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魔素の兆-サイン-  作者: 錦の旗印
第二章 学園入学編
21/30

第19話 実践魔術決闘



あああああああああああぁぁぁ

くぁwせdrftgyふじこlp



う~~ううう.....あんまりだ…

H E E E E Y Y Y Y !!

あ ァ ァ ァ ん ま り だ ァ ァ ア ァ!!!



.......

フー.....

スーッとしたぜぇ.....




列の最後尾に並ぶと、

前から刺さるような視線を感じた。言うまでもない。

あいつだ。アーク・グレイ。

目が合ったら全てが終わる気がした。


そのまま下を向いたまま憂鬱な気持ちでいると、隣でニコラが小声で「ノアくん、大丈夫?」

と聞いてくる。大丈夫。と返すが、もちろん大丈夫じゃない。でも大丈夫って言うしかない。俺は軽くうなずいて、

頭の中で呪詛を呟いた。


少し奥のカイルを見ると、

逆にやる気満々っぽい顔をしている。なんでだよ。

状況わかってんのか。いやわかってるから燃えてるのか。


陽キャって怖いな。


筋肉教師は前に立って腕を組んだまま、

俺たち全員をゆっくり見回した。

目が合うと体温が一段下がる。

そもそもああいう体育会系のタイプも、

アークとは違うが苦手なのだ。


「よし、集まったな」

やっぱり声がデカいよ.....こいつ.....


嫌だなこういうの....


筋肉教師は床を指さす。

そこには白線で区切られた四角形がいくつも描かれていて、簡易のリングみたいになっている。

この前の入試の時よりも少し狭い。


「この授業は実戦だ。遊びじゃない。殺し合いでもない。」


そう言いながら筋肉教師は、

受け持った生徒を見渡している。


「一年目は基礎と癖の矯正が中心だ。初回は確認をする。

魔術の強さよりも、距離、間合い、反応。ここを見せろ。

ではまず手本として、

特待生の生徒に早速模擬戦をやって貰おう。」


確認。俺は小さくため息を吐いた。

いや、ここでビビってるのを悟られる方が終わる。

そう思って、無表情を保とうとした。


筋肉教師は名簿を片手に持って、淡々と続ける。

「組み分けは俺が決める。文句は受け付けない。相性も、実力差も、全部込みで決める。安全は俺が責任を持つ。」


前世でも怪しい仕事とかの勧誘で、

「安全だから!心配ないよ!合法!!」

とか言ってるやついたなぁ.....


体育教師の安全宣言は信用できねえよ。

「まずは軽い模擬戦。魔術は第二等級まで。属性は自由。ただし火と雷は禁止だ。暴走したら面倒だからな」


よし。火雷禁止。

アークの火雷複合に怯えなくて済む。


「防御は任意。防ぐも良し、避けるもよし、

負傷し、戦闘不能になった時点で終了だ。

終了後はすぐに、結界から回復魔術が掛かるが、

普通に痛いからな。気をつけろ。」


普通に痛い。そうだよな。

痛いよな。知ってる。知りたくない。


筋肉教師は一度笛を持ち上げて、

俺たちの列を指差した。

「アーク・グレイ」


名前を呼ばれた瞬間、周りの空気が変わる。

ざわっとするのに、本人だけ無音みたいに歩く。

足音がしない。いや正確にはしているのだろう。


だが、していないのかと錯覚してしまうほどに無音に近い。


あいつは結界の一つに入って、

腕をだらんと下げたまま立った。

以前の入試でもあれを見た。

あの立ち方。もう嫌だ。



「次、ノア・マックイーン」


だよなぁ。終わった。あ〜、終わった終わった。


俺は無理やり脚を動かした。歩いてるのに床が遠い。

結界の白線が近づくほど、この前の入試の記憶が蘇る。

息が浅くなる。喉が乾く。


結界に入る直前、カイルが後ろから小声で言った。

「落ち着け。動きをみてうまく相手の魔術を打ち消すんだ。」


それっぽいこと言ってるのが腹立つ。いや助かるけど。

でもそれがあいつ相手に簡単に出来たら苦労しないのよ....

ニコラの方は不安そうに眉を下げて、両手を握っていた。


俺はゆっくりと結界に入った。


アークは俺を見た。目が合った。

全身の毛穴が開く感覚。

奴は、俺の事を思い出したのか、

以前とは違い、両手を構え、

すごい形相でこちらを見ている。


筋肉教師が俺とアークの間に立つ。


「開始の合図で距離を詰めろ。決着は二つ。ひとつ、相手を白線の外に出す。ふたつ、相手を戦闘不能にする。どちらかが戦闘不能になった場合、俺が止めの合図をする。以上だ。」



筋肉教師は俺を見て言った。

「ノア。特待生候補だな」

やめろ。言うな。視線が集まるだろうが。


「.....はい」

返事だけして、奴から目を逸らさないようにした。


次に筋肉教師はアークを見る。

「アーク。入試で暴れたらしいな」


アークは以前と同じように無視する。


筋肉教師は満足そうに笑った。

「じゃあ始める。笛の音ともに開始だ。」


そう言って、筋肉教師が腰に着けている。

木の笛を取り、俺ら二人を見る。

その後笛を力強く吹いた。



笛の音と共に俺は白線ギリギリまで下がる。

そして、手に力いっぱい魔素を溜め込み、

水魔術の第一等級、「アイスアロー」を準備する。


一方のアークは動かない。

間合いを測ってるのだろう。

目からは刺すような視線が飛んでいる。


俺は手に溜め込んだ魔素を水魔術に変換しようと

呪文を唱えようとしたその瞬間、アークが来た。


来たっていうか、気づいたら距離が半分になってた。

足音が少し、遅れて聞こえる。


やばい。

俺は反射で呪文を変えて、「アイスシールド」を唱え、

両手を前に広げる。


手の中に水が広がって、視界が歪む。


だが奴は凍り始めた水の膜に右手を突っ込んだ。

なんて奴だ。手が急速冷凍されて、

クソ痛いはずなのに。


コイツは止まらない。


次の瞬間、俺の目の前に凍り始めた拳が飛んでくる。速い。


避ける。が、少し間に合わず、拳が頬先を掠り、

鋭い痛みが走る。

奴の手の甲を見ると、やはり凍っている。


急いで手を奴の腹の辺りにかざし、

風の第一等級「ガスト」を唱える。


手の中に突風が発生し、アークが後方へ吹き飛ぶ。


直後、頬が少し暖かくなる。

手の甲で拭ってみると、結構な量の血液が付いている。


どうやら掠った拳の氷で切れたようだ。


アークを見ると、奴は凍っていない方の腕で、

腹を押え、少し苦しそうにこちらを睨んでいる。


手の甲に付いた血液の量と奴の凍った腕を見て、

日和って、足が後ろに下がってしまう。


白線の外に出るな。外に出たら負けになってしまう。

俺は足裏で白線を確認し、視線を奴に戻す。


アークは俺を見て、少しだけ口元を動かした。

笑ってるのか。笑ってないのか。よく分からない。


怖い。


俺は水を止め、土に切り替える。

土は形が作りやすい。第一等級でも、

足元を崩す程度ならできる。


俺は手に魔素を通すイメージを作り、溜める。

そして、地面に手を付き、

土魔術「ダート・ベンド」を唱える。

直後、奴の足元の一部が歪み、一部が盛り上がり、

足場が悪くなる。


だが、アークは何も変わっていないかのように踏み込み、先程と変わらないスピードでこちらに突っ込んでくる。


俺は焦って風魔術に切り替える。

今度は両手で、再び「ガスト」を唱え、

奴を吹き飛ばす。


アークは吹き飛ばされ、手を付き舌打ちをする。


アークは、立ち上がり、手を前に出し、

土魔術の「ロックショット」と唱える。

手のひらから、石が出現し、形状が鋭く矢のようになり、素早くこちらに飛んでくる。


俺も手を出し、「アイスシールド」を唱える。

水の膜が一瞬で凝固し、氷になり、

当たった石の矢が粉々に砕け、

粉塵が発生し視界が全く見えなくなる。


眼前に舞った粉塵を吸い込んでしまい、反射的に咳き込む。

咳き込みに耐えながら、片目を開き、

前を見ると目の前には既に奴がいた。


(はやいっ!)


そのまま、アークは左手で、俺の腕を掴んだ。

手首が冷える。


急いで掴まれた手の中で、水を作り、溢れさせる。

と同時に後ろに下がり、手を引きぬくと、

掴まれている手がするりと抜ける。


よし!


そう思った次の瞬間、振りかぶった右手で腹を殴られ、

同時に内臓が迫り上がったような痛みがする。


意識が途切れそうになりながら、必死に

手の中に魔素を集め、

魔術を出そうとするが遅すぎる。


腹にいつも魔術を行使する時に

手の中に集めている熱が集まって行くのが感じられる。


暖かいなどと、

そんな呑気な事を考えていると、

奴の口から呪文が唱えられる。


「以前の礼だァ!

風魔術!第二等級!ブラスト!!」


そう奴が唱えた瞬間

腹にくい込んだ拳から突風が出て、

更にキツい痛みが腹を襲ってくる。


それと同時に俺は結界の外に吹き飛ばされ、

気絶した。



ーーーーーーーーー




「〜〜〜〜〜ーーーーー〜〜」


誰かがなにか話している。


あー....うるさいなぁ.....

そう思い、目を開けると、


ニコラとカイルだ。

二人がベッドの俺を見下ろしている。


どういうことだ?そう思っていると、

徐々にさっきまでの記憶が甦ってくる。


ニコラとカイルが

心配し、大丈夫かと聞いてくる。


俺は少し痛みは残っているが大丈夫だと

答え、その後どうなったか聞くと、

勝負は当然。アークの勝利で終了し、


結界が俺に回復魔術を掛けたが、

回復魔術が掛かった後も気絶したまま

なので、そのまま筋肉教師が

医務室まで運んだそうだ。


授業はまだ続いているらしい。


そう思っていると、

大丈夫か?そう言って、筋肉教師が

歩いてきて、顔を覗き込んでくる。


体を起こし、大丈夫だと伝えると、

教師は納得したように笑って、

「にしてもすごいな!

一年であんな試合を見たのは久しぶりだ。」

と言ってくる。


少し戸惑っていると、

教師は続けて、

「お前とアークの戦い方はよかった!

これから一年間教えるのが楽しみだ!!」


「あ、ありがとうございます。」


そう言うと、筋肉教師は

「今日の授業はもう参加せず休んでいてもいいぞ!」

と言って、出ていった。



俺はそれを見てもう一度ベッドに横になり、

魔術を放った手を見ると少し震えている。


それを見てカイルが話しかけてくる。


「どうするんだい?

このまま寮に戻るか、授業に戻るか。」


そう言われ、俺は即座に


「部屋に戻るよ。授業が始まって、

すぐで情けないけど、

今日はもうあいつとは戦いたくない。」


と返し、ベッドの縁に手をついて、

ゆっくり体を起こす。

腹の奥がじんと痛んだ。


回復魔術ってのは、傷は治してくれるが、

痛みまでは消してくれないのが普通のようだ。


足を床に下ろすと、少しだけふらついた。


さっき結界の中で吹き飛ばされた感覚が、

まだ体の中に残っている。


「無理するなよ」

カイルの声が頭の上から降ってくる。


「大丈夫。歩ける。」

そう言って一歩踏み出すと、

床の硬さがやけに現実的に感じられた。


さっきまで、あの白線の中で殴られてたのが嘘みたいだ。


校医が机の奥からこちらを見ている。


「もう大丈夫かな?」


「はい。ありがとうございました」

頭を軽く下げると、校医は小さくうなずいた。


「今日は安静にしなさい。」


「……はいそうします」

礼を言って、医務室の扉に手をかける。


金属の取っ手がひんやりしているのが感じられた。


扉を開けると、外の廊下の空気が流れ込んできて、

遠くから、授業の笛の音が聞こえる。


俺はその音から逃げるように

逆方向に歩き校舎を出て、寮に向かう。


校舎から出て、少し歩くと、

寮の石造りの建物が見えてきて、笛の音や

生徒たちの声が減っていき、少しずつ緊張が解けていく。


寮に着き、扉を開けて、中に入る。


授業中だからだろうが、

入学式の日とは違い、平日の日中の寮はかなり静かで、

落ち着く感じがした。



廊下を抜けて階段を上がるが、

膝に上手く力が入らず、

かなり時間がかかってしまったが、

無事に部屋にたどり着き、ベッドに寝転がって休む。


医務室のベッドの方が柔らかったが、

自室のベッドの方が心做しか落ち着く気がした。




「……はぁ」


俺はもう一度寝ることにした。


目を閉じて、深く息を吐き、無心で体を横にして、

ゆっくりと襲い来る睡魔に感覚を預ける。



ーーーーーーーーーーーー



目が覚めた時、部屋の中は少し暗くなっていた。

窓から差し込んでいたはずの昼の光は消えて、

代わりに橙色の夕焼けが壁を染めている。


「……ん」


体を動かすと、腹の奥がまだ少し痛んだ。

完全に治ったわけじゃないらしい。

どれくらい寝てたんだ。


ぼんやりと天井を見上げていると――

ドンドン、と扉を叩く音がした。

「ノア!生きてるか〜?」

聞き慣れた声だ。


入ってきたのはカイルとニコラだった。


「お、起きてた」

カイルが安心したように言う。


「寝てるところを叩き起こすか迷ったんだけどね....」

ニコラが肩をすくめる。


「夕飯の時間だから呼びに来たよ」

カイルが言った。


夕飯?

窓の外を見る。

空は完全に夕焼けだ。思っていたより長く寝ていたらしい。


「……マジか」

体を起こすと、少しだけ頭がぼんやりする。


「大丈夫?」

カイルが覗き込んでくる。


「うん、まあ……腹はちょっと痛いけど」


「それは当たり前。」

カイルが苦笑する。


「思いっきり吹き飛ばされてたもん。」


うっせ。思い出したくないことを思い出させるな。


「授業どうなった?」

と俺が聞くと、


「普通に続いたよ。あと何試合かやって終わり」

とカイルが答える。


「アークは?」

俺が何気なく聞くと、二人が少しだけ顔を見合わせた。


「……その後はもう戦ってない」

カイルが言う。


「ノアとやった後、なんか教師と話してて。

そのまま終わった」


「ふーん....」


「で、夕飯どうする?」


「行く?」


俺は少し考えてから、ベッドから立ち上がった。

腹は痛いが、全然歩けないほどじゃない。


「行く」

正直、腹は減っていた。

気絶してから何も食べてないのだから当然だが。


「よし」

カイルが満足そうに頷く。

「じゃ行こう。」



部屋を出て、四人で寮の廊下を歩く。


昼間は静かだった寮も、

今は少し賑やかになっていた。

他の生徒たちも食堂へ向かっているらしい。


早退した後の授業の様子と、その後に受けるはずだった授業の様子などを二人に聞きながら、

食堂まで歩いて行き、扉を開けると、

中は人でごった返していた。


他の寮生も同じような時間帯で飯を食いに来ているのだろう。座る席が、一瞥しただけでは見つからないほどに人でいっぱいだ。



「今日は肉らしいね。」カイルが嬉しそうに言う。

三人で列に並び、料理を受け取る。

焼いた肉。スープ。パン。

シンプルだが、匂いだけで少しずつ食欲が湧いてくる。


トレーを持って席に着くと、俺はまずスープを一口飲んで、

すかさずパンを口に運ぶ。昼から何も食べていなかったからだろう。食べるほどに食欲が湧いてくる。


「で」

カイルが肉を食べながら言う。


「今日の感想は?」

「……痛かった。」

俺は即答した。

二人が笑う。


「それは見てれば分かるって。」

カイルが言う。

俺は肉を一口食べてから、小さく息を吐いた。

「でもまあ、死ぬほど強いってことは分かった」


カイルが頷く。

「だろうね。」


ニコラは少し不安そうな顔をした。

「また戦うことになるのかな……」


その言葉に、俺は少しだけ考えた。


俺はパンをちぎって口に入れる。

「……その時は」

少しだけ肩をすくめた。

「その時は、絶対に勝つ。」

自分に言い聞かせるようにそう言った。


二人もお互いに顔を見合わせた後、

こちらに顔を戻し、

短く一言呟く。

「そうだね。」


食堂のざわめきの中で、

俺はもう一度スープに視線を戻し、

掬って、それを口に運んだ。






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