第11話 プリオ炎上事件 (後編)
「スターベイ代表の死罪だけはなんとか回避できませんか?」
夕方、執務室に主要メンバーが集まってプリオ炎上事件についての話し合いが始まった。
まずは私がさっき考えた案を提示し意見を求めたが、これにビダーヤが反対した。
「教会や近隣の村から助命の嘆願が私のところへ来ていまして……」
「え?」
ビダーヤが私の机にいくつもの書状を置く。
各地の教会、近隣の村々、そして他の町の商会からも寛大な措置を求める内容で書かれている。
驚いた。さほど人望がありそうな人物には見えなかったが。
「しかしこれだけの事件で甘い判決を出したら領主が舐められてしまうのでは?」
スレイマンは腕を組んで不満そうにしている。
その通りだ。いいことを言う。
「あー、実はさっきウチの親からもオリオン商会代表の処刑は回避してほしいって話が来てるんすよね……」
シャマルが遠慮がちに発言する。
オリオンまで!?
なに?なぜ領内のあちこちから助命の嘆願が来ているんだ?
「それと、これは内密の話なんですが、双方の商会から助命してくれるならカルミア家への借金、合計金貨80枚をチャラにしてもいいと言われました」
「は?そんなの買収じゃない!法よりも金をとれと?」
金で釣れると思われてるのは癪だ。舐めらている感じがする。
というか、もしかして村や教会とかも買収してる?
「…………金貨80かぁ」
スレイマンが天を仰ぎながらつぶやく。
なんか心動かされてるぞコイツ。
「おい!重臣でありながら金に惑わされるとは何事だ!アルマ様、ここは領主として厳しく裁くべきです!」
騎士団長のモリアーナが一喝する。やはり歴戦の猛者は頼れるな。
するとスレイマンとビダーヤがモリアーナの側へ寄り耳元で何かを囁く。モリアーナはしばらく目を閉じて黙り込んだが……
「……アルマ様、今回に限っては寛大な措置をとってもよいのではないでしょうか」
「なんか買収されなかった今?」
「されてません!!!!」
城の外まで聞こえそうなデカい声だった。嘘つきほど声が大きいっていうもんなぁ。
「え?みんな反対なの?」
誰も私と目を合わそうとしない。
「いやいやいや!だって家を二軒焼いた変質者を強制労働20年にしたのよ!?つい何ヶ月か前に!!」
「まぁ……うん……そうっすけど……」
「今回は十二軒も焼いて、人まで死んでるのに!?死罪以外なくない!?」
私は椅子から勢いよく立ち上がって指摘するが、ビダーヤが反論する。
「このカルミア領に対しての貢献度が違います。領内で安定的に物が売買されているのは商会のおかげです。しかも領主へは多額の税を納め、お金だって貸してくれる。問題ばかり起こす道端のうん◯である冒険者とでは天と地ほどの差があります」
そ、そうだけど。
「あ、そうだ!島流しでいいんじゃないですか?バルティア島がいいと思います」
ビダーヤが手を叩いて提案する。
バルティア島は領内にある交易と金貸しで栄える島で、ウンディーネ族が支配している。当然だが港町であるプリオとは密接な関係にあるので、そんなところへ送っても島流しとは名ばかりのものになるのは間違いない。
これもう買収されてるでしょウチの重臣たち。
「……じゃぁ決を取るわ。死罪にすべきと思うものは挙手を」
私しか手を挙げなかった。誰一人わたしと目を合わせようとしない。
え?こんな誰も賛成しないのは初めてなんだけど。
っていうかライルまで挙げてないし。婚約者のくせに裏切るのか?
私がジトリと冷たい目線を送り続けるとライルは申し訳なさげに小さく手を挙げた。
ヨシ。これで2-4だ。いや負けてるけど。
基本的に合議制だから領主であっても無理を通せない。というか私に説得できる気がしない。どうしよう……。
「すみません、アルマ様。今回だけは折れてください!」
ビダーヤが手を合わせてお願いしてくる。
「アルマ様は死罪にしようとしたけど、重臣や村々の助命嘆願によって覆った……という形にしますから!」
「……う、うん」
「領内から反発が出ないようにも動きますから!」
「……うーん」
「では死罪ではなく、島流しということで!よろしいですね!?」
「……………………うん」
ビダーヤはホッとしたような表情を見せる。彼女はプリオとの取次役として色々としがらみがあるのかもしれない。
シャマルは親の事情。所領が山奥のアレイアにあり、そのアレイアは木材をプリオに売っている。商会とは関係が深いはずだ。
スレイマンは財政面を心配してだろうか。
モリアーナは何かで買収されたっぽいわね。金貨80枚が浮くと騎士団の要望が何か通るのかも。
あまりにも領主家の中心人物たちが無力化されている。ダメだこれは。もうダメだこの家は。
この後も私は何度もため息を吐いてしまった。
★
翌週に両商会の代表2人がバルティアへと島流しとなった。後継者には子供が収まり商会そのものは存続した。
また人的被害を対等にするためスターベイ商会の使用人を一人、オリオン側へと引き渡した。煮るなり焼くなり好きにされるはずだが、どうも裏で取引をして島へ一緒に送る手筈と聞いた。もう好きにして……。
賠償についても双方と合意し、町ではすでに建物の再建が始まっている。
火をつけた冒険者は逃げようとしたらしいがパーティーメンバーにより差し出され、即日処刑となった。唯一真っ当な罰を受けた人物だ。
スターベイ商会は相手が気に入らなくても怒りを我慢していれば平穏無事だった。オリオン商会は番頭を殺されたタイミングで報復せずに訴え出ていればその時点で勝訴だった。
バカなことをしてる。なんだったんだろう、この事件は。
領主としてこれでいいとは思えないが、結局はこの程度の力しかないんだと思い知らされた。




