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魔素の兆-サイン-  作者: 錦の旗印
第二章 学園入学編
13/30

第11話 下見

城門が近づくほどに、

周囲の風景は「街へ入る前の空気」へと変わっていった。


まず、道幅が少しずつ広くなり、

荷馬車や人の行列が自然と列を作り始める。


それぞれの馬車が等間隔を保つように止まり、

人々が門に向かって歩いていく。


城壁は近づくとさらに巨大で、

見上げると首が痛くなるほどだった。


外壁の石は巨大で、拳大どころではない、

人間の胴ほどの大きさの石が積み上がっていて、

「どうやってこんなの作ったんだよ……」

と素で呟きそうになる。


馬車はもうすぐ最前列というところで停まり、

御者が振り返って中の乗客に向かって言った。


「ここからは、徒歩になります。

荷物をおまとめになり、降車のご準備をお願いします。」


言われた通り荷物を抱えて馬車を降り、

長蛇の列に自然と促されるように並んだ。


前には荷物を山のように積んだ商隊、

後ろには旅慣れた冒険者の男女、

そのさらに後ろには家族連れ。

熱気がすごいな.....


人の声、獣の匂い、焼けた土の香り、

そして、門番の怒鳴り声が遠くから響く。


「身分証を見せろー! 目的を言えー!」

門番の声はよく通る。

しかし混乱は無かった。

ベルリナの門は、明らかに慣れている。


旅人も多いし、商人も多い。

街そのものが循環しているのがわかった。

順番がじわじわと前へ進み、ついに俺の番が来た。


眼前には、鉄製の胸当てを身につけた

屈強な兵士が二人。

槍の先を軽く地面につけ、

こちらを上から下までじっくり見てくる。


「少年、一人か?」


「はい。試験のために、ベルリナへ。」


「試験?……アルメリアのか?身分証はあるか?」


「いえ、申し訳ありませんがないです。

ですが、入学試験で使用する、

出身村の村長の人物保証書なら.....」


「.....まあそれでいい、見せてみろ。」


そう言われたので、俺は背負っていたバッグを下ろし、

急いでバッグの中から綺麗に巻かれた、

村長の人物保証書を取りだし、

目の前の兵士に手渡す。


兵士はそれを受け取り、

慣れた手つきで巻き付けてある紐を解き、

中を素早く確認した後に、少し眉を釣り上げ、答える。


「なるほど....まあいいだろう。通行を許可する。

街の規則は門の横に掲げてある。

夜間の外出には気をつけろ。」


ふむ.....意外とすんなりと通れそうだ。

もしかしたらこの街では、

こういうケースも珍しくないのかもしれない。


「わかりました。ありがとうございます。」

兵士は頷き、槍を軽く上げて道をあけてくれた。

そのまま城門をくぐる。


石で組まれた巨大なアーチの下は

薄暗いトンネルのようで、

全身が影に包まれる感覚があった。


だが抜けた瞬間

視界が一気に開けた。

ベルリナの街は、

想像以上に広かった。


遠くまでまっすぐ伸びる大通り。

左右には露店や店屋がぎっしりと並び、

看板が風に揺れている。

食べ物のいい匂い、香辛料の刺激的な香り、

新しい靴の革の匂い、湿った水路の匂い……

あまりの情報量に頭が軽く痺れそうになる。


大通りを巨大な荷馬車が通るたび、

人の波が自然と割れ、

またすぐに埋まっていく。


始めてみる光景に若干意識を

持っていかれそうになるのを抑え、


とりあえず、日も落ちてきているので、

さっさと宿を探し、今日は休むことにした。

とはいえ、初めての街だ。

どこに何があるかなんてさっぱり分からない。


とりあえず人通りの多い大通り沿いなら、

宿も多いはずだと思って歩き出す。

通りの両側には、

酒場兼宿屋っぽい看板がずらっと並んでいる。


「黄金の樽亭」「王冠の獅子」……名前だけ見ると立派だ。

一軒目、窓から笑い声と音楽が漏れている店に入ってみて、

カウンターの男に声をかける。

「一泊いくらですか。」


「個室なら銀貨7枚だ。」


「検討します。」

高いので、即撤退。


二軒目は外から見て高級とわかる店。

一応聞くだけ聞いてみたら、

「食事込みで銀貨9枚から」と言われて、

丁寧に頭を下げて出た。論外だ。


その後、少し路地を入ったところに、

色あせた看板の小さな宿を見つけた。

「すずめ亭」と読める。


中に入ってみると、そこそこ人はいるけど、

さっきみたいな大騒ぎではない。

カウンターの中にいた中年の女性に声をかける。


「一泊お願いしたいんですが。」


「個室でいいかい? 銀貨1枚と銅貨3枚、前払いね。」


「お願いします。」


ようやく現実的な値段が来た。

金を渡すと、鍵を一つ手渡される。


「二階上がって一番奥の左。

鍵はちゃんとかけな。食事は?」


「どんなのが出るんでしょうか。」


「パンとスープと煮込み。銅貨2枚。」


「じゃあお願いします。」


プラスで銅貨を置いて、

階段を上がって、廊下を通り、部屋のドアを開ける。


内装は、木のベッドと小さい机と椅子だけの、

本当にシンプルな部屋だったけど、

泊まるだけなら十分だった。


ひと息ついてから一階に戻り、

頼んでおいた夕食を食べる。


黒パンをスープに浸してかじり、

肉と豆の煮込みを口に運ぶ。

味はそこそこだけど、旅の疲れにはちょうどいい。

食べ終わると、女将さんに礼を言って二階に戻る。


扉に鍵をかけて、荷物を軽く点検する。

財布、書類、フェリシアさんの推薦状、

村長の保証書、筆記用具。


大事なものは全部ある。よし。

気が抜けて、ベッドに仰向けになり、

布団をかぶる。


緊張で少しだけ胸がザワザワするけど、

疲れの方が勝ったのか、

いつの間にか意識が途切れていった。


こうしてベルリナでの最初の夜は、

わりとあっさり終わった。



翌朝、

硬いのか柔らかいのかよく分からないベッドから、

うーんと伸びをしながら体を起こす。

窓の外からは、まだ人の少ない石畳を掃除する音と、

遠くで鳴る荷車の軋む音が聞こえてきた。


「……よし。」


小さく呟いて、顔を洗いに階下へ降りる。


昨日とは違う受付の人に、

銅貨を渡すと、

ほどなくして、

昨日と似たような黒パンと野菜スープが出てきた。

パンは固いけど、噛んでるうちに小麦の匂いがしてくる。

スープの方はまあ薄いがこんなもんだろう。


(試験会場の場所、もう一回頭で整理しとくか……)


パンを齧りながら、

昨日もらった街の簡易地図を広げる。

ベルリナの街は円を少し崩したみたいな形で、

その外周をぐるっと分厚い城壁が囲んでる。

試験会場は、街のやや北寄り、

城壁から少し内側に入ったあたりにあるらしい。


宿から会場までは、徒歩で二、三十分ってとこだろうか。

迷わなきゃ、の話だけど。


食べ終えて部屋に戻り、荷物をざっと確認する。

硬貨入れ、受験票代わりの身分証と

フェリシアさんからもらった推薦状の写し、筆記用具、

それからいつもの、ノートとしての魔術紙。


「よし、忘れ物は……多分ない。」


カバンを肩にかけて部屋を出て、

階下へ降り、

受付に

鍵を渡す。


どうやら、宿での外出時は、

鍵を渡すというのが、マナーというか、常識らしい。

鍵を預ければ、宿側は鍵を紛失される心配がなく、

客は、外出中に部屋で起こったことは宿側の責任。

ということでwin-winの関係のようだ。






宿を出ると、

朝の日差しが石畳に反射して、少し眩しい。


村の朝と違って、もう結構人が歩いている。

行商、兵士、

明らかに魔術師っぽいローブ姿の人もいる。

肩が自然とこわばる。


(大丈夫。大丈夫……別に俺だけが田舎者ってわけじゃない。はず……いや田舎者か。)


地図を確認しながら、大通りを北へ進む。

途中でパン屋の前を通ると、

甘い匂いが一瞬だけ鼻をくすぐった。

危ない。うっかり寄り道するところだった。


しばらく歩くと、目の前に、

他の建物より頭一つ分抜けて大きい建物が見えてきた。

三階建ての灰色の石造り。入口前には広い石段。

扉の前には


「アルメリア魔法魔術学校 

エルナト地方 筆記試験会場」

と書かれた看板が立てかけてある。


「ああ……ここか。」


少し緊張した息が勝手に漏れた。


石段を上がって中へ入ると、

ひんやりした空気が肌を撫でる。

天井は高く、壁には古そうな紋章の旗が掛けられていた。

正面には広いホール、その右側に受付のようなカウンター。

既に何人もの受験生らしき子たちがうろうろしていた。


ローブを着ているやつ、杖を持っているやつ、

剣まで持っているやつ。

年齢も色々だ。俺と同じぐらいの年に見える子もいれば、

十四、五くらいの少し大人っぽい顔もある。


少し緊張するが、顔では平然を装い。ホールを見回す。


入口近くに「受験案内」と書かれた立て札があり、

そのすぐ横の掲示板に、紙が何枚も貼られていた。


(あれだな。)


人を避けながら近づき、掲示板の一番上の紙を読む。


『入学試験概要』


試験は全三項目。

一、基礎魔術操作

二、読解および記述

三、一対一実戦演習


その下に、さらに細かい説明が続いていた。


・試験一:基礎魔術操作


火・水・土・風のうち一属性を選択し、

魔力の安定性、持続時間、形状の維持を評価する。


威力よりも、魔術の生成練度を重視。


「ふむ……」


これは前に図書館で見た説明と、だいたい同じだ。

俺だったら水を選ぶか。あるいは火。

複合魔術という線は低いだろうから、単体の一等級か二等級で無難にまとめればいい。


・試験二:読解および記述


簡易な魔術史の文章を読み、要点をまとめる記述式。

短文を用いた理解試験を含む。



そして、問題の三枚目。


・試験三:一対一実戦演習(最終試験)


受験者同士による一対一の魔術決闘。


採点基準:

・魔術の練度

・状況判断

・魔力配分の管理

・安全確保能力


決闘は結界内で行い、審査官が常時監視する。

降参、行動不能、または審査官の判断により試合終了。


過度な破壊行為、致命傷を狙った攻撃は即失格。

近接戦闘も可能、だが極力魔法を使用すること。




と書いてある。


「…………マジか。」


今度は完全に口から出てた。

隣にいた受験生らしき少年がちらっとこっちを見たので、

慌てて咳払いでごまかす。


最終試験、決闘。

頭のなかで何度も言葉を繰り返す。


一対一で戦う。

こっちは、なんとか第三等級の複合魔術をかろうじて

扱えるレベル。

風土複合に関しては、成功率ゼロ。

魔術での対人戦なんて、当然したこともない。ハハッ....


……いや笑える要素、一個もないな。


掲示板の下の方にさらに細かい説明があった。


『決闘は、試験一および試験二の結果を踏まえ、

審査官が対戦相手を選定する。

極端な実力差が出ないよう配慮する。

勝敗のみで評価はしない。

戦い方全体をもって判定する。』


(勝たないと即落ち、ってわけじゃないのか……)


少しだけ、胸の圧迫が緩む。

でも、「じゃあ楽勝だな!」とは到底ならない。


「戦い方全体をもって判定する。」


要するに、どう魔術を使うか、どう状況を見て動くか

を見られるってことだ。


ただの火力勝負じゃない。

焦って突っ込みまくるやつより、ちゃんと距離を計って、

魔力を節約して、

適切なタイミングで攻撃できるやつの方が評価される。

.....多分そういう試験なんだろう。


(まずいなぁ.....風土複合……戻ったらもう一回、

イメージだけでも整理しとくか……)


掲示板を最後まで読み終えてから、少し離れた場所の壁にも、別の紙が貼られているのに気づいた。


『受験生への注意事項』


 ・試験当日は、開始時刻の一時間前までに受付を済ませること。

 ・試験一および二は同日、試験三は同日午後より、実施。

 ・杖、補助具の持ち込みは可。ただし武器の持ち込みは、制限あり。

 ・防具は簡易なもののみ可。鋭利な装飾、過度な金属鎧は禁止。

 ・妨害目的の行為が判明した場合、即座に受験資格を剥奪する。


このあたりは普通か。

とりあえず、何か尖ったものを身につけてきたりしなきゃ大丈夫そうだ。


ホールの空気は、さっきより少しざわついていた。

多分、みんな今の掲示板を読んだんだろう。

「決闘だってよ」「え、そんなの聞いてないけど」とか、

あちこちから小声が聞こえる。


そりゃそうだよな。

俺もさっき同じことを思ったし。


一通り必要そうな情報を頭に入れたので、

そのままホールの隅のベンチに腰を下ろす。


「試験一が午前、試験二も午前中で、試験三が午後ってことは、体力残しとかないと死ぬな……」


魔術の実技 → 文章読解 → 決闘。

順番もなかなかいやらしい。

一番最後が一番消耗するやつじゃねえか。


まあ、今考えすぎても仕方ないか。


腰を上げ、もう一度受付の横を通って外に出ると、

さっきより日差しが強くなっていた。

人通りも増えて、馬車の往来も激しくなっている。


会場の前の大通りを少し歩き、塀沿いをぐるっと回ってみる。建物は思ったより広く、裏手には練習用らしき広大な場所があった。


今は誰も使っていないのか、木製の人形がいくつも立っているだけだ。


(あそこで決闘するわけじゃないんだろうけど。

雰囲気は似たようなもんなのか?)


一周して場所の感覚を掴む。

……よし。だいたい分かった。


心の中でそう区切りをつけて、宿への道を戻ることにした。


行きとは違う細い路地を通ってみると、

小さな露店がいくつも並んでいる道に出た。

揚げパンみたいなものを売っている屋台、

妙な色をした飲み物を売っている屋台、

魔導具らしき、

よく分からないガラクタを積み上げている店。




宿に戻る頃には、

出てきたときより人通りがさらに増えていた。


宿の部屋に戻り、机の上に地図とノートを広げる。

まずは試験の整理からだ。


ノートの白いページに、簡単に三つの項目を書く。


 試験一:基礎魔術操作(水か火?)

 試験二:読解・記述(睡魔対策)

 試験三:決闘(魔素切れ注意)


うーん.....

一番の問題はやっぱり三つ目。

決闘となると、距離感と魔素配分が最重要だ。



相手も同じくらいの年、とは限らない。

十歳ギリギリの子もいれば、十五歳の年上もいるかもしれない。


(やっぱ、基本は一等級を主体にして、

間合いが取れたら二等級か複合を混ぜる感じか……)


ノートに、簡単に魔術の選択肢を書いていく。


・水:牽制、地面を湿らせて足元を滑らせる、

・火:攻撃、威嚇、距離を取らせる、

・土:盾、攻撃

・ヴェイパー・シンク:熱湯で攻撃、相手の視界を奪う。


風土複合 (ダストウィンド)は、一旦端っこに小さく書いておいた。成功すればおそらく、目眩しになって強い。

けど、成功しないだろう。


(ぶっつけ本番で成功するほど甘くないよな……)


ため息をついてノートを閉じる。


次は、読解対策。

図書館で借りてきた、あの薄い魔術史の概説書を取り出して、適当なページを開く。


「創立から百二十年……

初代校長は第六等級魔術師 リヴィア・ファルナード」


声に出して読むと、少しは頭に残りやすい。

とはいえ、全部暗記する必要まではなさそうだ。

要点を掴む練習と思って、数ページ読んだところで、一旦本を閉じる。


窓の外を見ると、日はもう半分くらい傾いていた。

夕方、ってやつだ。


(そろそろ風呂……というか、体拭いに行って、

少し外で、魔術の練習をして、

あとは早めに寝た方がいいな。)


宿の共同の洗面所で、桶の水を使って体を拭き、

汗と旅の砂埃を落とす。

冷たい水で顔を洗うと、少しだけ意識がシャキッとした。


部屋に戻ってベッドに腰を下ろす。

このまま横になったら、そのまま朝まで寝られそうだ。

でも、最後にもう一つだけやっておきたいことがある。


フェリシアさんからもらった推薦状を、

カバンから取り出し、広げた。


厚めの紙に、きっちりした文字で書かれた文章。

「フェリシア・アルノート」の署名と、

彼女の印章を模した魔術印が最後に押されている。


(この一枚がなかったら、俺はそもそも受験できなかったわけで……)


そう考えると、緊張より先に、笑えてくる。

どれだけお膳立てしてもらってるんだ俺は。


「……明日、ちゃんと受かりますから。」


誰に聞かせるでもなく、小さくそう言ってから、

そっと紙を折りたたみ、再びカバンの中の一番奥にしまった。


窓の外からは人の話し声と、

遠くの酒場の歌声がかすかに聞こえる。


灯りを少しだけ絞り、ベッドに横になる。



ーーーーーーーーー



翌朝。


目が覚めた瞬間、布団の中で「今日だ」と理解した。

心臓の鼓動が、いつもより少しだけ早い。


顔を洗って、昨日より少しだけ多めに朝飯を食べる。



服装はいつもの村の服だが、土汚れや埃を払って、

できるだけマシな見た目になるように整える。


部屋を出る前に、手の中で魔素の流れを意識して、

もう一度だけ複合魔術風土をやってみる。


手のひら、肩、背中。いつもの通り。


やはり、成功せず、手の中で、

魔素の掻き消える感覚だけが残る。


まぁ、無理だよな。知ってた。


諦めて、カバンを肩に掛け、

部屋を出て、

鍵を受付に預け、宿を後にした。


試験会場へ向かう道は、昨日よりも人通りが多かった。

明らかに受験生と分かる一団が、あちこちにいる。


年の近い子が数人で固まっているグループ。

親らしき大人と一緒に歩いている子もいる。

一人で歩いている奴も、意外といる。


よかった……完全にレアケースってわけじゃないな。


会場に近づくにつれて、

人の流れが一本の川みたいになっていった。

石段の前には、既に長い列ができている。


深呼吸して、その列の一番後ろに並ぶ。


少しずつ列が進み、会場の中へと吸い込まれていく。

入口の手前で、試験官らしき人が一人ひとりの名前を確認していた。


「次の方、受験票を。」


前の受験生が終わり、自分の番が来る。

カバンから書類を取り出して差し出すと、試験官の男が目を通した。


「ノア・マックイーン。エルナト地方、オルダ村出身。

年齢九歳。推薦入学希望。推薦者フェリシア・アルノート。」


名前を読み上げる声が、妙に大きく聞こえる。

後ろの方から「九歳?」

という小さい声が聞こえた気がしたが、

聞こえなかったことにしておく。


試験官は書類をめくり、推薦状の印章に視線を落とした。

一瞬だけ眉が動いたような気がしたが、すぐ無表情に戻る。


「推薦状、確認。問題なし。受験番号は、」


机の上の箱から、木でできた札を一枚取り出し、

裏を見てから俺に渡してくる。


「237番。ピンに通して、

よく見える位置に付けておくこと。

試験一までは、ホール奥の第一待機室で待機。」


「はい。ありがとうございます。」


札を受け取り、指定どおり首からぶら下げる。

木札には、焼き印で「237」と数字が刻まれていた。


ホールの奥へ進むと、

「第一待機室」と書かれた扉がいくつか並んでいた。

番号ごとに振り分けられているらしく、

二百番台の部屋は一番奥のほうだ。


扉を開けると、

中には既に何人もの受験生が座っていた。


長机がいくつか並べられ、その周囲に椅子。

皆、緊張しているのか、ざわついているような、妙に静かなような、変な空気になっている。


空いている席を見つけ、鞄を足元に置いて腰を下ろす。

木札をいじる癖が出そうだったので、手をぎゅっと握りしめて堪えた。


ここから、だな。

頭の中で何度も繰り返す。


試験一。

試験二。

そして、決闘の試験三。


村での生活とは、まるで違う一日になる。

戻る頃には、何かが変わっていてほしい。

いや、変えるために来たんだから、変えなきゃ意味がない。


扉の向こうから、足音と、なにかの紙が擦れる音が近づいてくる。


「受験者番号、1番から50番、

これより試験会場へ誘導する。着いてくるように、」


淡々とした声が扉の向こうから聞こえた。

胸の奥で、心臓がどくんと一つ、大きく鳴る。



こうして、

アルメリア魔術学園の入学試験が静かに始まった。


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