第12話 関所の脱税疑惑 (前編)
「今日も平和ねえ」
私は椅子にもたれながら優雅にお茶を口にする。
残暑はまだまだ厳しいが先月よりはマシになってきた9月。今日も今日とて執務室では私たちは真面目にお仕事に従事していた。
と言ってもプリオ炎上事件以来あまり大きな事件も問題もなく領内は平和である。
家臣たちは仕事をしているが、私がすることはさほど多くなかった。ちょっと前まであんなに忙しかったのが嘘のようだ。
「この関所、なんか変だな……」
しかめ面のスレイマンが2枚の紙を見比べていた。
「どうしたの?」
「この2つの関所なんですが、先月納められた関銭の金額がバラバラなんです」
「それは関所ごとに通る人数も積荷の数も種類も違うんだから当たり前じゃない?」
「いえこの街道は……地図があった方がわかりやすいな」
本棚からこのカルミア領の地図を引っ張り出してきて机に拡げる。
「この二つの関所はリーネアとプリオを結ぶ街道に設けられているものです」
リーネアはプリオの北側。ミツア半島にある町だ。
プリオ側の関は町を出てしばらく行ったところ。リーネア側はかなりプリオ側へ進んだところにある。
「ここは山と海の間を通るだけで近くに村はないんです。だから人も積荷も減らずに次の関所へ辿り着く。だから先月までは二つの関所の納税額は同じだったんですよ」
地図を見ると確かに村はなく、山と海の間を通っているだけの一本道だった。
そう言われると昔通った時、他に道はなかったかもしれない。
「海岸に舟を置いて関所を通らずプリオに届けているとかは?」
「それならそれで港の使用料を納めているはずなので構わないのですが……」
スレイマンは唸りながら眉間にしわを寄せる。
「いや、ここは砂浜ではなくほとんど岩場だったはず。舟を着けるところなんて……」
自分の記憶を辿ってみるが、砂浜ではなく海岸は岩場だったような気がする。
「ということは、関所で脱税が行われてる?」
「ええ。もしくは山に誰かが住みついていて、そこへ物を届けているか」
「んんー……」
山賊みたいなのが住み着いてるパターンとかは面倒だからやめてほしい。
「山は騎士団に捜索させましょう。舟がどこかから出入りしてないかもね」
モリアーナに命じて騎士を何人か派遣して周囲を捜索させる。しかし特に人がいる気配はなく、それどころかこの街道には積荷を広げられそうな広場もなかった。
「うーん、これは脱税が行われてそう」
金額が少ないのはプリオ側の関所だから、やってるとしたらこっちね。
「許されないわ。私のお金なのに」
「アルマのじゃなくて、領地経営のお金ね」
「……うん」
まぁ確かにそうだけど。
「どう調べるんだろう?関所に行けばいいのかな?」
「人数や積荷の記録をつけてるんじゃないッスか?」
「そうなの?」
「アタシん家の関所では記録して保管してるっすよ。人がどれだけ通って、荷馬車が何台で、材木、木箱、樽、俵がいくつで……みたいに」
カルミア領の関所は領主が設置しているものと、家来が所領に設置しているものがある。たまに村が勝手に設置してたりもするが、これはもちろん違法。とても面倒臭い。
今回の脱税疑惑は領主の関所だ。
「それなら関所同士の記録を照らし合わせれば、どこで不正があったかわかりますね」
「現地まで行って確認すればいいんすか?」
「暇だから私が行くわ。ライルとステラは付いてきて」
「今から!?」
「そりゃぁ今から……」
夕方、ちょうど三時の鐘が鳴っていた。ティータイムの時間だ?
「……だと帰れないから明日の朝一からね!」
ーー翌日ーー
プリオ側の関所は町から少し北へ行ったところにある。
管理は近隣の農民に任せており、責任者の騎士は毎月の税を受け取って届けてるだけらしい。
「これは領主様。なんのご用でしょう?」
関所へ着くと関所番の農民たちが何人かやってきた。
一目で領主とわかってくれてなんか嬉しい。冒険者とかたまにタメ口で話しかけてくるし。
「突然で悪いんだけど、関所の通行記録を見せてくれる?」
「はぁ、通行記録ですか?」
番小屋の中へ入ると今日の担当をしている農民が棚から書類をいくつか出して持ってくる。
「この関所を通った人数や積荷なんかはここにみんな書いております」
農民からステラが通行記録を受け取り私へと手渡す。パラパラと捲って見るとなかなか細かく記載がされていた。
荷馬車が何台、さらに積まれた木箱、樽、小麦袋、米俵の数や大きさが記され、一定金額を徴収して記録している。
「誰がいつ関の番をしていたかはわかる?」
「ええ。わかりますよ。一日の最後にある名前がその日の担当者たちです」
確かに名前が何人か載っている。
「なんかまずいことでもありましたか?」
関所番たちが不安そうにしている。この関所に関する事で何かあったことは察しが付いているだろう。
「まぁ、ちょっとね」
「その……中身の確認は簡単にやってるだけですので、変なものが通過してても、こちらでは対応できないものでして……」
なるほど。なにかヤバい物を通してしまったと思ってるのか。
「そういうのではないから、大丈夫よ」
「左様ですか」
「これはしばらく預からせて貰うわね」
プリオ側の関所を出ると、今度はリーネア側の関所へと向かう。道中を確認するが、やはりただ道が続くだけだ。
こんな関所なんて一つにまとめればいいのに……と思うんだけど、関所番の手当が特権として村に与えられている関係で二つあるらしい。面倒だ。
リーネア側の関所でも同じように通行記録の提出を求める。
こちらもほとんど同じように、いつ何がどれだけ関所を通ったか、その日に誰が担当していたかが書かれている。
「ここで確認しちゃいましょ」
「そうだね」
ライルと二人で双方の通行記録を照らし合わせていく。先月だけでも結構な通行量がある。
「あった。これだ」
ライルが通行記録のある部分を指差す。
「ワイン樽が少ないわね」
リーネア側にはワイン樽5つ、しかしプリオ側には4つの記載。一つ消えている。
「ここも樽、あとは小麦袋、米俵も少ない」
ひとつ銅貨2〜3枚の課税なので大した金額ではないが、少しずつ合わない部分が増えて先月だけで銅貨48枚ほどが差額として現れる。これはスレイマンの見つけた納税額の不一致金額と同じだ。
「全部スワロー商会の荷馬車だね」
「プリオの老舗商会かー」
うちの家がカルミア領主になる前から存在する歴史のある商会だ。
「でもこんな小さな額を脱税してどうするんだろ?」
「何人かで飲食すれば一日で消えるような金額なのよねー」
こんな小額のために脱税の危険を犯すような商会ではない気がする。
ということは担当していた農民が不正を働いてお金をポッケに入れてしまった可能性が高い。
「一度持って帰って相談しよう」
「そうね」




