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魔素の兆-サイン-  作者: 錦の旗印
第一章 村編
4/30

第3話 村での生活

※ 誤字や後々変えた設定があったのでそれに合わせて、

文章が若干変わっています。申し訳ありません。

朝か。そう思って目を開けると、

窓から部屋に光が差し込んでいた。


ベッドから降りて窓に近づき、手をかけて開ける。


澄んだ空気が鼻を抜けていって、

吸い込むたびに肺が軽くなる……気がする。


魔素が多い土地ほど空が透き通って見えるらしいけど、

この村の空はほんとに薄い硝子みたいだ。


魔素は見えない。けど、確かに在る。

風が通るたびに空気の密度が少し違うのが、

最近は肌で感じ取れるようになってきた。


この世界に来てさらに半年。

うん、だいぶ馴染んできたな。


この村〈オルダ村〉は地図に載らないくらい小さい。

見渡す限り麦畑と牧草地、家々は五十軒もない。


朝になると、どこかの煙突から白い煙が上がって、

ゆっくり空に溶けていく。……


朝の鐘が三度鳴くと、人々が一斉に動き出す。

家の前で石畳を掃く主婦、

川辺で網を持って魚を追いかける子どもたち。

響いてくる丘の上の小さな教会の鐘、

パン屋の窓からは甘い香り。



田舎ってなんかいいね。

ネットないのマジ終わってるけど。



服を着替えて下に降り、

父さん母さんと三人で朝食を取り、

部屋に戻って机上の本を手に取り、再び一階に行く。


リーネに行き先を伝えて家を出る。

で、村の中央広場へ歩いていく。

いつものコースだ。


広場には旅商人が数人、

荷馬車を止めて露店を広げていた。

香辛料の匂い、布の山、磨かれた魔素灯。

あの灯は夜になると空気を淡く光らせるらしい。



中央広場まで歩いていくと突然声をかけられた。

「おや、ノア坊じゃねえか。いい所に来たな。

ちょっと手を貸してくれ。そこの箱の鉄塊を、

こっちまで運び込んでくれるか?」


声をかけてきたのは、鍛冶屋の爺さんだ。

相変わらず腰は曲がってるのに腕力は若者超え。

顔が隠れるほど荷物も箱も山積みだ。



「わかりました。鍛冶場までで大丈夫ですか。」


「おうよ!」

鍛冶屋の奥から返事が返ってくる。

荷物を全部持って中へ入ると、爺さんが鉄を打っていた。

ハンマーが落ちるたび、空気が軽く震える。

魔素が鉄に馴染んでる音、だと本人は言っていたっけ。

かっこいいな、その表現。



数言交わして、俺は鍛冶場を後にした。

まだ少し耳の奥に鉄を打つ音の残響が残っている。


昼前に寄ったのは、中央広場の外れにある図書館。

といっても図書館と呼ぶにはちょっと狭い。

古い石造りの建物に木の棚がいくつか。

外壁の魔素灯が昼でも淡く白い。

ここは村で唯一、

魔素の学術書や魔術書を保管してるらしい。


扉を押すと、紙の乾いた匂いと古木の香り。

外の賑やかさが嘘みたいに静かで、空気がふっと沈む。


本棚に陳列された本の背表紙を見ていると、

突然声をかけられ、一瞬ビクッとなる。


声をかけられた方向を振り向くと、

受付のカウンターに少女が座っていた。


村の司書の人だ.....今日はあの男の人じゃないのか.....

女性.....苦手だなぁ....

そんな事を考えているとあっちから話しかけてくる。


「おはようございます。練習帰りですか?」


「いえ、今日はまだ....」


「そうなんですね。珍しいですね。

いつもは練習帰りにいらっしゃるのに。」


「そういえば、この前借りていった魔術本、どうですか?」


「読み終わったので、今日はその本の返却に....」


「早いですね。借りて行かれたのは、

4日前だったと記憶していますが。」


「もう読み終わりました.....」


「なるほど、でも記載されている内容は第二等級の魔術ですよね、習得には時間がかかるはず....」


「呪文と理論については、書き写したので....」


「なるほど、勉強熱心ですね。では、返却ということで、本日は他になにか借りて行かれますか?」


「少し見て回ることにします。」

そう言って、俺は本棚見て歩き回り、第三等級の魔術本と

魔物についての教本を借りて、足早に図書館を後にした。


やはり、女性との会話はまだ怖い。



ーーーーーーーーーーー


昼過ぎ。丘の上まで歩いて、いつもの場所に腰を下ろす。


村が一望できるお気に入りの場所だ。

小川が緩やかに蛇行していて、その両脇には畑が続く。


風が吹くと、金色の麦が波のように揺れる。

この丘の上には小さな教会があり、

昼と夜の境目の時間になると、

年配の人たちが集まって「魔素詩」というのを歌うらしい。



このまま昼寝でも……いや、日差しちょい強い。

まぶたの裏に光が透けて、眠るには眩しすぎる。

仕方なく、俺は体を起こして伸びをした。


「さてと.....魔術に練習行くか。」


立ち上がり、横に置いてある本を取って、

丘を降りて、来た道を戻る。


門をくぐり、村の外に出て、森までの道を歩いていく。

この道も慣れたものだ。



ものの10分程度で森につき、いつもの練習場所に向かう。

森に入り、木々が少ない開けた場所を目指す。


木々の隙間から漏れる光が、ゆらゆらと揺れていた。

地面には苔が柔らかく生えていて、

踏みしめるたびに小さな音を立てる。


いつもの場所に鞄を置いて、深呼吸をひとつ。

「よし、やるか。」


今日から、第三等級魔術の練習だ。

この世界の魔術は、魔術の形、威力、規模などを、

イメージして、その強さに応じた、魔素を、

手の中や、杖の中に魔核を通し、

魔術を作り込み、詠唱によって、

その魔術を発動、及び発射する。

というプロセスを踏んでいるようで、

イメージ力も重要なんだということを知った。


それがわかってからは、

第二等級までならある程度練習を重ねたら

すぐ、できるようになった。


まだまだ魔核容量的に余裕がありそうなんで、

今日からは、第三等級魔術の練習だ。


第三等級魔術。文字で見る分には簡単そうだった。

第三等級魔術は、各元素ごとの魔術の種類が多いが、

ほぼ全て、元素の違う第一等級、第二等級の魔術の組み合わせを両手から出すという魔術なのだ。


ということでとりあえず、

水魔術と火魔術の練習を始めた。


魔力の流れのイメージを二重構造にして、

二つに均等に魔素を流し込む。それだけ。

頭では分かっている。

けど、いざやってみると全然上手くいかない。


手のひらに魔力を集める。空気が少し震える。

ここまではいつも通り。そこから、二重構造にして。

合体させようとすると、


「……っ、くそっ!」

また弾けた。光がぱっと散って、風に溶ける。


もう一回。また失敗。もう一回。やっぱりダメ。


何度も何度も繰り返すうちに、

手のひらが少し熱くなってきた。それでも止めない。


集中しすぎて、時間の感覚がぼやけていく。

気づけば、陽の光が少し傾いていた。


「おかしいな……理論上は合ってるはずなんだけど。」

呟きながら、もう一度魔力を練る。


額に汗が滲む。


二つの魔術を合体させるように流す。

だが合わせるように流せば流そうとイメージするほど、

力が逃げる。


もう一度練る。額に汗。二つに分けて流す。均等を意識すればするほど、力が逃げる。角度を変えてみる。


はい、また失敗。


「はぁ.....少し休憩しよう。」


そう思い、近くの切り株の上に座りながら、

持ってきた魔術書に書かれていることを

もう一度自分の中に落とし込み、反芻させる。

第二等級までなら、ある程度のイメージと詠唱で、何となくできていたが、第三等級からはより精密なイメージが必要なようだ。


その後本を地面に置き、空を見上げ、休憩する。

木々の枝の間から、青い空が覗いていてきれいだ。


しばらくぼんやりしてから、また立ち上がって手を構える。

「よし、もう一回。」




結局、何十回目になったか分からない位の失敗。

魔力を練る。放つ。失敗。

魔力を練る。放つ。失敗。

その繰り返し。

あ〜疲れた....

「まぁ、もう、今日はこのへんにしとこうかな....」


腰を下ろして、草の上に仰向けになる。

木漏れ日がちらちらと目に入り、

風が頬を撫でていく。

魔術の練習は、やっぱり難しい。

そんなことを思いながら、

俺はしばらく、ぼーっと空を眺めていた。



「こんにちは。」

声がした。

起き上がって振り向くと、木漏れ日の中に、

淡い栗色の髪を揺らすあの女性が立っていた。

長い髪が風に遊ばれ、光を反射して、

ほんの少し金色に見える。


「あっ....前回この森で......」

「えぇ....お久しぶりです。またやっているのですね。」

彼女は、少しだけ呆れたように、

けれどどこか柔らかい表情で笑った。

その笑みを見た瞬間、胸の奥が少し落ち着く。


「第三等級魔術、ですか?」


「……えっと...何故....」


「魔素の流れが激しかったですから。

でもすごいですね。この前、会った時は第一等級の

それも、基礎の火と水をやっていたのに.....

目を見張る成長速度です。

第三等級魔術ですか.....私が教えてあげましょうか。」


「第三等級魔術を使えるんですか。」


「ええ、もちろんです。なので、

よろしければ私が教えてあげますが。」


えっ.....

第三等級魔術って上級者の魔術だろ....?

なんで第三等級魔術を使える人物がこんな

田舎の村に住んでるんだ?

そう思いつつ、答える。

「えっと....じゃあお願いします....」


「魔素は押し出すものではなく、通すものです。

力を入れすぎると、魔素は反発し、消えてしまいます。

風を掴もうとしても掴めないのと、同じです。」


そう言って、彼女は俺の手を取った。

柔らかいけれど、芯のある指先。

思わずドキッとして、少し頬が赤くなる。

そのまま、彼女はそっと魔素を導くように手を動かした。


「感じますか? ほら、ここ。」

「流れが……変わった。」


指先に集まった魔素が、ふわりと形を成した。

淡い光が浮かび、水滴のように空中で弾ける。

「第二等級までは完全に制御できていますね。」

彼女はそう言って、満足そうに微笑み、

そして少し表情を引き締め、手を離した。


あ.....あぁ....



「では、第三等級を試してみましょう。」

彼女の言葉に、真面目になり、息を整え、

再び片手を前に出し、魔素を練る。

魔核の奥が微かに震え、空気の粒が掌に集まってくる。


「第三等級は、二つの魔術を同時に操るものです。」

彼女が静かに言う。


「たとえば、水と火。正反対の魔素を共存させるのが基本の練習です。衝突させず、均衡させるのです。どちらかが勝てば、もう片方が消えます。魔素は繊細ですから。」

そう言いながら、彼女も片手を前に突き出し、

指先から、淡い青と橙の光がゆらりと生まれた。


そしてそれは互いを押し合うように揺れながら、

まるで踊るように一つの輪を描いて混ざり合った。

「……これが、第三等級の初歩。共鳴です。」


彼女が一歩下がり、俺に視線を向ける。

「さあ、あなたの番ですよ。」


掌を握り、もう一度開いてから魔核に意識を沈める。

魔素が流れ出し、体の中を循環する。

火の第一等級魔術を右手に発動し、

そして間髪入れずに、水の魔術も発動し、

同じように魔素を流し込んでいく。

同時に、放つ。


一瞬で弾けた。


水が蒸発し、火が散り、風圧だけが残る。

「っ……」

「力を入れすぎです。魔素は

無理やりおさえつけるものではありませんよ。」

彼女の声が落ち着いていて、

叱られているのに、なぜか安心する。


もう一度だ。

呼吸を整え、魔素をゆっくりと分け、二重構造に。

心の中で二重のイメージを描く。

水と火を争わせず、溶け合わせる。

右手の中に、淡い青と橙の光が生まれる。


最初は震えていた光が、

やがて滑らかに溶け合い、小さな熱を持って輝いた。

「……で、できた?」


「ええ。では、その状態で、詠唱を。」

彼女が微笑む。


「水火魔術、第三等級、ヴェイパー・シンク」

詠唱すると、瞬く間に、手の中に、水が出てきて、

すごい勢いで沸騰を始める。

そして大量の蒸気が立ち昇っていった。


「第三等級、水火複合魔術の初歩成功です。

よくやりましたね。素晴らしいです。」


安堵と達成感が混ざって、胸の奥がじんわりと熱くなる。

けれど、次の瞬間には、やっとの思いで成功した複合魔術の光は、すっと消えた。そしてその後、

何度やっても水火複合魔術は成功しなかった。


次に、

風と土の複合魔術をを試みたが、

空気が弾くように拒み、何も起きなかった。

「やはり、まだ難しい風や土などの複合は.....」


「焦らなくていいですよ。」

彼女は柔らかく微笑んだ。


「水と火を均衡させられるだけで立派です。

そもそもこの段階まで来れる者が、少ないのですから。」

彼女の言葉に、胸の中の疲れが少しだけ和らぐ。


気づくと、

いつの間にか、

女性と話す怖さみたいなものが消えて、

彼女と自然に話すことができていた。


「そういえば、私の名前、まだ言っていませんでしたね。」


「え?」


「フェリシアです。そう呼んでください。」

淡い光の中で、彼女の瞳がひときわ輝いた。


「フェリシアさん。」

素敵な名前だ。


その後もう一度、火と水の複合魔術をやり、

バッチリ失敗したあと、


「そうそう、簡単に上手くいくものではありません。

こまめな練習を忘れないでくださいね。

では、私はもう行きますね。」

そう言って、フェリシアさんは小さく微笑み、

風に揺れる木々の間を、静かに歩いていこうとした。

その後ろ姿を見て、思わず声をかける。


「……フェリシアさん。」


「はい?」


「また、教えてもらえますか。」


「もちろんいいですよ。

あなたが学びたいと思い続ける限りは。」


彼女は笑顔でそう言い、また前を向いて行ってしまった。


彼女がいなくなり、気がつくと、あたりは暗くなって、

日が沈みかけていることに気づき、俺も足早に森を出た。


森を抜けると、空の端が赤く染まっていた。


遠くでは牛の鳴き声と、

家畜小屋を閉める音がかすかに響いていた。

麦畑の向こうには、夕陽を反射して光る屋根が並んでいる。

家といっても、木と土でできた簡素な造りで、屋根には乾いた草が厚く積まれている。

煙突からは夕餉の煙が上がり、少し焦げたような匂いが風に混じって流れてきた。

足を速め、家の前で立ち止まり、

そばにある、溜め井戸から水を汲み顔を洗う。



さっきのフェリシアさんの言葉が静かに響いていた。

「あなたが学びたいと思い続ける限りは。」


森の方角を見ると、木々の影がゆらめき、その奥にあの少女の姿を思い浮かべる。

「フェリシアさん…」

つぶやいたその名は、魔素のように、

ゆっくりと俺の心に沈んでいった。



家の扉を開けると、

木の香りと温かい匂いがふわっと広がった。

鼻をくすぐるのは、間違いなくリーネのシチューの匂いだ。

よっしゃ、これは当たりの日だ。


「ただいま戻りましたー。」

「おかえり、ノア。もうすっかり日が暮れてるわよ。」

台所の方から、母さんの声がした。

白い髪が蝋燭の灯りを反射して、柔らかく光ってる。

その手は器用に木の皿を並べながら、同時に鍋をかき混ぜていた。


「ちゃんと手洗った?」


「はい。井戸の水で。顔も一緒に洗ってきました。」


「えらいえらい。……でも服、また泥だらけね。」


「え、あ……いやその……転びました。」


「ふふ、森でしょ?」


「……はい。」

相変わらず、なんでも察してくるな.....

逆にこええよ.....


席に着くと、ルツがいつもの場所に座っていた。

黙々とスプーンを持ち、パンを割りながらシチューを見つめている。


「今日も畑の方、順調だった?」

俺がそう聞くと、ルツは視線を上げずに答える。


「……悪くはない。風が東から来てる。

明日、麦が乾くだろう。」


「なるほど、やっぱり天気読めるのすごいですよ。」


「土や風の匂いを覚えれば誰でもわかる。」


「いや、俺には一生無理そうですけど……」


「なら、畑に出て覚えることだね。」


リーネがスープをよそいながら笑って言った。

「ルツ、ノアはまだ十二歳なんだから、

そんなに急がせないでよ。」



食卓の上には、香草入りのシチュー、焼き立ての黒パン、

そしてルツが昼間に持って帰った根菜の煮物。

理素灯の明かりがゆらゆら揺れて、皿の縁が淡く光ってる。

箸じゃなくスプーンを持つのにも、もう慣れた。



食事が終わると、

父さんはすぐに席を立って納屋に、道具の手入れに向かい、

母さんは片づけを始めた。

俺も皿を運んで、水桶で洗うのを手伝う。

夜風が窓の隙間を通って、室内の魔素灯が少しだけ揺れた。



「ノア。」


「はい?」


母さんが、手を止めて少し振り返る。


「森に行くときは、ちゃんとルツに言ってから行くのよ。

危ない場所も多いんだから。」


「わかりました。ちゃんと伝えます。」


「……約束よ。」


「はい。」



部屋に戻ると、外はもう完全に夜。

窓の外では、虫の声と風の音が混じってる。


机の上には、今日借りた魔術書とノート。

椅子に腰かけて少しだけ書き込みをして、ふぅと息を吐く。


「……フェリシアさん。すごかったな。」


手のひらの感覚が、まだほんのり残っている。


今日の練習の感覚を思い出し、最後にもう一度、

手を出し、その中で二重構造のイメージを作り、

詠唱をする。


すると手の中の水がボコボコと沸騰し始めた。

成功だ。

「うわ、マジでか.....よっしゃ.....行けた....」

その後床にこぼれた水を急いで拭き取る。

先程の感覚をノートに書き込み、ノートを閉じた。


ふぅ.....さすがに疲れたな....

「よし、今日はもう寝よう。」


ベッドに潜り込みながら、目を閉じる。

頭の中には、今日のフェリシアさんの笑顔と、

母さんの声と、父さんの短い一言。

なんとも言えず、暖かい。

前世では、あまりこんな感覚になることもなかったな.....



あちらの母さんと父さんは元気にしているだろうか。



そんな事を考えながら、目を瞑りゆっくりと眠りに落ちた。

設定って構築してると頭痛くなってくるよね。

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