第5話 転生者養成機関学校
『転生者養成機関学校』……!?
僕だけではない。クラスメイトたちも眉をひそめたり、首を傾げたりと、理解が追いついていない様子だった。
「『転生者養成機関学校』とは、次世代の転生者候補を育てるための教育機関だ」
本郷先生の声が、ざわめきを断ち切った。
転生者候補を育てる学校? なぜ、そんな場所が死後の世界に存在するというのか。
「なぜ、そのような学校が存在するのでしょうか?」
僕の疑問を代弁するように、石橋が訊ねた。
「それは、転生を望む者があまりにも増えすぎたからだ。だからこそ、すべての者に転生の機会を与えるわけにはいかない。この学校は、転生を望む者たちを競わせ、その中から次代の『転生者』にふさわしい者を選び出すために存在している」
「あ、あの! 転生者ってどういうことですか?」
突然、前の席の男子が勢いよく立ち上がった。
「転生って! つまり、異世界転生とか、そういう類のことを指すんですか?」
その声には隠しきれない高揚が混じっている。
本郷先生が頷いた。
「そうだ。お前たちの知っている異世界転生も、現代における輪廻転生も、すべてこの『転生』という概念に含まれる。この学校で競争を勝ち抜いた者には、己の望む転生先を選ぶ権利が与えられる」
「マジかよ!? ほんとに異世界に転生できるってことかよ!」
前の席の男子は身を震わせながら席に戻った。
僕も、わずかに心が躍った。
異世界転生。そんなものは、ラノベやアニメの中にしか存在しない空想だと思っていた。
それが今、現実のものとして――しかも、自分の未来の選択肢として提示されている。
けれど、本郷先生の表情は険しいままだった。
「ただし、転生できるかどうかは、お前たち次第だ」
浮き立ちかけていた気持ちが、その一言で引き戻された。
「この学校では、学生同士の選抜競争に勝ち抜いた者だけが、晴れて『転生者』の資格を得られる。つまり、入学したからといって、必ずしも転生できるわけではない」
つまり、ここは夢を叶えてくれる場所ではない。その権利を奪い合うための場所なのだ。
「選抜競争……つまり、選ばれなかった生徒は転生できないってことですか?」
「その通りだ。この学校は、ただの教育機関ではない。お前たちの『価値』を測り、その適性に応じて転生の権利を授ける場所だ。選抜から脱落すれば、転生への道は閉ざされる」
本郷先生は、念を押すように続けた。
「そして、その機会は一度きりだ。二度目はない」
誰も言葉を発しなかった。
転生――。
つい先ほどまで、夢物語のように聞こえていた言葉だ。それが『権利』として限られた者にしか与えられず、競争を勝ち抜かなければ手に入らないものだと知った途端、まるで違う響きを持ち始めていた。
「この学校については、おおよそ理解できました。ですが、僕が……いえ、僕たちがこの学校に選ばれた理由、その選定基準はいったい何なのでしょうか?」
石橋が落ち着いた声音で訊ねた。
「この学校へ入学する資格があるのは――前世で死を迎えるその瞬間、『もう一度、人生をやり直したい』という願いを強く抱いた者たちだ」
ガタンッ――。
突然、隣で椅子の鳴る音がした。
「……え?」
宮村が立ち上がっていた。
皆が一斉に彼女の方を向く。
何かを言うために立ち上がった――そう見えた。けれど、宮村は一言も発しない。ただ、俯いたまま、その場に立ち尽くしていた。
「宮村、大丈夫か?」
「……はい」
返事が来るまでに、少し時間がかかった。
「失礼しました」
それだけ言って、再び腰を下ろす。
なんだったんだ……?
今朝出会ってから、宮村には散々振り回されてきた。そんな彼女が、こんなふうに言葉を失う姿を見るのは初めてだった。
「……話を続けよう」
本郷先生が再び口を開く。
「先ほども言った通り、この学校に集う生徒たちは、前世の最期の瞬間に『もう一度』を願った者たちだ。死に向き合いながら、それでも新たな人生を強く求めた者――それが、この学校への入学資格となる」
――もう一度。
確かに僕は、あの日――屋上から身を投げたその瞬間、心の底から願っていた。
もう一度、人生をやり直したい、と。
「ご説明、ありがとうございます。よく分かりました」
石橋が丁寧に頭を下げた。
他の生徒たちからも反論は上がらない。ということは、ここにいる全員が死の間際に『もう一度』を願ったということなのだろう。
僕たちは死に方も、生きてきた人生も違う。けれど、最期に抱いた願いだけは同じだった。
「……解せねぇな」
そこへ、佐治が吐き捨てるように言った。
「なんで学校なんて、んな面倒くせぇことしてんだ?」
「……面倒臭い? どういうことだ、佐治」
「ああ? やり方が回りくどいって言ってんだよ! 学校なんてぬるま湯みてぇなところでチンタラ学ばせて、何の意味があんだよ!」
「……では、お前には他にいい案があるというのか?」
本郷先生が訊ねる。
佐治は待ってましたとばかりに立ち上がった。
「男なら、拳と拳でぶつかって、ケリつけりゃいいだけだろ!」
両拳を打ち鳴らし、自信満々に胸を張る。
……ある意味、これ以上なく佐治らしい答えだった。
「ちょおっ、待ちぃや!」
すかさず、関西弁の女子が食いついた。
「拳でぶつかるて、男子はともかく女子はどないすんねん!?」
「ああっ? 女は裁縫でも料理でも、そんなんで競ってりゃいいだろ」
「何やそれ、差別やんか! なんで女やからってそんなんやらなアカンねん!」
「うるせぇ女だな、黙ってろ!」
「何やとぉっ!?」
二人が今にも席を飛び出しそうな勢いで睨み合う。
「お前たち、静かにしろ!」
本郷先生の怒声が教室を震わせた。
「っ……」
「……ちっ」
喧嘩寸前だった二人が、渋々と身を引く。
本郷先生は二人を睨んだ後、クラス全体へ向き直った。
「今、このクラスに集められているのは、前世で亡くなった満16歳の高校生。男子5人、女子5人の計10人だ。他のクラスも同様に、男女混合で構成されている」
どうやら、この人数にもちゃんと意味があったらしい。
「年齢、性別をはじめ、可能な限り公平な条件のもとで競争させ、次代に転生するにふさわしい者を選別する。それが、この学校の方針だ」
本郷先生の声に、迷いはなかった。
「そして、この選別基準が覆ることはない」
佐治も、関西弁の女子も、それ以上は何も言わなかった。
学校のルールとして決められている以上、僕たちが何を言ったところで変わらない。結局、僕たちにできるのは、それに従うことだけだった。




