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魔素の兆-サイン-  作者: 錦の旗印
第一章 村編
10/30

第9話 推薦状の依頼


森の入り口に着いたころには、

村の鐘が昼の合図を過ぎてだいぶ経っていた。


大岩の近くの入口から森に入り、倒木の脇をすり抜け、

いつも魔術の練習をしている開けた場所に着く。

が、フェリシアさんはいない。


そりゃそうだ。魔術の練習をしている時だって、

毎回会っていたわけではない。

だが、今日はどうしても会う必要がある。


もう少し奥まで行ってみよう。


沢を抜けて、ノアが瓶を埋めた場所まで来た。

ここまで来てもいないか。だいぶ奥まで来たんだが。


もう少し行って、

もし会えなかったら今日は魔術の練習をして帰ろう。

そう思い、さらに奥まで進む。


ここまで来る人もあまりいないようで、地面も踏み均された地面から草が伸びて若干の獣道のような地面に変わってくる。


さらに奥に進むと水が緩やかに流れる音がする。

近くに小川でもあるのだろうか。そう考え、さらに奥に進むと、先の方に少し陽光が差し、他より明るい場所がある。


草や枝を分けて、陽光の差す場所に近づいていくと、

水音がだんだんと大きくなってくる。

泉だ。泉がある。


そして草木を分けて、泉の縁に出た瞬間、

淡い栗色の髪。いた。

フェリシアさんだ。


だが、今日はなんだか、いつもと違う格好をしている。

いつもは、白いワンピースに、サンダルなのに、

今日はなんか、真面目というか硬い格好してるな。


茶色の長袖にベージュの上着と、

ズボンにこの世界特有の謎の靴。......

露出はいつもより少ないはずなのに、エロいっすね....



彼女は、しゃがんだ姿勢で水面を覗いていた。

気配に気づいたのか、こちらに顔を向ける。



「こんにちは、フェリシアさん。」


「こんにちは、ノアさん。今日も練習ですか?」


「いえ……本日は、その……お願いがあって来ました。」


自分でも分かるくらい声が固い。

深呼吸して、言う順番を頭の中で並べ直す。


「やっぱり、僕、アルメリア魔法魔術学園に入学します。

ですが.....僕の年齢での入学には、

認可のある術者の推薦が必要と伺いました。

フェリシアさん。僕の推薦状を書いていただけないでしょうか。」


言い切って、頭を下げる。

背中に自分の鼓動が響く。


少しの間、沈黙が続いた。

まずい、俺、何か失礼な事でも言ってしまっただろうか....

とりあえず何か言わなくては.....



「……顔を上げてください。

まず、どうして学園へ行きたいのか、

その理由をはっきりと、

あなたの言葉で聞かせてください。」


用意してきた問い。深呼吸を挟み、意を決して言う。


「はい。ここで教わったことを反復し、

練習しているうちに、色んな事ができるようになりました。

でも、魔術本を見ると、まだまだ、

この世界には、僕の知らない事が沢山ありました。

それをもっともっと知りたいんです。

それに、僕は学園に行かなきゃいけないんです。

ある人物から託されたものがあるので。

だから、この世界のことが学べる、

アルメリア魔法魔術学園に僕は入学したい。

いや、しなきゃいけないんです!!」


視線が逃げないように俺は、

フェリシアさんの目をまっすぐに見て、

はっきりと言いきった。

彼女は、俺の目をまっすぐ見て、

瞬きを一度すると、口元がわずかにやわらいだ。


「わかりました。推薦の件、お引き受けしましょう。」


「本当ですか。ありがとうございます!」


声が上擦らないように、でも喜びは隠せない。

足元が軽くなる感覚を覚えた。が、

すぐに彼女が手を上げて制した。


「ただし、一つだけ確かめます。

推薦は保証でもあります。

保証する以上、私が見たものを、

そのまま書かなければいけません。

いつものこの場所で、

いつものあなたのやり方で見せてください。

第三等級の複合魔術、水と火、そして、風と土を。

形と大きさを揃えて。」


そう言われて、俺は、喉の奥が乾き、

ごくりと唾を飲み込む。風と土.....

まだ一度も成功したことないあれをか.....


できるのか.....?俺が。

そう思いつつ、とりあえず水と火を作る。


集中しろ....集中しろ.....

自分に言い聞かせ、ゆっくりと右手を出す。

大丈夫だ......大丈夫だ......


姿勢、肩、肘、手首。力は入れず、息を吐く。

いつものように、手の中に二重構造を作り、

そこに、争わせないようにゆっくりと、

魔素を通し、そして詠唱する。


「水火魔術第三等級ーーヴェイパー・シンク。」


そう唱えると、

指先の前に、白い輪が立ち上がる。

薄い蒸気がふわっと広がり、輪郭がはっきり出てきて、

球も非常に安定している。


「形は揃っています。魔術自体は、熱の層が薄くて少し輪郭が甘い。でも、野外でここまで合わせられるなら、十分です。では次、土と風の重複魔術を。」


大丈夫.....大丈夫.....落ち着け.....落ち着け.....

そう自分に何度も言い聞かせ、右手を前に出し、

二重構造を作る。


手の中にゆっくりと風と土を作り込み、

全身からゆっくりと魔素を指先に送り、二重構造の中に

同時に魔素を流す。


よし.....ここまでは大丈夫だ。


風と土。両方安定している。これなら行ける。

「ふぅ.....風土魔術第三等級ーーダストウィンド。」


声と同時に、掌の中の空気がピリッと震えた。

細かな塵がふわりと舞い上がり、風が形を取り始める。

よし、いい感じだ。そう思った瞬間、

地面の砂が不自然にうねり、風が逆流した。


「っ……!?」

指先がビリッと痺れる。

風が暴れだした。制御が効かない。

魔素が一気に膨張し、風の流れを押し返してくる。

そして、二重構造がバラバラになってしまった。


結果、魔術は失敗した。


「……失敗、しましたね。」


「……すみません。」


「いいえ、謝る必要はありません。」

フェリシエは首を横に振った。


「途中までは、完璧でした。

魔素の流れも安定していましたし、

土と風の配分も悪くなかった。」


「魔素の扱いに、

力任せな部分が少し残っていますね。

あなたの魔核は強い。だから、

出力を無意識に上げすぎてしまうんです。

そこが課題ですね。」


「さてと、ではここで少々お待ちください。」


「えっ、どこに行かれるんですか.....」


「どこって、私の家です。

今、羊皮紙は持っていませんからね。

推薦状を書くなら必要ですから。」


「えっ、推薦していただけるんですか。」


「はい。私は見たままを書くとだけ言いました。

失敗したら、書かないとは言ってませんよ。」

そう少し笑って、彼女は、森の奥に姿を消した。



マ、マジか.....よっしゃ.....

推薦状、書いてもらえる.....

そう思った瞬間、緊張していた体から

一気に力が抜けていくのを感じ、その場に座り込む。


少し経ち、フェリシアさんは学生鞄のようなものを持ってきて、中から薄い板に挟んだ羊皮紙と、羽ペン、インク壺、小さな布。を取りだし、流れるようにペンを走らせた。




《推薦状》

ノア・マックイーン(十二歳)

第三等級水火複合魔術の基礎の成立を確認。

出力の反復、再現性良好。第三等級風土複合魔術、失敗。

魔素制御に難アリ。

総評: 素直な魔素の通し方を有し、継続力・自律性あり。

推薦者:第五等級術師 フェリシア・アルノート

(術者印付与)



最後の行で、彼女は胸元のペンダントを外した。小さな金色の印章。蝋を、火を使わずに指先で温めるようになでると柔らかくなる。


封を落とし、印を押す。凹みの紋がきれいに出た。

墨が乾くまでの間、フェリシアさんは俺をまっすぐ見た。


「ノアさん。学園は、楽しいだけの場所ではありません。自分から掴みに行かなければ、何も得られないまま終わる子もいます。でも、掴みに行き続けるなら、きっと大丈夫。あなたは、そういう目をしています。」


「……ありがとうございます。」


封が乾いた。彼女はそれをきっちりと折って封筒に収め、もう一度、印の上から軽く押して固めた。


「はい。これが推薦状です。失くさないように。」

そう言って彼女は、

丸めた羊皮紙をこちらに差し出してきた。



両手で受け取る。封筒が、重く感じられ、深くお辞儀する。


「本当に、ありがとうございます。」


「お礼は合格してからで。」


「では、今日はここまでですね。帰り道気をつけて。」


「はい。」


泉を離れる直前、振り返ってもう一度頭を下げる。

フェリシアさんは手をひらりと振って、

彼女も森の中に消えていく。





村へ戻る道は、行きより短く感じた。

足が勝手に速くなる。

家々の影はさっきよりも長い。


家の前まで来て、貰ってきた書類や、メモなんかを

落としてきていないか確認する。

封筒、地図、推薦状。よし。


家の扉を開けると、台所から湯気の匂い。

リーネがシリウスを背中に背負いながら、

鍋をかき混ぜていた。顔を上げて、こちらを見る。


「おかえり、ノア。どうだった?」


「いただけました。推薦状。」


「推薦状?推薦が必要だったの?」

リーネが不思議そうな顔をする。


そこから俺は、図書館で調べた内容と、

推薦状の経緯を説明した。


説明している途中で

納屋からルツが戻ってくる。

入口で、土埃を払って近づいてくる。

封筒を一瞥して、短く頷いた。


「よく分からないけど、上手くいったようだね。

そのフェリシアさん?にもお礼にいかなくてはね。」


「はい。明日、村長のところへ

人物保証をお願いに行きます。」


「午前に行きなさい。午後は荷の仕分けだからね。」


「了解です。」


簡単な夕食をとりながら、ルツを含めて、図書館で、

学園について調べたこと、推薦状の依頼の件、

森での出来事を報告。風と土の複合試験のこと、

リーネは頷きながら笑って、

ルツは相槌少なめに聞いていたけど、

眉間の皺がいつもより浅い。

たぶん、喜んでくれてるだろう。


食後、机に向かって出願段取りの紙をもう一度整理。

左上に提出物の欄。

・推薦状(封筒のまま)

・人物保証(村長の署名・印)

・保護者同意(リーネ&ルツ署名)

・出願票(氏名・年齢・出身)

右上に旅程。

・一日目:村→宿場A

・二日目:宿場A→宿場B

・三日目:宿場B→ベルリナ

下段に持ち物。

・書類袋(封筒・地図)

・腰袋(小銭)

・食料(干し肉・乾パン・ナッツ代替)

・水袋×2

・裁縫道具・布・糸

・石鹸小・油紙

・火打石・縄・小刀


ペン先で□のチェック欄をつくり、

完了したら、✓をつけていく。

やることは多いけど、順番にやれば減っていく。




その夜は、興奮で寝付けないかと思ったが、

気づいたら意識が落ちていた。体の疲れが勝ったらしい。


翌朝、いつもより少し早く目を覚ました俺は、

リーネの用意してくれた朝食を済ませ、

荷物をまとめてから、ルツと村長のもとへ挨拶に向かう準備をしていた。


ルツと村長の所へ挨拶に行く直前に、

リーネが、薄い布に包まれた瓶を持ってきた。


「村長さんのところへ行くなら、これを持って行って。」


「手土産、ですか?」


「ええ。去年の蜂蜜。すこし貴重だけど、

こういう時に使わないとね。」


ありがたく受け取る。

落とさないように、胸側の袋とは別に手で持って行く。


扉を開けると、空の色は澄んでいて、

村の遠くで牛の声が聞こえる。


いつもの森まで行く道を途中まで通る、

今日はルツも一緒だ。いつもは、

畑仕事する用に適当な服しか着ないが、

今日は、珍しく正装だ。


結構似合ってかっこいいじゃあないか.....ダディ....


そんな事を考えながら、途中で、曲がり、

丘の道を登る。少し登った先に、

一目でわかるぐらい、大きな家があり、

こじんまりとした家が立ち並ぶこの村では、

異彩を放っていた。



村長の家は、村の一番外れにあり、

大きな家だった。(二回目)

庭も大きくて、

菜園には、よく分からない花が植えられている。


家の扉の前で一度深呼吸し、肩の余計な力を抜き、

扉を三度、一定の間隔で叩く。


「はーい。」

高い女性の声がする。


「マックイーン家のノアと申します。

本日は、人物保証のお願いに参りました。」



落ち着いた声で名乗れた。よし。

メイドさんっぽい人が扉を開いて、

中へ通される。客間に案内され、

待っていると、お茶が出される。



待っていると白い髭を蓄えた、

いかにも村長と言った感じの、好々爺が出てきた。


「おや、ルツさんとそちらはノアくんか。大きくなったね。

まあまあとりあえず座わりなさい。」

そう言って、彼も椅子に腰かける。


「失礼します。」


「さて、それで、今回は、どのようなご要件かな?」


そう言われ、俺は事情を、説明した。

すると村長は、少し悩んだ顔をしたあとに、

推薦者について聞いてきた。

そこで俺は、推薦状を手渡した。


村長は、ゆっくりとその紙を広げ、少し眺めた後に呟いた。

「推薦者は……フェリシア殿か。

ふむ、印も確か。なるほど、学園へ。」


「ありがとうございます。」


「なるほど、君の要件はわかった。

しかし、保証は、私でよいのだね?」


「はい。村のことを代表して、

という形でお願いしたく存じます。」


村長は頷いて、一旦、部屋を出て、

羽ペンを持って、戻ってきた。

そして名前、役職、村名。をスルスルと記入し、

最後に印を押す前に、ひと呼吸置いて俺を見た。


「ノアくん。」


「はい。」


「紙の上の保証はこれで済むが、

もうひとつだけお願いしたい。学園から戻ってきた時、

学園で得たものを土産話として話してくれるかな?

村の子らにとっては、遠い町の話はどんなものより、

嬉しいはずなのだ。」


「わかりました。」


外の話に興味を持っているのは。俺もそうだけど、

他人に話すか....他人に.....嫌だなぁ.....


村長は細く笑い、印を押した。

蝋が冷めるまでの間、ルツと村長は、

軽い世間話をし始めた。今年の種、市場の景気、川の浅瀬。

だが俺達は、蝋が冷め終わり、すぐ席を立った。


受験まで時間が無いからな。長居は無用できない。

何度かお礼を言い、母から預かった蜂蜜を渡し、

村長から激励の言葉を貰い、

昼過ぎくらいに村長の家を出た。




家に戻ると、リーネがシリウスを背負いながら、

洗濯棒から衣類を外していた。

日差しで少し温かくなった布の匂いがする。

俺らが帰ってきたのを見て、駆け寄って聞いてきた。


「うまくいった?」


「はい。村長さん、すぐに書いてくださいました。

条件も一つ、もらいました。」


「条件?」


「戻ってきたとき、学園での経験を

子どもたちに話すこと。」


「いい条件ね。」リーネが笑って言う。

「話すの、ノアは得意でしょ。」


家族に話すのは得意だが....

他人に話すのは得意ではないし、なんならできないよ....

そう思った。



部屋に戻ってきて、机で書類を並べ直す。

出願書、推薦状、人物保証、保護者同意書、地図。

保護者同意は、朝のうちにルツとリーネに

署名してもらってある。名前の間違いもなし。

全ての書類を巻物のように丸め、さらに外側を布で包み、

書類袋に縦に5つ入れた。



昼前。残りの時間は、旅の準備だ。

ルツが納屋から大きな革袋を持ってくる。


「背負い袋だよ。詰めすぎないようにね。」


「はい。」


下の段に衣服と布。中央に食料。

雨具と書類袋、脇ポケットに石鹸と火打石。

側面に水袋を二つ。


重心が片寄らないように、左右の水の量を合わせ、

荷が背中に近づくように荷物を調整する。


やっていると、なんだか自分が旅人になっていく感覚で、

少しワクワクする。全てを詰め込み、試しに背負ってみる。


これ、結構重いな。

でも、きついって程じゃない。これぐらいでいいか。

あと他に必要なものは.....



荷造りをしていると、リーネが部屋の入ってきて、

小さな布包みを二つ差し出す。


「一つは乾燥ハーブ。疲れた時、お湯に入れて飲むの。もう一つは糸ようじ(みたいなやつ)。細かいことだけど、口の中が気持ち悪いと集中できないから。」


「そこまで……ありがとうございますお母さん。」




夕方になり、日も落ち始めた頃、

机に向かいで筆記試験の練習を少しだけしてみる。


筆記試験は、既に出る問題が公開されており、

主に、詠唱魔術の理論の論述試験と、数理試題と、

アルメリア学園本校の周辺の地理と

地形についての論述試験の、

3つが出るらしい。



ちなみに、この1つ目には、

決まった正解などはなく、

自分の思うことを書く、

大学の論述試験の様な問題だ。


魔術の理論は、第三等級魔術の複合魔術の

二重構造について、

自分が思う事をつらつらと書いてみたが、

正直これが正解なのかよく分からない。

だが、いつもこれで、水火の複合魔術は、

成功しているので、大丈夫だと思う。


一方で、本校の周辺地理と地形についての論述は、

結構自信が持てる出来栄えだった。

本校の周辺地理は、周りが山に囲まれた盆地で、

過去に、大雨が降った時や、地震が起こったときに、

土砂崩れ、火山噴火、等の二次災害が発生した。

と図書館の本に書いてあった。



当時は、対応が遅れ、多くの犠牲者を出した。との事で、

次回、そのような災害が、

いつ起こるか分からないようなので、

周辺地理の災害の危険性、二次災害の関係性と

その対応についてを書いた。


「大雨時は山や、川から離れて」

「噴火時は、荷物をまとめ速やかに、その場所を離れる」

「緊急時に備え、防災鞄を作成しておく」

など、ほとんど前世の、

ニュースや記事で書いてあったような。内容ばかりだ。


この世界には、回復魔術があるので、

この世界の住人は非常に危機管理能力?、危険予測能力?

とでも言うのだろうか、そのような能力が低い。

だからこそ、こういう内容が必要では、

ないかと思い作成してみた。

一応、ルツに見せてみて、OKをもらったし、いいだろう。



最後に数理試験問題なのだが、

内容が完全に小学生の算数だったので省略させてもらう。


一つ目の論述試験は自信がないのだが、

仮に、筆記試験の点数が低くとも、

そもそも、筆記試験の配点はそこまで

大きくないので、痛くない。

実地の魔術試験の配点が非常に高いからこそ

俺は余裕でいられる。


「と、まあ、こんなとこでいっか。」

そうつぶやき、手に持って眺めていた

自分の練習問題の用紙を、

机に置き、下の階に降りた。




台所では、リーネが寝ているシリウスを背負いながら、

鍋を弱火にかけていた。鍋からは湯気が薄く上がっている。


外はもうすっかり夜だった。紙の山は提出物に変わり、袋の中身は旅の道具になった。やることの大きい塊は、大体、片づいた。


「ノア。」背中からルツの声。


「はい。」


「明日は、道中の確認だけして、

あとは体を休めた方がいいよ

出発前に無理をすると、出発してから響くからね。」


「わかりました。」


そう言って、二人で食卓につき、

シリウスを抱いたリーネと4人で食卓を囲んだ。



夜。灯りを落とす前、机の端に紙を一枚。

明日のやることを三つだけ書く。


1. 試験会場までの道のり確認。移動距離、所要時間等。

2. 荷物の最終確認。


書きながら、視線が木札に落ちる。フェリシアさんの印が、

灯りの明滅に合わせてわずかに光る。


フェリシアさんは、かつて学園の学生だった。

あの人が学んでいた場所へ、自分も向かうのか....


少し感慨深いような、気持ちになった。




扉の向こうで、リーネが歩く音。

外では、納屋のほうで、

ルツが工具を片付ける音が響いていた。



明日もやらなきゃ行けないことはあるし、眠よう。

そう思い、ベッドに入り、目を閉じる。

自分でも驚くほど意識はふっと浅くなっていった。






窓から朝の日差しが顔に当たり、自然と目が覚める。

体が軽い。すぐにベッドから出て、水を飲んで、顔を洗って、下に降り、軽くパンを噛み、ペンと昨日の紙を持って

家を出て、図書館へ歩いて行く。



図書館に着き、扉の前で一呼吸をしてから扉を開ける。

中はいつもの紙の匂いがした。

カウンターにはいつもの司書さん。

眼鏡の奥の目が細く笑う。


「おはようございます、マックイーンさん。」


「昨日はありがとうございました。今日は、

試験会場までの道のりと所要時間を確認したくて。」


そう言うと、司書さんが奥から、大きな本のようなもの

を持ってきて、机の上に置き、中を開いた。

中には大陸の地図が書かれていた。

彼女は顔を本に近づけ、この村とベルリナを探し始めた。

少しして、彼女が指さしてこっちに言った。


「こちらですね。」


俺はその後、村からベルリナの試験会場までの道のりと

宿の場所を確認し、移動時間等を改めて計算し直し、

メモを取り、司書さんに確認をしてもらい、図書館を出た。




家に戻り、玄関の扉を開けると、シリウスの泣き声がした。

ベビーベッドにまで行き、シリウスを抱き上げてやる。

小さな指が俺の髪を掴む。痛い。けどなんか安心する。


笑って、指をほどき、シリウスを頭上まで持ち上げて

高い高いをする。更に高い高いしながら軽くジャンプしてやると、なんだかすごく嬉しそうに笑う。

横を見ると、リーネが笑っている。


学園に行ったらこんなことも、しばらくしてやれないな。



しばらくシリウスをあやしてやり、自室に戻ると、

昼の鐘が遠くでゆっくりと3回鳴った。

俺は机の引き出しから封筒を取り出し、もう一度、

書類を全て確認する。よし。全てあるな。

書類の不備等も.....ないな。


一階に降り、食事をとって、自室に戻ってきて、

少し横になり、昼寝することにした。

いよいよ明日出発か.....そう思い、俺は少し目を閉じた。

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