第3話「守りたいと思ったから」
「少し、歩けそうですか?」
僕がそう聞くと、ミアさんはゆっくり立ち上がった。
「はい……さっきよりは、大丈夫です」
まだ少し不安定だけど、さっきよりは確実に良くなっている。
「無理はしないでくださいね」
「ありがとうございます……」
小さく微笑むミアさん。
そのまま、ゆっくり歩き出す。
森の中は静かで、少し緊張が続いていた。
「……あの、ハルトさん」
「はい?」
少し間をおいて、ミアさんが口を開く。
「どうして、あんなに強いんですか?」
「え?」
思わず足を止めそうになる。
「いや、僕は……そんなに強くないですよ」
正直に答える。
実際、ついさっきまで戦えなかった。
「でも、あの魔物……一人で倒してました」
「……それは」
少し迷う。
どこまで話していいのか分からない。
でも――
「たまたま、です」
そう答えるしかなかった。
ミアさんは少し考えるように黙ったあと、
「……優しいんですね」
と、ぽつりと言った。
「え?」
予想外の言葉に、思わず聞き返す。
「普通は……見知らぬ人のために、あそこまでしません」
「……そう、ですか」
少しだけ、照れる。
でも同時に、どこか納得する。
「僕はただ……見えちゃっただけなので」
「見えた?」
「あ、えっと……」
しまった、と思う。
でも、もう言ってしまった。
「危ないって分かったから……放っておけなくて」
そう言うと、ミアさんはじっと僕を見つめた。
「……やっぱり、変わってますね」
「えっ」
「いい意味で、です」
少しだけ微笑む。
なんだか、少しだけ安心した。
そのとき――
ガサッ。
「……っ!」
気配。
しかも、さっきより近い。
「下がってください、ミアさん」
前に出る。
魔物が現れる。
今度は二体。
「……来る」
一気に距離を詰めてくる。
「っ!」
さっきより速い。
でも――
「落ち着いて……」
自分に言い聞かせる。
そのとき、ふと思い出す。
さっき拾ったスキル。
「魔力操作……」
試したことはない。
でも――
「やるしかない」
手を前に出す。
意識する。
体の中の何かを、外に流すように。
「……っ!」
うまくいかない。
でも、もう一度。
「動いて……!」
その瞬間。
手のひらに、淡い光が集まった。
「……出た」
驚く暇もない。
魔物が迫る。
「行け!」
光を押し出す。
ドンッ!!
空気が弾けるような音。
目の前の魔物が吹き飛ぶ。
「……え?」
自分でも驚く。
でも、止まらない。
もう一体が来る。
「もう一回……!」
同じように意識する。
さっきより、少しだけスムーズに動く。
「はっ!」
光が放たれる。
ドンッ!!
二体目も吹き飛んだ。
静寂。
「……はぁ」
息を吐く。
まだ心臓がうるさい。
でも――
「なんとか、なった」
後ろを振り向く。
ミアさんが、驚いた顔でこちらを見ていた。
「……魔法、使えたんですね」
「え?」
「今の、魔力操作ですよね?」
「た、多分……そうだと思います」
正直、自分でもよく分かっていない。
でも確かに、何かを使った。
ミアさんは少し考えるようにしてから、ゆっくり言った。
「……やっぱり、普通じゃないです」
「そ、そうですか?」
「はい」
はっきり言われて、ちょっと困る。
そのあと、少しだけ迷うようにしてから――
「……あの」
ミアさんが小さく声を出す。
「私のこと、少しだけ話してもいいですか?」
「え?」
予想外だった。
「……はい、もちろん」
頷く。
ミアさんは、少しだけ視線を落としてから言った。
「私……普通の旅人じゃないんです」
「……?」
「小さな教会で、治癒の役目をしていて……」
「治癒……」
つまり、回復系の人。
「でも、その……」
言いづらそうに続ける。
「少しだけ、特別な力があって……それで、狙われることもあって」
「……っ」
さっきの状況が頭に浮かぶ。
一人で森にいた理由。
全部繋がる。
「だから、あまり人には言わないようにしてるんですけど……」
ミアさんが顔を上げる。
「ハルトさんなら、大丈夫だと思って」
まっすぐな目だった。
「……ありがとうございます」
自然とそう言っていた。
「僕も……誰にも言いません」
ミアさんが少しだけ安心したように笑う。
その表情を見て、思う。
「……守りたいな」
さっきより、はっきりと。
「ミアさん」
「はい?」
「この森、まだ危ないので……」
少しだけ勇気を出して言う。
「よかったら、一緒に町まで行きませんか?」
ミアさんは少し驚いたあと、やわらかく微笑んだ。
「……はい。お願いします」
その一言で、少しだけ安心する。
一人じゃない。
それだけで、こんなに違う。
「……よし」
小さく呟く。
「ちゃんと、守れるようにしないと」
そう思いながら、僕たちは歩き出した。
森の出口へ向かって。




