第10話 プリオ炎上事件 (中編)
騎士たちを招集してすぐに騎士団長のモリアーナ率いる五十騎の部隊をプリオの町へ派遣した。町への取次役であるビダーヤとライルも付属させている。
町や農民による反乱の可能性もあるため、このカルミア城と城下も門を閉じて臨戦体制を整えている。
数本の蝋燭に照らされただけの暗い執務室で一晩を過ごし、プリオからの詳しい情報を待ち続けた。
最初の報告は、日が昇ってから一時間ほど経った午前五時半頃。ライルが館へ戻ってきてのものだった。
「……つまり、商会同士の抗争ということ?」
「そうだね。聞いた限りでは他の町や村が関与している感じはなさそう」
ライルの表情は楽観的だった。反乱ではなさそうということで、とりあえずは安心した。
商会は冒険者らを自前の戦力として雇用しており、各自で武力を持っている。今回はその武力同士が衝突したということになる。
「それで、抗争の原因はなに?」
原因が思い当たらない。商会同士が何かで揉めているという情報は聞いていない。
「商会の代表の話によると」
「うん」
「『道ですれ違った時の態度が気に入らなかった』と……」
「…………」
「…………」
「ごめん、もう一度言ってもらえる?道ですれ違って、何?」
「態度が気に入らなかったんだって」
頭を抱えて思わず唸ってしまう。
本当に?そんなバカな理由でなぜ殺し合いに?
「気に入らなくて、自分とこの兵隊集めて、殺し合いになった……ってこと?」
「そう」
「町も燃えたの?」
「燃えたのは数軒だけどね。先に手を出したのはスターベイ商会。相手はオリオン商会で、店に行ったけど本人がいなかったから番頭を殺したみたい。それに怒ったオリオン商会が手下を集めて攻め込んで……って感じかな」
態度が気に入らないから殺しに行くという発想がもうヤバいでしょ。この前の騎士団といいこの領地の人間は血の気が多すぎる。
「それを私にどう対応しろと……」
「一応は双方の代表から話を聞いて、被害調査もして、賠償の話を詰めて、商会への処分……かな?」
「はぁ……」
大きなため息を吐いてしまった。
話を聞いていたシャマルも大きな欠伸をしている。表情からもやる気をなくしたのが見てとれた。
なにがどうなればそんな瑣末な事から市街戦になるんだろう。
机に突っ伏し、またしても大きなため息を吐いてしまった。はぁ……。
★
午後になるとスターベイ商会代表のディアスが城へ釈明をしに来た。
スターベイ商会は新興のオリオン商会を見下していたこと、オリオン商会代表の性格が悪くて以前から態度に不満があったこと、あれこれと弁解する。
「街道ですれ違った時にオリオンの代表が舐めた態度をとってきたので礼儀を正すように怒ったのです。しかしオリオンがさらに無礼な振る舞いを見せたので気が立ってしまい……つい……」
つい……て。
瑣末なことで武力行使に及んだことは紛れもない事実だった。
「町で起きた喧嘩ですので、町で解決したいと考えているのですが……」
とか抜かしてきたけど、当然そんなもの認められるわけがなかった。
町には一定の自治を認めているが、さすがに武力抗争で不介入は無理があるわよ……。
「まずスターベイがオリオン側の商店の番頭を殺害、その後オリオン側が18人で攻め込み、スターベイ側が15人でそれに応戦。戦力の大半は冒険者を雇ったものだね」
「結構いるわね……」
「被害については死者がオリオン商会の者が二名、冒険者三名。スターベイ商会側の者が一名、冒険者三名。負傷者は双方合わせて二十人程」
ライルがメモを見ながら冷静に述べる。
冒険者の死者はどうでもいいけど、商会の人間が死んでいるのはよくない。被害を対等にする必要があるから、スターベイ側にもう一人差し出してもらう必要が出てくる。面倒だけど、この大陸の慣習としてそうなっているから仕方ない。
「町の被害はスターベイ商会の店が一軒全焼。隣接する民家にも燃え移り十二軒の家が炎上。この民家はスターベイ商会の関係者の家だね。あとは屋台もいくつか燃えてる」
「……なんで火が付いたの?」
「本格的な衝突は夜でしたので、たいまつを持っていまして……」
「火を付けたのはオリオン側の冒険者の独断で『火を持っていたから付けた』と話してたよ」
火を持ってたから火を付けちゃったか。そっかそっか。
いや、怖いわ。人間がしちゃいけない発想でしょそれは。
町人に犠牲者が出なかったのは不幸中の幸いね。
「関係のない冒険者が民家で掠奪を行っていた事件も発生してるけど、これは騎士団が調査中」
まぁそれはもう後でいいや。捕まえてから決めよう。
発端が『すれ違った時の態度が気に入らなかった』という子供みたいなものなのに、被害はまるで山賊の襲撃にでもあったかのようだ。あまりにもダメージが大きすぎる。
「経緯はわかったわ。追って判決を出すから、今日は帰りなさい」
「……承知いたしました」
ディアスは頭を下げて部屋を後にする。
★
「死罪っすか?」
ディアスの退室からしばらくするとシャマルが口を開いた。
「そうね。代表はどっちも死罪かしらね」
「やっぱりかー」
「スターベイ商会はまず番頭を殺してる時点でアウト。被害を受けたオリオン商会はその後に領主である私へ訴え出ないといけなかった。なのに自力での報復に出て大きな火災まで引き起こした。これは許されないわ」
商会を取り潰すまではしないが、軽い罰では示しがつかない。たぶん子供がいるでしょうから跡継ぎには困らないでしょ。
「死者の数がオリオンが二名なのに対して、スターベイが一名。これは対等じゃないからスターベイから一名をオリオン側に差し出させましょう」
人的被害は所属する集団同士で対等でなくてはならない。冒険者は別にいいけど。
「賠償はお互いが破壊したものを賠償させればいいかしら」
これは火を付けたオリオン側の負担がかなり大きくなるが、おそらく資産的には出せるはずだ。
「あとは、火をつけた冒険者も死罪。逃げたらパーティーメンバーを代わりに殺すと伝えておいて」
「ギルドに話を通しておくよ」
「領の関所にもね。逃げられないように」
「わかった」
「皆が帰ってきたら決定するわ」
夕方には皆が帰ってくるから、そこで判決を決定する。おそらくこれで決まるはずだ。




