第24話 ミオ・ヴァレン
「こんな時間に何だ……」
中から出てきた男の言葉は、
カイルを見たところですぐに止まった。
顔から、眠気が一瞬で消える。
「中へ入れ」
男はすぐに扉を大きく開けた。
中に入ると、薬草と酒精の匂いがした。
部屋の奥には寝台がいくつか並び、
棚には瓶や包帯が置かれている。昼間ほど明るくはない。
壁にかけられたランプが数個、
部屋を黄色く照らしているだけだった。
「狼獣に脚を裂かれてる。折れた牙は抜いた。
止血と固定は済ませたけど、傷は深い。
意識はない。呼吸はある」
彼女が一息で説明した。
全て聞き終えた後に、男はカイルを見てから、
もう一度こちらを向き、答える。
「とりあえず、傷口を消毒して、
化膿や壊死していないか確認したら、治癒魔術を施して、
然るべき処置をする。君らは部屋の外で待っていてくれ。」
それを聞いて、彼女は
「わかった。」
とだけ短く答える。
そして扉に向かって、歩き始めた。
それを見て、俺も
「お願いします。」
とだけ伝え、彼女の後について行く。
外に出ると、彼女は体を伸ばし始めた。
13歳とはいえ、男を背負うのだ。
流石にキツかったのだろう。
俺は、ここまでの礼を伝え、
深く頭を下げる。
彼女は礼を聞いて、口を開く。
「この借りはいつか返して。あと、あんた達無茶しすぎ。
馬鹿じゃないの?どこの世界に、前衛もつけずに、
討伐依頼に向かう、チームがあんのよ。」
「いくら火種級でも.....限度って、もんが.....
火種....。そう.....あんた達、火種級でしょ?」
「は、はい。」
それを聞いて、彼女は言葉を詰まらす。
そして彼女は、顎に手を当てて、
小さな独り言を言い始める。
でも、あんなの、火種では....
いやでも....
一人でブツブツと唱えるように
何かを言っている。
「今回の依頼は火種級だったんでしょ。
明日、さっき剥ぎ取った牙や爪を持って、
ギルドに行きなさい。それでギルドの報告を聞きなさい。
そして今度会った時、その情報を私に教えなさい。
今回のはそれでチャラでいい。」
少しして、彼女はそう答える。
「わ、わかりました。」
「もう行くわ。」
そう言って彼女は腰にかけてある袋から
銀貨を3枚取り出し、渡してきた。
今回の治療費らしい。
受け取れないと言ったが、
冷静に考えてほぼ俺たちは無一文だったので、
受け取るしか無かった。
最後、去り際に名前を尋ねると、
彼女は短く。
「ミオ・ヴァレン」
とだけ答え、そのまま行ってしまう。
歩く背の双剣がキラキラと満月の月に輝いていた。
それから少しして、
扉が開き、中から先程の男が出てくる。
「とりあえず治療は終わったが.....」
男がどこかきまずそうに口篭る。
まさか....
最悪の事態を想像し、血の気が引いていく。
治療が間に合わず、どこか切除しなければいけなくなった?
そんな嫌な想像をしてしまう。
ゆっくりと男が口を開く。
「君らが言っていたような深い傷は無かったのだが....」
......?
「いや確かに、足は多少怪我しているし、
左肩も出血しているが、
そこまでの大きな怪我でもないというか....」
.......??
何を言っているんだ.....?
だって、ガッツリ骨まで見えていたんだぞ?
肩だって噛みつかれ、少し抉れていた。
あれを軽い怪我だって?
いや別に軽いとは言ってないか.....
いやだとしてもおかしいそんなはずは.....
男はさらに続ける。
「とりあえず今は意識を失ってはいるが、
怪我もまだ完全に回復していないが、
治療や治癒魔術を掛けなくても大丈夫だ。」
「ということだから、
治療費は銀貨一枚と銅貨三枚くらいだな。」
言われるままに、料金を払うと、
男は続けて、
「念の為、今日はここで様子を見させてもらうよ。
とりあえず明日また来てくれ。」
それを聞き、了承して、
最後にもう一度、カイルの様子を見ると、
下山する際のような苦しそうな表情はしておらず、
眠っているような顔だった。
傷口は既に新しい包帯に張り替えられ、清潔そうだ。
夜も遅いので、
明日、来る時間を伝え、
俺は自分の荷物を持って、治療所を後にする。
ーーーーーーーーーーー
翌日。
昨日、ミオという女性に言われた事を果たすために、
治療所に行かなければいけない時間よりも
俺はだいぶ早く街に出ていた。
昨日の深夜の静けさが嘘のように
昼間の街は人で賑わっていた。
俺のはいつものように飯屋街兼飲み屋街を通り抜け、
ギルドに向かう。
赤レンガ造りの立派な建物が徐々に見えてくる。
屋根の上では、今日も立派なギルドマークの旗が、
風に揺られている。
敷地の門をくぐり抜け、
両開きの扉を両手でグッと押して、中に入る。
中に入ると昨日と同じように、
強そうな冒険者たちが依頼リストをチェックしたり、
椅子に座って依頼について話し合ったりしている。
俺は一階を見回し、
ミオを探したが、いないようだ。
念の為、他の階もチラと見てみたが、
やはりいない。
冒険者が本業ではないのか?
いやそれとも、もう既に依頼に出ているのだろうか。
昨日の様子を見た感じ、彼女はおそらくチームの冒険者ではないのだろう。
第三等級の魔術を使えて、
応急処置等もできるのであれば、
確かにあまり、他のメンバーはいらなそうだ。
一人で完結できている。
一人ならば作戦会議や、
依頼についての話し合いなども必要ないから、
既にもう他の依頼で外に出ているという可能性もあるか。
俺はそんなことを思いながら、
カウンターに向かい、討伐完了の手続きを行う。
最初に、討伐証明品を提出し、
確認を行ってもらう。
無事に確認が終わり、報酬が渡される。
銀貨が四枚あることを確認し、
さらに追加の報酬の銅貨九枚を受け取る。
依頼完了の礼を言われ、手続きが終了した。
さて、ここからが肝心だ。
俺はすかさず、
布袋から昨日剥ぎ取った牙や爪などを出した。
「……これは?」
受付嬢は、カウンターの上に広げられた牙や爪を見て、
目を細めた。
無理もない。俺が出した布袋の中には、
昨日の夜に剥ぎ取った狼獣の牙や爪がまとめて入っていた。綺麗に並べているわけでもない。血を拭ってはあるが、
まだ土や毛が少し残っているものもある。
「えっと、昨日の討伐依頼で……
その、狼獣が出たんですけど」
「はい。依頼内容も狼獣の討伐でしたね」
「いや、それはそうなんですけど、
普通の狼獣じゃなくて……普通のもいたんですけど、
八体くらいいて、それで群れで動いてて」
受付嬢の表情が少し変わった。
「八体、ですか?」
「はい。たぶん。正確に数えたわけじゃないんですけど、
少なくともそれくらいはいました。
最初は一体ずつ倒してたんです。でも途中で囲まれて、
それで、えっと……カイル、えっと.....仲間が噛まれて、俺も脚をやられて。」
言いながら、自分でも説明が下手だと思った。
何から話せばいいのか分からない。
受付嬢は、俺の言葉を遮らずに聞いている。
そのせいで余計に焦る。
ちゃんと説明しなければいけないのに、
言葉だけが先に転がっていく。
「その中に、他のやつより明らかに大きい個体がいたんです。普通の狼獣より速くて、力も強くて、周りの狼獣もそいつに合わせて動いてるみたいで……たぶん、群れの長みたいなやつで」
「群れの長……」
受付嬢は小さく呟き、カウンターの上の牙を見た。
俺は慌てて、一際大きい牙を指差す。
「これが、そいつの牙です。
助けてくれた冒険者の方が倒してくれました。」
「助けてくれた冒険者?」
「はい。灰色の外套を着た、
双剣が武器のミオ・ヴァレン、
という女性なんですけど.....ご存知ありませんか?」
「ごめんなさい、ちょっと存じ上げないです。
ですが、その方が、冒険者ギルドに登録されている冒険者の方でしたら、お調べすれば分かりますが....お調べ致しましょうか?」
「い、いえ、大丈夫です。そ、それより、先になぜあんな個体が出たのか、解析をお願いしたいです。」
ここで、彼女のことがわかっても今は俺一人だ。
礼を言いに行くならカイルと、
二人行くべきだと思った。
「わかりました。こちらをお借りしますね。」
受付嬢はそう言って、
アルファの牙を一本手に取った。普通の牙よりも太く、根元まで硬く締まっている。受付嬢はそれをしばらく眺めたあと、
後ろにいた職員に何かを伝えた。
「少々お待ちください。詳しい者に確認します」
そう言って、受付嬢は牙を持って奥へ入っていった。
俺はカウンターの前で一人、
落ち着かない気持ちのまま立っていた。
少しして、受付嬢が戻ってきた。手には、さっきの牙がある。
「お待たせしました」
「ど、どうでしたか?」
俺は思わず身を乗り出した。
受付嬢は牙をカウンターに置き、
少し考えるように視線を落とした。
「断定はできませんが、今回の個体は、通常より長く生きた狼獣が群れを率いるようになったものだと思われます」
「長く生きた、ですか」
「はい。山の奥で餌を十分に得られた個体が成長し、他の狼獣を従えていた可能性があります。また、最近は山道を通る商人や狩人が減っているため、人の気配が薄くなった場所に獣が集まりやすくなっていたのかもしれません」
なるほど、と俺は頷いた。
正直、それが正しいのかは分からない。
でも、受付嬢の言葉にはそれなりの筋が通っているようにも聞こえる。狼獣が長く生きれば強くなる。強い個体が弱い個体を従える。それ自体は、何も不思議な話ではない。
けれど、どこか引っかかるものもあった。
だが、それを受付嬢にどう説明すればいいのか分からない。「なんか普通じゃなかったです」と言ったところで、子供の感想で終わる。自分の言語力の低さが実感出来て嫌になる。
「今回の件は、ギルドの方でも記録しておきます。今後、同じ山域で依頼を出す場合は、危険度を見直す可能性があります」
「じゃあ、あの依頼は……」
「依頼そのものは火種級でした。ただし、現地の状況が依頼時と変わっていた可能性があります。こちら側の判断に問題があった可能性があります。申し訳ございませんでした。」
その言葉を聞き、心が少し楽になる。
もちろん、俺たちが無茶をしたのは事実だ。前衛もいない。経験も浅い。それなのに、山の中腹を越えて進んだ。
ミオに馬鹿じゃないのと言われても、
反論できない。
それでも、
あれが本当に火種級の範囲を超えていたのなら。
カイルが倒れたことも、俺たちが死にかけたことも、
少しだけ違う意味を持つ気がした。
「あの、それで……この牙とか爪って、
買い取ってもらえますか?」
俺が尋ねると、受付嬢は頷いた。
「はい。通常の狼獣の牙や爪であれば、状態にもよりますが、ひとつ銅貨一枚から二枚程度です。」
「そう、ですか」
少し肩が落ちる。
まあ、そんなものだろう。狼獣は危険だが、
素材として特別価値が高い魔物ではない。
「ただし」
受付嬢が、アルファの牙に視線を移した。
「この大型個体の牙は別です。硬度もあり、
装飾品や魔術触媒の加工用として需要があります。
牙一本につき銀貨三枚でお引き受け可能です。」
「銀貨、三枚……?」
思わず聞き返した。
銀貨三枚。それが一本。
俺の頭の中で、昨日まで何度も数えた学費の残りが、
勢いよく引き算されていく。
「爪の方も、通常個体より質が良いです。
一本あたり銀貨一枚と銅貨五枚で買い取り可能です。」
「爪も、ですか」
「はい。欠けや割れが少ないものに限りますが、この状態なら問題ありません。」
受付嬢は、淡々と金額を並べていく。
俺はその言葉を聞きながら、
胸の奥がじわじわと熱くなるのを感じた。
銀貨四枚の依頼報酬。追加報酬の銅貨九枚。それだけでも十分ありがたかった。
だが、アルファの牙と爪を売れば、
さらに大きな金になる。学費の半分以上に届く。昨日まで、遠くてギリギリ間に合うかどうか。
と思っていた金額が、
急に手の届く場所まで近づいてきた。
もちろん、その代わりにカイルは死にかけた。
俺も脚を噛まれた。
それでも、嬉しかった。
生きて帰ってきた。依頼も達成した。
そして、金も手に入る。
その事実だけは、どうしようもなく嬉しかった。
「全部、買い取ってください」
俺はすぐに答えた。
受付嬢は確認するように俺を見た。
「よろしいですか?大型個体の牙や爪は、手元に残しておく冒険者もいます。記念や、装備加工の素材にする場合もありますが」
「いいです。今は金が必要なので」
迷いはなかった。思い出より学費だろう。
格好つけた牙を部屋に飾ったところで、
入学金は払えない。
もったいないという気持ちがないわけではないが.....
それを聞くと受付嬢は頷き、
奥の職員に素材を渡した。しばらくして、
革袋に入った硬貨がカウンターに置かれる。
俺は中身を確認した。
銀貨。銅貨。数えるたびに、指先が少し震えた。
昨日までの不安が、完全に消えたわけではない。
カイルのこともある。
ミオに報告しなければならないこともある。
色々とやらなきゃいけないことはあるが、
今はこの手の中にある金がただただ嬉しかった。
「買取手続きは以上です。今回の件については、
後日ギルドから確認が入る可能性があります。
その時は協力をお願いします」
「はい。ありがとうございました。」
俺は硬貨の入った袋をしっかり握り、
頭を下げた。そして踵を返し、ギルドを出ていく。
一刻も早くカイルに知らせたかった。
お前の頑張りは無駄じゃなかった。
俺たちはちゃんと生きて戻ってきた。
学費だって、かなり近づいた。
そう言ってやりたかった。
ギルドの扉を押して外に出ると、
昼の光が目に刺さった。昨日の夜とはまるで違う街の音が、耳に広がる。通りを行き交う人の声。荷車の車輪が石畳を鳴らす音。どこかの店から漂う焼いた肉の匂い。
俺は袋を腰にしまい、治療所の方へ足を向けた。
「痛って。」
脚はまだ少し痛む。
歩くたびに、傷口がじくりと疼いた。
だが全然辛くない。むしろ心地いい。
俺は人混みを避けながら、少し早足で通りを進む。
カイルが目を覚ましているかは分からない。
まだ眠っているかもしれない。
今はとにかく、早くこのことを伝えたかった。
俺は足早に治療所へ向かった。
足早にギルドを後にして一直線に治療所まで歩いてきたので、気がつくと、昨日伝えた時刻よりもだいぶ早く着いてしまった。
見舞いの品でも一つ買っていくかと思い、
辺りを見回し、店を探すと、どこからかパンの焼ける良い匂いが漂ってくる。
匂いの元を探すと、8、9軒先にパン屋が見える。
見舞いにパンというのが正しいのかは分からない。
なぜなら前世で他人の見舞いというものをしたことが
一度もないからだ。
イメージは果物とか、花とかだが.....
しかし、今回はパンで良い気がする。
そもそも、男に花など買って行っても
どうしようもないだろ。
そう思い、パン屋に決め、足を進める。
見た目はこじんまりした
個人経営のパン屋と言った感じだが、
漂ってくる香りは何とも言えず、
人を強く引きつける良い香りだ。
香りを嗅いでいると思わず腹が鳴る。
もうすぐ昼だからな。俺の分も買っちゃお。
そんな事を考えながら扉に手を掛ける。
中に入ると、より一層パンとバターの香りが強くなる。
棚に並ぶパンは全てキラキラと光を放って、見ていると
どれにしようかと目移りしてしまう。
とりあえず、店主におすすめを尋ねると、
店主は嬉しそうに口を開き、早口で喋り始めた。
プリオッシュと、シュトレンが今日は上手く焼けている、
今日は久々にバブカを焼いた、など、
とりあえずよく分からなかったので、
見た目が良さそうなのを見て、
店主イチオシのブリオッシュとコルネット、ロゼッタを
合計10個になるように買った。
店を出て、流石に買いすぎたか?と思いつつ
店の前で匂いを嗅いでいると余計に腹が減ってきて、
全て食べ切れそうな気がしてくる。
カイルと二人で食べようと思い、
急いで先程の治療所まで戻る。
パン屋で時間を使ったとはいえ、予定の時刻よりもまだそこそこに早かったが、パンが食べたかったので気にせず治療所のドアを開ける。
部屋には、昨日の男と、新しく担ぎ込まれたのであろう、
老婆がベッドに横になっている。
男は俺の姿を確認して挨拶をしてくる。
俺も挨拶を返し、カイルの様子を聞くと、
朝には、既に目を覚まし、飯を食い始めたそうだ。
傷もそこそこ治っており。
やはり、昨日の大怪我がどうのという話は大袈裟だ。
と笑われる。
本当に大怪我だったのに何笑ってやがると、
少し苛立ちを覚えながらも、表には出さず、礼を伝えて、
カイルの顔を見ようと、奥の部屋に入る。
奥の部屋には、新しく担ぎ込まれた人はいないようで、
ベッドにはカイルしか寝ていない。
カイルの様子を確認すると、
まだ寝息を立てており、時折、
顔を顰めたり、少し笑ったりしている。
噛まれた所を確認しようと足と肩を見ると、
まだ、包帯が巻かれており、傷の状態は確認できない。
本当に回復してんだろうな.....?
と勘ぐってしまうが、流石に嘘なわけないかと思い、
ベッドの横にある椅子に座り、
持ってきたパンの袋を開ける。
ガサゴソと袋を少し揺らしながら、パンを取り出すと、
その音で、カイルが目を覚ます。
一瞬寝ぼけたように、こちらを見るが、
すぐに目を凝らして俺だと気づいたようだった。
「おはよう。大丈夫?」
まあもう昼なのだが、この場合おはようでいいだろう。
「ああ、ノアか。うんおはよう。」
「怪我の具合はどうよ。」
「うん、だいぶいいよ。だけど少し頭痛いな。
あと気持ち悪さも少し。」
「大丈夫?パン買ってきたけど、食べられなさそうだね。」
「パン?買ってきてくれたの?いやいや食べるよ。食べたい。」
「いやいや。無理しないでいいよ僕が全部食べるから。」
「いやいやなんでだよ。
僕のために買ってきてくれたんだろ?」
そんな冗談を言い合いながら、パンを二人で食べて、
昨日のことについて話す。
全て話終わったあとに、
カイルに昨日の叫び声の事を問いただすが、
カイルは襲われて気絶した後のことは、
何も覚えていないらしく、
なんでそうなったのか分からないとの事だった。
とりあえず学費は、このままのペースで行けば無事に
納入できるだろうし、本人も怪我は、そんなに大したことないとの事なので、安心だ。
話すこともなくなり俺は壁によりかかり
ぼーっと天井を見つめていると、
カイルがいきなり話し始める。
「彼女、どんな人だった?」
「どうって....強いけど、キツい性格だった。
僕はああいうタイプの人は好きになれない。」
「でも応急処置をして、僕のこと背負って下山して、
ここまで連れてきてって感じで、
最後まで面倒見てくれたんでしょ?」
「ああ、おまけにここの治療費も貸してくれた。」
「言葉がキツいだけで、いい人なんじゃないの?」
「どうだかなぁ?まあ、いいかどうかは置いといて、
感情より、論理的に考えて、
動いてるって感じの人ではあるか。」
「話聞く限りはすごいいい人でしょ!」
「まあじゃあそうかもね。」
「どんな人なんだろう会ってみたいなぁ。」
「まあ、綺麗な人だったか。
俺らより、3、4つくらい歳上な感じがしたな。
冒険者だし、多分ギルドにも登録してるだろうから、
いずれ会えるでしょ。」
俺は両手を頭の後ろで組んで、天井を見上げながら話す。
「その時はしっかりお礼しないとね!」
「まあ。それはそうだね。」
「というかパン残ってるけど食べないの?
いらないなら僕貰っていい?
なんだか朝からずっとお腹すいちゃって。」
「ああ、僕はもういいから。全部食べちゃっていいよ。」
「やった〜〜」
そんな具合にくだらない会話をしているうちに、
いつの間にか夕方になっていた。
治療所の男に聞くと、
もう明日には退院できるのでは?
との事なので、明日、授業が終了したら
迎えに来る旨を伝え、
その日はそこで帰ることにした。
翌日、授業中にニコラが、
カイルについて聞いてきたので、
起こったことを話し、
学校終了後に二人で迎えに行くことにした。
治療所に行くと、カイルは既に、手前の部屋の椅子に座って、俺たちが来るのを待っていたようだった。
足の怪我を見ると、少し跡は残っているものの、
ほぼ完治しているようで、医者の男からは、気持ち悪い。
と言われた。
男に礼を伝え、治療所を三人で出ると、
カイルが速く寮に戻ろうと行ってくる。
お腹が空いて仕方ないらしい。
夕食の時間まではまだ少しあるので、
三人で適当な飯屋に入り、料理を頼むと、
カイルは一人で2.5人前分くらいの量を
注文し始めた。
怪我して病み上がりなのに、良くもそんなに食えるものだと感心しつつ、寮の食事は食えるのかと尋ねると「もちろん」と自信満々に言うので、ほっといて自分も軽めに頼む。
結構な量の料理が届き、
本当に食えるのかと訝しんでいたが、カイルはしっかりと
苦しむ素振りもなく、平らげた。
本当に気持ち悪いよ....
お前.....
食べ終わり、寮に戻ると、
一、二時間して、夕食の時間になった。
先程、結構な量食べていたので、
さすがに食わないだろうと思いつつ、
一応尋ねると、もちろん行く。との事だったので、
二人で食堂に行き、夕食を取った。
ニコラも誘ったが、断られた。
これが正常だ。
食堂に着き、飯を食べ始めると、
カイルは先程飯を食べたのが嘘のように、
バクバクと食べる。
食べ盛りなのか。そんなことを思う。
カイルの年齢はたしか以前聞いた時、
12歳か13歳だったか、そんな感じのことを言っていたよな。
年齢としてはドンピシャで食べ盛り。
気にして見ると、何となく、
体も少し大きくなってきているような....
いやそうでもないか。
まだそもそも初めて会ってから、
2、3週間だし、違いがわかるぐらい、
成長してたら怖いか。
そう思いつつ、飯の手を進める。
ウッ....気持ち悪い。もういいや。
結局俺は食事は残して、
食堂を後にする。カイルはおかわりまでしてやがった。
部屋に戻り、そのままベッドにダイブすると、
横からもバフっとベッドに飛び込む音がする。
ベッドにうずめていた顔を左に回し、
カイルの方を見ると、目が合い、
カイルが話し始める。
「来週も、討伐任務行くけど、流石に前衛が必要だね。」
「そうだね。」
「.....どうやって探そうか」
「冒険者で魔術師を募集してる人とかもいるんじゃない?」
「でもノアは第三まで使えるけど、
僕は良くて、第二までしか使えないよ。」
「第三まで使えても、
僕らみたいな子供欲しがる冒険者なんて居ないよ....」
そんな会話を続けて、
とりあえず俺達は、これから毎日、
平日の学校がある日もギルドまで行き、
魔術師を探している冒険者はいないか、
探すことにした。




