。
面倒見がいいのか、なんなのか。
そもそもラファルへの教育がなっていない。騎士家の当主という自覚を持たせるようにシャマルと隊長に言っておこう。
しかしなんにせよ、町には平穏が戻った。
バカみたいな理由で平穏が壊れそうになるのは勘弁してほしい。暴力を振るう前に6秒くらい考えてくれないだろうか。考えた上で殴りそうだけど。
――夜――
「ライル褒めてくれー」
執務室のソファで、私はライルの膝を枕に横たわった。
承認欲求に飢えてきたので婚約者に褒めて甘やかして貰いたいのだ。メンタルケアも婚約者の大事なお仕事だ。というか個人的には一番それが役に立ってる気がする。
カスみたいな仕事ばかりしているとなんだか気が滅入る。領主っぽい大改革とかやってみたい。無理だけど。
「アルマはかわいいし、綺麗だし、美人だし、背も高くてスラッとしてて肌も綺麗で笑顔も素敵だよ。
優しくて思いやりもあって、真面目で気が利くし、仕事は大変なのに毎日一生懸命頑張ってるし、公平でいようと務めているし、アルマが頑張ってるおかげで仕事がまわってる。朝も早く起きられてえらい。明日も頑張ろうね」
コイツ、私のこと好きすぎる。
たくさん褒め言葉が出てくると嬉しい。気持ちいい。
ろうそくが照らすだけの薄暗い執務室。
ライルが私の頭を優しく撫でる。
へへへへ、悪い気はしない
「……あの、私出て行った方がいいですか?」
「ほおっ!?」
ステラが気まずそうに定位置に立っていた。
存在を忘れていた!護衛役だからそりゃいるよね!
「イチャつくのは構いませんが、私のいない時か寝室でお願いします。お邪魔しませんので」
はい。すみません。
体を起こして、視線を逸らす。恥ずかしすぎる。
「うーん、じゃぁ寝室へ行こうか」
「ふぁっ!?」
ライルが私の手を取りソファから起き上がらせる。
ちょっと急にそんな!ど、どうした!?
おおお風呂くらい先に入らせてほしいんだけど!?
というか正式に結婚はしてないが、いいのか!?
「愚痴くらいは聞いてあげるから」
「あっ……そういう……」
勘違いさせるようなことを言わないでほしい。
子供ではない婚約者同士が二人で寝室へとなったら、やることは一つか二つしかないだろうに。
結局、寝室へは行った。
ベッドで転がりながらひと通りの愚痴を聞いてもらっているうちに、私はいつの間にかその日一日を終えたのだった。




