第27話 三人目
「いいわ。」
ん?ごめんなさい。どういうことですか?
OKってことですか?それともお断りってことですか?
まあOKなわけないですよね。はいごめんなさい。
ありがとうございました。
「だから。なってあげるって言ってんの。」
!!!!!?!!?!??????!!?
あーもっかい言ってくれ。(難聴)
.....ってマジ.....???
いやいや意味が分からない。
先程、
第三等級実践魔術の授業が終わり、学生が全員退出し、
教室には、俺と彼女の二人だけになったので、
早速事情を話し始め、一通り説明したところで、
俺は、
「僕らのチームに入ってくれませんか。」
と切り出した。
もちろん断られると思った。
断られないわけがない。
なぜなら彼女には俺らのチームに入るメリットが、
なーんにもないんだから。
彼女は一人でアルファを相手できるくらい強く、
怪我の応急処置も自分で行ってしまうくらい経験豊富で、
魔術も俺と同等かそれ以上の能力がある。
きっと、冒険者ランクも高いはずなのだ。
それなのにわざわざ冒険者ランクが一番下の俺らのチームに入る意味が分からない。
アレか?アレなのか?
チームに入ってやる代わりに、
報酬はほぼ頂いていくみたいな。
いやその可能性も薄いだろ。
そんな事しないでも、
彼女ならもっと高額で楽に稼げる手段を持っているはずなのだ。
「チームになってあげる。」
この言葉一つでここまで警戒するとは思わなかった。
怪しい。怪しすぎる。何か裏があるに違いない。
危ない。騙されるぞ。
借金の連帯保証人には絶対ならないぞ。
フランス語で「希望」って名前の船に乗って、
星を取り合うゲームなんかしないぞ.....
そしてそのまま借金漬けにされて、
地下で一生、強制労働生活.....
「地下の貨幣の価値は、地上世界の十分の一!」
嫌だ.....嫌だ.....
楽しみが月イチのビールと焼き鳥だけなんて嫌だ....
ぐにゃあぁっ.....
「っと....ちょっと、聞いてる?」
.....っっっと危ない。
一人の妄想の世界に行っていた。
頭を振って正気を戻し、彼女を見ると、
腕を組んでこちらを見ている。
「で、どうすんの?なるの?ならないの?」
「なって。なって欲しい。欲しいです。
でも、なにか条件があるんですよね。
ビルに架かってる電流の流れる鉄骨を渡り切るとか。
奴隷のカードで皇帝に勝つとか.....」
「は?.....ビル?.....鉄骨?.....奴隷のカード?
何言ってんのあんた。」
「違うわよ。条件はあるけど、
あんたならそんなに難しいものじゃないと思うわ。」
「では、なんでしょうか.....」
俺は恐る恐る尋ねる。
「回復魔術を覚えて欲しいのよ。」
「回復魔術ですか....」
「使えないのよ。私。
別に高位の回復魔術を覚えろって言ってるんじゃないわ。
第一、第二くらいまで覚えてくれれば
パーティに入ってあげてもいい。」
回復魔術。授業としては、
第三等級以上の魔術を行使できる生徒のみ受講可能な授業だ。
第三等級も上手く扱えない俺にできるだろうか。
そんな事を思い、彼女に聞いてみるが、
「無理なら、あんたたちのパーティには入らない。」
と言われてしまったので、
俺は泣く泣く、回復魔術の授業にも出席することになった。
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その日の午後。
俺は、本来なら寮に戻ってベッドと一つになって、
ぬくぬくお布団と仲良くした後に、
必修の基礎授業に出るはずだったのだが.....
「回復魔術の授業は、午後から二コマ続きでやるわ。
第三等級実践魔術を受けてる生徒なら、受講資格はあるはずよ。」
彼女は当然のようにそう言うと、教室を出ていった。
当たり前みたいに言うな。
俺の心の準備というものを考えてほしい。
とはいえ、やらない選択肢はなかった。
回復魔術を覚えられなければ、
彼女は俺たちのパーティには入らない。
つまり、前衛探しは振り出しに戻る。
またギルドで何時間も頭を下げ続ける羽目になる。
それは嫌だ。本当に嫌だ。
なので、俺は回復魔術の授業の教室に向かっている。
回復魔術の授業が行われる教室は、
第三等級実践魔術の教室とは違い、
少し静かな端の棟にあった。
教室の中央には、長机がいくつも並べられており、
イメージは小中学校の理科室に近い。
その机の中央には小さな鉢植えが椅子の数と同じ数、
置かれている。
教室にいる生徒の数は思ったより少なく、
第三等級実践魔術の授業の時よりも生徒数は少ない。
第三等級魔術が使える生徒ならみんな受けるものだと思っていたのだが。
そんな事を考えていると、
白衣のような長い上着を着た中性的な顔立ちをした教師が教室に入ってきた。
「では、授業を始めます。今日は初回ですので、まず最初に回復魔術の基礎理論から説明します。」
教師はそう言って、黒板に文字を書き始めた。
ここら辺からはひたすら、理論と歴史をずっと説明されたので、割愛させてもらう。
一通り長い歴史と理論を説明され、
最初の方はノートを気合いで書いていたが、
教師の板書と説明のスピードが早すぎて、
途中からは聞く方に専念した。
回復魔術の理論を要約するとこんな感じだった。
攻撃魔術は、魔素を手の中に集めて魔力に変え、
それを外に向かって撃ち出す魔術だ。
火を出す、水を出す、風を起こす、土石を飛ばす。
だが、回復魔術はそれとは逆に近く、
魔素を外へ出す前に、自分の魔核の中で細かくぶつけ、
傷を癒すための魔力に変え、相手の傷に合わせて、
丁寧に流す必要がある。
説明しててやっぱり無理なが気がしてきた。
一通り説明をした後に、実践に移る。
「第一等級回復魔術の呪文は、リペア・ヴェイン。傷を塞ぐための、もっとも基礎的な回復魔術です。」
教師はそう言ってから、机の上の鉢植えを指した。
内容は、机の中央に置いてある、
葉の一部に傷のついている鉢植えの植物。
その葉っぱの傷を塞ぐことができれば成功とのことだ。
俺は机にある鉢植えの、一つを取って、
自分の前まで持ってきて、
傷のついた葉の部分に手をかざす。
魔核の中に意識を向ける。
が、普段は意識していない場所。
そこに意識を向けるというのはなかなか難しい。
感覚が掴めないまま、
俺はとりあえず魔素を魔核の内側に集め、
慎重に動かそうとした。
その瞬間、指先から小さく魔力が漏れた。
葉が、ぷすっと焦げた。
「…………」
えっと....あの。ごめん。
その後もどうしても上手くいかず、
できていないのは自分だけかと怖くなり、
周りの生徒を見ると、周りも、似たようなものだった。
隣の生徒は葉を萎れさせている。
別の生徒は、葉の傷口を塞ごうとして、
逆に裂け目を広げてしまっている。
教師が教室を歩きながら、淡々と注意していく。
「魔核の内側を意識してください。
魔力を作る前の段階です。そこで性質を変えるのです。」
説明を聴きながら、何度も試す。
二度目は葉を少し焦がした。
三度目は何も起きなかった。
四度目は葉の傷口が少しだけ縮んだ気がしたが、
気がしただけで普通に気のせいだった。
五度目は葉全体がしんなりした。
授業が二コマ目の時間になると、
教師はヒビの入った陶器の皿を使わせた。
「これは人間の傷とは違い、
魔力を細く一定に流す練習になります。
ひびに沿って魔力を流してください。」
俺は皿のヒビに指を添え、
さっきよりも慎重に魔素を集めた。
強くぶつけるのではなく、こすり合わせるように。
形になる前の魔素を、傷を塞ぐ性質へ変える。
そんなことを意識していると、
指先に少しだけ温かい感覚が生まれた。
その感覚をひびの上に、薄く伸ばす。
皿のひびが、ほんの少しだけ白く光った。
「……っ」
一瞬、ヒビの端が閉じたように見えた。
き、きた....?
次の瞬間。
ぱきん。
皿に新しいヒビが入った。
もうやめよっかな。
二コマ分の授業が終了に近づく頃には、俺の机の上には、
ボロボロになった葉っぱ。ボキボキに折れた枝。
ヒビの増えた皿が綺麗に並んでいた。
教師が授業の最後に言った。
「回復魔術は、第三等級以上の魔術師でもすぐに扱えるものではありません。むしろ、簡単に成功する者の方が稀です。
大切なのは、魔核の内側の感覚を掴むことです。頑張ってください。では授業を終了します。」
授業が終了し、俺はぐったりしながら教室を出て、
ゆっくりと一歩ずつ重い体を引きずるように寮に戻る。
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部屋に戻ると、カイルはすでに戻っていて、
ベッドに寝転んでいる。
俺の姿を見ると、すぐに体を起こし、
ベッドに座り込んで、勧誘の結果を聞いてくる。
「どうだった?ていうか三限目の授業来なかったね。」
「ああそのことなんだけど、いいってさ。」
「えっ?いいって、引き受けてくれるってこと?」
カイルがきょとんとした顔でこちらを見てくる。
「うん。」
「えっ?ほんとに?お断りするって意味じゃなくて?」
「うん。入ってもいいって。だけど条件があって、
その条件が、回復魔術を覚えることだって。」
「回復魔術?なんでさ?」
カイルが首を傾げて、俺に聞いてくる。
「彼女。回復魔術使えないんだってさ。まあ使えたらカイルを救助する時に使ってるはずでしょ?」
しばらくカイルが手を顎に当てて考えたあと、
納得した顔をして、こちらを見る。
「.....そっか。.....確かに言われてみたらその通りだね。」
「カイルはまだ第三等級魔術使えないでしょ?だから、午後から二コマ分入ってた、回復魔術の授業に出席してきた。」
「そっか。ごめんね。」
カイルが少し申し訳なさそうに答える。
「いやいいよ。難しいけど、
いい機会だし、頑張って覚えてみるよ。」
カイルの申し訳なさそうな顔を見て、沈みかけた気持ちをどうにか立て直し、心配させぬように答える。
ベッドに体を沈め、今日は夕食は取らずに、
そのまま寝ることをカイルに伝える。
カイルは相変わらず心配そうにこちらを見ていた。
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次週になり、また回復魔術の授業の日がやってきて、
教室を訪れる。
正直、来たくなかった。
先週の時点で、
俺の回復魔術の才能はだいぶ怪しかった。
葉っぱは焦げるし、皿のヒビは増えるし、枝は折れるしで、治療というより破壊活動に近かった。
環境破壊は気持ちいいZOY☆
とはならないわけで。
いつもなら、できない魔術があっても、
まあ頑張って練習して、覚えていけばいいか。
と思うのだが、今は時間が無いのだ。
あと一週間程度で、回復魔術を覚えて、
パーティを強化して、週末は3日間全て討伐依頼を行うくらいじゃないと間に合わなくなってきた。
回復魔術を一刻も早く覚えて、
彼女にパーティに加わって貰わなきゃいけないことを
考えると、「ゆっくり覚えていこう〜。」
なんて、呑気なこと言ってられない。
すぐに、急いで、最速で習得するぐらいの勢いで行かなきゃいけないのに....全くできる気がせん....
なので俺は、重たい足を引きずりながら、
午後の回復魔術の教室に向かった。
教室に入ると、先週と同じように、
机の上には鉢植えの植物と、
ヒビの入った陶器の皿が置かれていた。
また君たちか。壊れるなぁ。
先週と同じ道具を見て、少々具合が悪くなる。
やがて教師が教室に入ってくると、静かに授業が始まった。
「今日も先週と同じように第一等級回復魔術の呪文の習得です。頑張ってください。」
と教師は机の上に置かれた鉢植えを指した。
俺は自分の前に鉢植えを置き、葉の傷に手をかざした。
葉の端には、細く裂けたような傷がある。
先週も見た傷だ。
俺は鉢植えの葉に向かって手をかざし、
魔素を集める。
体内の魔核に意識を向ける。
というか魔核というのは胸の奥にあるとか言っていたが、
実際どこにあるのだ。胸の当たりでも感覚は何も変わらないのだが。
そんなことを思いながら、
魔素を体に巡らせる感覚を感じる。
全身が暖かくなる感覚を感じながら、
そのまま、鉢植えに向かって呪文を唱える。
「回復魔術第一等級、リペア・ヴェイン。」
指先が温かい感覚に包まれ、
その感覚を葉っぱの上に薄く伸ばす。
瞬間、葉っぱが、ほんの少しだけ白く光った。
「……」
来たか....?
次の瞬間。
ぱきん。
葉っぱに新しい傷が入った。
「…………」
来てなかった。
いや、むしろ余計なものが来た。
俺は静かに手を下ろす。
何度やっても、光るだけで、うまくいかない。
何も起きない。
教師が俺の机の前で足を止めた。
「魔力を流すところまでは悪くありません。
ただ、その前の段階がまだ粗いですね。
魔核への意識をもっと深めてください。」
「魔核の意識....ですか.....」
「ええ。魔核の内側で魔素の性質を変える感覚です。
今のあなたは、魔素を集めて、そのまま流そうとしています。攻撃魔術の癖が残っているのでしょう。」
攻撃魔術の癖。
その言葉に、少しだけ引っかかった。
確かに、今まで俺がやってきた魔術は、
基本的に外へ出すものだった。
魔素を集め、魔力に変え、外へ放つ。
それに慣れすぎているのかもしれない。
回復魔術は、その前に魔核の中で魔素の性質を変えなければならない。
でも、俺はその感覚を掴めないまま、
ただ呪文を唱えて、魔力を流そうとしている。
そんなこと言われてもなぁ....
魔核の感覚がよく分からないからな....
結局、その日の授業も、
俺は回復魔術を成功させる事は出来なかった。
授業終了の鐘が鳴る。
周りでは少しだけ葉の傷を塞げた生徒が、
何人か教師に褒められていた。
対照的に俺の机の上には、元気のない葉っぱと、
ヒビの増えた皿が並んでいる。
「今日はここまでです。
成功しなかった者も、焦らないように。
ゆっくり復習してください。」
教師は黒板の前でそう言った。
授業が終わり、俺は拗ねるように教室を出た。
寮へ戻る道を歩きながら、
何度も自分の胸のあたりに意識を向ける。魔核。
そこにあるはずのもの。
魔術を使うたびに、確かに働いているはずのもの。
けれど、意識しようとしても分からない。意識できない。
考えながら歩いていると、
道端に低く伸びた木の枝が目に入った。
俺は足を止める。細い枝だった。
少し乾いていて、折れば簡単に持っていけそうだ。
練習用にちょうどいいかもしれない。
俺は周囲を軽く見回し、誰も見ていないのを確認してから、その枝を一本折った。
ぽきり、と乾いた音がして、枝が折れる。
その枝を片手に、俺は寮へ戻った。
部屋に入ると、カイルはまだ戻っていなかった。
珍しい。たぶん、授業か訓練が長引いているのだろう。
俺は机の上に持ってきた枝を置き、椅子に座った。
折った部分は、白く裂けている。
その裂け目に手をかざす。
授業で教わった通りにやる。
魔素を集める。
「リペア・ヴェイン。」
淡い光が、指先に灯る。
だが、枝の裂け目は変わらない。
もう一度。
「リペア・ヴェイン。」
何も起きない。
三度目。
「リペア・ヴェイン。」
折れた部分が、少しだけ黒ずんだ。
「……違う。」
俺は小さく呟いた。
そこから、何度も繰り返した。
手をかざす。魔素を集める。呪文を唱える。
だが、何も起きない。
偶に少し光り、焦げたり、折れ目が広がる。
また何も起きない。
気づけば、窓の外はすっかり暗くなっていた。
二時間。いや、三時間近く経っているかもしれない。
机の上の枝は、
持ってきた時よりも明らかにひどい状態になっていた。
折れた部分は黒ずみ、細かい裂け目が増え、ところどころに焦げた跡がある。
俺は椅子の背もたれに体を預け、天井を見上げた。
全く上達している気がしない。
魔術を唱えても、傷は塞がらない。
魔力は安定せず、暴発して、枝を焦がしてしまう始末だ。
魔素の流し方も、正しいのかどうか分からない。
魔素の流し方が悪いのか?
いや、でも教師は何度も言っていた。
魔核を意識しろ、と。
やはり問題は、流し方以前に、
魔核の感覚を掴めていないことなのかもしれない。
俺は自分の胸のあたりに手を当てた。
魔核を意識する。
魔核を意識する。
魔核を、意識する。
何度も心の中で繰り返す。
だが、何も分からない。
そこにあるはずなのに、わからない。
俺は今まで、魔術を使えているつもりだった。
第三等級魔術だって、
まだ不安定とはいえ使えるようになってきた。
でも、それはたぶん、魔素を集めて、
外へ出す感覚に慣れていただけなのだ。
自分の内側で何が起きているのか。
そこを、俺は何も分かっていない。
「……魔核を意識する、か。」
呟いた声が、部屋の中に小さく落ちた。
机の上には、ボロボロになった枝が転がっている。
俺はもう一度だけ、その枝に手をかざした。
「リペア・ヴェイン。」
淡い光が、指先に灯る。
けれど、焦げ、所々傷ついた枝はやはり治らなかった。
カイジの新しい映画決まったね。
楽しみです。
あと書き溜めてたのが無くなりました助けてください。




