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魔素の兆-サイン-  作者: 錦の旗印
第二章 学園入学編
14/32

第12話 入学試験


「次、受験者番号、201番から250番。試験会場へ案内する。該当者は荷物をまとめて着いてくるように。」


はい、来た。

俺の番号は237番だから、この組だ。


ざわ…と周囲がわずかに動き、

受験者たちが鞄を抱えて立ち上がる。

皆、年齢も背丈もバラバラだ。


試験官の後ろを列になって進むと、

石造りの建物に入った。


外はざわざわしていたのに、中は妙に静かだ。

通路の先には大きな扉。

試験官が両手で押すと、重い音を立てて開いた。


「ここが第一試験会場になる。列を崩さずに入れ。」


中は、思ってたより広かった。

天井が高くて、壁は灰色の石。

中央には半円形に並んだ五つの魔術台。

その前に、腕を組んだ試験官が一人ずつ立っている。


魔術台の高さは胸ぐらいで、上の部分が少し窪んでいる。

魔術を安定させて測るための専用台らしい。


俺たちは番号順に並べられた。


試験官が淡々と説明する。


「第一試験では、第一等級魔術の発動と安定度を確認する。属性は、火・水・風・土、のどれかを行え。

雷属性は危険なので禁止とする。

どの元素で試験を行うかは、事前に試験官に申告するように。形状、大きさは任意。重要なのは安定度である。」


あー緊張してきた……


「では、

番号順に呼ぶ。台の前に進み、試験官の指示に従え。」


順番に番号を呼ばれていき、


234番。

235番。

236番。


次、俺だ。


「237番。」


喉がひゅっと縮んだ。


魔術台の前に立つと、

試験官の男が腕を組んだままちらりと俺を見た。


年齢を見て少し驚いてる……気がする。

まあ十二歳の受験者なんて、ほとんどいないだろうし。


「準備ができたら始めろ。」


低く威圧感すら感じるその声に、

気持ちが一瞬で引き締まった。


よし……落ち着け。


右手を魔術台の上に軽くかざす。

足の位置、肩、肘、手首。いつも通り。



右手を魔術台の上にかざし、少し息を吐いた。

火にする、と決めていた。

一番最初に安定して扱えるようになった魔術で、

練習量も多い。


「第一等級、バーニング。」

声と同時に、指先の前に小さな光が蠢き、

次の瞬間、ぽっと火球が生まれた。


バレーボールよりちょっと小さいくらい。

色は赤じゃなくて、淡い橙色。

最初の揺れを抑えるため、意識を指先に集中させる。

揺れるな。揺れるな。


魔術台の上に、火球をそっと乗せるように近づける。

火が台の縁に触れるときにふわっと揺れる。

ここで焦ると一気に崩れる。

よし。


火球はふわっと浮いたまま、わずかに揺れている。

だが、破裂する気配はない。

試験官が真横から火球をじっくり観察し、

小さく顎を動かした。


「少し揺れが大きいが、保持は安定しているな。

サイズも妥当。炎の厚みにムラはない。では次の段階へ。」

胸の奥が一気にゆるむ。

とりあえず、減点はない。と思う....


「火術の保持、停止。」

言われた通り、魔素の流れを切る。

火球はふっと消え、少しだけ暖かい空気だけが残った。


試験官が板に何かを書き込み、

「237番、よし。戻れ。」とだけ言った。

俺は軽く頭を下げて列の後ろに戻る。


たった数十秒だったけど、体感は五分にも感じたくらいだ。自分の順番が終わると、不思議と冷静になる。


後ろの238番の火球が爆ぜた時は、

俺、さっきこんなんやってたのか?

って他人事みたいに思えた。


しばらくして組の最後の受験者が終わり、

試験官の一人が手を叩く。

「以上で第一試験を終了する。

ついてこい。第二試験会場に移動する。」


会場を出た瞬間、

広い通路にひんやりした空気が流れ込んでくる。

緊張していた分、普通の空気がすごく心地いい。

歩きながら、前の大柄な受験者たちの背中を眺める。

みんな、同じこと考えてるんだろうな。

通ったのか? 大丈夫か?って。


通路を抜けると、

別棟に続く渡り廊下が見えた。

外の光が差し込み、石床の模様が淡く照らされている。




次は、第二試験だ。

アルメリア本校があるディリー地方の地理の記述問題。

テーマは三つあるが、どれを選択して書いてもいいらしいが、出てくるテーマは毎年ランダムのようだ。


地理の記述か……

家でやったのに合うようなテーマ出てくれるといいなぁ....



試験官の足取りについていくと、

前方に、教室のような建物が見えてきた。

窓が大きくて、

外からでも机がずらっと並んでいるのが分かる。


いよいよ次の試験か……

建物の入口に着き、試験官が扉を押し開けた。

「入れ。席は自由だ。」

よし、第二試験。

とりあえず、落ち着いて書けばいけるはずだ。

俺は深呼吸してから、部屋の中へ一歩踏み込んだ。



教室の中は、思ったよりも静かだった。

机は等間隔に並んでいて、

黒板の前には紙束を抱えた試験官が三人。


俺は中央より少し後ろの席に座り、

鞄から羽根ペンとインクを取り出す。

手汗が少し気になる。


しばらくして、全員が席についたのを確認すると、

試験官の一人が前に進み、用紙を配りながら、

淡々と告げた。


「只今から、記述試験を開始する。制限時間は一時間。

ディリー地方の地理的特徴について、

提示した三つのテーマのうち、

一つを選んで記述せよ。

併せて、最後に数理試題を解答すること。」


黒板に書かれた三つのテーマが目に入る。


――ディリー地方の地形と気候

――主要街道と物流の要所

――アルメリア本校周辺の河川網とその歴史的役割


……なるほど。

どれも図書館で目にした内容だが、

一番書きやすいのは「主要街道と物流の要所」だろう。


街道の名称や分岐点、

季節ごとに使われる道、

山脈を避ける「冬期迂回路」の話もあったはず。


よし、これでいこう。


羽根ペンの先が紙に触れる。


最初の一行を書いた瞬間、

さっきまでの緊張が少し溶けた。

書けば、意外と手が勝手に覚えている。


「ディリー地方は、三つの主要街道を中心に物流が形成され……」


文を書きながら、

図書館で見た地図の色や線が自然と浮かぶ。

フェリシアさんから聞いた話も思い出しながら、

街道の役割、交易品の種類、

地形による迂回路と難所の説明を織り交ぜていく。


気づけば、紙の下の方まで埋まっていた。


「残り三十分」


試験官の声が響き、

全員が一斉に顔をあげる。


さて、算数だ。

問題数は十五問、と言っていたな……


紙をめくる。


……うっわ、数字はそこまで難しくないのに、

文章が地味に長い。

「ある商隊が三つの街を経由する際の……」とか

「川を渡る際の舟の積載量と……」とか

場面設定がやたら細かくて、

集中力を削ってくる。


だが、計算自体はやはり、すごく簡単だ。

算数問題だな。これなら余裕だろう。


速度、距離、商隊の分岐、

馬車の積載量と移動時間……

全部、地理と旅に関連したやつだな。


最後の一問を書き終えたところで、

「終了」の声が教室に響いた。


羽根ペンを置く。

指先が少し黒くなっている。


試験官が受験生の間を回り、

順に答案を回収していく。


「そこまでだ。紙を裏返して待機しろ。」


紙を裏返し、机に手を置いて深呼吸する。

無事終わった。


数分後、試験官の合図があり、

全員が立ち上がる。


「第二試験はこれで以上だ。

ここから昼食休憩を一時間。

第三試験の集合場所は中央訓練場。

遅れた者は失格となる。気をつけろ。」


そう言いながら、

試験官が扉を大きく開ける。


教室から出ると、緊張が解け一気に空気が緩む。


あー……腹減った……


胃が静かに主張してくる。


周囲の受験者も、

それぞれの方向へ散っていく。


外に出ると、

中庭が昼の光で明るく、

大きな木の影の下に腰をおろして

持参のパンを食べる受験者もいた。


俺はというと、

荷物から干し肉とパンを取り出し、

石段に座って手早くかじる。


空を見上げると、

少し雲が流れていて、

風がちょうどよく涼しい。


さて……

次はいよいよ、第三試験。


決闘だ。


心臓がどく、とひとつ強く打つ。


体を動かす試験の方が得意なはずだが、

相手が誰になるかでだいぶ変わるなぁ。



頼む!やりやすい人であってくれ!




ーーーーーーーーーーー


干し肉を食べ終え、

荷物をまとめて立ち上がる。


訓練場は中央広場の奥。

すでに何人もの受験者が向かっているのが見えた。


俺も、ゆっくりとそっちへ歩き始める。


訓練場は中央広場の奥、

すでに何人もの受験者が向かっているのが見えた。

俺も、ゆっくりそっちへ歩き始める。


その途中だった。

前を歩く受験者の列が、

何となくざわついた空気をまとい始める。



視線の先に、ひとりの少年が歩いていた。

赤髪。


整ってるようで整ってないミディアムの髪。

背筋がまっすぐで、歩幅に無駄がない。

……そして、何よりも。

目つきが悪い。

いや、「悪い」っていうより

冷たいとか 刺さるとか、もっとひどい何か。


あれに睨まれたら、たぶん俺、

なにもしてないのにいきなり謝ってしまうと思う。


彼は周囲を見ているようで、

実際は誰も見てないみたいな感じで歩いている。

手ぶら。


肩の力も抜けてるのに、雰囲気だけはやたら強い。

受験者たちが勝手に距離を空けていく理由がよく分かった。


すれ違うとき、

一瞬だけ横顔が見えた。

真紅の瞳。

冷たい光をしているはずなのに、

そこだけ妙に熱のようなものを内側に溜めている。


これが、

後々、俺の人生をぐちゃぐちゃに

かき乱すことになる男との出会いだった。










……なーんて、言ってみたかっただけだが。

もちろん未来のことなんか、今は知るわけない。



ただひとつ思った。

(あいつ…...絶対強い......)



会話もない。

視線すら合わない。

だけど、何か嫌な予感だけはした。いや悪寒かな?


そしてあの青少年はそのまま訓練場へと消えていった。

俺も少し遅れて足を進める。




ーーーーーーーーーーー




訓練場に入ると、

すでに複数の結界が展開されていて、

同時に十以上の決闘が行われていた。


火の光、風の渦、雷の跳ねる音。

観客席なんてないのに、

まるで武闘大会みたいな熱が漂っている。


審査官が各結界ごとに四人ずつ配置され、

受験者たちの動きを細かく監視していた。


ここから先は、誰かと戦うしかない。


誰と当たるのかは、まだ知らないが、

嫌な、嫌な予感だけはする。


さっきの赤髪のやつ。

あれと戦うことになったら……


いや、考えるのやめよう。

考えるだけで胃が痛い。


でも、なんだろう。

あの背中だけは、なぜか脳裏にへばりついて離れない。

俺は深く息を吸い、

自分の結界番号を確認しに歩き出した。



訓練場の受付に、自分の受験者番号を伝えると、

受付から結界番号と決闘の対戦者が伝えられた。

アーク・グレイという名前らしい。


俺は、推薦者で、特待生希望者なので、

対戦相手は、同じ特待生希望の優秀な受験生なのだとか。


非常に怖い。


どうしよう、開幕で、

第三等級魔術とかぶっ放されたら....

などと嫌な想像をしてしまった。



俺の結界番号は9番で、

訓練場の中でも奥にあるみたいだった。


前の受験者の決闘は既に終了しており、

もう俺の対戦者も来ているようで、

受付の人に急いで9番の結界まで行けと言われてしまった。


他の対戦者の結界に入ってしまわないように

気をつけて、奥の9番の結界まで走る。


緊張からなのか、走っているからなのか

分からないが、いやに、心臓が早い。苦しい程だ。


9番の結界が見えてくる、

結界の中だからなのかぼんやりと

シルエットしか見えないが、

中にいる対戦者を見ると、

待ちくたびれているのか、

決闘開始位置で座り込んでいる。



やっべえ.....謝らなくちゃな。

そう思いながら近づいていくと、

シルエットが更に鮮明になってくる。


中にいる者を見て、俺は思わず、立ち止まってしまう。


結界の中にいるやつの髪色は赤髪だった。

あいつだった。



対戦相手を理解した瞬間、

頭の中で一気に、感情が爆発する。


あいつじゃねえか.....

なんでだよ.....

なんでなんだよ!!!

どうしてだよォぉぉおおおお!!!!

リュー〇ゥゥゥ!!!



もう〜〜〜〜〜〜!!!!!

なんなんだよあいつ!!

怖いんだよ!!!

明らか強そうなんだよ!!!

てかなんでよりにもよって俺の相手があいつなんだよ!!

何十人、下手したら何百人以上いる受験者の中で、

なんであいつなんだよ!!!!


感情が頭の中を駆け巡る。

そして俺は、ため息をつき、

一言呟いていた。

「終わった.....」


そう呟いたあと、俺は深呼吸を2回して、

精神を落ちつけて、自分に言い聞かせた。


冷静になれ。俺。あいつが強いかどうかは

まだやってないから分からない。


それに、仮にも俺は、

上級者の領域の第三等級を使えるすげえ奴なんだ。


大丈夫焦るな。

落ち着けばきっと勝てる。

自分にひたすら言い聞かせ、鼓舞する。


数十秒精神を落ち着けて、

俺は再び9番結界に向かって歩みを進めた。


結界の前まで来ると、再び心臓が早くなる。


俺は大きく息を吸い込み、

足を一歩前に出して、結界をくぐった。



中に入った瞬間、

空気が変わった。


結界に入ったと同時に

試験官と奴がこっちを見る。


「遅くなってしまい申し訳ありません。

受験者のノア・マックイーンです。

よろしくお願いします。」


大きな声でそう言うと、

試験官が軽く頷く。


「両者、所定の位置へ。」


俺は指定された立ち位置に移動する。

奴も反対側に歩くが、

その歩き方すら強者みたいでイラつく。

いや、かっこいいとかじゃない。

イラつく。


距離が十メートル。

でも体感では三歩くらいしかない。

なんでこんなに近く感じるんだよ。


指定の位置まで移動し、

奴の顔を見ると、

目が合った。

一瞬だけ。


殺される……?


いや、大げさじゃなく本気でそう思った。

遠巻きでさっき見た目つきとは比べ物にならない。

目つきが鋭いってレベルじゃない。

切れ味のある刃物みたいだ。


もう顔見ないで試験の説明聞いとこ.....





試験官が、淡々とした声で説明を始める。


「決闘開始後、降参、行動不能、

または危険と判断した場合は即座に試験を中断する。

過度な破壊行為は禁止。致命傷を狙う攻撃は即失格。

近接武器等は使用可だが基本は魔術での戦闘を行う事。

それでは、双方、準備はいいか。」


「はい。」


俺の声が少し震えた。

でもちゃんと言えた。

よし、まだ死んでない。


奴の方を見ると、無言でこっちを見つめている。

返事しないのはいいのか??

いや試験官もスルーしてるってことはいいのか。


ていうか態度悪すぎだろあいつ。


試験官が手を上げた瞬間、

奴が俺を見る。

観察、でもなく、期待、でもなく。


見下している目だ。


こいつ、最初から俺を雑魚扱いしてやがる。

確信した。

あの目は「勝負にもならねぇ」と言ってる。


試験官「では、第三試験。開始!」


空気が一気に張り詰めた。


奴は動かない。

いや、動かないんじゃなくて、

構える必要すらないって顔をしている。


腹立つ。

怖いけど腹立つ。

なんだこの気持ち。


俺は深く息を吸い込む。

火を練るか、水で牽制か……

考えていると、


奴が、こちら見て、

真顔でゴミを見るような目で言った。


「……おい。」


「……はい?」


声出た。

反射的に返事しちゃった。


「最初に言っとくわ。」


そう言い、奴は、片手を前に出し

指先に魔素を貯め始めた。


雷が、奴の指先に微かに走る。

魔素を溜めている。第一撃が来る。


そんな事を思っていると、

続けて、奴は言った。


「期待外れだったら、マジで容赦しねぇぞ。」


え?


期待って何?

俺なんかに期待する要素あった??

知り合いですらないよな??

怖いってほんとに。


俺は喉がひゅっと鳴るのを感じながら、

迎撃する姿勢を作った。




その時、奴の瞳がほんの一瞬だけ細くなった。

その変化から読み取れた。


あ、こいつ……楽しんでる。


何故だろうムカついてきた。

さっきまで怖かったのに、

なんか見返してやろうという気概が湧いてくる。



「行くぜ、ノア・マックイーン。」


地鳴りのような雷が走る。


逃げられない。

逃げたくない。

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