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魔素の兆-サイン-  作者: 錦の旗印
第三章 冒険者加入編
23/30

第21話 討伐依頼

目を開けると、

まだ太陽が昇りきっておらず、

空が少しづつ明るくなっていく。

月を見上げると、ほぼ満月の形をした、

小望月が薄く見える。



どうやら朝早くに目が覚めてしまったようだ。


ここ最近は、カイルに起こされることが多く、

且つ起きる時間も昼過ぎとかでだいぶ遅かったからな。

新鮮だ。


そう思い、ベッドから降りて机の前の窓を開け、

椅子を引き、座り込み、開けた窓から、

少しずつ明るくなる空を眺める。


今日はまず、昨日カイルと話したように、

攻撃性能を高める為に杖を買いに行こう。


そんなことを考えながら、窓の外を見ていた視線を

カイルの方に移すと、

カイルはまだ気持ちよさそうに眠っている。


昨日のお互いにベッドに入った時間を考えると、

寝起きのいいこいつだったら、

もう起きても良さそうなもんだがな....


と思ったが、昨日はなんだかんだ言って結構歩いたからな。

疲れていてもおかしくない。


そう思って、もう少し起こさずに、

俺は先に準備を始めることにした。


ベッドの布団を畳み、

寝間着から着替え、

顔を洗い、歯を磨き、

水魔術で作ったお湯で体を洗い、

朝シャワーを済ませる。


体を拭いて、服を着て

洗面所及び風呂場?から出てくる。


どうやらまだカイルは起きていないみたいなので、

流石に起こすことにした。


「おーいカイル。朝だぞ〜。」


2、3度呼びかけ、

体を揺らすと、

少し伸びをした後に手で目を擦りながら、

ゆっくりとカイルが目を開ける。


「ノア、今日は早いね。」


「うん。なんだか目が覚めちゃってね。」


「今日は杖を見に行ってから、

モンスターの討伐依頼に行くんだろ?

他のパーティに取られるのも嫌だし、もう行かない?」


「そうだね。少し待ってて、すぐ着替えるよ。」


「わかった。」


会話を交わし、カイルは洗面所に行くと、

顔を洗い始めた。


外を見ると朝日が完全に登りきっていて、

陽の光が少し目に染みる。


そうこうしながらまたぼーっと窓の外を眺めていると、

どうやら支度を終えたらしいカイルが俺の顔を覗き込んできた。


準備が終わったらしいことを聞き、

二人で食堂に移動し、

いつもより早めの朝食を摂り(普段が遅いのかもしれないが)

また外出届を記入し、街へ出る。


街に出てきて、既に何度か経ち、

街の構造にも慣れてきて、どの建物がどの場所にあるというのも大体把握してきたが、

杖の店というのは初めて行く。


どのような店なのだろうか。

そもそも杖とはどんなものなのだろうか。

素材はどんなものでできているのだろうか。

大きさは?形は?



そんな事を考えるとワクワクする。そう思いながら、

カイルの後ろをついて行くと、10分やそこらで着いた。

意外と学園から近い。


街の大通りからは2本横に入り、

裏路地のようなところを抜けると

木の看板に直に店名が彫られた、

そこそこ大きな店が姿を現した。


店名を見ると、

カーボンの杖屋

と書いてある。


そのままだね。


まあそれはいいか。


中に入ると、

ガラス張りのショーケースの中に

杖が一本一本、丁寧に1段ごとに10本ほどを

3段で並べられている。


カウンターには、

少し腰の曲がった、白のシャツにネクタイをした、

白髪の背の低い老人が優しそうに笑っている。


「いらっしゃいませ......

今回は....どのような杖をお探しで.....?」


老人がゆっくりと落ち着いた口調で話しかけてくる。


それを聞いてカイルが、


「初心者に優しい杖はありますか?」


と答えると、

老人は左側のカウンターに移動すると、

少しこちら側に身を乗り出して、

右手で二段目の左から三番目の

先端に青い魔石が付けられた灰色の杖を指す。


「こちら等はいかがです?

こちらは、ニングの木にランドベアの爪から作られた

第一、第二等級の魔術師の方に優しい一品です。

先端の魔石は、希少な蒼玉を使用しており、

こちらは、

土魔術、風魔術の威力を少々上げる効果もあります。」


そう言われ、値段を聞くと

「銀貨5枚です」と返される。


高いな....


そう思っていると、流石にカイルもそう思ったのか

別のやすい杖はないのかと尋ねると今度は反対側の

ショーケースに案内される。


今度は他の杖より少し長めの

先端に透明なキラキラとした

ガラスのような魔石が着けられた真っ白な杖だった。


「こちらは、二シアの木から作られた物で、

先端に付けられた魔石は、

ドーリア山脈で採取された魔石を使用した杖で、

火と雷魔術の威力を上げてくれる杖です。」


「素材は手に入れやすいので安価なのですが、

性能はしっかりしており、第一、第二等級の魔術師の方でも扱いやすいと思われますよ。」


値段を尋ねると、

銀貨3枚と銅貨6枚と言われる。


うーん流石に厳しいか....

そう思い、さらに安い杖はないか尋ねるが

流石に置いてないとの事だったので、

諦めることにした。



ーーーーーーーーー


店を出た俺たちは早速、

冒険者ギルドで、依頼を受けることにした。


冒険者ギルドにやってきて、

壁に掛けてある依頼掲示板を見る。



俺たち火種級の

冒険者が受けられる討伐依頼はそこまで多くない。

大抵は採取や、護衛任務等だ。

見ると、屋敷の掃除や、積み荷降ろし、

などの雑用も依頼にある。


冒険者とは言ったものの中々に夢のない職業だなぁ....


だが、こういう依頼の中にたまに、

金払いの良い、当たりの依頼もあるかもしれない。

そう思い、目を通していくが、

まあそう都合の良いことがあるはずもなく.....


一通り確認したのち、

次に、嬢に討伐依頼のリストをお願いする。


依頼は、

討伐依頼とダンジョン攻略依頼とそれ以外の依頼

の3つに分けられていて、

討伐依頼とダンジョン攻略依頼を、

確認したい時は嬢に言って、リストを出してもらい、

確認する。


嬢はカウンターの後ろから

討伐依頼のリストを取りだし、

こちらに渡してくる。


中世のでかい本のような見た目のリストだった。

ページの側面を見ると、

ほぼ等間隔に7色の色が着いている。

この部分で色を確認し、

自分たちの等級の色のページを開けばいいということだ。


俺は、本の真ん中に巻かれた帯を解き、中を開く。


一番最初のページを開くと、

大きく暁光級のマークが描かれた

ページが顔を見せる。


更にページをめくると、

暁光級に依頼されたであろう、難しそうな依頼が出てくる。


①熊百足の大顎採取

・報酬 金貨6枚

・場所 奇怪の洞窟 最奥

・内容 熊百足の両大顎の採取

・期限 受注日より一巡以内

・依頼主 鍛冶屋 甲冑師 クロック・インク

・備考 甲殻も採取してきた場合は部位ごとに金貨3枚。


②黒迅虎の駆逐

・報酬 金貨5枚と銀貨2枚

・場所 足取り沼

・内容 黒迅虎の討伐

・期限 暑季入りの鐘が鳴るまで

・依頼主 薬師 インゴ・ヴェスタ

・備考 無し


..........


暁光級か。流石に高いな。

一度の依頼で金貨数枚分も稼ぐのか....

でもこれだけ高額の依頼だし、

まあ死亡や怪我のリスクも高そうだ。


まあこれは上から二番目のランクの依頼だし、

俺らには関係ないな。


そう思い、ページを一気に最後の方まで飛ばして、

火種級の依頼のページを開く。


① 狼獣の討伐依頼

・報酬 銀貨4枚 (追加報酬あり)

・場所 アーリア山脈、山道入口から中腹まで

・内容 狼獣討伐 5匹

・期限 二巡後まで

・依頼主 アルメリアツアー団 運営

・備考 5匹の以上の討伐は一匹ごとに銅貨5枚の追加報酬。




②リックスフッドの討伐及び採取依頼

・報酬 銀貨1枚と銅貨5枚

・場所 大森林

・内容 リックスフッドの2匹分の討伐及び二匹分の皮膜

・期限 5日後まで

・依頼主 防具店 桐揉屋 クシャナ

・備考 皮膜採取に自信が無い場合は、

死体をそのまま持ってきても可




③キリグフォックスの捕獲

・報酬 銀貨3枚と銅貨1枚

・場所 脚先沼

・内容 キリグフォックスの捕獲 死体は不可

・期限 夏前まで

・依頼主 奴隷商 エイビー・ロード

・備考 子供でも可能だが、報酬は半減。




④街道沿いモンスター討伐

・報酬 持ち帰ったモンスターの部位ごとに見合った報酬

・場所 街道沿い

・内容 モンスター討伐

・期限 無期限

・依頼主 アルメリア 街組合

・備考 連絡先

3丁目 魔窟レンガ街 アルメリア街組合本部



次のページをめくると、

裏表紙だった。


ん?少なくね??

依頼4つしかないんだが。

組合の恒常の依頼を除けば3つだ。


やはりもう少し上のランクに上がらないとダメか。


だが、一度の依頼で銀貨数枚手に入るならば、

そこそこ効率も上がるし、依頼を素早くこなして、

ランクを上げるもしくは、

追加報酬のある依頼などで更に稼げば、

学費の支払い期限までになんとか間に合うのではないだろうか。



ギリギリだが、ゴールが見えてきた。そう思い、

俺たちは相談し合って、



一番高額な「狼獣の討伐依頼」に向かうことにした。






ーーーーーーーーーーーーー




現在俺たちは、アーリア山脈に向けて街道を歩いている。


アルメリアの街を出てから、もうしばらく経っていた。


門を抜けた直後は、

まだ背後から人の声や馬車の音が聞こえていた。

荷車の車輪が石畳を削る音。商人の声。

門番が誰かに注意する声。そういう街の音が、

振り返ればまだそこに残っているような気がした。


だが、歩くにつれて、それらは少しずつ遠ざかっていく。


石畳だった道は、

いつの間にか踏み固められた土の道に変わっていた。

両脇に並んでいた建物も消え、

代わりに草地と畑が広がっている。


そのさらに向こう、

空の端に青黒い影のようなものが見えた。


アーリア山脈だ。


街の北西側にあるその山脈は、

遠くから見るとただの背景のようだった。

けれど、近づくにつれて、横に広がる山並みや、

斜面を覆う木々の濃い緑が少しずつはっきりしてくる。


正直、その時の俺は少し浮かれていた。


冒険者になった。


依頼を受けた。


しかも、今向かっているのはモンスター討伐だ。


昨日までは、依頼書に書かれた

「狼獣の討伐」という文字を見るだけで胸が高鳴っていた。ようやく冒険者らしい仕事ができる。

薬草採取とは違う、本物の冒険が始まる。

そんな気がしていた。


「思ったより遠いなぁ」


俺が呟くと、隣を歩いていたカイルが荷物を持ち直した。


「街はなるべく山から遠ざけて作ってあるのさ。山からモンスターが降りてくる可能性とかも考えてね。だからしょうがないよ。」


「それはそうなんだけどさ.....」


俺は苦笑しながら、もう一度前を見る。


依頼の内容は、狼獣の討伐。


5匹。


場所はアーリア山脈、山道入口から中腹まで。


報酬は銀貨4枚。5匹を超えた分は、

一匹ごとに銅貨5枚の追加報酬。


文字で見たときは、いける気がした。

火種級の依頼として出されている以上、

俺たちでも受けられる仕事なのだろう。

うまくいけば学費にも近づく。

ランクだって上がるかもしれない。


そう考えると、足取りは自然と軽くなった。


これからモンスターを倒して、報酬を受け取る。

そんな単純な想像だけで、少し嬉しくなる。

やがて、前方から水の流れる音が聞こえ始めた。


道はゆるく下り、その先に一本の川が見えてくる。

幅は広くないが、浅い小川というほどでもない。

透明な水が石にぶつかり、白く泡立ちながら流れていた。


川の上には、木で組まれた簡素な橋がかかっている。


その向こう側には、

今までの街道とは明らかに違う道が続いていた。


道幅は狭い。


地面には小石が混じり、左右の草は高い。

その奥には木々が密集し、

道は山の方へゆるやかに登っている。

あれが、アーリア山脈へ続く山道だ。


俺たちは橋の手前で一度足を止めた。


橋の向こうを見た瞬間、さっきまで胸の中にあった高揚が、ほんの少しだけ揺れた。


「無理そうなら、すぐ引こう。」


カイルが言った。

その声は、いつもより少し低かった。


「うん。そうだね。」


俺はそう答えながら、腰の装備と背負っている袋の中の道具を確認する。


剥ぎ取り用のナイフ


水。


簡単な食料。


夜に備えてランタン。


寝袋。


万が一のための逃亡用の煙玉。


必要なものはある。


けれど、どれだけ確認しても、妙な不安は消えなかった。


俺たちは橋に足をかけた。


木の板が、ぎし、と鳴る。


下では川の水が絶えず流れている。

街の方から来る風と、

山の方から降りてくる冷たい風が、

この川の上でぶつかっているようだった。


一歩。


また一歩。


橋を渡るだけなのに、

何かの境目を越えているような気がした。


橋を渡りきると、空気が少し変わった。

背後には、アルメリアへ戻る道。

前方には、アーリア山脈へ続く山道。


たった一本の川を越えただけなのに、街の外側から、

さらにもう一段奥へ入り込んだような感覚があった。


「ここからか」


俺が呟くと、カイルが山道の奥を見た。


「依頼書だと、入口から中腹にかけてだよね。」


「うん。もう出てもおかしくないはず。」


その言葉で、胸の奥が少し冷え、体が少し震える。


さっきまで、

俺はモンスター討伐に向かうことにワクワクしていた。


冒険者らしい依頼だとか、報酬が高いとか、

これで学費に近づけるとか、そんなことばかり考えていた。


けれど、山道に足を踏み入れた途端、

その全部が急に現実味を帯びてきた。


ここから先には、本当に狼獣がいる。


依頼書に書かれた文字ではなく、

ゲームの中の敵でもなく、実際に牙を持ち、爪を持ち、

こちらを襲ってくるかもしれない魔物がいる。


一匹ずつ出てきてくれるとは限らない。

群れで囲まれるかもしれない。

逃げ道を塞がれるかもしれない。


命を奪うのだ。相手も命懸けだ。

俺とカイルの二人だけで、本当に対処できるのか。


そう考えた瞬間、足元の土の感触が妙にはっきりした。

風が木々を揺らす。

草の影が動いたように見えて、

俺は反射的にそちらへ目を向けた。

まだ狼獣の姿はない。


だが、もう依頼は始まっている。


ワクワクしていた気持ちの奥から、

はっきりとした怖さが滲み始めていた。


「……行こう」


俺は小さく息を吐いて、山道の奥へ視線を戻した。


俺たちは二人で、アーリア山脈の入口へ足を踏み入れる。


山道に入ってから、俺たちの口数は自然と減っていた。

さっきまでの街道とは違い、足元は歩きにくい。


土の中には小石が混じり、

ところどころ木の根が地面から浮き出ている。


少し油断して足を置くと、

靴底が石に滑り、体が前に傾きそうになった。

どうやら少しぬかるんでいるようだ。

道そのものは、人が通れる程度には踏み固められているのだが、それでも街道のように整えられているわけではない。

草は道の端からはみ出し、

木々の枝は頭上を覆うように伸びていた。


風が吹くたびに葉が擦れ、ざわざわと音を立てる。

それだけなら、ただの自然の音だ。

だが、今の俺には、その一つ一つが妙に大きく聞こえた。


草が揺れる音。


枝がしなる音。


どこかで鳥が飛び立つ羽音。


そのたびに、俺は無意識に視線を向けてしまう。


「警戒は大事だけど、気張りすぎだよノア。」


先を歩くカイルから声がする。


「仕方ないだろ....討伐依頼なんて初めてだし、

何より相手だって群れで居るだろうし、警戒するだろう。」


「気持ちはわかるけど、

ずっと気張ってたら疲れちゃうよ?」


カイルはこちらを一瞥もせず、

軽い雰囲気でそう言いながらどんどんと

山道を登っていく。


緊張しないのか.....?

カイルだって、初の討伐依頼だろうに。

俺とは違い、気張っている雰囲気は全然感じない。

むしろ慣れているかのようだ。



ーーーーーーーーーーーー


俺たちはしばらく山道を登り続けた。


道は相変わらず歩きにくい。


ぬかるんだ土に足を取られ、石に靴底を滑らせ、

時折伸びた木の根を避けながら進む。

最初のうちは、草むらが揺れるたびに肩が跳ねたが、

それも何度も続くと、少しずつ反応が鈍くなっていった。



というより、何も起こらなかった。


出るかもしれない。

今にも飛び出してくるかもしれない。


そう思いながら警戒していたのに、

山道を登っても登っても、狼獣の姿は一匹も見えない。


鳥の鳴き声は聞こえる。

木々の隙間を、小さな獣のような影が横切ることもあった。


けれど、それだけだった。


依頼書に記載された、「山道入口から中腹にまで」

という範囲もそろそろ終わりに近づいていた。


道の傾斜も徐々にきつくなり、

木々の間から遠くに見えた街の景色も

既に、かなり小さくなっていた。


「出なかったね。」


息を少し切らしながら言う。


ずっと気を張って登ってきたせいか

体の疲れも結構あるが、それ以上に頭が重い。


俺の言葉を聞き、カイルも少し立ち止まり、

どこからともなく地図を広げる。


「あと少しで山の中腹と言われる部分は抜ける。

中腹以降の目撃情報は無いから、どこか、

キリの良い所で折り返そう。」


そう言うカイルの顔を見ると、

彼もやはり少し疲れているのか、

顔を見ると、心做しか元気がないように思える。


キリが良い所ってなんだ?

そう思い、カイルに問う。


「キリの良い所っていうのがよく分からないけど、

もうここらで折り返してもいいんじゃない?」


俺が聞くとカイルは少し考えるように顎に手を当てる。


「確かにここで折り返してもいいんだけど、

まだ中腹部分を完全に抜けた訳じゃないから、

どうせなら最後まで見てから下山したいんだ。」


「まあリーダーは僕じゃないし、カイルの意向に従うよ。」


そう答え、俺たちはまた上へ歩みを進める。


道もさらに狭まり、足元も悪くなっていく。

疲労も徐々に溜まってきて、

日も少しずつ傾いて来て、視界も徐々に悪くなる。

一応夜間用の装備を持ってきてはいるものの、

夜の山は結構嫌なんだが。


でも、

ここまで来て何も見つけれずに帰るのも困る。

銀貨4枚。

その金額が、頭の奥を反芻する。


と、その時突然、前を歩いていたカイルが止まり、

俺の顔がカイルの背負っている荷物に埋まる。

リュックの中の金属の何かに鼻が当たり、少し痛い。


一、二歩下がり、鼻に手を当てながら、

カイルに不満混じりに問う。


「おい、急になんで止まるんだよ。」


「シッ」


カイルが少ししゃがみこみ、足元の何かを見つめている。

十数秒見つめたあとカイルは、右手で、地面を撫でている。

が、カイルの背中で隠れてしまい、何を見ているのか、

俺にはさっぱり分からない。


その直後、カイルは山道を少し右側出て、

木々を手で分けて、

かき分けた木々の中に頭だけ突っ込んだ。


何をやっているのか、

ワケがわからないまま、

先程、カイルが触っていた場所を見ると、

ぬかるんでいる地面にくっきりと、

犬の足跡のようなものが付いていた。


俺は思わず息を呑む。


よく見るとその先には、

無数の足跡がついている。

それも二つや三つではない、

「群れ」の足跡だ。


一気に緊張が走り、周囲を警戒する。

その時、カイルが頭を木々の中から引っ張り出し、

山道を見る。


「カイル、もしかして、いる......?」


カイルは、低い声で静かに言う。


「ノア、声を落とせ。」


反射的に口を閉じる。


心臓が、急に強く鳴り始める。


狼獣はいなかったんじゃない。待ち伏せていたのだ。


日が落ち、

暗闇の中で、何かが光る。


一瞬、見間違いかと思った。

だが、違う。黄色く濁った光が、二つ。

目だった。獣の目が、こちらを見ていた。


その直後、別の場所で、また二つ光った。


さらに左。さらに奥。少し高い位置。

低い草の間。暗闇の中に、ぎらり、ぎらりと、

獣の目が浮かび上がっていく。

一匹じゃない。

二匹でもない。


俺は震えそうになる指先を必死に押さえながら、

視界に映る光を数えた。

一、二、三。

四、五。

まだいる。

六、七、


「......八」


声に出したつもりはなかった。

けれど、かすれた声が口から漏れていた。


複数の喉が、同時に鳴っている。

それが山道の左右から、

じわじわと俺たちを包み込むように響いていた。

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