第7話 喧嘩を仲裁しよう (前編)
「うちのラファルが何度も申し訳ないっす……」
シャマルが気まずそうに頭を下げている。
昼下がりの執務室では、新たに発生した問題の処理について話し合いが始まっていた。
ラファル・ドレフォンのことだ。
またお前か。
現在、我が家に仕える騎士ラファルが抱えている問題は二つある。
一つはモリス山の炭竈問題。
つい先日、モリス山の所有権を巡る訴訟はドレフォン家の勝訴となった。
山の所有権はドレフォン家に改めて認められ、ブラウエン家側は領主を欺こうとした罪で当主アニスが隠居することになった。
普通ならこの判決で終わるのだが、今回は終わらなかった。正確には終わったけど、新しく別の問題が出てきた。
なぜかドレフォン家の家来がモリス山にあったソリタリ村の炭竈を破損させる事件を起こしたのだ。
どうも私たちが城へ帰ったのと入れ違いで、ドレフォンの家来が山へ向かい、そこで係争中の段階にも関わらず村が新たな炭竈を作っているところを発見。
『まだ係争中なのに舐めたことしやがって』と、その炭竈を壊して村人と諍いになったらしい。
これにソリタリ村が怒って炭竈の修復費用を求めてきたことで、再び訴訟となっている。
いや、なんで壊すんだよ。
ただまぁこれはドレフォンが悪いので賠償させることになる。せっかく山林使用料が入ってくるのにもったいない。ラファルはだいぶ落ち込んでいたらしい。
もう一つは、ラファルが何故か冒険者と喧嘩をして怪我を負わせた問題。
これはついさっき起きた事件で、城下の酒場で冒険者をボコボコにしたらしい。まぁラファルも他の冒険者にボコボコにされてるんだけど。
これはよくわからない。わからないので、なぜか一緒にいたシャマルを呼び出して今から話を聞くところだ。
というか、10代男子の喧嘩を仲裁する私の仕事っていったいなんなんだろう。領主とはいったい。
「で、まず詳しく経緯を教えて」
いつもと違って私服のシャマルはソファに座っている。私も向かいのソファに座り話を聞く。
「二人で酒場に行こうってなって、それでご飯食べてたら、冒険者がちょっかいかけてきて、それで胸ぐら掴んで殴り倒してて……」
ちょっかい掛けられただけ殴ったの?
というか一瞬で暴力に発展してて怖すぎる。
「……なぜ男性と二人きりで酒場へ?」
「モリス山の件で世話になったから、ご飯をご馳走するってことで一緒に酒場へ行っただけっすよ」
「ほーん……」
ビダーヤがジトリとした目でシャマルを見る。
お?恋愛に発展しそうな話なのかこれ?
デートなのか?唇がなんかテカってるのはもしかしてグロス?オシャレしてった?
「お前、唇になんかついてないか?」
スレイマンがシャマルの口を指差す。
「え?うわ!油だ!鶏肉しゃぶりついて食べたからかな……」
油かよ。
シャマルは唇のツヤツヤというかベタベタを紙で慌てて拭き取る。本当に油でベタベタのまま連れて来られただけなんだ。
「それでなにを言われて喧嘩になったんですか?」
「えっと、冒険者がラファルの知り合いの悪口を言ってたみたいでー……」
「うんうん」
「そこは舌打ちしたくらいで我慢してたんすけど、チラチラ目があったりしてるうちに冒険者が絡んできて……」
「はいはい」
「それで、冒険者が私のこともバカにしてきたんすよ」
「なんて?」
「ちんちくりんな女が好みだったのか……みたいなことっすかね。ゲラゲラ笑ってたっすよ。舐めやがってー」
ひどい。
シャマルは確かにちんちくりんだけど可愛いのに。
でもやっぱり恋愛要素が出てきたわね。そういうの好き。もっと欲しい。田舎のカルミアでは恋愛の話題は貴重品よ。
「なるほどね。それで胸ぐら掴んで殴った……ということ?」
「殴ってー、引きずり倒して、また殴って、床に顔面を叩きつけてましたっすねー。相手血まみれになってました。その辺りで止められてラファルが他の連中にボコされましたけど」
暴力性が高すぎて恋愛っぽさが消える。
やりすぎでしょ。
「まぁ割とカッコよかったっすよ」
ニヤついてるけど暴力だからね、それ。
そういう男はやめた方がいいと思う。
「冒険者側は今はなんて言ってるの?」
「えっと……『からかったのは申し訳ないけど、やりすぎではないか?』って言ってたね」
ぐうの音も出ない。それはそう。
「でも止めに入った冒険者たちもラファルをボコボコに殴ってましたよ?喧嘩両成敗なら向こうも悪くないすか?」
冒険者側が無抵抗で訴え出ていれば悪いのはラファル。謝らせて治療費も出させる。
けど今回は向こうもかなり反撃している。
「冒険者側もかなり暴行を加えてるね」
「冒険者も冒険者ですぐ暴力振るからなぁ」
剣を抜かなかっただけマシな案件かも。
ちなみにラファル本人は『骨は折れてないから平気。痛いだけなんで大丈夫』とのこと。大丈夫かそれ。
「冒険者なんて大層な名前でよばれてますけど、実態は日雇い労働者ですからねー。社会のカスですよカス」
ビダーヤは変質者の一件以降、冒険者への嫌悪というか偏見を持ってしまった。
「こんなモンスターも出ない地域の町でたむろしてる冒険者なんてロクでもないですよ」
冒険者の仕事は主に3つ。獣や魔物を倒してその毛皮や肉、魔石なんかを売ってお金にするか、依頼を受けて仕事をするか、遺跡みたいな所謂ダンジョンへ潜って手に入れたモノを換金する。
この町のまわりは獣や魔物がほぼ出ない。ちょっと大きめのネズミくらいだ。アレイアには近くにダンジョンがあるからむしろ冒険者は向こうのほうが多い。
そんな訳で、このカルミアにいるのは日雇い労働がメインだ。冒険者ギルドに登録して仕事を斡旋して貰っているから冒険者という肩書きなだけ。
「あの……」
ステラが珍しく挙手する。
ステラは護衛役として私の後ろで控えているが、話しかけてくることは基本的にない。意見を言ってくることは珍しい。
「どうしたの?」
「一番隊の人たち、仲間がやられて黙って見てるわけないので、その冒険者を殺しにいっちゃうかもしれません」
「え?」




