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第13話 関所の脱税疑惑 (後編)

「スワロー商会ですか?」

 

 城に帰って、わかったことをみんなに報告すると、スレイマンは怪訝な顔を浮かべていた。


「この小さな金額だと、商会ではなく関所番の方が疑わしいですが……」

「まぁそうよね」


 商会にとっては銅貨48枚なんて小銭でしかない。関所番が不正を働いて少しずつ関銭をちょろまかしていたと考えた方がいい。


「疑われる農民を取り調べるように騎士団に伝えておいたから、今日のうちにわかるでしょうね」


 通行記録から、不正はサポロ村の者が担当している時に起こっていた。朝一で騎士団を向かわせているから、昼には結果がわかるはず。これでたぶん解決するでしょう。


★


「サポロ村の関所番たちは不正を認めた上で、『スワロー商会に頼まれた』と言っています」


 モリアーナが城へ持って帰ってきた情報は意外なものだった。

 ん?スワロー商会も結局は関わってるの?


「荷物を少なく申告して、関銭を減額するという行為を繰り返していた、と話しています」

「商会が黒幕なの?この金額で?」

「商会からは二年ほど前に持ちかけられたとのことです」

「二年前!?」

 

 思わず目をぱちくりさせてしまう。

 おかしい。納税額がおかしかったのは先月だけのはずなのに。


「アルマ様、すぐに商会にも荷受帳の提出を命じましょう」

「え?」

「村を取り調べたことや、関所を昨日訪れたことが商会に知られると対策をとられます」

「そっか!モリアーナ、ビダーヤすぐに行って!」

「私もですか!?」

「プリオとの取次でしょ!証拠を隠滅される前にすぐに提出させて!」

「行くぞビダーヤ。立て。上着も着ろ。マントもだ」

「は、はいぃ……」



★


 荷受帳の提出を求められたスワロー商会代表は、驚いてはいたものの『そんなことはしていない』とあっさりと荷受帳をビダーヤへ差し出してきたそうだ。


 城でスレイマンが荷受帳と、関所の通行記録を比較しながら照合を進める。

 あの二つの関所を通ったスワロー商会の荷物が、通行記録と一致していれば問題ないが、結果は……


「スワロー商会の不正が発覚しました」

「あんなに自信たっぷりに提出してきたのに!?」


 ビダーヤは目を丸くして驚いていた。


「あの関所二つを通過したと思われる荷馬車の荷物と、スワロー商会が荷受したリストが一致しない日があります」


 スレイマンがテーブルに荷受帳と通行記録を広げて説明する。


「例えばここ。この日は関所を通った時に木箱3、樽3、小麦袋5ですが、この荷馬車からの荷受には木箱6、樽5、小麦袋10となっています」

「倍近くになってるじゃない!」

「これも過小申告で、ここもですね」


 ページをめくりながら、似たような箇所を次々と指摘していく。毎日ではない、月に数回のペースでそうした不一致が見つかる。


「買収されていたのはおそらく六名。プリオ側はサポロ村で三名、リーネア側ではノースロシマ村で三名。彼らが双方で同時に関所番をしている時にだけ、スワロー商会の荷物を少なく数えて記載していました」

「その日だけ、本来払わせるべき通行税を徴収しなかったということね」

 

たまたま納税額が違ったから発覚したが、そうでなければ気付かなかった。


「でもなぜ先月だけは合わなかったんだろう?」

「確かに。双方が買収されて同じ金額になるなら、先月も同じのはずよね」


 書き間違い?連絡不足?


「失礼します」


 メイドがドアをノックしてから入室する。


「どうしたの?」

「スワロー商会の代表と御子息がお目通を願っておりますが……いかがいたしましょう?」

「え?」


 渦中の人物が直接会いに来た。


「ちょうどいい。話を聞いてみましょう」

「そうね。ここへ通して」


 ★


「この度のこと、申し訳ありませんでした」


 スワロー商会の代表とその子息が頭を下げる。

 

「説明してもらえるかしら」

「はい。先ほど荷受帳を領主様へ渡したことを息子に話したところ、関所で不正を働いていたと……」

「大変申し訳ありません。今回の不正はすべて私が命じたことです」


 子息が謝罪する。

 親の方は知らなかったから、荷受帳を自信満々に渡してきたわけか。


「関所番の者を買収して、私の荷物が通る時には税を少なくするよう示し合わせておりました」

「サポロ村、ノースロシマ村から三名ずつで間違いないか?」

「はい。そうです」

「いつからだ」

「二年ほど前からです。農民たちと一緒に食事をした際に思いついきました」


 そんな軽々しく犯罪を思いつかないでよ。


「で、なぜ今回だけ二つの関所で今回だけ食い違いが発生したの?」

「農民たちが欲を出して、こちらが指示したものよりも記載を減らしていたのではないかと」

「その分を自分たちの懐へ入れていたのでしょう」


 なるほど。そこは指示したわけではなく農民側が勝手にやったわけか。

 二年やっててもバレないのだから、自分らも、ちょっとくらいお金を抜いてもバレないだろうと。それで辻褄が合わなくなったわけね。


「いずれにせよ、領主を騙し税を逃れるとは言語道断である」


 スレイマンが厳しい口調で叱責する。


「いかなる罰も受ける所存でございます」

「脱税に関しては逃れた金額に加えて、その五割を加算して支払ってもらうわ」

「金額については通行記録、荷受帳を精査した上で改めて命じる」


 スワロー商会には脱税分に加えて五割加算の追徴課税。サポロ村、ノースロシマ村は関所番から罷免して罰金を課すこととした。


★


「で、対策をどうするかなのだけど」


 翌日、朝から対策会議が始まる。

 罰は決まったが、大事なのはこのスキームを他の関所でもやらせない仕組みだ。


「関所番を下っ端の騎士にやらせたいけど……」

「そんな人数いないんじゃない?」

「だよねー……」


 さすがに領内全ての関所に配置できるような人数はいない。

 そもそも農村への特権として関所番の役と手当を与えているところが多いから、これを没収することになる。


「騎士の家来にやらせたらどうッスか?」

「その家の家政業務に支障が出かねないのでは?」

「追加で人を雇えとなると、知行を増やせという話になるわよね」

「だったら領主が直接雇用した方がいいでしょう」


 うーん。買収されない信用できる者に任せたいが、それには雇うお金がいる。

 不正で失うお金と、不正を阻止するために雇うお金をトータルで考えると、ある程度は不正が行われる可能性を覚悟して農民に任せるしかない気がする。そもそも関所番の役目は村への特権という部分でやはり没収すると問題になる。


「全ての商会に『出荷と荷受けの帳簿を領主側が毎月チェックすること』を認めさせられる?」

「プリオの商会はおそらくは出来ます」

「他の商会もやるでしょう。嫌がれば不正を疑い提出を命じましょう」

「でも、帳簿のダミーを作られたらアウトだよね」

「そうだけどー……」


 絶対に不正が起こらない対策はない。

 発覚しやすくする、不正のハードを上げるくらいしかない気がする。


「荷受や出荷の時で抜き打ちチェックをしましょう。そのタイミングならダミーは使わないはずです」

「確かにそうかも」


 おお、いいじゃない!

 案がたくさん出てくる。何人寄れば文殊の知恵?ってやつね。文殊がなにか知らないけど。別の大陸の神様だっけ。


「では商会へは帳簿のチェック。関所には通行記録の提出。これでいきましょう。しばらくはスレイマンが直接チェックに行って、問題がなそうなら他の者に切り替えましょう」

「承知しました」

 

 関所の脱税対策がこれにて決定された。

 上手くいくといいんだけどね。抜け道とかがあったら悲しいわ。



ーー数日後ーー


「え?こんなものなの?」


 脱税の報告書を見てあっけにとられてしまった。

その結果は金貨11枚、銀貨7枚、銅貨50枚。

 もっと大金が入ってくるんじゃないかとワクワクしていたのに桁が一つ下だった。


「まぁ関所二つ程度ですからね」


 商会の資産を考えたらさほど大きなお金じゃない。

 この程度の金額のために不正をしてたのか代表の子息は。


「やっていたのはスワロー商会のみ。他の商会も調べましたが、そちらは問題ありませんでした」


 じゃぁ他の不正が見つかってお金が増えることもないのか。まぁ、お金が返ってきただけでもいいんだけどさ。


「このお金でなにか買えないかしら?」

「冷房魔導具を買いません?来年用に」

「おー!いいわね!」


 執務室用なら金貨11枚あれば買えないかな。いや魔導バッテリーってのが高いんだった。少し出す必要があるかも。


「借金返済に充てた分に補填するからダメです」

「え……」

「夏が暑かったので米の収穫量が減る可能性があります。税収に影響するかもしれません」


 そういえば猛暑だと米の粒が小さかったりするんだっけ。

 

「税収が減って、さらにそこから借金を返済する。残った金額が必要経費に足りない場合はまた借金です」

「……それって延々と借金するようにならない?」


 財政とかお金に詳しくないからわからないんだけど、負のスパイラルになるわよね。他の領はどうしてるんだろう。

 

「嫌ならば、税を臨時に重くするかですが……」

「村が素直に従うと思う?」

「おそらく、税を納めずに抵抗するでしょうね」

「ダメじゃん……」

 

 村同士で同盟を組んで抵抗してきたらどうすればいいんだろう。普通に武装してるんだけど彼ら。税を重くした時に私を殺しに来ない保証はどこにもない。

 ……平穏無事に生きていくためにも、お金は大事に使っていこう。本当は欲しいものをなんでも買える金持ち領主になりたいけど。


領主ネタで短編を繰り返す……ということしか考えてなかったのでネタ切れで停止しています。

また思いついたら更新すると思います。

少しでも楽しんでいただけましたら、評価や感想をいただけると嬉しいです。

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