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魔素の兆-サイン-  作者: 錦の旗印
第一章 村編
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第5話 新たな家族

弟が生まれた。家族が4人に増えた。


元の世界では、俺は一人っ子だったから、新鮮な感覚だ。

というか二人ともいつヤることヤッてたんだ??

俺は音や声を聞いた記憶ないんだが.....

まあ、俺が寝たのをしっかり確認してから

始めてたってことかな?



ったく羨ましいねぇ.....




そんなこんなで、

弟が生まれてから、家の空気が少し変わった。

静かな時間が減ったというか、以前より、

泣き声と笑い声が増えた。


リーネは一日中忙しそうだった。

洗濯物を干して、弟をあやして、また台所へ行って、

ようやく腰を下ろしたと思ったら、また泣き声が響く。

そのたびに「はいはい、どうしたの」と言って立ち上がる。

まるで一日中走り続けてるみたいだった。


ルツは、といえば、

口数はいつも通り少ないけど、

どこか優しくなった気がする。


リーネが弟を抱いてると、

無言でそっと湯を沸かして、スープを作ってたりする。


たまに赤ん坊が泣くと、少し焦っているような、

素振りを見せ、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと

忙しそうだ。


今までのルツは落ち着いて、クールで寡黙な感じだったが

そのイメージからは想像できない姿が見えて、少し面白い。


もしかしたら、ノアくんが生まれた時も

このような感じだったのだろうか。



ちなみに、この弟なのだが、まだ名前が無い。


子供は、生まれてすぐには名前を付けず、

ある程度共に生活をして、そこから

ふさわしい名前を考えるというのが

この世界の風習なんだそうだ。


呼び方がない存在ってのも、なんか不思議だな。


リーネは「ノアにもそのうち呼び方を考えてもらうわね」と笑ってたが、結婚は愚か、誰とも交際したこともなければ、

ましてや、誰かの出産なんかにも立ち会ったこともないよう

な奴にそんな名付けなんて大役、急に任されても困るんだが。



そして、半年経った頃に、それは起こった。

夜泣きだ。俺の部屋は廊下を挟んで寝室の向かいだから、

夜中に泣き声がすると、ばっちり聞こえる。


最初の夜は、三回くらい起こされた。


「くっ....結構ハードじゃないか……」


と、半分寝ぼけながら思ったが、

でも、不思議と腹は立たなかった。


泣き声が聞こえるたびに、

リーネの声や、ルツの足音も一緒に聞こえてくる。


逆に大変だなぁ.....なんて思いながら、

俺は毎度、二度寝を決め込んだ。


だが、やはり辛いものは辛く、

日中でもぼーっとする日が日に日に、

増えていくような気がした。



昼間は、俺も少し子守りを手伝うようになった。


おむつを取り替えるのはさすがにわからないし、

怖いんで、せいぜい洗濯物を運んだり、

ミルクを温めたりする程度だけど。


弟の手は信じられないくらい小さくて、

指を握られると、なんか守らなきゃって気持ちになる。

か、かわいい....


それをリーネに話したら、

「じゃあ、ノアはもう立派なお兄ちゃんね」と笑われた。

いや、そんな大げさな……と思いつつ、

ちょっと悪い気はしなかった。


さらに、数ヶ月後の夜、弟がようやくすやすや眠り、

夜泣きをすることがなくなってから、

家の中が久しぶりに静かになった。


次の日、みんなで夜泣きが終わったことについて話しあう。

リーネは疲れた顔をしてたけど、どこか幸せそうだった。

ルツは料理の火を弱めながら、

「よく頑張った。ありがとう。」とだけ言っていた。


声は小さかったけど、

家の空気があたたかくなっていく気がした。

良かったな。ルツ、リーネ。

ありがとう。赤ちゃん。








違った。夜泣きの時間が変わっただけだった。

弟は、またすぐに泣き出した。








弟の夜泣きは、さらにまたしばらく続いた。


生まれてもうすぐ一年が経つはずだが

夜になると泣くことがまだ多々あった。


てか、夜泣きって普通いつから始まって、

いつまで続くんだ??子供や、兄弟がいないから

考えたこともないし、調べようと思ったこともなかったな...



ちなみに長い間続いている夜泣きだが、

最近は泣き方が変わってきた。

以前は「助けてくれぇ!」みたいな大絶叫だったのだが、

最近は、「んー……」って感じの小さい声で、

控えめに主張してくる。


成長ってのは、泣き方にも出るんだなと変に感心した。

それとも、俺らが疲弊してるのがわかったから、

遠慮してくれてるとか?いや、そんな訳ないか。



最近では、家の中もすっかり弟中心の生活になっていた。

リーネは以前にも増して忙しい。

洗濯して、料理して、あやして、寝かせて。

一息ついたと思ったら、下からしーしをこぼす。

その度、ルツは無言で布巾を持って拭いてる。

多分、慣れてきたんだろう。


俺は、以前より畑に出る頻度が減ったルツに変わって

畑を手伝うようにした。

まあ、以前が畑に出すぎなだけであって、

正直俺が手伝わなくても全然、

農作物は、悪くならなさそうだった。


畑仕事の手を止めて、家に戻ってくる途中、

庭でリーネが弟を抱っこしてるのをよく見る。

陽に透けた髪の下で、小さな手がバタバタ動いていて、

リーネが「はいはい、落ち着いて」と笑ってる。

その光景だけで、癒され、畑の疲れが抜けていく。




そして、ついに弟に名前を付ける時がきた。


ある晩、夕食のあと。

リーネがスープを飲み終えたタイミングで、

「そろそろ、この子の名前を決めましょうか」と言った。


ルツは腕を組んで、

「そうだな」とだけ答えた。


なんか重大な話が始まったぞって空気になる。


「ノアもなにか考えてくれた?」


「そうですねぇ.....考えては見たものの、

ピンとくるのはなくて.....」

ごめんなさい全然考えてなかったです。


「あんまり難しく考えなくてもいいのよ。じゃあそうねぇ...

一旦3人で候補を出しましょうか。」


リーネはテーブルの上に紙を広げて、

いくつか候補を書き出していた。


「『アレト』とか、『ミル』とか、『セレン』とか、

……どうかしら?」


どれも悪くないけど、

うーん……なんかピンとこないというか。


ルツは「とりあえず短い方がいい」とだけ言って、

考え込んでいた。


ルツにさすがに音の響きとか語感とか、

そういうセンスは期待できない。気がする。


たぶん、彼が本気で考えたら

「タロウ」とか「ブドウ」とか出してくるタイプだ。


「ノアはどう思う?」


リーネがこちらを見て言ってくる。


そうだなぁ.....とりあえず頭の中でいくつか思い浮かべる。


これから一生呼ばれる名前だからな....

本人が気に入らなかったり、変な名前だと気にしたり、

はたまた他の人にいじられたりするからなぁ。

慎重につけなきゃいけないよなぁ。


そう思い、赤ちゃんの顔を見ると、

弟はちょうど、リーネの膝の上で寝ていた。


ほっぺが柔らかそうで、口の端にミルクがついてる。

じっと見ていると、なんとなく言葉が出た。


「……シリウス、なんてどうですか。」


「シリウス?」

リーネが首をかしげる。


「なんか……

我が家を明るくしてくれる子って感じがして。」


シリウスは、おおいぬ座の一等星で、

冬の大三角形のうちの一つ。

冬の星座では、一番明るく見える星だ。

我が家を明るくしてくれる、

この子に合う名前では無いだろうか。


「シリウスか。悪くない。」

ルツが短く言ってうなずいた。


あれ、珍しく即決じゃないっすか?

えっ、いいんすか?とか思ったが、

そのままその場で決まった。


こうして、弟の名前は“シリウス・マックイーン”になった。


翌朝、リーネは何度も「シリウス」と呼んでいた。


そのたびに、弟が少しだけ笑う気がした。


子供が生まれるだけで、

こんなに家の中が明るくなるものなのか。


俺もつられて、

「おーい、シリウス」とか「シリウス、お兄ちゃんですよ」とか言ってみた。けど、なんの反応もなし。



嫌われてる.....??



ルツは「まだわからないさ。」と言って少し笑い、

リーネもその光景を見てつられて笑う。


それからの日々は、ゆっくり変わっていった。

シリウスはだんだんと目を合わせるようになって、

手を伸ばすようになった。


俺の服を引っ張ったり、髪を掴んだり。

「痛いぞ」と言っても、本人はケラケラ笑ってる。


子どもの力って、地味に強いなぁ。


リーネはよく「ノア、抱っこしてみなさい」と言うけど、

正直まだ怖い。


首がグラグラして、どう持てばいいか全然分からない。

けどある日、リーネが手を添えてくれて、

初めてちゃんと抱っこできた。

その瞬間、シリウスが俺の服を握って離さなかった。


その手が小さくて、でも確かに生きてて、

なんか胸の奥がちょっと熱くなった。


ルツは相変わらず無口だけど、

シリウスのことになると少し態度が変わる。

畑仕事から帰ってきたあと、

手を洗ってからすぐにシリウスの様子を見に行く。


「ほら、ごらん、笑った。」

まるで少年みたいな顔で言うのが、

ちょっと信じられなかった。


リーネも相変わらず忙しいけど、

前より楽しそうだった。


シリウスが泣いても全く動揺せずに。

「この子、ちゃんと泣けるってことは元気な証拠なのよ。」

そう言って笑ってあやす。



そんな日常が続いたある日の昼下がり、

自室での勉強にひと段落つけ、

一階に降りる、と家の中には誰もいなかった。


窓から外を見ると、リーネが庭で洗濯物を干している。


入念にシワがつかないよう何度も洗濯物をはたいて、

シワが伸びたのを確認し、物干し竿にかける。


その少し後ろで、

シリウスが芝生の上に敷かれた布の上で寝ている。



最近なんだか、顔の輪郭が少しリーネに似てきた気がする。



見ていると、寝返りを打とうとして失敗し、

「ふぇっ」と泣きそうな顔をしている。

すかさず気づいたリーネがシリウスを抱き上げ、

またゆっくりとあやす。



子供ってなぜこんなに庇護心を掻き立ててくるのだろうか。



そんなことを考えながら、

窓から離れ、台所でコップに水を入れて、乾いた喉を潤し、

リビングのテーブルの座り、ぼーっとしていると、


少しして、ルツが畑から戻ってきた。


背中には少し泥がついていて、

手には小さな芽が入った木の箱を持っていた。


「ノア、これを裏の庭に植えるぞ。」


「何の芽ですか?」


「リンゴだ。

これが大きくなる頃には、シリウスも歩いてるだろう。」


そう言ってルツは、俺を呼び出し、庭先に一緒に穴を掘る。


家の方に目をやると、

窓の向こうで、

リーネがシリウスを抱いて一緒にこちらを見ている。


植え終わったあと、二人で並んで苗の前に立ち、

山の奥に沈む夕日を眺める。


風が吹いて、苗の葉や周りの木々の枝葉が揺れ、

ガサガサと音を立てる。


「……父さん。」

「なんだい?」

「なんか、こういうの、いいですね。」

「そうだね。」

ルツは短く答える。




そういえばリンゴの木って言ってたけど、

リンゴ、久しく食べてないな。

てか、なんか考えてたら食べたくなってきたな。


実つけたら内緒で取って食べようっと。

そう思いつつ、ルツと一緒に家の中に戻る。


こうして俺らの家に一人、家族が増えた。

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