第4話 変質者を捕まえよう (後編)
「で、なんでこんなことしたの?」
城内にある牢の中で、私の婚約者にして側近のライルが取り調べを行っていた。
もちろん取り調べられているのは前夜に捕縛された変質者である。当然だが、今はきちんと服を着せられている。
ライルが聞き取りを行い、シャマルがメモしていく。私は立ち会い。
本来は騎士がやるんだけど、今回の事件は騎士たちがだいぶ怒っているのでこっちでやる。任せたら絶対に取り調べという名の拷問になるから。
「貧民たちの窮状を世間に伝えんとするべく、町の広場を爆破しようと試みました」
神妙な面持ちから、思わぬテロリストっぽい政治思想的な発言が飛び出す。
何言ってるんだコイツ。意味がわからない。
「あー、うん。爆発の魔法を使った理由じゃなくて。町の中でチ◯コ出した方の説明を貰えるかな?
「……貧しい者たちから」
「政治犯的なのは罪が重くなるよ」
法でそう決まってるわけではないけど、領主への攻撃かどうかで罪の重さへは影響が出ると思う。
なぜなら私が許さないから。私の領主としての目標は『裕福な暮らしをしつつ、家臣や領民に殺されない』だから、攻撃には重い罰を加える。死にたくないし。
「嘘です。ただ外でチン◯を出してみたかっただけです……」
今度はしおしおになった顔でそう答える。
「性的好奇心を満たすためにやったということ?」
「だって男だったら誰だって外でチン◯出してみたいって思うじゃないですか!」
目を血走らせて絶叫する男。
主語がデカい。
「わかる、わかる。出したいよな」
ライルがニコニコしながら同意している。
……本気じゃないよね?
「ぇ……」
シャマルが死ぬほど嫌悪感を帯びた顔でライルを見ていた。
「昔からやってみたかったんです。この町は小さいし、警備も少ないからやれるかなって。オレ、強さには自信あったから、逃げれると思ったんです……ッ!」
男は静かに涙を流す。
まったく同情する気が起こらない涙って初めて見た。
「で、貴方は何者なんですか?かなり高位の魔法を使っていたようですが」
「冒険者です」
やっぱり冒険者か。冒険者はとにかく問題を起こす。
これまでの変質者も変態中年男性冒険者だったし。
「ランクは?」
「A1です」
「んあ!???」
驚きの余り変な声が出た。A1級の冒険者?
市中で性器を露出させて徘徊してた男が?
冒険者のランクはB2・B1・A2・A1・SGで分けられている。冒険者ギルドの方でなんかしらのポイントを付けてて、それによってランクが上下するらしい。
A1は上位20%の中に入る実力者だ。彼もきっとすごい火炎魔法の使い手だったんだろう。
「えっと、ギルドにちょっと確認とりますね……」
ギルドの人を城まで呼んでもらい確認する。しばらくするのギルドから支部長がやってきて……
「アイルトンさん、何してんですかマジで……」
絶句していた。
本当にA1級冒険者らしい。
ライルが生い立ちから犯行に至るまでの彼の半生を聞き取り、ギルド側にも確認をとっていく。
輝かしい冒険の数々が語られていくのは聞いてて悲しくなってしまった。
なんでチン◯出すの我慢できなかったんだこの人。
★
変質者の捕縛事件について、城で事後処理の話し合いが持たれた。
昨夜の出来事を書類にまとめ、どういう判決を下すのかを話し合う。
「罪人は冒険者アイルトン、41歳の男性。動機については『性的な好奇心を満たすためにやった』とのこと」
執務室には主要メンバーが集まっている。心なしか女性陣のやる気は感じられない。
あれこれ調べたけど、動機は本当に『町中で性器をモロ出ししたいという好奇心に勝てなくなった』だけらしい。やる気が出るわけなかった。
「罪状は公然わいせつに加えて、騎士を攻撃して逃亡、爆発を引き起こして家屋を多数破損させてたこと。火災により燃えた家が出ています」
爆発の影響で、広場に面した家屋が二軒ほど全焼した。水魔法ですぐに消火に当たったので魔法が直撃した家以外は大きな火災被害はなかったが、単なる変質者が出した被害としては甚大だった。
「調べてみたけど、公然わいせつについては過去に罰金で金貨5枚の判決を出してる。家屋の損壊は分かり次第で賠償なんだけど……」
「問題は爆発による火災被害の方です。前例がありませんが、木造家屋の多いこのカルミアで火災を引き起こしたことは大罪です」
この町は木造家屋が多く、しかも一部は密集していて火には弱い。そのためちょっとした放火なんかでも重罪としている。私の代では初めてだけど。
「死者はいないけど、これって放火と同じ扱い?」
「ただ意図的に家に放火したわけではなく、逃走中に争った結果ではあります」
「どの程度の罰が妥当なのかしらねー」
「斬首でよいのでは?」
ビダーヤが死罪を主張する。
彼女の中で冒険者への印象がかなり悪化しているようらしく、しきりに「斬首しましょう」と行ってくる。
しかし、死罪までいっていいもんなのかな、これ。
「放火だと確か強制労働20年ってのが前にあったっすよね?」
「強制労働?どこで?」
「奥アレイアだったかなー。ベル湖の方っすよ。ウチの領地があるんで」
「あぁ山で木材を切り出すやつね」
アレイアは山岳地域にある湖に面した地域で、木材や木炭らガラスなどの生産が盛んだ。
そこの山奥で逃げられないタコ部屋に突っ込まれて、まともな自由もなく毎日働かされる労刑のはず。
「じゃぁもう強制労働でいいんじゃない?」
「みんなそれでいい?」
「斬首にしませんか?」
ビダーヤだけは極刑を希望している。
聞かなかったことにして、他のメンバーから合意を取り付け強制労働で判決を確定させる。
これにより沙汰は決した。ヨシ。
強制労働をさせて、その利益を賠償にあてる。
あとは冒険者の犯罪はギルドにも管理責任が発生するので、家屋修理の賠償へ参加させることになる。
ギルドの支部長が近隣に謝罪行脚をする羽目になっていたようだ。
手柄を立てた騎士たちには感状と報償金を出した。特に隊長の二人。
感状は手柄を立てたことを褒賞するもので、再就職する際に実力を証明するものとして使える。
A1級冒険者が相手でも戦闘訓練を受けてる騎士たちは怯まないし、なんなら強い騎士だと彼らを凌ぐ実力を持っている。
書物や演劇では冒険者の活躍がよく描かれるが、現実では子供の時からガチな殺しの訓練を受けてる騎士の方が強いケースが多い。
うちの騎士団が強いというのが内外に示される事件でもあったわけだ。
本来なら誇れることだが、内容が内容だけに笑われそうなのであまり喧伝したくはないけど。
★
「そういえば、ライル様は町中でチン◯出してみたいらしいっすよ」
夕日が西の空を紅く染め初めた頃、その日の仕事を終えようかとなっていた執務室。シャマルがニヤつきながらそんなことを言った。
「ぇ……」
ビダーヤの顔が引き攣る。
取り調べの時にそういえばそんなこと言ってたね。
「違うから!あれは犯人に気持ちよく喋ってもらうために、あえて否定せずにそう言っただけだから!」
相手の言うことを否定せずに、上手いこと心を開いてもらうのが取り調べの基本だもんね。本心じゃないよね。
しかし
「まぁわかりますよ。そう言う気分になることもあります」
スレイマンが書類をトントン整理しながらそんなことを口にする。
え、本気で言ってる?
「最低だ……」
ビダーヤは軽蔑の目を男たちへ向ける。
普段真面目な人がそんなこと言ったことで、男性露出願望説の信憑性が高まってしまった。
もしもライルがやったら、一度目は許してあげよう。でも二度目はもう私がちょん切ろう。
そんなことを思いながら、今日も一日中の業務を終えたのだった。




