第25話 日常
この学園に入学してから三週間が経った。
最初の方は、色々と億劫だった学校生活だが、
最近ちょっとずつ慣れてきて、楽しくなってきた。
決闘の授業で、毎回アークからメンチ切られてはいるが....
決闘授業は、教官が色々考えた結果、
第一学年の生徒としてはレベルが高すぎて、
他の生徒の参考にならないし、他の生徒のやる気も下がる。
という理由で結局あの日以降、
授業でアークと対戦することはなかった。
だから、相手も、言っちゃ悪いが、第一等級しか使えず
且つアークみたいに接近戦を挑んでくるやつらでもないので、毎回対抗呪文を発動して相手の呪文を上手くいなし、
程よく攻撃魔術を打ち込む、
ラク....というかそこそこ楽しい授業になった。
うん!非常に生産性が高い!!
ここ最近になって、少しずつ前世の頃の
卑屈意識も薄れてきたように感じる。
以前までは他人に話しかけられると、
キョドり、少し早口になったり
そもそも相手の目を見て話せなかったり、
と散々だったが、近頃は授業の事や魔術の事で
周囲の生徒から、色々聞かれることも少しずつ増えてきた。
もちろん俺も魔術やこの世界のことについて学び初めて、
そんなに長い訳では無いので、
聞かれても分からないこともそこそこあるが、
そういう時は寮に帰った後に調べ、翌日回答する。
すると、皆「ありがとう」や「すごい」と礼や賛辞の言葉を言ってくれたり、菓子を分けてくれたりする。
正直こちらの菓子は、
ねり飴を固めたようなものや、
果物の飴の果実の味をさらに薄くしたような物など、
お世辞にも美味いと言えないものばかりだが、
礼を言われるというのは気持ちがいい。
前世では礼を言われる経験というのをあまりしてこなかったからかなり新鮮で気分の良いものだった。自分も学びを得つつ、礼も言われ、評判も上がる。なんてコスパが良いのだろう。
そう思えるのも、
カイルとニコラのおかげだろう。
二人がいるおかげで学校生活がぼっちにならず授業が受けられ、「楽しい」「もっと学びたい」と思えるのだから。
......前世みたいに食堂で一人で食べて、周りからの
「さっさとどけよ。」
「一人で使うくらいなら席を譲れや。」
という冷たい視線を浴びながら飯を食うのはもうごめんだ....
ウゥ.....泣......
そう。だからこそ。
カイルの学費問題は早急に
どうにかしなければいけないだろう。
だが、前衛が見つからねえええええええええええええええ
ここ一週間くらい毎日ギルドに通い、
強面の冒険者に頑張って話しかけているが、
やっぱりキョドりすぎて変な顔されるし、
いらねえよ!と一蹴されるし。もう心折れそう。
卑屈意識がなくなっても怖いもんは怖いんじゃ!!
そもそも、剣士やその他、前衛職は、
強ければ、魔術師なんて必要ない。
魔術師が重宝されるような大型モンスターの討伐には、
第四等級くらいの魔術師や第三等級でも、攻撃力の高い魔術が使える魔術師や、治癒魔術が使える魔術師じゃないと必要とされない。
どうすんねんこれ。
目標金額の2/3くらいを稼げて、油断していたが、
いよいよもう時間が無い。
締切まで残り二週間。
今週中に見つけて、
来週くらいには討伐依頼に出ないと本当にまずいぞコレ。
とりあえず俺は、
もう少し攻撃力の高い魔術を覚えるために、
授業の空きコマを使って、「第三等級実践魔術」の授業に出ることにした。
初めて歩く場所。
いつもと違う、別館での授業だ。
連絡通路のような道をぬけ、
二階の一番手前の教室の扉に手を掛ける。
扉を開けて教室に入ると、
第三、第四学年くらいの先輩たちが
席に座っており、
視線が一斉に俺に集まる。当たり前だ。
中、高生の授業に小学6年生が混じっているのだ。
注目もされるだろう。
だが、ここで帰る訳にもいかないので、
仕方なく、一番後ろの壁際により、
ノートを開き、授業が始まるのを待つ。
やがて教師が入ってきて、
号令を掛け、授業が始まる。
最初は前回授業の復習から。と言って、
第三等級の説明が始まった。
第三等級魔術は、複合魔術を除いて、
下位の第一、第二等級魔術と違って、
攻撃力のある魔術が多くなると説明される。
さらに第三等級魔術からは、
属性ごとの魔力の性質が強く現れはじめ、
生成の難度が上がる。
そのため、第三等級、第四等級魔術辺りで、
自分がどの属性を極めるのかを決める必要が出てくる
と説明される。
しばらく長ったらしい説明をした後で、
教師が黒板に簡単な図を描き始めた。
丸が一つ。
その内側に、もう一つ小さな丸。
「第三等級魔術で大事になるのは、
単に魔力の量を増やすことではない。
魔力をどう分け、どう重ね、どう性質を変化させるかだ」
ほう。
教師はチョークで外側の丸を軽く叩いた。
「たとえば、通常の火球魔術。
第一等級のファイアーボールは、
火属性の魔力を一つの塊として生成し、
対象へ放つだけで成立する。
もちろん精度や速度に差はあるが、基本構造は単純だ。」
はん。
次に教師は、内側の丸を指す。
「だが、第三等級魔術ではそうはいかない。
外側の魔力と内側の魔力に、
別々の役割を持たせる必要がある。
外側は形を維持する殻。内側は現象を起こす核。
これを同時に作り、維持し、放出する。」
お、おう。
「ってことで、今日扱うのは、
第三等級火魔術、エクスプロードだ」
おっ? 流れ変わったな。
エクスプロード。
名前からして嫌な予感しかしない。
教師は黒板に、先ほどより大きな図を描く。
そしてまた説明を始めた。
長いんで、割愛する。
一通りの手順や理論を説明し終わり、
教師が「では早速やっていく。」
と言って、手順を説明し始める。
「手順を説明する。二人一組になる。
片方が小型のエクスプロードを生成し、
相手へゆっくり放つ。
受ける側は水属性魔術でそれを覆うように受け止める。
水の膜で火球を包み込み、その内部で爆発を相殺する。」
「じゃあ、各自ペアになって、やってみろ。」
各自ペアになってやってみろ。←やめてね
たしかに魔術も難しいだろうが、
ペアになるっていうのが俺にとっては、
一番ハードルが高いんじゃ.....
こんなことを考えながら、周りを見渡していると、
もうすでに周囲では続々とペアが出来上がっている。
ペアができていない人はほかにもいるけど、女の子だ.....
女性はまだちょっと…
やばいいい。このままじゃぼっちで、人生終わっちゃううう。
急いでさらに周りを探すと、
反対側の壁際を見ると、俺と同じようにペアを作っていない人がいるじゃあ、あーりませんか。
金髪の少し背の低い、生徒だ。
俺は急いで彼に駆け寄り、勢いのまま彼に話しかける。
「相手まだ、できてないなら、僕とやりませんか。」
「えっ、でも君.....いやなんでもない。うん。いいよ。」
彼は俺を見て、一瞬だけ戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに何事もなかったかのように表情を戻す。
「じゃあ、よろしく。」
「よ、よろしくお願いします」
俺は軽く頭を下げ、
まずは俺がエクスプロードを作る側になった。
右手を前に出し、火属性の魔力を集める。
小さな火球を作るところまではできる。
問題は、その内側に爆発性の魔素を込めることだった。
外側は形を保つ殻。内側は爆発を起こす核。
教師の説明を思い出しながらやってみるが、
最初の火球はすぐに形を崩して消えた。
外側を作ってから中に押し込もうとすると、
どうしても形が崩れる。
なら、最初から外と中を分けて作るしかない。
外側には普通の火球の魔素。
内側には、弾けるための魔素。
混ぜすぎると、ただのファイアーボールになる。
分けすぎると、形が保てない。
何度か失敗した後、
ようやく掌の前に小さな火球が浮かんだ。
赤い外殻。その中心に、橙色の核。
さっきよりは安定している。
相手の生徒が水の膜を構える。
俺は火球をゆっくり放った。
水の膜がそれを包み込む。
直後、ぼんっ、と鈍い音が鳴り、
水球の内側で白い湯気が上がった。
できた。が、実戦で使えるほどではない。
威力は小さいし、作るのにもまだ時間がかかる。
動き回る魔物に当てられるかと言われれば、
かなり怪しいだろう。
「水火魔術」とはまた違った感覚だ。
練習して、生成自体になれる必要がある。
その後、エクスプロードを受ける側に回る。
受け止める方は、水で包むだけなので、
そこまで難しくなかった。何度か交代でやって、
徐々に慣れてきた頃に、
「そこまで」
教師の声が響き、生徒たちが手を止めた。
「次回は、別の攻撃魔術を扱う。今回と同じく、
第三等級では魔術の構造を意識することが重要になる。
先程も言った通り、第三等級魔術から、
自分の得意属性を絞る生徒も多い。そのような生徒は、
来週は、理論の説明を聞くだけで結構だ。」
別の攻撃魔術か。エクスプロードだけでも、
今までより攻撃の幅は広がるだろう。だが、まだ足りない。
もっと多彩な攻撃手段を覚えなくては。
授業が終わると、俺はペアの生徒に軽く礼を言い、
すぐに教室を出た。廊下に出てようやく息を吐く。
結構疲れるじゃないか.....
だが、成果はあったな。
第三等級火魔術、エクスプロード。
まだ小型とはいえ、覚えることはできた。
来週は、また別の攻撃魔術をやるらしい。
なら、出るしかない。
その後、カイル、ニコラと合流して、必修の授業に出席し、
授業が終わり、寮に戻って、荷物をまとめ、
カイルとギルドに向かった。
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ギルドに着くと、俺達はまずリストをチェックした。
明日の授業は二人とも午後からだ。
なら、授業前までに一件くらい依頼をこなしておきたい。
できれば楽なやつがいいな。
そう思いながら依頼書を眺める。
外壁補修の助っ人。
薬草の大量採取。
森の奥地の調査。
リストを見ていくと、その中の、
『光源蟲の採取』という文字が目に入った。
虫取りなら、まだ気楽にできそうだ。
依頼書に手を伸ばす前に、俺はふとギルドの中を見回した。
だが、今日もやはり、彼女の姿はなかった。
受付で簡単な説明を聞いたあと、
街の雑貨屋で麻袋をいくつか買って、
細い枝を輪にして、余った布を結びつけ、
即席の虫取り網を二本作り、カイルに渡すと、
カイルが物珍しく、虫取り網を見る。
その後、日が落ちるのを待ってから、
俺たちは街の外へ出た。
向かう先は、三日前に討伐依頼で行った山の、麓の森だ。
またここかと
カイルは少し嫌そうな顔をしている。
しばらく森の浅い場所を進んでいると、
木の根元に小さな光が見えた。
黄いホタルのよりも弱いぼんやりとした光が、
虫の触覚の先から出ている。
ゆっくりと近づくと、
光源蟲は木の根に張りついたまま、ほとんど動かない。
網を振り下ろすと、布の中で小さな羽音が暴れる。
捕まえた。
よし。一匹目。
俺は余分に買っておいた麻袋の口を開き、
網の中の光源蟲を放り込んだ。
袋の中で、先程よりも強い光がゆらゆらと揺れる。
すぐに袋縛って、二匹目を探す。
光源蟲は木の根元や低い草の陰に
止まっていることが多かった。
すぐに二匹目を見つけ、
今度はカイルが虫取り網を走らせる。
その調子で二匹、三匹と見つけ気づけば、
深夜にもならないうちに、
依頼書の数である十匹が集まった。
途中、カイルがまともに光を浴びて
しばらく目を抑えるというハプニングはあったものの、
結構楽な依頼だった。
それから、
俺たちは森を出てギルドに戻り、報酬をもらった。
報酬は銅貨7枚ほどだったが、まあいいだろう。
依頼によっては明日の授業ギリギリまで、
活動するかもと思っていたから、逆にラッキーだ。
そして寮に戻り、荷物を片づけ、
その日はすぐに布団に入った。
ーーーーーーーーーー
翌日も起きて、
昼食(朝食)を取り、午後の授業に出る。
今日の授業は、魔術世界史。
魔術と魔物と人間の歴史について学ぶ授業だ。
正直、魔術の実技に比べれば退屈そうだ。
この世界で生きていく以上、知っておいて損はない。
教室に入ると、すでに何人もの生徒が席に着いていた。
俺たちも空いている席に座る。
少しして、教師が教室に入ってきた。
「今日は、神人大陸戦争について扱う」
教師はそう言って、黒板に大きく文字を書いた。
神人大陸戦争。
その言葉を聞いた瞬間、教室の空気が少しだけ変わった。
生徒たちの姿勢が、わずかに正される。
それほど有名な戦争なのだろう。
「今からおよそ千五百年前。この世界には、
二柱の神がいたとされている。」
教師の声が、教室に響く。
一柱は、世界の平和を願う神。
もう一柱は、世界の混沌を望む悪神。
二人の神は世界を見張り、時に世界へ介入していた。
普段は直接争うことはなかったらしい。
だが、その均衡は千五百年前に崩れた。
悪神が、世界を滅ぼすために動き出したのだ。
悪神は、自らに従う一部の魔人族と強力な部下を率い、
人族の村、魔人族の集落、エルフの森、
獣人族の里、蟲人族の巣域を次々に襲撃した。
悪神に従わなかった魔人族も、
他の種族と同じように襲われた。
悪神の軍勢は数こそ多くなかったが、
悪神が、自らの力を分け与えていたので、
一人一人が異常なほど強かった。
襲われた村や集落は抵抗する間もなく滅ぼされ、
生き残った者たちは住む場所を追われて、
人々の生活圏は、日に日に狭まっていった。
「このままでは、大陸の全てが悪神の支配下に置かれる。
そう判断した神は、各地に兵を募った。
そうして始まったのが.....」
教師は黒板に、新たな文字を書いた。
神人大陸戦争。
今から1450年前の出来事だそうだ。
神の呼びかけに最初に応じたのは、
エルフの部族と一部の魔族と少人数の人族だけだったそうだ。
悪神の加護を受けた魔族たちは強く、
序盤は、神の軍勢が押されて、
正面から戦えば多くの兵が倒れた。
敗北が続き、兵たちの士気は下がっていった。
その時、軍勢の中にいた一人の女性が立ち上がった。
「彼女の名は、現在でも正確には残っていない。
だが、その演説だけは記録に残っている。」
教師はそう言って、少し声の調子を変えた。
その女性は王族でもなければ、大国の将でもなかった。
初期から神の軍勢に加わっていた、
ただ一人の兵だったとされている。
彼女は、敗北に沈む兵たちの前に立ち、語った。
奪われた故郷のこと。失われた家族のこと。
それでも、まだ守れるものが残っていること。
その言葉を聞いた兵たちは、皆、目に涙を浮かべたという。
その場にいた
人族、魔人族、エルフ。
姿も、言葉も、文化も違う。
けれど、その時だけは、同じものを取り戻そうとしていた。
この出来事は後に「奇跡の演説」と呼ばれるようになった。
演説の後、神の軍勢は反攻を開始した。
高まった士気をそのままに、
各地で失われた領地を取り戻し、
悪神に従う魔族たちを討ち倒していった。
もちろん、簡単な戦いではなかったらしい。
多くの兵が命を落とし、いくつもの町が戦場になった。
それでも、軍勢は止まらなかった。
それに呼応するように、
各地を巡る度に軍勢が増えていった。
故郷を無くした人族。悪神に従わなかった魔人族。
住処を失った獣人族。巣域を奪われた蟲人族。
森を焼かれたエルフ族。
さらに、滅ぼされた集落の生き残り。
建国して間もない小国の兵たち。
色々な者が次々と神の軍勢に合流していった。
そして最後に、神と悪神は直接対峙した。
両軍が見守る中、
二柱の神は一騎打ちを行ったとされている。
その戦いがどのようなものだったのか、
詳しい記録はほとんど残っていない。
ただ、いくつかの文献には、大地が割れ、空が裂け、
昼と夜が何度も入れ替わったように見えた。
と伝えられている。
そして長い戦いの末、神は悪神を討ち倒した。
悪神は完全に滅び、その軍勢は崩れ、戦争は終結し、平和が訪れたが、その戦いの後、神はどこかに消えてしまったとされておいる。
「しかし、悪神に従った魔族の一部は戦後も各地に残り、
悪神の意志を継ぎ活動した。結果、今日の魔物の発生や魔素の異常とも、関係があるのではないかという考えも、
一部で存在する。」
魔素の異常。
三日前の狼獣のことが、頭をよぎった所で、
教師が締めに入る。
「という所で、今回は以上だ。
来週は、戦争後の国の分裂について話す。
大事な箇所だから休むなよー。」
ーーーーーーーーーーーーー
授業が終わり、今日もギルドに向かう。
明日は昼前に授業があるので、
今日は依頼は受けず、ギルドに行って、
チームの前衛を担ってくれる人を探すだけだ。
だから今日は、依頼を受けるのではなく、
チームの前衛を担ってくれる人を探すだけにした。
ギルドに入ると、
いつものように冒険者たちの声が飛び交っていた。依頼書を眺める者。机で話し込む者。受付で報酬を受け取る者。
その中から、前衛職らしい冒険者を探す。
「とりあえず、二手に分かれようか。」
「まあ、そうだね。」
俺とカイルは軽く頷き合い、
それぞれ別の冒険者に声をかけることにした。
まず俺が話しかけたのは、革鎧を着た大柄な男だった。
腰には片手剣。盾も持っている。いかにも前衛という感じだ。
「あの、少しお時間いいですか。
今、チームの前衛を探していて。」
「学生か?」
男は俺の服装を見て、すぐに眉をひそめた。
「はい。一応、魔術学園のーー」
「悪いが、学生はちょっとな。
予定が安定しないやつとは組めねえよ。」
それだけ言うと、
男は話を切り上げるように席へ戻っていった。
まあそうか。冒険者にとって、
予定が合わない相手は面倒なのだろう。
気を取り直して、
次は槍を持った若い冒険者に声をかける。
だが、そちらも返事は似たようなものだった。
「治癒魔術は?」
「使えません」
「じゃあ無理だな。後衛が二人いて、
治癒もできないんじゃ、前に出るこっちが死ぬ」
「一応、魔術は――」
「火力だけなら他にもいる」
言い方はきついが、正論だ。
第三等級魔術が使えると言ったところで、
それだけで安心して背中を預けろというのは無理がある。
その後も、俺たちは何人かに声をかけた。
「悪いな。今のチームで足りてる」
「学生は卒業してからにしな」
「魔術師二人? 前衛一人に負担が寄りすぎるだろ」
「治癒役がいないならせめてもう一人盾持ちを連れてこい」
「お前ら、前に狼獣で怪我人出した連中だろ?
噂聞いてるぞ」
最後の嘲笑の言葉には、息が詰まった。
別に間違ったことを言われたわけではないのだが。
横を見ると、カイルも別の冒険者に断られていた。
彼はいつものように笑っていたが、
その笑い方は少しだけ硬い。
それからも、俺たちは粘った。
受付近くにいる冒険者。暇そうにしている者。
依頼書を眺めている前衛職らしい者。
三時間。いや、四時間近くはそうしていただろう。
だが、結果は変わらなかった。
誰も、俺たちと組もうとはしなかった。
ギルドを出るころには、
外はすっかり暗くなっていた。
「……だめだった。」
カイルが苦笑する。
「見事に全滅だよ。」
俺もそう答えた。
思っていたより、ずっと難しい。前衛がいれば楽になる。
そう考えていたが、
その前衛に選んでもらうため材料が、
俺たちにはまだ足りなすぎる。
寮に戻るまでの道は、いつもより少し長く感じた。
部屋に着くと、俺は荷物を床に置き、
そのままベッドに腰を下ろした。
カイルも向かいのベッドに座り、軽く息を吐く。
「まあ、すぐ決まるとは思ってなかったけど、
それにしても、結構へこむな。」
「そりゃ、あれだけ断られたら...」
そう言って、小さく笑い、カイルもつられて笑う。
冒険者としての信用。治癒魔術。
安定した予定。前衛の負担。
断られた理由を思い返すと、
どれも納得できるものばかりだった。
「明日も頑張ろう。」
俺たちはそれだけ言うと、明日の準備を済ませ、
布団に入り、俺は目を閉じた。




