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魔素の兆-サイン-  作者: 錦の旗印
第一章 村編
11/32

第10話 ベルリナへ

いよいよ、出発の日だ。

俺は朝早くから起きて、

服を着替え、家の前に止まっている馬車に、

荷物を積み込んだ。


ここからまず、馬車に一日揺られ、

ここから東にある街、モンカに行く。

ここまでは、個人で手配した馬車に乗っていく。

タクシーみたいなものだ。

だが、その後は、決まった時刻で運行している、

路線馬車というのがあるので、

それに乗り変えて、次の街までいく。


そうやって、乗り換えを重ねていくと、

ベルリナに無事到着。とまあそういう感じだ。


ということで、俺は馬車に荷物を積んでいるということだ。

正直かなりコンパクトにまとめたので、荷物と言っても、

カバンとあと少し....と言った感じのものだけなのだが、

まあそれはいいだろう。


だがひとつ、すごく嫌な予感がする。

ルツが全く荷物を積み込んでいない.....

知らない地方、知らない街、知らない土地、に行くのだから

着いてきてくれるものだとばかり思っていたが、

ま、ま、まさか、まさかな.....ハハ.....


「父さんは荷物は積み込まないんですか?」

顔を少し引き攣らせながら言うと、

想定した答えがしっかりと帰ってくる。


「旅費がかさむから僕は行かないよ。

ノアももう十二歳だろう、大丈夫さ。」


あっはーい。

この世界の事情についても、全く知らないガキを

一人でほっぽり出すなよ....

ひでえなおい.....そんな事を思いながら、


「あ〜、そうなんですね。残念です〜。」

と、適当に答える。


そうか....一人か....


学園は、入学試験が終了して2日で結果が出る。

前世の受験の期間と比べるとバケモンみたいな学校だ。

で、合否発表されてから、希望すれば、直接、

馬車で本校まで送迎してくれる。


だから俺は、合格だった場合その場で、

馬車に乗って本校まで行くので、

実質ここで、挨拶して別れたら、会うのは、

休みの期間等に帰省することを考えなければ、

おそらく卒業後になってしまうのだ。


ここで、もうお別れか....すこし寂しいな。

そう思い、もう一度玄関の方を振り向くと、

シリウスを抱いたリーネがこちら見ている。

すごいな.....まだ日昇ってないぞ....

早起きだなぁ.....そんな事を考えながら、

御者のおっさんに一声かけて、リーネの方に走っていく。


「母さん、おはようございます。僕、もう行きますね。

合格したら、そのまま学校送迎の馬車で、

アルメリアに向かうので、ここでお別れになります。

シリウスも、もうお兄ちゃん行きますね。」


そう言いながら、高い高いをしてあげる。

すごく嬉しそうだ。笑ってる。

高い高いをし終わって、抱っこすると、

シリウスが一言、


「のあ」と言った。

喋った。シリウスが喋った!

シリウスは生まれてから

まだ一度も喋ったことがなかったのだ。

俺とリーネは互いに見合って

「今喋りました!」


「喋ったわ!!」

と言って二人で喜ぶ。とんだサプライズだ。

やるじゃん。弟。


喜びを分かちあった後、

リーネが少し落ち着いて

「ノアが、旅立つってわかって、

シリウスも頑張ったのね。」

と言い、笑って、更に言葉をかけてくる。



「頑張ってね。あなたならきっと

すごい魔術師になれるって、母さん信じてるわ。」


「はい。ありがとうございます。

絶対に立派な魔術師になって帰ってきます。」


リーネと話していると、後ろからルツも近づいてきて、


「アルメリアは、寒暖差の激しい土地だから、体調を崩さないよう、季節の変わり目には、気をつけるんだよ。」


「たまには手紙も寄越してね。母さん心配だから。」


など、色々と言われ、ありがたいが少し、

お腹いっぱいになってきた。


「父さん母さん。とりあえず、わかりましたから。

落ち着いてください。」


「じゃあ僕はもう行きますね。

手紙もたまに出しますから。」


そう言うと、最後にルツが少しだけ言い淀んで、

それから言った。


「この前は、ああは、言ったけど、本当に難しいと思ったら、戻って来てもいいよ。それにもし、入れなかったとしても、終わりじゃない。次のやり方を考えて出直せばいい。」


ルツはそれだけ言って、肩を軽く励ますように叩いてきた。

ほんとに、こういうこと、言うのずるいよなぁ.....

泣いちゃうだろうが。ったく。


「はい。二人とも今日までありがとうございました。」


そう言って、家の前に止まっている馬車に乗り、

御者に声を掛けると馬車が動き始め、村の門へ向かう。


馬車の後ろから二人を見ると大きく手を振っている。

ああ、もう行くのか俺。


少し寂しいな。意外と3、4年ぽっちしかいなかったけど、

家族の絆とでもいうものが芽生えていたのかもしれない。

前世の母さんや父さんも元気にしているだろうか.....


などと考えていると、

馬車は村の門くぐり抜け、森の横を通り始めた。

ふと森の入口を見ると、暗いが、誰かいる。


長い綺麗な栗色の髪。あの白いワンピースにサンダル。

フェリシアさんだ。彼女だ。間違いない。



この時期の早朝の格好にしては、やはり少し寒い気がする。

そんな事を思いながら、両手をあげて、思っきり手を振り

叫ぶ。


「フェリシアさーん!行ってきまーす!!」


すると、彼女も片手で、

自分の胸の高さ辺りで降っていた手を頭上まで上げて、

手を振り返してくれた。


見えなくなるまで、手を振り終わると、

上げていた、馬車の幌布を元の位置に戻し、

御者のおっさんに、

次の目的地までの所要時間を聞くと、

「まあそうだな....5、6時間ってところか?」

御者のおっさんが、後ろを振り向きつつ答える。

5、6時間か結構かかるな.....

つく頃はちょうど昼時くらいか?


そんな事を考えつつ、

時間あるので、少し眠ることにした。


朝が早かったからな。かなり眠い。



ーーーーーーーーーー



馬車の揺れが止まり、自然と目が覚める。

御者に場所を尋ねると、一つ目の街、

モンカに到着したようだ。


馬車の幌布をめくり、

外を見ると、目の前に、モンカの街が広がっていた。



モンカの街は、

村とは比べものにならないほど賑やかだった。

石畳の通りには露店がずらりと立ち並び、

荷車を引く商人たちの声、馬の蹄の音、

が絶え間なく響いており、

露天からは、焼き立てのパンや干し肉の匂いが漂ってくる。


「ここが……モンカか。」

初めて見る規模の街並みに少し圧倒されつつ、

御者に料金を支払い、深く頭を下げる。


「ここまでありがとうございました。」


「いいってことよ、坊ちゃん。気をつけて行きな。」

御者のおっさんは軽く笑い、

馬を軽く叩いて足早に去っていた。


俺は荷物を抱え直して、まずは食料の調達に向かった。

街の中央広場では、干し肉、果実、パン、

保存食が所狭しと並んでいる。

財布の中身と相談しながら、

保存がきく固い黒パンと手軽に食べられる干し肉、

少しの果実を買い込む。

どれも少し高いが、

旅の途中で食べ物が尽きるよりはマシだ。


買い物を終えてから、路線馬車の発着所を探す。

大通りの端に、立派な屋根付きの待合所があり、

打ち付けられた時刻表には次の街の名前

「リュネ」と書かれていた。


時刻表を見ると、

次の出発はおよそ20分後らしい。

「20分か.....ここで待つか。」


そう独り言をいい、

待合所のベンチに腰掛け、

持ってきた水袋の水を飲む。

それにしても、街の空気はどこか乾いていて、

村とは違う匂いがするな。人の多さと、

焼けた肉の匂いとそれにほんのり

混ざる香辛料の香り……全部が新しい。


そんなことを考えながら、街を眺め、

ボーっとしていると、

停留所の前に大きな幌馬車が7つ、一列に止まった。

見ると、馬車の側面に一台ずつ1から7の番号が

書かれている。


それと同時に、

徐々に発着所に集まる人が増え始め、列を作る。

老夫婦、荷物を抱えた行商、冒険者風の若者。

色んな風貌の人達が並んでいる。


行列にならないうちに

俺も荷物を肩にかけ、立ち上がり、列に並ぶ。


少しして、馬車のうちの一台から、

帽子をかぶり、木札を大量に持った青年が降りてきて、

列に並んでいる人に行き先を聞き、金と交換で、

木製の札を渡し始めた。


俺の番が来て、見様見真似で、銀貨を数枚支払い、

行き先を伝えると、

五とだけ記載された薄い木札を手渡され、


「五番の馬車です。途中で停留所が三つ、

終着点は、リュネです。降り間違えのないように。」

とだけ短く言われた。


俺は、礼を言い、

木札を握りしめ、指定の馬車へ向かい、

御者の人に、木札を手渡し、後ろから乗り込んだ。


革の匂いと、かすかな干草の香り。

外観は少し古びているが、座席はしっかりしているようだ。


荷物を床に降ろし、座席に付き、

乗客が次々と乗り込み、

最後にいくつかの荷物が運び込まれ、

馬車の扉が閉じられた。


少しした後に、

「リュネ行き、発車します!」

という御者の声とともに、車輪が動き出す。


軋む音とともに、馬車がゆっくりと街を離れていく。

窓の外では、モンカの街並みが少しずつ遠ざかっていく。

馬の蹄の音が、だんだん一定のリズムに変わっていった。


ふと横を見ると、隣の席の商人ぽい格好の中年が

軽く会釈してきたので、

こちらも小さく頭を下げる。


「坊主、一人旅か?」


「ええ、まあ……学園の試験を受けに。」


「学園? まさかアルメリアのか?」


「はい。」


「そりゃすげえな。おれも昔は受けたかったけど、

当時は字が読めなくてなぁ。」


「いやぁ、若いのに一人で立派だな。ハハハ!」

そう言って、陽気に笑う。


少しの間会話をかわし、話が途切れると、

窓の外に広がる景色を眺めた。

丘の向こうに、夕陽が傾き始めている。

金色の光が、草原を一面に照らしていた。


馬車の揺れが心地よくて、また、まぶたが少し重くなる。


起きると、中には、俺一人しかおらず、

他の乗客は、全員どこかの停留所で降りたようだった。

外を見ると、完全に夜で、辺りはあかりひとつない、

田舎道で、何となく、少し不安になる。


御者の人にリュネまでの、

終着点までの残り時間と現在の時刻を尋ねると、

現在の時刻は、19時頃で、残り約30分程度で、

着くとの事だった。


少し小腹が減ったので、その間、なにか食べようと思い、

床に置いてあるバッグを開き、中から、先程購入した干し肉を取り出し、ちぎっていくつか、口の中に放り込むと、

口の中にスパイスと干した肉の風味が広がる。


その後、地図を取り出し、明日の道のりを確認する。

今日はリュネで、一泊し、明日は2回乗り換えを重ねて、

もしかしたらベルリナまで着けるって感じか。

乗り換えの時間とかが上手く合わなかったら、

メイラ?という街で一泊することになりそうだな。


そんな事を考えながら地図を見ていると、

視界の端に何かが映る。


窓の外を見ると遠くに、明るく、煙の上がる街が見える。

あれが終着点の街、リュネか。


御者が声を張り上げる。

「まもなくリュネに到着します!下車の準備をしてください!」

俺は鞄の紐を締め直し、小さく息をついた。


街道を進んでいた馬車が、

石畳を踏みしめる音を立て始めた頃、

周囲の家が増え、人の声や屋台の匂いが漂い始め、

ゆっくりと減速した馬車はそのまま広場の中心で止まり、


御者が馬車の扉を開け、

「リュネに到着しました、

忘れ物のないようにお願いします!」と言う。


俺は荷物を抱えて急かされるように馬車をおりた。

まずは宿探しだ。

気合を入れて通りを歩き、

一軒目の宿に入り値段を聞くと、

銀貨七枚という高さにそっと引き返し、

二軒目は満室、

三軒目は裏路地の危なそうなところにあった。


この宿は酒場と一体化しており、

中からは酔っぱらい同士の怒鳴り声と

割れたグラスの音が聞こえ、怖くなり、即退散した。



夜もいっそう暗くなり、俺は少し、焦り始めてきた。



四軒目をしっかり断られたところで、

町の繁華街的なところから、

少し離れて探してみると、

少し小高い所にある、

青い屋根の宿を見つけた。


走っていき、入口の扉を押し開けると、

中から木の温もりが残るやさしい空気が広がった。


受付の優しそうな老人に一泊の料金を尋ねると、

銀貨二枚という良心的な額の返答が返ってきたので、


すぐに宿泊する旨を伝えて、

料金を払い、鍵を受け取り、

足早に、二階の奥の部屋に向かった。


扉を開けた先には木のベッドと机と椅子があるだけの、

簡素な空間が広がっていたが、

不思議と落ち着ける匂いがして、

さっさと荷物を置いて、

上着と靴を脱ぎ、

ベッドに大きくダイブした。


柔らかなベッドの上で、

俺は、今日一日のことを振り返った。


村を出た時のリーネやルツの顔、

シリウスの「のあ」と言った声、

森にいたフェリシアさんの姿。


モンカの街の匂いや人のざわめき、

昼の強い日差しや馬車の揺れ、

そんな断片がまとめて押し寄せてきた。


仰向けになり、

そのまま背中をベッドに預けると、

柔らかな感触に、

少しずつ瞼が重くなっていくのを、

危うくそのまま受け入れそうになったが、


突如、「グー....」っと低い音で、

お腹が鳴ったので、

爆速で上着を着て、靴を履き、

部屋を出て、

受付の老人に、

鍵を預けた後、

美味く、安い店を聞いて、



爆速で外に駆り出した。





翌朝。

「……ふぁぁ……。」

目を開けると、

窓から射し込む柔らかい光が部屋を淡く照らしていた。


ここが村じゃない、という実感が、

寝起きのぼんやりした頭にゆっくり染み込んでくる。

「そうだ……旅の途中だ。」

ベルリナまで、まだいくつか街を越えなきゃいけない。


ベッドから身体を起こし、布団をどけて伸びをすると、

背中がポキポキと音を立てた。

意外と馬車の移動の疲れが溜まってるらしい。


よし、さっさと準備して、出発しよう.....

今日も結構長いからな。


顔を洗って、荷物をまとめ、階段を降りると、

受付の老人がこちらを見て、静かに頷いた。


簡単に礼を述べ、鍵を返却し、外へ出る。



うん.....空気が冷たい。朝の匂いがする。


広場へ向かって歩きながら昨日買ったパンをかじり、

路線馬車の発着所を探すと、

すぐに大通りの端にそれらしい屋根が見えた。

近づいて、昨日と同じように、

打ち付けられている時刻表を見る。



今日向かう街は「メイラ」。

このリュネの街から馬車で二時間ほどの距離らしい。

そしてメイラからさらに別の馬車に乗り換え、

そこから長い山脈を越えるルートを通って、

やっとベルリナに辿り着くという道のりになっている。



「今日も厳しそうだな.....」

そんなことを呟きながら時刻表を眺める。

次の便は......

どうやらあと1時間ほどで出るようだ。


待合所の木のベンチに座り、

荷物を横に置いて、人々の往来を眺める。

村じゃ見かけないような、武器を装備した冒険者。

荷車に山ほど布を積んだ商人。

旅芸人らしき一団。

子供を抱えた母親。

いろんな人間がいて、新鮮だ。



やがて、発着所に大きな影が差し込んだ。馬車だ。

昨日と似た造りの路線馬車がゆっくりと停まり、

御者が手際よく手綱を引いて馬を落ち着かせる。


ほどなく、昨日のように乗車札を売る人達が歩いてきて、

客たちが列を作った。俺もその列に加わる。


「行き先は?」


「メイラです。」


「銅貨8枚。」

銀貨を渡すと、女性は素早くそれを受け取り、

木札を無言で差し出してくる。愛想悪いな.....


「二番、乗りな。」

短い言葉とともに木札を受け取り、

俺は指定の馬車へ向かった。


御者の男に札を見せて乗り込み、座席を確保すると、

周囲の乗客も少しずつ中へ入ってくる。

途中赤い髪の女性冒険者らしき人が、入ってきた。


鮮やかな炎みたいな赤髪を後ろで高く結び、

腹まである革製の軽鎧を着ている。

肩には金属のプレート。


動いたときに小さくカシャンと鳴った。

腰には幅広の剣。刃こぼれが多く、

相当使い込んでいるみたいだ。

反対側のベルトには小さなポーチがあり、

歩くたびにガラス瓶が“トンと触れ合う音がする。

回復薬と、予備の魔導具では無いだろうか。

すれ違った瞬間、金属と革の匂いがふわっと漂ってきた。


「隣、空いてる?」

低めだがよく通る声で、

いきなり話しかけられ少しビビってしまう。

俺は「あ、はいどうぞ....」と短く返した、


彼女は腰の剣をずらし座る。


この人かっこいいな。タバコ似合いそう....


そんな事を考えているうちに、

馬車の扉が閉められた。


御者の「出るぞー!」という声とともに、手綱が引かれ、

馬車は少し揺れてからゆっくりと前へ進みだした。


車輪が石畳をゴロゴロと転がる音が響く。

やがて街の外れへ差しかかると、道は土に変わり、

揺れはさらに強くなった。


赤髪の女性冒険者は、揺れに慣れているのか、

身体がほとんどブレない。


革鎧の金具が微かに触れ合い、座席の振動に合わせて

チッ……カシャンと小さな音を立てる。

馬車の窓から吹き込む風には、

乾いた土の匂いが混じっていた。


リュネの喧騒が遠ざかるにつれ、

乗客たちの息遣いと馬車の振動だけが車内を支配する。


森が遠くに見えたり、緩い丘に差し掛かったりするが、

とにかく揺れる。特に右側の車輪が段差に乗るたび、

お尻がふわっと浮き上がるほどだ。


赤髪の冒険者は左脚を組み替え、壁にもたれ直しただけで、

まったく動じない。強いなこの人……

やがて数時間が経ち、道の匂いが変わり始める。


最初は乾いた土と草の香りだったのが、

次第に湿り気を帯び、

空気に冷たさが混ざり始める。


視界が急に暗くなったと思ったら、

高い木々が空を覆い、森の中の街道に入っていた。


そこからさらに馬車に揺られ、午後の光が傾く頃、

遠くに屋根の群れと街壁が見え始めた。

木々の隙間から現れるその光景は、

何度見ても旅の区切りというものを感じさせる。


やがて御者が馬をゆるめ、

「メイラに到着するぞー!」

と声を張り上げた。


馬車は広場に横付けされ、停まった。

乗客たちが次々と降りていく。

赤髪の冒険者も無言で立ち上がり、

腰の剣を調整しながら、人混みに消えていった。


多分すぐ依頼を受けにでも行くんだろう。絶対強いな。


俺も荷物を抱えて馬車を降りる。

メイラの街はリュネやモンカよりは小さいが、

行商や荷馬車でそこそこ賑わっていた。


通りには乾いた麦の香りと、焼き菓子の甘い匂いが混じる。

次の路線馬車の出発時刻を掲示板で確認すると、

およそ一時間後。


1時間の間に、簡単に腹を満たして、

ついでに水袋の補充も済ませた。

出発時刻が近づき、乗り場へ向かうと、

もう規律よく整列した馬車が何台も並んでいる。


銀貨を払い、木札を受け取り、ベルリナ行きの

長距離馬車に乗り込む。



この便は長距離で且つ乗る人も多い便のようで、

荷物置き場も広く、座席も少しだけ厚く作られていた。




今度の客層は旅人というより、

これから働きに出る若者が多いようだ。


粗末な布服に荷物も少なく、

皆どこかそわそわしている。

俺とあまり年齢が変わらなさそうな少年もいるし、

手つきの荒れた職人風の男も混じっていた。


馬車が大きく揺れ、

街を抜けて草原に出た。

そこから先は、ずっと山道だ。

最初は緩やかだった坂が徐々に急になり、

馬の呼吸音も心なしか重くなる。


山肌には灰色の岩がむき出しになっており、

木々も少しずつ低くなっていく。

馬車が山道に入り、

左右どちらを見ても、岩壁と崖。

風が強く、馬車の幌布がバタバタと揺れる。


斜度のきつい坂を登るたび、

馬車がギギッ……ギシィ……と悲鳴のような音を立てる。

運悪く大きな石に乗り上げると、

身体が座席から浮くほどの衝撃がくる。


それでも、

その先に見える景色はすごかった。

深い渓谷を縫うように続く道。

そこを馬車が細い糸みたいに進んでいく。

山脈の影が長く伸び、空がどんどん青く冷たい色に変わる。

遠くの山頂には、雪が薄く残っていた。

こんなの.....地図で見ただけじゃ分かるはずがない。


しばらくして、

馬車が峠を越える最後の急坂に差し掛かった。

御者が馬を励ましながら進むと、

視界がぱっと開ける。

その瞬間俺は文字通り、息を呑んだ。


遠く、丘の向こうに、巨大な影が見える。

街だ。いや、街というより壁。 と言ったほうが正しい。

巨大な城塞都市、ベルリナ。

灰色の石で組まれた外壁は、

遠目でも圧を感じるほど高く、厚い。


高さは3〜4メートル……いやもっとあるかもしれない。

外壁に沿って見張り台が点々と並び、

大きな門の上には、何本もの旗が風になびいている。


街を囲む壁の外側には農地と牧草地が広がり、

そこに人と馬が行き交い、

煙突からは白い煙がゆるやかに立ち上っている。


日が傾きかけていて、

ベルリナの壁が赤く染まり始めていた。

その光景は、これまで見てきたどの街とも違った。


明らかに、他の街とは一線を画している。でかい。

そして、厳重だ。

これが……地方の中心都市か。

馬車はゆっくりと坂を降り、

ベルリナの城壁へ向かって進んでいく。


いよいよ、だ。

俺の試験会場は、この街の先にある。

この都市で、俺はこの人生最初の大勝負をすることになる。

胸の奥がきゅっと締めつけられた。

怖い。でも……ほんの少しだけだがワクワクするな。




馬車は城門へ向かって、

ゆっくりと、しかし確実に進んでいった。



第一章 村編 完。

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